No.4039 思うままに 投稿者:林貞行 投稿日:2022年10月28日 (金) 12時07分 |
何度も拝読し、その度に異なる思いに耽るという幸せな感覚に捉われました。 取り立てて新奇な語句を使っておられるわけでもなく、状況設定も特異なものではありませんが、だからこそ安定感というか安心感があります。しかし、これは手垢のついた予定調和の安心感ではなく、普遍的な共鳴だと思います。 ご当地ソングのように土地や風景が限定されない分、自由に自分の世界に入れ、そして「女ひとりの 手酌酒」で一気に個人的な情景と人間の匂いが漂います。もしかしたら月並み、マンネリと言う人もいるでしょうが、これまで無数の人間が抱いてきた情念は尽きず、繰り返し新たな感動も生まれるのでしょうか。 「全体的に練りに練ったと云う感じで完成度は満点」と布袋さんが言われていますが、私も同感です。作詞は創作ですが、文字にする前に頭の中で考える時間がどれほどか、あるいは実体験の積み重ねがどれほどかに掛かっているのかもしれません。 その上で布袋さんは、冒頭の掴みについて述べられ、「夜の寂しい」を提案されています。最初は「夜に浮かんだ」だったようですが、私は今回の冒頭に心を添わせました。これは布袋さんへの反論ではありません。たぶん布袋さんの言われることが本道で、その感覚が演歌の正統かとも思いますが、本作の出だしに私の心は掴まれました。 ずばり寂しいと言ってしまえば詞の全体像が一気に理解できますが、言わずとも描写で寂しさは表現できるのでは…というよりも、言わないが故に読んだ人それぞれの思いが再生産できるように思います、当然その中には寂しさも含まれることでしょう。 私は自らがかつて体験した「路地のこぼれ火 裏町酒場」を幾つか思い出しました。奈良で広島で東京で、あるいは仙台で。それらの店は路地の入り口にあったり、奥まった所にあったりしましたが、いずれも路地の片隅に侘しいこぼれ灯が見える場所でした。本作の「こぼれ灯」も店の向こうに薄暗く見えるものと勝手に解釈し、私は強く反応しました。特に比喩、暗示とは思いませんが、ひとことで全編を味わったような気分になり、しみじみ思い出に浸りました。ちなみに、仙台ではアンコウ鍋を食べましたが、そのとき一緒だった友人は亡くなりました。 駄文お許し下さい。
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