[231]ついにわたしはレコードの売却を思いとどまった - 投稿者:taro
◆ ついにわたしはレコードの売却を思いとどまった
高齢が深まるにつれ、そろそろ身辺の整理をと思い立ち、所有するレコードの処分を計画した。そこで業者に連絡をとって引取り交渉を試みたが、交渉が進展するうちになにか釈然としない気持ちに襲われてしまった。 業者側は実に割り切った姿勢で交渉に応じてくる。だがレコード所有者である売り手の私の要望は何ら満たされることはない。もっとはっきり言うと、彼らの買取価格は最初から決まっていて、それがいやなら引取りはしないという、まさに逃げ場のない取引だった。
◇レコード引取り業者の狙いは英国メジャー盤
それというのも彼らはすでに過去の中古レコードの販売価格をデータベース化しており、仕入れに相当する買い取り価格はその実績から割り出して来るのだ。しかも彼らの引取り希望はユーザー人気の高い「3大メジャー盤」だ。それは次の3つのレーベルのことだ。
①英「DECCA」 :大DECCA 2000番 及6000番台 ②英「COLUMBIA」:ブルーシルバー ③英「EMI」 ;WRG
この3つの英国のオリジナル盤が中心で、引取り価格も一般的に一枚3000円~約15000円の査定額となる。これは一般の盤とは比較にもならないくらい高い。何故ならこの3大メジャー盤こそがレコードの歴史上代表的なLPと位置づけされ、一般のLPとは差別化されて今日に至っているからである。 まさに世界的な「メジャー盤」という訳なのだ。故にユーザーはクラシックレコードのステイタスとして高い値段であっても求めようとする。つまりこれは世界の中古LP販売店の販売戦略の成功例と見ることができよう。
◇希少性によって決まる売却後のLPの店頭価格
しかし、そうなると一般的な輸入盤の「その他」のLPの引取り相場はどうなるのだろう。それらのLPの中にはユーザーの好むオリジナル盤も多くあるが、レコード店側の引取り価格は先ほどのメジャー盤ほどに高く値のつくことはない。私の場合もそうだった。それが音の良い優良盤ではあっても、或いは名の通った希少盤であっても関係ない。一般的には買い手側は二束三文の値段でしか引き取ってくれない。(もちろん例外的金額もあることを断っておく) それらのLPはその後レコード店でLPの希少性に合わせて数千円で店頭販売される。この場合の価格は決してLPの音質ではなくあくまで特定のLPの人気に対する「希少性」によるものと考えるべきだ。
◇売るべきかどうか迷った
業者側の詳しいの話を聞くうち、私は次第に取引に迷いが生じて来た。 長年クラシックレコードを収集めながら一枚一枚大切に保管してきた。しかもそれらは間違いなく「私の宝物」だった。そんなLPを自分が衰えたという理由で売ろうというのである。私にとってこんなに哀しいことはない。まさに身を削がれる気持ち以外の何物でもなかった。しかも、それ相応の値段ならいざしらず、二束三文と聞けばわざわざ売りに出すことはないと思ってしまうのである。 しかしそれだからと言って買取り値段が安いと業者を責めるのは酷である。彼らは買取というリスク混じりのビジネスで生計を立てているのである。売り手に同情して高買いなどできる訳がない。売れるかどうかわからない古いレコードをリスクを抑えて買い取るのである。したがって、ここではメジャー盤以外の通常のLPは、過去の経験を通して低価格で引取りをせざるを得ないのだ。
◇買取中止を決断した
そのようなことを考えながら交渉を続けたが、結局私は結果的に交渉をやめることにした。私の所有するLPは輸入盤を七千枚ほど、国内盤はほんのわずかだ。先ほどの「3大メジャー盤」は全部で300枚ほど所有しており、一定の金額の合意を見たが、そのことより私は大事にしてきた「その他」の高音質優良盤が二束三文であることに我慢ができなかった。例えば、エテルナ、エラート、仏コロンビア、フィリップス、グラモフォン等々の古い英国盤や独盤、仏盤や古いモノラル盤だ。それらがいかに音質が良いなどと言っても彼らには通じなかった。だが私は今でもそれらの音質については確信を持っている。
付け加えておくと、音質の件ではメジャー盤も悪くはないが、私は「その他LP」中にもはるかに音質の良いものがあると思っている。その代表はフランス盤だ。このおしゃれなジャケットのレーベルの音は純粋であり、デュクレテトムソン、カリオペ、エラート、ヴァロア等々、一度そのジャケットも見て欲しい、フランスらしくどんなに可憐なデザインなのかわかるはずだ。このようなレコードは単に聴くことだけでなく我々に所有する悦びをも与えてくれるような気がする。レコード固有の優れた音質は決して価格要素ではないにしても、私はそのような優良盤を聴けばいくらなんでもこれを二束三文で手放す気にはならないのである。
◇レコード買取案内について
時折電話でレコード買取の話がかかって来る。買取の担当者らしいが彼らは決してレコードの何たるかも知らないようだ。かれらは歌謡曲でもなんでもレコードであれば構わないという。現実にこれまでに耳にした話によると、彼らはレコードのことにはほとんど無知だった。レコードの良い音を聴くために私はカートリッジの針圧を0.1g単位で調整しながら聞いているのにもかかわらず彼らは音質についても何の関心も示さなかった。またLPのレーベルのことにも全く無頓着だった。そんな人たちがレコードの買取りに来るのである。そんな人たちに私がレコードを売却できるわけがない。
◇旅のお供に
これまで数十年も付き合ってきたレコードではあるが、残念なことに息子たちは全く関心がない。おそらくレコードは私がいなくなったら市のごみ捨て場へ捨てられることになるのかもしれないが、それも仕方がない。ただ、コレクションの中から私が選んだ2,3枚を棺に入れてくれと妻には頼むばかりである。
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2024年07月03日 (水) 13時02分 )
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