[211]W企画ノベライズエピソード 第2話「Aの捕物帳/愛こそすべて」I - 投稿者:matthew
「こ、こんなことが……ッ!」 氷結した手足は、もう自由にはならない。能力が液状を中心としたものであったことが災いしたのか、アシッド・ドーパントの体はより強固に氷結し、身動きを取れなくさせていた。 『クレイモア、マキシマムドライブ!』 クレイモアメモリを柄のスロットに装填したサベルが、腰だめにクレイモアクラッシャーを構える。刀身に満ちた冷気が、アシッドの視界に白煙と靄を浮かび上がらせた。 ――来る。 逃れるすべも、防ぐすべもない。必殺の一撃を、この後自分は受ける――! 「ぅ、あ、ああ……ッ!」 「……ぉおおおおおお!!」 大剣を引きずり、サベルが走り出す。引きずった軌跡が溢れる冷気で氷の筋を地面に描き出す。逃れられない結末に戦慄するアシッドへと、冷たい輝きを帯びた刃が迫る。そしてサベルは体を回転させながら勢いで大剣を振り上げ――大上段から一気に叩き降ろした!! 「「クレイモアブリザード――ぉおりゃあああああッ!!」 「ギャアああアあアアアああアアッ!!」 爆炎が巻き起こり、アシッドを飲み込む。しかし次の瞬間にはその中から緑色のアシッドメモリが弾き出されるように放出され――中空で砕け散っていた。メモリブレイク。ドーパントとなった者の命を奪うことなくメモリのみを破壊する――自らの罪を生きて償えという、優しくも厳しき裁き。 異形の怪物から元の姿へと戻った麻生マルコは、どさりと雨に濡れた地面の上に倒れこんだ。もう、彼女を怪物へと変えるメモリは存在しない。今度こそ本当の事件の終わりが来たのだ。 倒れた彼女を見下ろしながら、サベルは――なおも静かに立ち尽くしていた。その左目に、一抹の憐れみを宿して。
――こうして、事件は解決した。 麻生マルコという幹部を失ったことでWARSは一気に勢力を落とし、各国に潜伏していたメンバーも次々と逮捕され、活動は沈静化していったという。 しかし、よかったことはそれだけだ。広大な緑に囲まれた庭園という住処を与えられた動物たちはその主を失ってしまったのだ。少なからず本物ではあった麻生マルコの動物に対する愛情は、もう戻っては来ない。 だが――彼らを愛する者が、いなくなったわけでもないのだ。
「コラ、待てって! 餌いらねぇのかよオイ!?」 元気に駆け回る数匹の犬達を追って奔走する先斗は、元々豊富だったはずのスタミナさえも使い果たしたのか息を切らしている。しかしその傍らでは、対称的に無邪気に子猫たちとじゃれ合うみぎりの姿があった。 「わわっ、ちょっとやめてってばぁっ。ほらっ! みぎりんは食べ物じゃないんだから、もぉ〜っ! えっへへへ〜☆」 ここはまさに、そんな麻生マルコに寵愛された動物達の住まう広大な庭の中だ。犬や猫といったポピュラーなペットから、ワニや蛇、鳥といった少々扱いの難しいペットまでが揃っている。これだけの数を1人で面倒を見ていたというのだから、よほどのものだろう。2人は主のいない間、ここの世話をすることになったのである。 「ていうか、何で、俺らまで、手伝ってなきゃならないんだよ、零太さんッ!?」
――それを言い出したのは、零太であった。 「文句言うなよ。自然と触れあい、心を豊かにする。動物達をほっとくわけにも行かないんだから一石二鳥じゃないか。ぶつぶつ言ってると心が荒むぞ?」 「だから、荒んでね――って待てってばォオオオイ!!」 動物の扱いには慣れたもので、首に蛇が巻き付いていても一切零太は動じていない。その頭を優しく撫でる顔にはむしろ笑みすら浮かんでいる。 果たして、麻生マルコの行動が本当に動物への愛情から来るものだったのかは未だに零太にも分からなかった。ガイアメモリに魅入られた者には心を歪めてしまう者も多い。もしかしたら、正しい愛情がメモリの毒素に蝕まれてしまったのかもしれない。 もっとも、それが贔屓目だということは零太も承知している。しかし――少なからず麻生マルコの愛情は理解出来た。だからこそ、その意を汲んで彼はここの世話を決断したのであった。 「心を豊かに……うんうん。やっぱそういうのって大事だよね、雨姐さん?」 隣にいる相棒に向けて満面の笑みを浮かべ、零太が声をかける。しかし――雨の表情は、どこか引きつった苛立ちを浮かべていた。
「ああ。確かに言っていることはもっともだが――何故私まで手伝わなければならないんだ」 彼女の両足には、餌をねだって舌を出してしがみつく子犬たち。腕にはエーテルがしがみついて指をくわえている。まるで動物が群がる樹木のようなスタイルを強いられ、雨は困惑と苛立ちの中にいたのであった。しかし零太は拳を強く握って力説する。 「僕は気づいたんだ。あの運び屋の2人の絆の強さを! もっと信頼を深めるためにも、僕らは一緒にいるべきなんだよ!」 一瞬とはいえ、雨の言葉を信じなかった自分の落ち度を零太は反省してはいた。全面的とまでは行かなくても、もっと強い信頼がなければ相棒たりうる資格はないのだ。 先斗とみぎり――一瞬恋人同士とも兄妹とも思えなくもない間柄が相棒としての理想ならば、少しでもそれに追いつかなくてはいけない。零太はそう判断し、雨を強引に連れ出したのである。 「それとこれと何の関係がある!」 「大体、雨姐さんはまず外に出なさ過ぎなんだ! もっと外の空気を吸わなきゃ心が腐っちゃうよ!」 「バカを言うな! 腐った心で神に仕えられるわけがないだろう!」 だが、雨はまるで退く気配がない。そこで零太は――彼女の痛いところをついてやることにした。 「……ただの興味本位で始めただけで、そんなに信心深くもないくせに」 「ぬぐっ!」 シスターという表向きの職業は、雨にとってはただのお飾りのようなものだ。神に対する熱心な信仰心があるわけではない。 言葉尻を逃さず掴んだ零太の発言に、わなわなと震えだす雨。 「い、言わせておけば生意気な……この――」
――しかし、そんな彼女の頭上に不運はさらに落ちてきた。 べちゃり、と。
「――っ!?」 その嫌な感触に、雨は一瞬で顔面蒼白になる。そして隣の零太は、戸惑いとも笑みともいえぬ、とにかく何とも不愉快な表情になって口を開きかけた。 「あ、雨姐さん……あ、頭に鳥のフ――」
「言うな……それ以上言うなぁあああああああああああああッ!!!」
雨の悲痛な叫び声は、木々に止まっていた野生の小鳥達を容易く追い払ってしまうのであった――
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2010年08月19日 (木) 10時27分 )
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- RES -
[212]あとがき&次回予告 - 投稿者:matthew
と、いうわけでサベル編でした。
今のところ全ライダーと一応のつながりを持っているのがデュアルという状態のようなので、今後もデュアル組を中心にしつつ話を造っていこうと思います。ちなみに原案はなりチャ用の没シナリオでした。 とにもかくにも動物愛!なレフトなんですが、雨は対称的に書くのが難しいですね。ちょっとアクティブさが増してるようだったので。話運び上仕方ないといっちゃ仕方ないんですが……乖離してしまった気はします。反省。 しかし、事件モノというスタンスは小説に向いてますね。これはひしひし感じました。是非皆さんも、書いてみてはいかがでしょうか?
さて、それでは次回予告に移ります!
次回、W企画ノベライズエピソード!
「頼まれた仕事は何でもパーフェクトにこなす、それが代行屋さっ!」
「この建物は俺が占拠した! 人質を解放して欲しけりゃ運び屋を呼べぇッ!!」
「なんか調子狂っちゃいそぉ……」
「相棒代行、任せたはいいけど……大丈夫かあのコンビ?」
第3話「危険なF/千の顔を持つ女」 これで決まりだ!
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2010年08月19日 (木) 10時37分 )
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