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プロローグ寂れた廃墟の広がる街の一角に共和国軍の基地があった。その基地の少し手前の金網の先の草むらに数人の少年少女が腹這いになって隠れている。「いいか、これから俺達はゾイドを奪って逃げる。とにかく何でも良い、乗ったら逃げろ!」 まだうっすらとそばかすが残った茶髪の少年が他の同じぐらいの少年少女に言い聞かせる。彼の仲間と思われる少年少女は黙ってうなずいた。その中の1人、うつむいたままの赤毛の少年を除いて。「エル!わかっているのか?」先ほどのリーダー格の少年が叱責する。「……わかってるさ、レイ。ゾイドを奪って逃げる。それだけだろ?」赤毛の少年は顔を上げて静かに答える。その顔にはまだ幼さが残っており、それに不似合いな鋭い目が無ければ、少女と言っても通るほどに整った顔立ちである。「……頼むぜ。こんなかで軍人の子は俺とお前とシェリアだけなんだからな」「ああ」レイが懇願するような表情でそういう。エルはそれをさらりと流した。「まったく、しっかりしてよね。うちは女の子なんだから」その時、シェリアと呼ばれた栗色の髪をショートカットにした少女はクスクスと笑いながら口を開く。「シェリア、これが無事済んだら俺と……」「冗談は無しにしてね?レイ」シェリアに向き直ってレイが真面目な顔をして何か言おうとしたがピシャリとシェリアに遮られてしまう。「けっ……わかったよ」レイはそう言いながら、周りで失笑する仲間をにらみつける。そして深呼吸すると、「……行くぞ」と張りつめた声で仲間にいう。『はい!』「ああ」仲間の気合いの入った声と少し遅れてエルの声が返ってくる。「それじゃあ、作戦開始だ。ミシェル、アーシェ見張りの兵隊さんを頼むぜ?」「うん!」ミシェル、アーシェと呼ばれた小さい子ども達が見張りの兵士のとこに駆けて行き、声をかける。「よし、倉庫へ向かう!」 兵士達がミシェル達と話しているのを見てレイ達はフェンスを越え基地に侵入した。ここはニューヘリックシティ。謎の大型さそりゾイドによって廃墟となった街。ルイーズ大統領が必死に国家の再建を図っている街。バン・フライハイトの冒険から8年後の世界である。彼らは戦争の一番の被害者、親を失った子供達である。
どうも、こちらではお久しぶりです。ZMさんのところで公開していた作品ですが、あのような不慮の事態となってしまいましたので、こちらに再投稿させて頂く次第にございます。それでは、レジェンドブレイカーズの世界をご堪能下さい。
レイ、エル、シェリア、オルン、クラミア、レミアは今、ヘリック共和国首都ニューヘリックシティの基地にいた。 8年前の大戦ではここには共和国の最終兵器、最強の名を欲しいままにした【ZG】通称ゴジュラスが十数機配置されていたと言うが、現在は修復されたマウントオッサ要塞、ドラゴンヘッド要塞と合併したレッドリバー基地に戦力の大半はおいており、ここにはコマンドウルフが3機ほどと、ガイサック、プテラス、ゴドスがそれぞれ5機 そして、ゴルドスが1機という貧弱な戦力しかなかった。 当然、基地に入るところには兵士が立っているが、中はほとんど誰もいない。「……以外と簡単にゾイドが手にはいるかもな」 黒髪を短く刈り込んだ少年オルンがぽつりと洩らす。「あたしもそう思うよ」 同じく黒髪オルンとは対照的に長く伸ばした少女をクラミアがオルンに同意する。「だからって気を抜くんじゃねぇぞ、オルン、クラミア」 その2人をレイが小声で叱る。その間エル、シェリア、レミアは黙っていた。 エルとレミアは元々無口であるし、シェリアは少々緊張気味である。 むしろ、前者の3人の度胸の方が以上と言っても良い。 見つかれば不法基地侵入罪で確実に処刑されるというのだが。「とにかく……先へ行こう。レイ」「……そうするかな、エル」 結局レイの小言はエルの一言でケリがついた。 オルンとクラミアがほっとしたような顔をする。 そして、その後は誰も口を開くことなく、格納庫へとたどり着く。「…………」 格納庫の入り口でエルは壁に張り付いていた。 中には運が悪いことに整備兵が2,3人居て、談笑している。 拳銃などは持っていないが整備道具は十分武器になるだろう。「こいつは厳しいな」「ああ、でも、急がないと見つかる。僕が囮になるから、その隙にゾイドに乗ってくれ」「……わかった。任せたぜ」 レイは何か言いたかったが、エルの瞳に宿る強い光を見てうなずいてしまった。「エル、死なないでね」 レミアが声をかけてくる。「……みんな、巧くやれよ」 エルはそう言うと、柱の影から飛び出し、整備兵の方へと突進する。 話していた整備兵のうち、1人が気づき、エルを捕らえようと向かってくる。 残りの2人もそれに続く。 それを見てレイは、「みんな、エルのことはエルに任せてゾイドに向かえ!」 と、叫び、自分もゴドスの方へと駆け寄っていく。 それと同時にエルの後ろ回し蹴りが整備兵の顎を下から蹴り飛ばす。 整備兵は吹き跳びこそしなかったが、後ろに数歩ふらついた。「さすがに強ぇな、エルは」 レイはそんなことを呟きながらもゴドスの側面を登り、コックピットに滑り込む。 丁度エルが2人目のスパナを持った整備兵の腹に膝蹴りをたたき込み、首筋に手刀を浴びせ、地面に崩れ落とさせたところであった。 そのころ、シェリアはコマンドウルフのコックピットに入り、レミアはプテラスの側面をよじ登っていた。 そして、オルンとクラミアは、一番奥にあったゴルドスを目指していた。「へへっこいつがあれば、親を殺してくれた奴らに報いることができるぜ」「そうだね!」 2人はゴルドスのキャノピーに張り付くと開閉スイッチを探していた。「……貴様ら、私のゴルドスに何をしている?」 2人がキャノピーの開閉スイッチを見つけたとき、カチャリという拳銃の引き金を引く音が聞こえ、足下の地面がえぐれ、そんな声がした。「……あんたは?」 オルンが顔を引きつらせ、足を振るわせながら口にしたのは短い一言だった。「私か?私はそのゴルドスのパイロット、ミラウス・ドッペル大尉だ。ついでにそこのプテラスに登ろうとしているお嬢さん、それ以上登ると私の拳銃の引き金が引かれますよ」『あわわわわ……』 それを聞き、オルンとクラミアの2人はその場にぺたりと座り込んでしまった。 レミアは登る動作をやめて、プテラスに張り付く。 そして、次の瞬間、レイとシェリアがゾイドを動かそうとして、それと同時にスパナが空を切って飛び、ミラウス大尉の腹に直撃した。 更にそれは2撃3撃と続き、ミラウス大尉は倒れ込む。「ナイス・ヒット、だな。オルン、クラミア、ゴルドスは諦めてガイサックに乗れ!」 スパナを投げた主、エルはそうテキパキと指示を出すと自分も近くにあったコマンドに乗りこむ。 その足下には3人の整備兵がのびている。「だけど……」「兵士が来てんだよ!いそげ!」 レイにまで叱責され、仕方なく2人はそれぞれガイサックに乗りこんでいく。 レミアもいつの間にかプテラスを起動させている。「よし、逃げるぞ!」 レイの台詞を合図にゴドスとコマンドの砲塔が火を吹き、基地の壁に穴を空ける。 そして、6機のゾイドは壁の穴から次々に飛び出していった。 何もかも上手くいったかのようであった。 少なくとも基地から飛び出したこの時まではそれを疑う者は誰一人としていなかった。
アトラス中尉はその日、部下のミレニア曹長、ロック軍曹、オルディア軍曹と共に、国から支給されるゾイドを取りに行かされていた。 アトラスは士官学校主席卒業のエリートで、21歳という若さでありながら少佐への昇進も近いと噂されている。 風貌鋭利で女性隊員からの支持は高く、そのゾイド乗りの腕で男性隊員からの信頼も厚い。 とにかく、神に微笑まれた人間とでも言うべき存在である。 そんな彼が支給品の受け取りなどと言う任務をしているのは、同基地の上官ミラウスの嫌がらせであった。 もっとも、彼自身はシールドライガーという高級機に乗れて大して気分を損ねてはいないようではあるが。 そんなとき、「……!アトラス中尉、基地の非常警報が鳴っています!」 レイノスのパイロット、オルディア軍曹が声を上げた。「何だと?この平和の世で基地に侵入者が来るというのか……。全員、急ぐぞ!」『了解!』 アトラス中尉は少し悲しそうな顔をするとそう、判断を下す。 そして、ライガーの走行速度を200kmまで上げると、レイノスと並んで基地に向かっていった。 その後を重武装ゴドスのロック軍曹とコマンドウルフACのミレニア曹長が併走して行く。 数分後、基地の手前にたどり着いたアトラスが見たのは射殺された子ども2人の死体であった。「アトラス中尉殿!」 入り口を守っていた兵士が声を上げる。「これは一体、何事だ!」「は、はい、基地の中に侵入者が……ミラウス大尉が怪しい子どもを見かけたら即射殺しろと言う命令を……」 兵士はしどろもどろになりながらも状況を説明する。「そうか、なら君の行為は仕方ないことかも知れん、しかし、あの愚か者の指揮官が……!」「中尉!」 怒りで上官を侮蔑したアトラス中尉を追いついたミレニア曹長がなだめる。「……すまん」 部下に対する態度と言うよりも姉に叱られた弟のような態度になってしまう「いえ、部下としての責務です」 ミレニア曹長はさらっと言ってのける。「部下として、か。良い部下を持ったものだ」 アトラス中尉は少しばかり皮肉を言う。 その時、基地の壁が爆発し、基地内からコマンドウルフが2機、ゴドスが1機、ガイサックが2機、プテラスが1機飛び出して来た。「彼奴らが、侵入者か……。総員戦闘態勢!」 アトラス中尉のかけ声と共に3人の部下は戦闘態勢にはいった。 基地の壁を突き破り、エル達は基地の外に飛び出した。 すると目の前にはこの基地に配置されているはずのないゾイドがずらりと並んでいる。「……オイオイ、マジかよ……って、エル!」 呆れたような表情で相手を見据えていたレイの表情が一瞬で険しくなり、エルを呼ぶ。「……どうした?レイ」「ミシェルとアーシェが……」「まさか!」 レイの言おうとしたことに感づいたエルは急いで門の所に目を向ける。 そこには胸を貫かれ、もはや動くことの無くなったミシェルとアーシェが転がっていた。 顔には恐怖の表情が浮かんでおり、何処を見ているのかわからない瞳が恨めしそうにも見える。「彼奴らが……ミシェルをアーシェを……!」 普段冷静なエルが怒りで声を荒くしたその時、「失礼だが、君たちの指揮官と話がしたい」 いきなり正面のシールドライガーから強制通信が入った。 相手は20代前半の風貌鋭利な黒髪の青年である。「てめぇ、誰だ!」 エルに代わってレイが声を上げる。「私はアトラス・ギルバーディア。共和国軍中尉だ。君が、基地侵入者の首謀者かな?」「ああ、そうだよ!で、てめぇがミシェルとアーシェをぶっ殺したのか!」「私ではないが、我が軍がやったのは間違いないな」「なら、俺はてめぇらをぶっ殺す!」 そう言ってレイはゴドスを前傾姿勢にするとライガーに向かって突進していく。 しかし、いざライガーに飛び掛かろうという所で、横からコマンドウルフACに体当たりされ、吹き飛ぶ。 しかし、すぐに体勢を立て直し、仲間に指示を出す。「オルン、クラミア!敵のゴドスを!レミアはレイノスを!」『了解!』 「エル、シェリア!ライガーを頼む!」「了解した」「任せて!」 そして、戦闘が始まった。 オルンとクラミアのガイサックは新人とは思えない速度で左右に動き回りながら ゴドス重装備型を翻弄し、最終的にオルンのガイサックの爪が吹き飛ばされたが直後にクラミアのロングレンジガンがロックのゴドスの左足を打ち抜き、無力化した。 同じく新米のレミアは最新式のレイノス相手に回避しかできないという戦闘を強いられるも、マグネッサーを上手く使った上下運動でバルカン砲などもくらうことなく戦いを引き延ばし、相手を沈めたオルンとクラミアの援護射撃で危機を脱出した。 レイはアタックユニットをくらうわけにはいかないので、最初から格闘戦を仕掛けた。 最初のうちはアタックユニットを敵も撃ってきたが、乱戦になるにつれ使うことは 無くなり、その隙をついたレイのゴドスの跳び蹴りがコマンドの腹にたたき込まれ、コマンドはフリーズした。 そのころ、エルとシェリアはシールドライガー相手に苦戦を強いられていた。
エルはライガーに50mm二連ビーム砲を放った。 レイに指示を出された直後にである。 しかし、ライガーのパイロットは冷静にシールドを展開してビームを消失させると、シールドを解除し3連衝撃砲を打ち返してくる。 危ういところでエルはコマンドを跳躍させて回避する。 そして、側面に回り込んだシェリアがエルと同じようにビーム砲を放つが、ライガーは大きく後ろに飛んでかわし、空中で3連衝撃砲を発射、シェリアの足下、きわどいところに命中する。「っく、シェリア、連係攻撃を仕掛ける!」「わかった!」 エルの申し出を素直に受け、シェリアは一旦距離をとる。 そして、再びビーム砲をシールドライガーに放つ。「無駄だ!」 シールドライガーのパイロットがそう叫んだと思うと、ビームはシールドで弾かれ、お返しとばかりに8連ミサイルポッドが向かってくる。 シェリアはスモークディスチャージャーを噴かすと急いで位置を移動する。 全力でシールドライガーの周囲を駆けめぐり、黒い輪を作る。 そして、所々から不意にビーム砲を放つ。 さすがにこれには反応できず、1撃、2撃とライガーに直撃する。 しかしアトラスは驚異的な野生的勘とその腕で3撃目からはいとも簡単に防いでしまう。「あんなの反則よ!エル、そろそろ仕掛けてよ!」「…………」 文句を言いつつエルを促すが返答は来ない。 それどころか通信発信場所を割り出され、尻尾にAMD20mm砲を受けてしまう。 すると、彼女のコマンドは途端に弱気になり、 コンバットシステムをフリーズさせてしまった。 エルはこの時、基地の入り口のスクランブル警報が鳴り始めたのに気が付いた。(いそがないと……) と彼は思いながらも煙の中を静かに歩いていた。「ちょ、ちょっと!動いてよ!ねぇ!」 シェリアは必死に叫ぶがコマンドが答えるはずもない。 うなり声を聞き、はっとして左を見ればシールドライガーが3連衝撃砲をこちらに向けている。 絶対絶命である。「悪いが、基地侵入罪は死刑か終身刑なんだよ」「そんなぁ……」「本当に悪いね」 そう言ってアトラスが引き金を引こうとしたとき、「そうはさせない!」 かけ声と共に横からビームが飛来し、更にシェリアの撒いた煙の中から飛び出してきたコマンドウルフがビームが当たった場所に頭突きをくらわせる。 さすがのシールドライガーもバランスを崩してしまう。「レイ!シェリア!今の状態じゃあこいつらには勝てない、無駄死にするより今は力を 練るために引き上げよう!」 そのわずかな時間にエルはレイに話を持ちかける。「……確かに、このままじゃ勝てないのはわかるけどよ……」「ミシェルとアーシェが……」 丁度コマンドACを倒したレイとコンバットシステムが落ちたシェリアは何かもごもごと言っている。「ここで死んだら、誰が彼奴らの仇をとるんだ?」 レイの判断を急がせるためにエルは言葉を続ける。 いつもの物静かな様子は微塵もない。「わかった……レミア、オルン、クラミア、撤退だ!サンドコロニー方面へ!」 レイは通信回線を開くと開口一番そう叫んだ。「集合場所は?」 エルがこれが大切とでも言わんばかりに問う。「機体の損傷が激しいし、そうだな……終わりの街だ!」 終わりの街、彼らの中での暗号である。『了解』 レイのその言葉を聞くと彼を含めた6人はそれぞれ思い思いの方角へと逃げていった。 その直後に基地からはゴルドスを先頭にコマンドウルフ、ガイサックが飛び出して来た。「アトラス君、彼奴らはどうした?」 今頃のこのこと出てきたミラウス大尉が聞いてくる。「たった今、大尉の参戦を恐れて逃げ出しました」「そうか、私の名も知れ渡っているものだな……事後処理は任せたぞアトラス」 そう言って取り巻きと共に笑うと彼は責任をアトラスに押しつけ基地にへと帰っていった。「まったく、なんて大尉だ……」 ロック軍曹が呟く。「ホントだぜ」「同感よ」 オルディア軍曹とミレニア曹長も呟く。が、「上官を馬鹿にするのは辞めたまえ」 とアトラスに叱責されてしまった。「しかし、アトラス中尉……」「それにしても恐ろしいガキ共だな」 ミレニア曹長の反論を聞こうともせず、アトラスは呟く。「はい、あの操縦技術はかなりのモノですよ」 ロックがしみじみとうなずく。「それだけじゃない、彼奴らは増援が来ることを予期した上で撤退したんだ」「本当ですか?」 疑わしげにオルディア軍曹が問う。「ああ、奴らは通信で終わりの街へ行くと言っていた」「終わりの街……どこでしょうね?」 全員の顔に「さあ?」と言った表情が浮かぶ。「さあな。ま、機体を倉庫に入れて全員俺の部屋に来い。作戦会議だ」『了解!』 アトラスの下士官はそう言って自分の機体のところへ駆けていった。
終わりの街、正式名称グレイサンドコロニー。 切り立った崖に3方を囲まれ、来た道以外に戻る場所がないが故にエル達はそう呼んでいた。 さて、その終わりの街のはずれにあるジャンク屋では夕闇の中7人の人影と6機のゾイドの影が現れては消え、消えては現れていた。 「ほほぉう……これはまた上手くやったのう……」 その中の影の一つがしわがれた声でそう言う。 声の主はこのジャンク屋の主人、メーベ・フォルである。「へへっ、俺がゴドスでシェリアとエルがコマンド、オルンとクラミアがガイサック、レミアがプテラスだぜ!」「うむ、素晴らしい」 レイの自慢を聞くとメーベは素直にうなずく。「だけど、そのせいで新たに2人の仲間の命が消えたことを忘れるな」 その気楽な声を聞いたエルが真面目な声で言う。「ああ、わかってるよ」「それなら、良いんだ。僕はエレの所に行ってくる」 レイの返答を聞くやいなや、そう言ってエルはジャンク屋の地下室へ向かう。「ったく、くそ真面目なんだからな……」「しかし、かれの言っていることは間違ってはおらんよ」 メーベが言う。「んなことはわかってるよ。それにしてもエルの奴、エレにご執心だな」 レイは自分にわかっているんだ、と言い聞かせながらも冗談半分にそんなことを言った。「そういう訳じゃないわよ」 シェリアに反論された。「そうそう、エルは暗くて真面目だけど、根は優しくて強いし」 オルンが言い返してきた。「そうよね」 クラミアが兄に同意した。「……」 レミアが無言でそれにうなずいた。「……わかったよ、あいつは優しいからエレのとこに行っている。これで良いんだろ?」 レイが少々こめかみをひくつかせながらもそう言う。『うん』 4人の言葉がそろう。それを聞いてメーベが笑う。「……もう良い、俺は寝る!メーベの爺さん、チェーンナップ頼むぜ!」「ああ、わかったよ」「じゃあな」 そう言って、彼は自分が割り当てられた個室に入っていった。 そのころ、共和国軍の基地前では……。「中尉殿、こんな夜更けにどちらにお出かけで?」 ガーシュ二等兵はシールドライガーに乗ったアトラス中尉に質問する。「昼間の基地襲撃犯を捕らえに行く」「……了解です。大尉にはどう報告すれば?」「君が良いと思うように報告してくれ、ガーシュ二等兵」「はっ!」 ガーシュ二等兵は生真面目に返事をすると、基地から出て行く四機のゾイドを見送った。「全機、時速150kmに速度を保ち、私に続け!」「了解っ!」 基地を離れるとアトラスはそう命じた。 ライガーとレイノスだけ先に行っても良いのだが、元から少ない戦力を無駄に割くような事はしたくなかった。(さて……明朝にはたどり着く……あの少年達に借りを返さねばな……) アトラスはそんなことを考えながらライガーとしては遅い速度で走っていた。 一方、薄暗いジャンク屋の地下室では……。「……?誰?」 1人の少女がベッドに体を預けながらも起きあがり、不意にノックされたドアの方を見る。「僕だよ。エルだ。入って良いかい?」「エル?無事なの?怪我とかしてない?」 少女は一気にまくしたてる。「……ひとまず部屋に入れてくれよ、エレ。外は寒いんだ」 確かにこの時期、夜は零下数度まで気温が下がり、ゾイドの故障も多い。「あ、うん。入ってきて」 エレのその返答を聞いてエルは扉を開ける。 扉の正面の向かい側には、紅い髪をした整った顔立ちの少女、エレが居た。 その動作は何処か神秘的である。「で、エル。怪我とかしてない?」「僕は……してない」エルは切れの悪い言葉を吐く。「誰か、怪我したの?」「……ミシェルとアーシェが殺された……軍の奴に」「そんな……」エレは悲しそうな顔をして目をつぶり黙祷を捧げる。「だけど、ゾイドは奪った。これで僕らは親の敵を……リーゼって奴を倒しに行ける」「ねぇ、エル、敵討ちなんて良くないよ……」「僕はやらなくちゃいけないんだ。レイやみんなのためにも。それより、エレはそろそろ寝た方が良いな」「え、うん」「じゃあ、また明日」 そう言ってドアの方へと向かう。「ちょっと待って……眠るまで傍にいて……」 エルはそれを聞くと困ったような顔をしつつもベッドの横に座り込んだ。
アトラスの部隊は朝日が昇る数十分前にグレイサンドコロニーを一望できる場所にたどり着いていた。 彼らは終わりの街という暗号と機体損傷の激しさを考え、1日でたどり着ける範囲で名前に終わりを意味する言葉、もしくはそこから行ける場所がない終着点である街を探した。 そして、発見したのがここである。「まったく……こんな所に潜んでいたとは……彼らを参謀にしたら連戦連勝ではないか」 アトラス中尉は感服したように言う。「まったくです」 ミレニア曹長も同感とばかりにうなずく。「で、どうしますか?街に襲撃をかけるわけにもいきませんよ?共和国軍人が」 ロック軍曹が苦笑いしながらそんなことを言う。「そうだな……オルディア軍曹、レイノスであの街の上空を旋回、スピーカーで呼びかけろ」「はっ!」 オルディア軍曹は答えるとすぐさまレイノスの元へと駆けていった。「出てくるでしょうか?」「コマンドのパイロットは警戒するだろうがゴドスのパイロットは出てくる。後は食い釣りだ」「わかりました」「ミレニア曹長はこの先の峠付近からアタックユニットによる援護射撃、ロック軍曹は私の後方200mに続け」『了解!』「作戦開始だ」 アトラスはそう言ってライガーに乗りこんだ。 一方……。「ふわぁ〜っとよく寝たぜ……」 レイは何も知らずにジャンク屋の格納庫へと向かった。 日の出前ではあるが、昨夜早く寝過ぎたせいかこれ以上は寝る気にならない。「お〜い、爺さん。チェーンナップ済んだか?」「おお、丁度終わったとこじゃ。ほれ、ゴドスDG-Jにカスタムしておいたぞ」 DG-J、ダブルガトリングジェットの略である。 両肩にビームガトリングを装着し、攻撃力を上昇させ、ジェットバーニアで低下した機能性を補っている。「お〜物分かり良いな。こいつなら昨日の奴らだけじゃなく仇のリーゼにも勝てそうだ」「無理じゃな。相手はジェノザウラー、簡単には勝てん。しかし、期待はしておるぞ」「おはよ〜って何の話してんだ?」「うわ〜ガイサックが改良されてる」「おはよう…ございます」 オルン、クラミア、レミアが起きてきた。 3人とも改造された自分の機体を見て驚く。 彼らの機体もそれぞれ、ガイサック・ブレード内蔵型とダブルテイルスティンガー、プテラスボマーへと改良を遂げていた。「よお、てめぇら、驚いたろ?」「ああ、正直びっくりさ」「一晩でここまで変わるとね……」「すごい……です……」 レイの声に3人はそれぞれ感想を述べる。 それほどまでに機体の改良は素晴らしい 出来であった。と、その時……。「この街に潜伏する基地襲撃犯に告ぐ、今より2時間以内にこの街より立ち退かねば、この街に無差別の攻撃を仕掛ける」 上空をレイノスが通り、スピーカーから声が流れてきた。「……マジかよ……」 それを聞いたレイは呟く。「馬鹿正直に出て行かなくても、街を攻撃なんかしないんじゃない?」 クラミアが言う。「いや、わからんぞ、なにせ彼奴らは軍の連中じゃからな。わしの孫も彼奴らに殺された」「となると……でないわけには行かないな。ひとまず俺とレミアが先行する。オルンとクラミアはエルとシェリアを起こした後、追ってきてくれ」 それを聞いたレイはテキパキと指示を出す。「でも、そうすると4対2で不利じゃないか?」 オルンが問題点を指摘する。「時間を稼ぐだけさ、戦わなけりゃ良い」 レイは時間を稼ぎ6機揃ったところで相手を潰せばいいと考えていた。「わかった。すぐ行くから、死ぬなよ」「ああ……行くぞレミア」「……うん」 指示を出し終えたレイはレミアを伴って出撃していった。「エルが来るまで……俺が頑張るしかないよな……」 ゴドスDG-Jのコックピットの中でレイは1人呟いた。 一方、エルを起こしに行ったオルンは……。「エル!起きてくれ!エル!」 と、ドアの前でオルンは大声を出す。「………」 しかし返答は来ない。「エル!」 オルンが叫ぶ。 そして、返答は彼の後ろから返された。「何だよ?」 エルは結局、エレの部屋で座り込んだまま眠ってしまってたのだ。「あ、こんなとこに……とにかく急いでゾイドに乗って……レイを助けないと……」 エルはオルンのとぎれとぎれの言葉を聞くと急いで格納庫に向かい、メーベに何か指示を出すと改良が成されたコマンドウルフ3-Rに乗りこんだ。 丁度シェリアも駆けつけてきた所であった。
「うぉぉおおぉぉぉぉ!」 レイは雄叫びを上げ、ビームガトリングを掃射しながらシールドライガーに向かって突進する。「その程度の弾丸、シールドを張るまでもないっ!」 アトラスは弾丸が迫る中、ライガーを跳躍させる。 爪に2,3発の弾丸が当たるが問題はない。 そして、そのまま一気にレイのゴドスを飛び越える。 しかし、レイの狙いはアトラスではなく、彼の後ろで待機していたロック軍曹のゴドス重装備型であった。 無論、ライガーの後ろにいたロック軍曹にレイの突進が見えるはずもなく、すぐさまに距離を詰められる。 そして、レイがゴドスの強靱な脚力を利用したキックを繰り出そうとし、ロック軍曹が衝撃に備えたその瞬間、砲弾の着弾音がし、辺りが一瞬土煙で何も見えなくなる。「レイっ!」 レミアの悲鳴が上がる。 だが、その悲鳴も迫り来るレイノスのパイロットの猛攻により中断せざる終えなかった。 少しして煙が晴れるとそこには右脚を引きちぎられたゴドスDG-Jが横たわっていた。「くそっ……あと少しだったのに……」 レイが悪態を付く。「危なかったわね、ロック軍曹」「ありがとうございます、曹長」 そう、コマンドウルフATのアタックユニットが着弾したのだ。「まったく、油断大敵だな……ロック軍曹」 アトラス中尉の叱責が跳ぶ。「その通りです。すみません。中尉」「もう過ぎたことだ。謝っても仕方ないっと、それよりオルディア・オーフィニア軍曹、そのプテラスボマーを早く仕留めてくれ」「了解」 オルディア軍曹はアトラスの命令に素直に従う。 途端に先ほどまでの呑気な追いかけっこのような空中戦は終わりを向かえ、殺気だった本物の戦闘が始まろうとする。「オルディア……オーフィニア?って……お兄ちゃん?」 そんな殺気が自分に向けられるなか、レミアがレイに向かって小さく呟く。「マジか?」「……」 それを聞いたレイが半信半疑で聞き返すとモニターに映ったレミアはこくりと首を縦に振る。「いくぞ、機体泥棒!」 しかし、相手にその通信が聞こえるはずもなく、オルディア軍曹のレイノスが迫る。「おいっ!待て!こいつはレミアはお前の妹じゃないのか?」 兄が妹を殺せるはずがないと踏んだレイがオルディアに強制通信をかける。 が、その後彼女の本名ではなくあだ名を呼んでしまったことを深く後悔する。「……俺の妹はレミファナ、彼女はここにはいない。帝国との国境の町にいる」 案の定オルディア軍曹は相手が妹であることに気付かず、冷静に、いや、冷酷にそう言って、レイノスのシュツルムクローを剥き出しにして襲いかかる。「そんな……でも……」 一切の戦闘意識の消えたレミアにそれをかわすことはできるはずがなかった。「お……様、お会い……できて…良かった……です……」 レミアは切れ切れと何か言おうとしたが、レイノスの爪がプテラスのコックピットをもぎ取り、空中から落としたために、最後の言葉はレイには聞き取れなかった。「レミアァァァァアア!」 レイの絶叫も虚しく、レミアはひしゃげたコックピットごと地面に叩きつけられ、砂塵が舞い上がる。 地面に沸き立った砂煙が消えたとき、そこには無惨にも粉々に砕け散ったコックピットの残骸が転がり、その向こうには仲間の死を目の前で見せられたエル達がたどり着いていた。「悪い、遅くなった」 エルが済まなさそうに言う。 その声は今までレイがどんな人からも聞いたことがないほどに消え入りそうに静かで、身体の芯まで凍り付きそうなほどに冷たかった。 その瞳はたとえゴジュラスの装甲でも一睨みで貫きそうなほど鋭く、何者も許さないと言う決意がたたえられていた。「おせぇよ……彼奴らを任せるぜ……」 レイはそう言い残し、気を失った。「言われなくともそうするよ」 エルは冷たい声で言いはなった。その声を聞き取った者はいるはずがなかった。
エルは己の機体をアトラス中尉率いる部隊と向かい合わせていた。 仲間の機体は彼の後方に続いてる。「みんな、悪いが手を出さないでくれ」 エルが仲間にそう告げる。「エル、あなたの気持ちは分かるけど、あたしたちも同じ気分よ?」 コマンドウルフRRG(ロングレンジガン)に乗ったシェリアが言う。「そうだぜ?俺達にも戦わせてくれよ」 オルンも言う。「兄貴に同感」 クラミアもそれに続く。「……本当に悪いと思うけど、今回だけは手を引いてくれ」 エルの声はナイフのような鋭さを見せ、シェリア達は仕方なく機体を下げる。「ありがとう……できればレイの回収を頼む」 そう言ってエルはコマンドウルフDCSをシールドライガーに向けて走らせる。「死なないでよ!エル!」 後ろからシェリアの声がかかるがエルは返答をしない。(こんなところじゃまだ死ねない……でも、彼奴らのためなら最悪でも刺し違えてはやる) エルは内心そんなことを考えていた。 シールドライガーとの距離がつまる。「無謀と勇敢を間違えてもらっては困るな、少年」 アトラスはシールドの脇腹に装備された8連ミサイルポッドを左右同時に放つ。 総計16発のミサイルがエルはそのうちの3つを踏み台にして全てのミサイルを飛び越え、シールドライガーの背中のAMD20mm2連砲を踏みつぶして跳躍し、ゴドス重装備型に飛び掛かる。 さすがにミレニア曹長もこれは予測できず、援護が無い状態でロック軍曹が反応できるわけもなく、結局ゴドスはコマンドに押し倒され、上からビームキャノンの2連射をくらい、腹部装甲が融解、コアが丸見えになってしまう。当然大破である。「ロック軍曹!」 ミレニアが叫ぶが返答は来ない。「まず一機……」 エルはそう呟くと機体を大きく後ろに跳びすさらせる。 そこをレイノスの20mmバルカンの弾痕が通り過ぎていく。 着地したところにシールドライガーがシールドを張って突進してくる。 俗に言うシールドアタックである。 しかし、エルはそれを見た後、上空から迫るアタックユニットの弾丸の軌跡を確認してライガーの足下にビームキャノンを放つ。 機体は守れるがさすがに地面まではシールドでは守れず、シールドライガーは前のめりに地面に叩きつけられる。 スピードがあるために簡単には止まらず地面の上をすべる。 そしてエルはコマンドを地面の上をすべるライガーの上を飛び越えさせる。 するとそれを待っていたかのようにミレニア曹長の放ったアタックユニットがライガーの上に降り注ぎ、ライガーはコンバットシステムが落ちてしまった。「くっ……仕方あるまい……撤退だ!オルディア軍曹、ロック軍曹を回収、その後撤退」 アトラス中尉が苦々しく命じる。「了解」 オルディア軍曹は静かに答える。「ミレニア曹長は我らが戻るまで敵に砲撃を続けよ」「はっ!」 ミレニアは上官の命令に従い砲撃を続けた。 彼女の砲撃によりエルは結局ライガーやレイノスに攻撃をくわえることができなかった。 数分後、共和国の部隊は撤退した。「あ〜あ……逃げられちゃった」 シェリアが残念そうに呟く。「取り逃がしてしまった……僕が未熟だから……」 エルは悔しそうに呟く。「え、でも、エルは良くやったと思うよ。ゴドスとライガーを倒したし」「敵の息の根を止めていなから、奴らはまた来る……」「それはそうだけど……」「お〜い、エル!レイ!シェリア!無事か〜?」 メーベの気楽な声が聞こえる。砂煙を巻き上げながら向かってくるのはホバーカーゴだ。「レミアがやられた。それ以外は問題ない」 エルが状況を報告する。「そうか……ひとまずこのホバーカーゴに全機搭載するから乗れや」「わかった」 エル達は壊れた頭部のないプテラス、ゴドスを引きずってホバーカーゴに乗ると出発した。 まったくあてのない敵討ちの旅に。 一方、基地に帰還したアトラス中尉を迎えたのはミラウス大尉ではなかった。 何故か基地には戦闘の跡が残っている。 しかも、真新しい物だ。「お帰り、アトラス大尉」 壮年の男が声をかけてくる。「貴方は?」 アトラスは怪訝そうな顔で男を見る。「私は共和国軍エルバート大佐だ。現在はガーディアンフォースに所属しているがな」「ガーディアンフォースがここにどのようなご用件で?」「ミラウス君の賄賂疑惑が発覚してな。処分命令と君の昇進命令を受けてきた。昇進おめでとう、アトラス少佐。本来なら君の部下になるはずのミラウス君だが、私たちに刃向かったため処分させてもらった」 何気なくエルバートは言う。「当然の処置であります」 アトラスもさらっと返す。「礼儀はできているようだな。よろしい。ところで一杯やりたいのだがここの司令官室にはブランデーはあるかな?」「ありますとも。ミラウスの大好物でしたので」 そう言って、アトラスはエルバート大佐を司令官室に招き入れた。
「暑い……」「文句を言うなよレイ、みんな同じ気持ちなんだ」「わかってるけどよぉ……」 レミアを失い、それでなお共和国軍との戦いに引き分けたエル達は、自分たちの仇である【蒼い悪魔】リーゼと関連深い場所、レアヘルツの谷を目指していた。 そして彼らは今、日光の照りつけるホバーカーゴの甲板の上にいた。「エル〜、レイ〜もうすぐ着くわよ〜」「ああ、わかった」「おう!」「返事は良いから早くスタンバってよ。この辺は野良が多いから」「ああ」「わーたよ」 エルとレイはそう言って甲板から中へと入っていった。「ミレニア准尉、例の基地襲撃犯の居所は未だにわからないのか?」 アトラス少佐が准尉に問う。「現在全力で情報をたぐっておりますが今のところ発見できておりません」「そうか……」「もしや、帝国領へと侵入したのでは?」「あり得ない話ではないな、電話を貸してくれ。帝国軍のハーケン・ベゼルギィ大尉に連絡を取る」「少佐の飲み仲間のハーケン大尉ですか?」「ああ、そうだ。あと、ガーディアンフォースにも連絡を入れておいてくれ。万が一 ヒルツ派の生き残りだと困る」「了解です」 ミレニア准尉はそそくさと司令官室を出て行く。「まったく……彼奴らは何処へ向かったのやら」 1人になったアトラスはそんなことを呟くと、再び己の仕事へと戻っていった。「ここが……ゾイドイヴか……」「まったく、こんなところでデスザウラーが眠っていたなんて」「……」「嫌な気を感じる……」 エル、レイ、シェリア、エレはそれぞれそこに立って思い思いの言葉を吐いた。 彼らは、8年前、バン・フライハイトがヒルツという男と同化したデスザウラーを打ち倒した場所であった。「さて、ここで見ていても仕方がない。ここの遺跡を少しあさってみようじゃないか」 メーベがぽつりという。「そうしよう」 それにエルが同意し、残りの3人も首を縦に振る。「3手に別れるとしよう。ワシは1人で、エルとエレ、レイとシェリアでいいかな?」「ああ」「おう」「いいわ」「うん」 4人はそれぞれ答える。「では、4時間後にここで落ち合おう」 そう言ってメーベは自分の作業用ロードスキッパーを走らせていってしまった。「さて、俺達も行くか」「じゃあ、また後で」 そう言ってシェリアとレイもそれぞれの機体に乗りこんで行ってしまった。「僕たちも行こうか」「うん」 エルはエレをウルフのコックピットに乗せると、ウルフをゆっくりと走らせた。 しばらくして、ドーム型の遺跡にたどり着く。「ここに入ろう」「そうね」 2人はウルフを降り、ドームの中に入っていく。 エルは護身用に腰にサブマシンガンを吊し、反対側にはナイフを4本忍ばせていた。「……一体何があるんだ?ここは……」「わかわないわ……ただ、とっても懐かしい感じがする……」「エレ?」「ううん、なんでもない、なんでもないわ」 と、その時、何処からか低いうなり声が聞こえてくる。「……!エレ、僕の後ろに隠れて」 そう言ってエルは腰から片手に2本のナイフを引き抜き、もう片方の手でサブマシンガンを引き抜く。 それと同時に、紅い小型の、ロードスキッパーと大差ない程小さいゾイドがエルの前に飛び出してきた。「こ、こいつは……!」 エルがサブマシンガンの引き金を引こうとした瞬間、「待って、エル!あなたもよ、レヴァンティ!」「待てって……エレ?」「良いのよ、怯えなくて。レヴァンティ、久しぶりね」 エレが両手を広げて近づくと、先ほどまでうなり声を上げていた小型ゾイドは嘘のように静かになった。「エレ……君は……」 それをみてエルは何か言おうとしたが……、「エル、エレ!大変よ、早く来て!」 シェリアのせっぱ詰まった通信で打ち切られた。「どうしたんだ?シェリア」「良いから早く!」 そう言われてエルとエレは急いでウルフに乗りこんだ。
「シェリア!レイ!一体どうした!」 エルは2人のいる遺跡に飛び込みながら慌てた口調で叫ぶ。「大丈夫よ、エル。危険なことはないから、ゆっくり来て!」「あぁ、そうか。じゃあ、ゆっくり行くよ」 シェリアの答えを聞くとエルは焦るのをやめ、エレの元に戻る。「なぁ、エレ。僕にはそいつがあの【狂乱】のヒルツって奴のオーガノイドって物にしか 見えないんだけど……?」「エル……。その事は後で話すわ」 エレは紅いオーガノイドの顎をなでながらそう言う。「……エレがそう言うならそうするよ」 2人は会話を残しシェリアとレイの待つ遺跡内部の一室にたどり着いた。「よぉ、遅かったなエル。これから見る物に腰を抜かすなよ?」「いくらエルでもこれは驚くわ。メーベのお爺さんもああなっちゃったし……」 そう言って放心状態のメーベを見やる。「一体何があったんだ?」「っと……エル……その後ろの紅いのは……」「今は無視して教えてくれ」「……わかったよ」 なかば強引にエルに押し切られ、レイは天上を指差す。「これさ」「……!これは……デスザウラーにデススティンガー……古代ゾイド人の壁画か……」「よく見てエル」「……それぞれ2体ずついる……。デスザウラーもデススティンガーも……まさか!」「そのまさかじゃよ。最近行方不明と思われていたヒルツ一派のリーゼは多分、こいつを捜しているんじゃろうな」 淡々とメーベは語る。「デススティンガーの再来……何としても止めないと……」「そうじゃな。それよりもエレ、そろそろ皆に本当の話をするころが来たようじゃな。レヴァンティもそのころを見計らってきたんじゃろ?」 メーベの声に反応してレヴァンティが低く唸る。「何処から話すとするかの……最初はワシとエレが実際の家族ではないと言うところから話すか……」「長くすんなよ、メーベの爺さん」「わかっとるよ」 そう言ってメーベは天を仰ぎ、ぽつりぽつりと語り出した。 あれは、わしがたった1人の孫を共和国の軍人に撃ち殺されてあてもなく彷徨っていたときのことじゃった。 孫を失ったわしは自暴自棄になり、イセリナ山の奥深くで1人死ぬことを決意しておった。 そして、だいぶ山深く入ったところでわしは丁度いい横穴を見つけ、そこで朽ち果てるつもりじゃったが、運良くか運悪くかレヴァンティとエレの入ったカプセルをわしは見つけてしまった。 その時わしは、自分のような老いぼれがのたれ死にするのは勝手だが、まだ若い命を道連れにするのは傲慢では無いか、と思った。 そして、わしはグレイサンドコロニーにたどり着き、昔の村で営んでいたゾイドの修理で食いぶちを繋いでおった。 「そして出会ったのがお主らじゃよ」「なるほどな、で、と言うことはエレは……」「お主が思っておるとおり、古代ゾイド人じゃよ」 レイの呟きの先を察したメーベはその考えを言い当てる。「ごめんなさい、今まで黙っていて……」 レイの反応を見てエレは頭を下げようとするが、「悪いことは何もしていないよエレ」 と、エルが止めた。「さて、エレ。もう一つ本当のことを言わねばな」「はい……」 メーベの言葉に小さくうなずくと彼女は言葉を続ける。「私は、私は……その……ヒルツの妹なんです……。レヴァンティもアンビエントの……」『な……?』 メーベを除く一同がエレの言ったことに対し声を上げる。「私は……古代ゾイド人の長に破壊衝動を持ったまま眠りについた兄を止めるためにカプセルに入りました。ですが、カプセルが壊れてしまったがために、あの大惨事に間に合わず……」 そこまで言ってエレは言葉を続けられなくなった。 エルが彼女の前に立ち、殴りかかってきたレイの拳を顔面にくらったのだ。 不安定な体勢でくらったためにこらえきれずにエルは倒れる。「な……?エル!なんで邪魔するんだよ!こいつのせいで俺らは親を失う羽目になったんだぞ!」 エルを殴ってしまった事にいささか驚きながらもレイは言葉を続ける。「……エレは何も悪くない。彼女は兄のために一生を無駄にさせられるところだったんだ。悪いのは彼女ではなくヒルツだ」「……そりゃそうだけどよ……」 ばつが悪そうにレイは言う。「とにかく、収穫はあったんだから、ひとまずカーゴに戻りましょう?」 険悪な雰囲気が流れたのを受け、シェリアが提案する。「そうじゃの。ここにいても何も始まらん」「じゃあ、行こう……」 エルがそう言って遺跡を出ようとしたとき、メーベのロードスキッパーに強制通信が入った。「共和国軍基地襲撃犯に告ぐ。私はハーケン・ベゼルギィ大尉。我々帝国軍辺境警備隊は君たちのホバーカーゴを完全に包囲した。速やかに出頭せねば、中にいる人員の命は保障しない」 エル達の間に重苦しい沈黙が流れた。
エル達がホバーカーゴの見えるところにたどり着いたとき、すでに彼等のカーゴは帝国ゾイド十数機によって完全に包囲されていた。 中にはセイバータイガーやアイアンコングの姿も見受けられる。「しかし、敵に飛行ゾイドがいなかったのは幸いじゃの。いれば近寄った時点で発見されておる」 メーベが今の状況を的確に判断する。「そりゃそうだけどよ、あんな風になってんならオルンとクラミアを助け出すのは無理じゃねぇか?」 レイが率直な感想を述べる。「無理でも助けないと……。あの子達だって大切な仲間よ」「……だけどよぉ……」 シェリアに指摘されるがレイは未だに納得できない。「俺達にはリーゼの野望を打ち砕くって言う大切な役目があるんだぜ?」「そのために人の命を犠牲にはできない」 レイが挑発的なことを言うがエルは全く動じない。「けっ、また善人面かよ。いい気なもんだな!」 エルのすました台詞にレイは熱くなる。「僕はそんなつもりでは言っていない。勝算があるから言ってるんだ」「あの大部隊にどう勝ってんだ?この前の共和国の小部隊じゃねぇんだぞ?」「ああ、それでも勝てる可能性はある。エレ、レヴァンティにはゾイドとの合体能力、機能向上能力はあるかい?」「なるほど……オーガノイドの力か」 メーベが言葉を紡ぐ。「ええ、でも……」 エルに問われ、メーベも納得するがエレは口ごもってしまう。「でも?」 すかさずエルは聞き返す。「レヴァンティがあなたのことを余りよく思ってないみたいで……」 エルに聞き返され、言いずらそうにエレは言う。「そうか……じゃあエレ、君も一緒に乗ってくれ。それならレヴァンティも良いだろう?」「それなら、大丈夫だとは思うわ」「よし、僕は正面からレイとシェリアはサイドから頼む」「ああ」「わかったわ」 レイは不満そうに、シェリアは純真にエルの言葉にうなずいた。「作戦決行だ」 エルの声と共に3機は駆けだした。「敵機確認、共和国からの情報通りです。砲塔はこちらに向いています。応戦しますか? ハーケン大尉」「こっちの要求を呑まなかったか……相手は子どもらしいが仕方ない。本気でかかれ!ただし、絶対に殺すなよ!」「了解」 ハーケンの号令の下、帝国軍辺境警備隊所属の14名は行動を開始した。「エル!彼奴ら気付いたみたいだぜ?」 モニターに映ったレイの顔に焦りが浮かんでいる。「そうだろうな。彼奴らも軍人なんだ。ちゃんと鍛えてはいるだろう」 エルは当然とでも言いたげな表情でそれをかえす。「なに悠長なこといってんだよ!早くオーガノイドでパパッと片付けてくれよ!」「ああ、そうする。エレ、頼む!」「わかったわ、レヴァンティィィィ!」 エレの声に反応して、それまでウルフと共に崖を走っていたレヴァンティが大きな 咆吼と共に紅い光を纏ったやじりのような姿へ変化していく。「……!あれは……オーガノイド!」 ハーケンが呟くがそれを聞いた者はこの戦いで命を落としている。 そしてその光のやじりは一度大空へと舞い上がり、走っているウルフの背へと突き刺さった。 途端にウルフに目に見えた変化が訪れた。 白色の機体がオーガノイドと同じ真紅に染まっていき、牙や爪がより一層鋭くなる。 ウルフの脚部筋肉などが一斉に膨張、強化されていき、可動用ケーブルも装甲にコーティングされる。 背負った大口径ビームキャノンは脚部筋肉の発達により、バスターキャノンへと変貌を遂げた。 腰に付けられたスモークディスチャージャーはブースターを付加した物へと進化している。「これが……これがオーガノイドの力なのか?」「ええ、そうよ。その代わり、レヴァンティとこのウルフにはものすごい負荷がかかっているの。合体可能時間は5分よ」「わかった。こいつの力なら5分あれば十分だよ。行こう!ウルフ!レヴァンティ!」 エルの声に反応し、ウルフが咆吼を上げる。 その咆吼を聞いた帝国軍のモルガやヘルキャットは一時行動を停止した。 エルがその隙を逃すわけもなく、モルガの腹部を踏み抜き、ヘルキャットの脚を引き裂いた。 レイとシェリアの奮戦のおかげもあり、敵機で残っているのは すでにセイバータイガーが1機とアイアンコングが1機。 それにおまけのように付き従っているゲーターが3機のみになっている。「へへっ!こいつは楽勝だな!」 レイが調子に乗ってアイアンコングへと突進しながら言う。「レイの言う通りね!」 シェリアも勢いに乗って同じくアイアンコングを目指して突っ込む。 2人の目の前を3機のゲーターが阻もうとするが、シェリアのロングレンジガンとレイのビームガトリングの掃射を受けて動けなくなる。 そして2人がアイアンコングに飛び掛かったとき、上空の雲の間からから2本の光が降り注ぎ、シェリアのウルフは脚を貫かれ動けなくなってしまった。「遅くなりました!大尉」 雲の間から出てきたゾイドのパイロットがそう叫んだ。
世界が一転した。 気付いたときには自分の機体は地面にうち伏せられている。 愛機のウルフは溶解し、動ける状態ではなかった。「シェリア!無事か?」 レイの焦った声が聞こえる。「ええ、大丈夫。だからレイはコングを倒すのに集中して!」「わかった」 シェリアの答えを聞くと、レイは己のゴドスを全力で走らせる。「……エルは大丈夫かしら?」 シェリアは誰とでもなく呟いた。 一方、そんな心配は全く知らずに、エルとエレはハーケンのセイバーと増援のレドラーBC率いるレドラー2機を軽々と手玉にとっていた。「くっ……なんて機体性能をしているんだ!」 ハーケンが叫ぶ。 その直後にレドラーが一機、地に伏せる。「このっ……くらいなさい!」 レドラーBCのパイロット、ニーナ・メントラス少尉がビームキャノンを放つ。 しかし、エルは崖を駆け上りながら、その砲撃をことごとくかわす。 そして、仕返しとばかりにもう一機のレドラーがバスターキャノンの洗礼を受けた。「エル!あと1分30秒!」 エレの声が叫ぶ。「1分あれば十分だ」 エルが冷静に答える。 そして、共和国の軍勢を打ち破ったときのようにその瞳が鋭さを増していく。「私が血路を開きます!」「やめるんだメントラス少尉!」「はぁぁぁああぁぁぁ!」 上官の制止を無視してレドラーBCがメントラス少尉の気合いと共に突っ込んでくる。 ウィングの低周波ブレードで引き裂くつもりだろうが、そうはいかない。「……甘い」 エルの口からそう、言葉が漏れ、次の瞬間ウルフは上空へと飛び上がり、迫ってくるレドラーBCのウィングの上に着地、そのまま地面に押しつける。「メントラス少尉!」「…………………」 ハーケンの叫びにメントラス少尉は答えない。「貴様!これでもくらえ!」 セイバータイガーの基本装備、3連衝撃砲が放たれる。 しかし、エルはいとも簡単にそれをかわすと、一気に間合いを詰め、鋭い爪をかまえてセイバータイガーに跳びかかかる。ハーケンは慌てて機体の前足を上げて、相手の爪を己の爪で防ぐが、次の瞬間、セイバータイガーの爪はいとも簡単に脚を巻き込んで引き裂かれた。「しまっ……」 ハーケンがそこまで言ったとき、コマンドウルフの強烈な頭突きがセイバータイガーの顎を直撃し、崖に叩きつけられて動かなくなる。「後35秒よ。合体を解除する?」「ああ、機体の負担は軽い方が良い」 エレの問いにエルは即答する。「わかったわ。レヴァンティ?」 彼女の声に反応して、ウルフの背中から紅いやじりが飛び出し、背中の上に着地する。 その出来事が終わる前にウルフは普通の形に戻っていた。「よぉ!エル!無事か?」 レイの陽気な声が聞こえる。彼の後ろには腹部に大きなへこみを付け、首が百八十度反転したアイアンコングの姿があった。「勝ったみたいだな。俺も勝った」 胸を張り、レイが言う。 アイアンコングを倒したことが彼に自信を与えたのだろう。「シェリアは?」「無事だ。今カーゴの中に運び込んでいるよ」 エルの問いにあごでそちらの方を指しながら彼は答えた。「そうか……良かった」「まぁな。さて、俺達も戻るか」「ああ」 レイが言い、エルが答えたとき、盆地となったそこに新たな声が響いた。「私は帝国軍第一装甲師団、カール・リヒャルト・シュバルツ中将。ハーケン・ベゼルギィ大尉からの救援要請を受けて此所に至る。この惨劇を作り出したのは貴様らか?」 特殊な配色をされたアイアンコングmk-2がそこにいた。 後方には、ライトニングサイクス、ダークホーン、ブラックレドラーなどが勢揃いしている。「カール・リヒャルト……シュバルツだと!あのデスザウラー計画阻止の帝国指揮官でデススティンガーとも一戦を交えたっていうあのシュバルツか?」 レイの顔には恐怖が浮かんでいる。 他人に対して滅多に恐れを表さない彼がここまで恐れると言うことは、それほどまでに相手の実力は世界が認めていると言うことだ。「おい、エル!どうするんだよ!」「このまま此所で殺されるか、必死に戦って生き延びることにかけるか、好きな方を選ぶしかないだろ?ちなみに僕は戦う。エレを、皆を守るために」「そうか……じゃあ、仕方ないな。おい!オルン!今すぐカーゴを走らせろ!とりあえずガリル高原方面に逃げるんだ!」「わ、わかった!」 オルンがびびりながらそう答える。「それじゃあ行くか?エル」「そうしよう。カーゴが見えなくなったら逃げるよ?」「OK、その案でいくぜ」 二機はおびただしい数の最新鋭機の群れの中へと身を躍らせた。
最初から勝ち目などほとほとなかった。 それは誰の目から見ても当然のことである。 方や帝国部隊と一戦交えたコマンドウルフが2機。 方やエリート揃いの帝国軍第一装甲師団。 勝つ気で戦うというのは無理という物だろう。 もっとも、彼らに勝つ気はなかった。「レイ!あと1分稼いだら逃げる!」「分かった!」 2人は短い会話を交わしながら、帝国軍を威嚇し牽制し近づけない。「ところで、俺はどっちに逃げればいい?」「カーゴの後を追ってくれ!僕は後から追いつく!」「あいよ!」 レイはそう言いながら20mm二連ビーム砲を放ちサイクスを牽制する。「あと15秒です!」 エレが砲撃の揺れに耐えながら叫ぶ。「よし!あと少し!」 レイが言った瞬間、目の前に信じられない光景が映った。 本来なら後方で指揮を執るはずの機体、カール・リヒャルト・シュバルツのアイアンコングがこちらに向かって疾走してくるのだ。「なんて奴だ……!」 レイがビーム砲を放つが腕に焦げ跡をつけただけに過ぎない。「いい加減投降したまえ!」 シュバルツがもうすぐアイアンナックルを振るえる距離で叫ぶ。「レイ!先に行け!ここは僕が食い止める!」「けどよぉ……」「いいから、行け!」 せっぱ詰まった声でエルが言う。「……わかった。後は任せるぜ!」「ああ」 その返答を聞くか聞かないかと言うところでレイはウルフを走らせ、エルは同時にコングのナックルをかわした。「ほぅ、なかなかできるようだな。皆、手出しするな!私が倒す!」 シュバルツ中将が叫ぶ。 その声を聞いて帝国軍第一装甲師団は攻撃の手を止める。 静寂が場に訪れた。「……はっ!」 先に動いたのはシュバルツ中将のアイアンコングだった。 その巨体に似合わないほどの速度で一気に距離を詰め、再びアイアンナックルを振るう。「……っ!」 エルはその文字通りの鉄拳を際どいところでかわし、アイアンコングの頭部に砲塔を向ける。「しまっ……!」 その後のシュバルツ中将の言葉は声にならなかった。 次の瞬間、閃光が瞬いた。「エルの奴、上手く逃げ切れたかな?」 レイはホバーカーゴの後を追いながら一人ごちた。「ま、彼奴のことだから後でひょっこり戻ってくるだろうな」 そして、勝手に結論づける。「お、見えた見えた!おーい!」 レイはカーゴに向けて音声を送る。「あ、レイだ!シェリア!レイが来たよ!」「え、レイ?無事なの?」「ああ、無事だぜ」 にやりと笑ってレイが言う。「そう、よかった……。あれ?エルとエレは?」「彼奴らは俺を逃がして後から来るってよ」「……!レイ!あなたエルをおいてきたの?」「違う!彼奴は俺に先に行けって言ったんだ!」「何で残らなかったのよ!」「残ってどうなるんだよ?俺の腕じゃああそこで後何分生き残れるかすらわからねぇのに!」「…………ごめん、言い過ぎた」 うつむきながらシェリアは言う。 いつものような元気は少女はそこにはなく、ただ泣くことしかできない少女のようでしかなかった。「お、おい!泣くなよ!彼奴はきっと帰ってくる。俺が保障するから!今はとにかく安全なところまで行こうぜ?エル達が帰ってくる場所を残すために」「……うん」「残念だが、君たちが逃げ延びる場所はない」 涙目のシェリアが答えたとき、低く陰湿で粘着質の声が場に響いた。「誰だ!」 ホバーカーゴの横に機体をつけたレイが叫ぶ。「ひぇっひぇっひぇっ、わしが誰であろうとどうでもよかろうに。どちらにしても貴様らは完全に包囲されておる。諦めて降伏せよ」「……所属も機体数もわからねぇ奴に降伏ができるか!」 確かに辺りは峡谷で完全に地形としては不利だが、こんなところで降伏などレイにはできなかった。「ひぇっひぇっひぇっ、威勢のいいことじゃの。しかし、この数相手にどう戦う?」 陰湿な声と共に周囲の壁が崩れ落ち、まさに廃棄物となるようなゾイドの残骸が十数機起きあがってその姿を復元しつつ、レイに襲いかかった。
「ったく!なんだこいつらは!」 レイは己のコマンドウルフで自機に群がる廃棄物と戦っていた。 ゴドスやモルガなどの小中ゾイドから右前足と頭部のかけたセイバータイガーまでいる。「ひぇっひぇっひぇっ、いつまで持つかのぅ?」「五月蠅い!」「余裕がないのぅ」 レイは謎の声と言葉をぶつけながらも相手の亡霊機体としか言いようのないそれを打ち崩していた。 迫り来るゴドスのパイルバンカーをひらりとかわし、モルガの体当たりを避けながら、1機、また1機と潰していく。 相手の数は目に見えて減り、残りはセイバーとウルフが1機、モルガが2機である。「厄介なのが残っちまったな」 そう言いつつもセイバーに向かって距離を詰める。 先ほどの戦いの中である程度動きを予想したのだ。 相手のセイバーは攻撃をするときに前足の爪が微妙に動く。 そのタイミングを計ればセイバーとはいえ恐るるにたらぬ相手である。 そして、彼が突進をかけたその時、セイバーの爪が動いた。 次の瞬間、彼はセイバーに爪を振りかざした。 相手の爪を完全に見切って。 そして、着地と同時にモルガに2連装ビームを放ち、仕留める。「あと2機!」 レイが叫んだその時、確かに粉砕したはずのゴドスのパイルバンカーが、彼のウルフの腹を深々と貫いた。「っう!」 そして彼の意識はそのまま暗転した。「さて、と。あの中にいるメーベを捕らえるのだ」 声は言った。 それに従って10数機の残骸ゾイドがホバーカーゴに迫る。「オルンとクラミアはガイサックに乗って!側部装甲を開いて足場を作るわ!」「うん」「わかった」「メーベはどこへ行ったの?狙われているのに!」「知らない。気付いたら居なかった」 オルンが言う。「……まあいいわ。とにかく今は現状を取り戻すわよ!」「うん!」 クレミアが答え、2人は格納庫へ向かう。「こんな時にエルが居てくれたら……」 1人になった制御室で彼女はそう呟いた。「……でも、無いものは望まない。そうよね。父さん」 胸に掛けた写真入りのブローチを握りしめながら、彼女はそう続けた。 その直後、「シェリア姐!どうすればいい?」 気付けばオルン達は側部装甲に乗って戦っているが、戦況は好ましくない。 なにせ相手は潰しても潰してもいとも簡単に蘇ってくるのだ。「元凶を潰さないと……」 シェリアが呟いたとき、一条の光がオルンに飛び掛かろうとしていたウルフを貫き、消滅させた。「……エル!」 シェリアが叫ぶ。 しかし、その攻撃を放ったのはエルでもレイでもクラミアでもなかった。「そこのホバーカーゴはそのまま待機!後続部隊に告ぐ。ガイロス帝国第一級犯罪者、ホートレイ・クラウンを発見。全軍そちらの討伐に迎え!」「了解いたしました!シュバルツ中将!」 部隊の面々は士気も高く第一級犯罪者、ホートレイを捜索し始めた。 その間にもホバーカーゴにアイアンコングが近づいてくる。「では、全員出てきてもらおう」 そう言ってシュバルツはガトリングユニットをレイに向けた。 シェリア達は出て行くほかになかった。 こうして彼らは共和国と帝国の中間基地、ドラゴンヘッド要塞へと送られた。「何だって!!?」「だから、基地襲撃犯。君たちが犯した罪は非常に重い。しかしだな、私の有能なる部下ハーケン君の友人の共和国軍少佐のアトラスという奴が非常に奇特な人物でな。君たちを部下として招き入れたいと言っているんだが、どうかね?」「私達が共和国軍人に……ですか?」「そうだ。君たちの技術は、特にレイ君とシェリア君、それにエル君に関しては新兵なんて物じゃない。オルン君とクラミア君もあと少し課程を受ければ十分に一般兵以上に戦える。アトラス君は今、新体制作りに重要な有能な部下を集めているんだよ」「もし、断ったら?」 レイが挑発的に言う。「さあな。私は共和国軍人ではないからそこまでは知らんよ。アトラス君が来たら聞いてみるがいい。それじゃあ、私はこの辺で失礼するよ」「あ、ちょっと待って下さい」 シェリアがシュバルツを引き留める。「なにかね?」「エルは、エルはどうなったんですか!」シェリアは沈痛な声で言った。
これまた移動どうもです〜。再びロストさんの長編小説側がサイトで読める…感激であります!(某かえるアニメの主人公風にw流石、といったところで筋の通ったストーリーと迫力の戦闘描写が目を引きます。ではでは。
荒れ果てた大地を1機のコマンドウルフが疾走している。 新雪のような純白を下地に、戦闘の跡と思われる黒い弾痕や茶色い傷痕が付いた機体である。「しかし危なかったな……。あの時、照明弾を上手く使えなかったら僕たちは多分……」「死んでたでしょうね……きっと」 2人の間に重苦しい沈黙が流れる。 それを打ち消したのはレヴァンティの甲高い鳴き声であった。「何か問題か?」「ううん。お腹が空いたって」「………」 何気ない呑気な会話。 エルはこの先のガリル遺跡で待つレイ達のことを思いつつも昨日の戦いを思い出していた。 アイアンコングの頭部に砲塔を向け、彼は弾丸を放った。 メーベ特製の特殊閃光弾を。 それは文字通り敵を目眩ましし、エルがその場を逃げるのを楽にした。 エルは弾丸を放った瞬間に反転、一気に近くの割れ目の中に飛び込み、身を隠した。 目が潰れていた相手にとってはいきなり消失したように見えただろう。 そして、彼は軍の連絡無線を傍受し、追っ手が自分を諦めシェリア達を追ったことを知った。 いつもならば助けに行く彼であったが、あれだけの時間引き留めておいた敵がシェリア達に追いつく可能性はほとんど無いに等しかったのであえて遠回りして合流するという手にでたのであった。「それ故、我が軍は彼を補足できなかったと言う訳なのだよ」 シュバルツ中将はそう語った。「じゃあ、エルは……」「今頃君たちとの合流地点へとひた走っているだろうな」「それなら、俺が行って呼び戻してくる」「やめたまえ。君の怪我は全治1ヶ月だ。当分は安静にした方が治りも早い」「………」 レイが文句を言いたそうな顔で黙った時、部屋のドアがノックされた。「どうぞ」 シュバルツが言う。「只今到着しました。シュバルツ中将殿」 入ってきた男、アトラス少佐は敬礼しながらそう言った。 次の瞬間、オルンとクラミアがアトラスに掴みかかり、簡単にいなされた。「やめなさい!オルン!クラミア!」 再び掴みかかろうとした彼らをシェリアの声が止めた。「けど……こいつがミシェルとアーシェを……」 もごもごとオルンが言う。「それについてだが……」 いきなりシュバルツが口を挟む。「君たちの仲間を惨殺させたのは彼ではない。彼の元上司にあたる男だ」「……じゃあ、何であそこに?」 シェリアが問う。「運が悪かった、としか言いようがないな」「……レミアはどうなったんですか?」「残念ながら私は知らんな」「……俺、やっぱりあんたの部下にはならねぇ。あんたの下にいるといつ捨て駒にされるか分かったもんじゃねぇからな」 レイが言う。「私は能なしは切り捨てる主義でな。君たちが能力のある人間なら見捨てたりはせんよ」「だけど、やっぱ辞退させてもらう」「そうか、残念だな。君があのフェナン・アーラクルス准将の息子レイモンド・アーラクルスだと聞いたからわざわざここまで足を運んだのだが……」「何で親父のことを知ってるんだよ?」「当時私は彼の部下だったのでね。凄腕のゾイド乗りだったよ。もっとも、彼は己の志を為す前に荷電粒子砲に呑まれて消えてしまったが」「……親父の志?」「私について来るというのならそれについても教えてやる」「そんなのずるいじゃない」「失礼だが私レイモンド君と話をしているのだよ。ラメア・ガーナッシュ少佐の娘、シェリアナ・ガーナッシュ」「母をご存じなのですか?」「言っただろう?フェナン准将の隊に居たと」「ってことは、エルの親父さんとも知り合いって事か?」「そうなるな。オールデン・ナッシュベル中佐は君の父上に勝るとも劣らない腕前だったよ。しかし彼はデススティンガーとの戦いの前で姿を消してしまった」「……姿を消した?」「あの時何があったのか、私は知らない。私が知っているのは准将達の志だけだ」 アトラスはしれっと言った。「………わかった。俺はあんたに付いていく。あんたが俺を捨て駒にしようとしても、俺は絶対にあんたに食らい付く。いいな?」「そう言ってくれるのを待っていたよ。それでは1ヶ月後ニューヘリックシティで会おう」 そう言い残してアトラスは退出した。「おっと……彼に言い忘れたことがあったな。では諸君。次は味方として会おう」 そう言ってシュバルツ中将も退出していった。
「待ちたまえ、アトラス少佐」「何でしょうか?シュバルツ中将」「しらばっくれるのはやめたまえ。君は先ほどまであの扉の影で話を聞いていたのだろう?」 シュバルツが言うと、アトラスは額に手を当てて、「さすがはシュバルツ中将殿と言うところですかな?特に機密に関してはもう少し注意を払った方がよいのでは?」「ふむ、一考してみよう」「では、忙しいので失礼させて頂きます……あ、出来ればお願いがあるのですが」「何かな?」「ハーケンの奴ですよ。自分だけ特進して少佐になってしまったのでこれでは呑気に酒も飲めませんよ」「……君らしい台詞だ。その件についても一考しよう。では、無事を祈る」「ええ、では失礼」 アトラスはそう言って昇格祝いに支給されたブレードを搭載した灰色をした獅子型のゾイド、ブレードライガーASに乗ってドラゴンヘッド要塞を離れていった。「……この分だと……明日にはガリル遺跡だな」 ウルフのコックピットの前座席で毛布にくるまりながらエルが言う。 ゾイドで旅をする場合、普通なら外で寝るのだが、この辺りは風が強く、夜は冷え込む。 とてもではないが外で人間が家屋無しで暮らすには厳しすぎる環境なのだ。「ええ、多分ね」 後部座席のエレが答える。「よくわかるな」「そんな気がするのよ」「気……かぁ……」「信じてないの?」「いや、信じるよ」「そう、じゃあお休み」「ああ、お休み」 2人はそのまま目を閉じて眠りの苑へと沈んでいった。 翌日、エルはガリル遺跡にむけてウルフを走らせていた。「あと少しでみんなに追いつける……」「早く行きましょう」「ああ」 そうしてしばらくの間、2人の間に沈黙が訪れた。 再び彼らの沈黙を打ち破ったのはレヴァンティの鋭く甲高い咆吼であった。「どうしたんだ?また腹が減ったとか?」「……違うわ……!エル、正面の遺跡に共和国・帝国軍ゾイドが……!」「なんだって?どうしてこっちの動きが……」「……来るわ!……速い!300km以上出してる……?」「300km!!?本当に?」「ええ……1機だけ、灰色の鋼鉄のブレードを装備しているわ」「……ブレード……ライガー……」「え?」「何でもない、レヴァンティに戦闘準備を……」「わかったわ」 そう答えて彼女はレヴァンティに合図を送る。「行くわよ!エル!レヴァンティィィィィイイィィ!」 彼女の声に反応して、レヴァンティは大きく宙に舞い上がり、姿を紅い矢尻に変化する。 そしてそれは、真っ直ぐにエルのウルフの背に突き刺さる。 その途端に、前回と同じようにウルフの全身が大きく強化され、機体の色が真紅に変わる。 今回は爪の長さが前回よりも長い。「よし、灰色のライガーを潰してそのまま敵部隊を粉砕する」「わかったわ、頑張って。レヴァンティもね」 その声に反応するかのようにウルフが咆吼を上げた。「遅かったな、オールデン・ナッシュベル中佐の息子エルロイド・ナッシュベル!」 ブレードライガーのパイロットが呼びかけてくる。「……何故、父さんの名を?」「知りたいか?エルロイド君。もしそうなら私の部下になってみないかね?新体制作りに有能な部下が要るのだよ」「……知りたいけど、あんたに協力する気はない。あんたを倒してとっちめる。それだけでいい。行こう、レヴァンティ」 エルが言ってウルフが走り出す。「仕方ない、こうなれば力ずくでも、だ」 アトラスもブレードを走らせる。 真っ正面に互いを見据えながら、2機は走り、ほぼ同時にエルのバスターキャノンとアトラスの2連装衝撃砲が放たれ、また同時に左右に飛びすさって相手の攻撃をかわす。「さすがは中佐の息子と言うだけのことはあるな……!」「少佐!今、援護に回ります!」 ミレニア准尉が叫ぶ。「いや、いい。シュバルツ中将で程ではないが私にもプライドと意地がある」 飛び掛かってきたウルフの爪をかわし、ブレードガンを乱射しながらアトラスが返す。「しかし!」「いいから黙ってみていたまえ。万が一相手が逃走を図ったときは頼む」 小型バルカンの弾を大きく後ろに飛んでアトラスはかわす。「……了解しました」 そう言ってミレニアは連絡を絶った。 暗くなったモニターに軽く笑みを浮かべたその隙をついて、直後にエルのウルフがバスターキャノンを放った。
前回の更新からだいぶ立ってしまいました。すみません。光輝さん。え〜っと……ZMさんの所で展開していた時とはほんの少し変えた部分があります。えと、アトラスを大尉から少佐へ変えました。ミスではないです。他にもいろいろ。では、深夜の投稿でした。お休みなさい。
絶妙のタイミングで放たれたその一撃はアトラスに回避の隙を与えなかった。「っく!Eシールド展開!」 灰色の獅子のたてがみから半透明な緑色のシールドが展開され、直後にバスターキャノンが直撃する。 爆煙が風に流されたとき、そこにはEシールドを展開したままのライガーの姿があった。「危なかったな……奴は何処だ?」「もらった」 声が聞こえた。 それと同時に暗い影がライガーの上にあらわれ、次の瞬間、ウルフの強化された鉄爪はライガーの右のたてがみを、シールドごと踏み抜いていた。「………無茶苦茶だな」「なかなか……できるみたいですね」 アトラスとエルが同時に言う。 よく見るとエルのウルフの右肩にブレードが突き刺さっている。「……それじゃあ……」「続きと行こうか?」 今度はエルが先に口を開いていた。「少佐!」 しかし、2機は離れる前に、ミレニア准尉の悲痛な叫び声を聞いて止まった。「どうしたんだ!ミレニア准尉!」「大変です、少佐。まるで亡者のようなゾイドが無数にあらわれ、我が部隊と帝国部隊を攻撃しています。所属コードは約8年前ここで秘密裏に動いていたプロイツェン配下の機種です」「わかった。すぐ行く。善戦を尽くせ!」「了解です」 そう言ってミレニアは通信を切った。「さて、そういう訳なんだ。力を貸してくれないか?」「……条件によります」「この場は見逃す。これでどうだ?」「本当は父のことを訪ねたかったですが、それで手を打ちましょう。エレ、レヴァンティを一度分離させてくれないか?「うん」 エレがそう言うが早いか、レヴァンティはその姿をウルフの背の上に移していた。 ウルフはベーシックカラーに戻っていた。「助かる」 こうして2機は十数キロ離れたガリル遺跡へと全力で向かった。 「くらえっ!」 オルディア曹長は上空からうごめく残骸に向けて、2連装ビームキャノンを放つ。 それは狙い違わず命中し、1機のレブラプターが灰燼と化す。 さすがに半壊した機体で空を飛ぶ物はいないが、対空兵器は残っているらしく散発的な砲撃がある時もあるが、比較的楽な戦いをしていた。「おりゃぁぁあああ!」 ロック曹長のゴドス・パイルバンカーの跳び蹴りは吸い込まれるようにレブラプターに直撃した。 さらにそのレブラプターを足場に半回転し、もう一匹のレブラプターの頭部にパイルバンカーを打ち込む。 数で負けている上に味方の士気は低いが彼は十分過ぎるほどに士気に満ちあふれていた。「このっ!」 ミレニア准尉のシャドーフォックスが特注のAZ18oレーザーバルカンをレブラプター数機に乱射する。 それをまともにくらい、数機のレブラプターが地に平伏す。「皆、くじけるな!少佐がもうすぐ戻ってくる!」 彼女が居なければすでにこの部隊は壊滅を迎えていたかも知れない。 しかし、唐突にその最後の光、希望はかき消えた。 斬られたのだ。 彼女のシャドーフォックスが彼女が倒したはずのレブラプターのカウンターサイズによって。 そして、それをきっかけに、あちらこちらで倒れたゾイドが復活し始める。 戦いの形勢は逆転しようとしていた。 ミレニア准尉は倒れた。 ロック曹長のゴドス・パイルバンカーもすでに十数機のレブラプターに包囲されて倒されるのは時間の問題である。 彼らにそれぞれ付いていた共和国軍小隊の面々、主にガイサックやゴドスも壊滅的な状況下におかれ、帝国小隊は壊滅していた。「……!あれは!少佐が戻ってきたぞ!」 唯一、無事であったオルディア曹長が叫ぶ。「少佐……」 ミレニア准尉の声はアトラスのライガーの咆吼の中に消えていった。
「派手にやられてるな……」 アトラスは吠え猛るライガーの中で呟いていた。「落ちついていますね。急がないと本当に全滅しますよ?」 後方のエルが通信を入れてくる。「……この周波数番号がよく分かったな?」「私が強制侵入(ハッキング)しましたから」「……とことん嫌な連中だな。君たちは」「貴男には言われたくないですよ」「そうかもしれん。来るぞ」「わかってます」 言ってるそばからアトラスのブレードライガーに斬り付けてきたレブラプターが居た。 しかし、彼らは皆、アトラスのブレードによって切り裂かれ、地に伏せたところを恐ろしいまでに精密なエルの大口径キャノンの射撃が確実に生命を奪っていく。 エルは彼らを戦闘不能にしたのではない。 再生不能、すなわちコアを撃ち抜いたのだ。「意外と残酷なことをするな」「そうですか?」 エルは素っ気なく答える。「まぁ、戦場ではそれくらいの方が生き残りやすいだろう。一気に片付けるぞ」「……はい」 アトラスの忠告を真面目に受け取ったか受け取ってないかは分からないが、エルはやる気のない返事をした。 それから数分後、辺りの廃棄ゾイドは全てアトラスのブレードかエルの大口径ビームキャノンにコアを破壊されて機能停止した。「流石だな」「それほどでも」「少佐、あのゾイドの群れはもしかして……」 アトラスとエルが簡単な受け答えをしている時にオルディア曹長が話しかけてくる。「ああ、多分ハーケンの奴が言っていたホートレイ・クラウンだろうな」「ホートレイ・クラウン?」 エルが聞き返す。「悪いな、軍事機密だ。どうしても知りたければ俺の部下になるがいい」「……断る」「そうか、では教えられないな。さあ行きたまえ。大丈夫、後ろから撃ったりはしない」「そんなことわかってますよ」 そう言ってエルはウルフを反転させると、遺跡とは逆方向に走っていった。「全く、忙しいガキだな。ミレニア准尉とロック曹長は無事か?」「ミレニア曹長は軽度の怪我です。ロック曹長は無事ですが一応、念には念をと言うことでミレニア准尉と一緒に搬送します」「わかった。報告ご苦労」 一通りの報告を述べたオルディアに労いの言葉をかけると、アトラスは生き残った兵士、特に女性士官に声を掛けて回っていた。「まったく、真面目なのか気楽なのか分からない人だ」 オルディアは内心で一人ごちた。 一方、ガリル遺跡を離れ、ガイロス帝国方面へと向かうエル達の背後に、1機の小型ゾイドの影があった。 そのゾイドの上には一人の人影が乗っていた。「……エル」 エレの小さな声が耳に届く。「……わかってる。後方の小型ゾイドだろ?」「うん」「そろそろ、いいころだな」「捕まえるの?」「いつまでもつけられているのも気分が悪いから」 そう言いながらエルは機体を反転させて、後方を追走していた小型の二足歩行ゾイド、ロードスキッパーの前に着地した。 いきなりの行動に相手は驚いたのか、ロードスキッパーは横倒しになり、その背にまたがっていた人影は転がり落ちた。「ワシを殺す気か?エル」 転がり落ちた人影はゆっくりと立ち上がりながら確かにそう言った。 「メーベさん……?」 エレがぼそりとつぶやく。「そうじゃよ……まったく。人が帝国軍の追撃をかわして命からがらお前さんらを追っていたのに、そのお前さんらに勘違いで殺されそうになるとは……」「僕が悪かった。そう拗ねるなよ……」 エルが言う。 すでに彼とエレはウルフのコックピットから降り、久々に身体を伸ばして寝るために、天幕を張る準備をしている。「まぁ……それはいいとして、レイ達はあの共和国軍共に仲間入りしたらしいな」 ぽつりとメーベが言う。「……!何処でその情報を!」 つい先ほどアトラスに聞いたばかりの話をメーベが知っていることに驚く。「確かに見届けたのだよ。彼らが共和国軍に捕らえられるところをな」「……」 腑に落ちない表情のエルがメーベを無言で見つめる。「なんじゃ?その嫌な目つきは……」「……本当にメーベか?」 エルの言葉にエレがハッとした表情になり、メーベとエルを見比べる。「何を言うんじゃいきなり……」「いや、気にしないでくれ……もう寝る」 そう言ってエルは寝袋の中に潜り込んでしまう。 エレもそれに続く。「……やれやれ……疑心暗鬼かの……」 寝入った2人を眺めながらメーベは呟き、こう付け加えた。「それもまた必要なことじゃがな」
翌朝、エルが目を覚ますと、そこは何もない荒野であった。 彼のコマンドウルフDCSは形も影もなく、野営に使った天幕も消え、メーベもおらず、何よりもエレが居なかった。「やられた……」 辺りに地面を見ると、人が争った形跡が残っている。 そして、朽ち果てた、何十年も前に朽ち果てたようなロードスキッパーが転がっている。「一体、何がどうして……メーベ……違うのか?」 どうしようもなく、エルはへたり込む。 彼らしくはないが、冷静な判断力は現状況がいかに厳しいものか確実に彼に伝えていた。「………どうしようもないな……」 辺りを捜索し終えたエルが呟いたのはその一言であった。 辺り一面に広がる荒野。 ゾイドどころか食料も飲料水もない。 散々悩んだあげくに、エルは歩き始めた。 幸いながらもウルフの足跡は残っている。「………いい加減限界か……」 地面に座り込んだエルの顔には大粒の汗がにじんでいる。 あれからどれくらい時間が流れたのかは分からないが、延々と歩き続けていた。 すでに日は高いところから傾きはじめている。「……追いつくのは無理かも知れないけど……急がないと……」 そう言って短い休息に別れを告げて再び歩き出そうとしたその時、後ろから走行音が聞こえてきた。「……あれは……?」 砂煙を左右にまき散らしながら走ってくる、1機のグスタフ。 塗装は共和国・帝国どちらのカラーでも無かった。 夕焼け空のようなオレンジ色をした、外殻が特徴的な機体で、速度も普通の機体よりも速い。 そして、その背後のトレーラーには夕闇のような蒼い装甲をした1機のセイバータイガーと紅く小型の獅子型ゾイド それを観察している間にもグスタフは目前に迫ってくる。 エルは慌ててグスタフを止めてもらった。「オイ!アンタ!人のグスタフの前にいきなり飛び出すなんて一体何のようだ!」 グスタフの操縦者のグスタフの外殻と同じ色をした髪の男は開口一番そうまくし立てた。「えと……そのですね……」「大体アンタみたいな子どもがなんでこんなところに居るんだよ!」 辺りを見回しながら男が言う。「それが……」 エルはここまでのいきさつを男に話した。 もちろんオーガノイド・レヴァンティの事は伏せて。「ほぉ〜つまり、アンタはアンタのミスのせいで大切なお仲間とゾイドを顔なじみに奪われたと。あ〜良くあるね、そういうの。こういう荒野なら死体の片付けも面倒じゃないし」 一通り話を聞き終えた男はそう言った。「サーク……アンタって本当に酷いことを簡単に言うわね」 そこへ第三者の声が入った。 先ほどまで気付かなかったが、多分蒼いセイバーのパイロットだろう。 ラフなショートパンツをはき、黒いアンダーシャツの上に革のジャケットを羽織った女性である。「よぉ、スヴァイス。起きてたのか?」 サークと呼ばれた男が言う。「当たり前よ。アンタのその酷い声を聞かされたらどんな鈍い奴でも一発で起きるわ」 やれやれと首を左右に振りながらスヴァイスと呼ばれた女性が言う。「でさ、あなた。エル君だっけ?いいよ乗ってきな」「オイ!俺らは今仕事の最中だろうが!」 いとも簡単にエルをグスタフの中に招き入れようとするスヴァイスにサークが声を上げる。「いいじゃない。どうせあのスケベ爺さんに頼まれた品でしょ?私がいれば大丈夫よ」「あの……いいんですか?お急ぎのようですし……」「あ、気にしなくていいわ。私はスヴァイス・デュッセル。傭兵よ。よろしくね」「仕方ねぇな。俺はサーク・ゼイブラ。見ての通り運搬屋だよ」「えと、エル……エルロイド・ナッシュベルです」「……ナッシュベル……あなたもしかしてオールデン・ナッシュベル中佐の息子さん?」 エルが名乗るとその名前を聞いてスヴァイスが声を張り上げる。「そうですけど……何か?」「8年前の大戦で初めて配属された隊がフェナン准将って人の隊で、その時の小隊長で右も左も分からない私に戦いの手ほどきをしてくれたのがあなたのお父さんってわけ。しっかし……本当に中佐の言うとおり無愛想ね君」「……そうですか?」「ほら、そう言うとこが。まぁいいわ。中佐の息子さんってことなら全力でお手伝いしないと。サーク、全力でウルフの足跡を追って。多分、こっちのほうが速いわ」「あいよ」 そう言って、サークはグスタフのキャノピーを閉めると、グスタフを走らせる。 直後に機体に衝撃が走る。「………!!?」「あ、気にしないで。加速モードに入っただけだから」 驚くエルに気軽に話しかけるスヴァイス。「加速モード?」「ええ。このグスタフはレース用でね。色々と改造が施してあるのよ」「なるほど……」エルは呟いた。
「中佐、どちらへお出かけですか?」 明日にもデススティンガーと交戦するかも知れない状況においての共和国軍キャンプはやけに慌ただしかった。 そんな中、彼女の上司である中佐は何処かへ出掛けようとしている。「ん、いや……丁度いい。君も来たまえ」「はい」 中佐に言われて女性兵は従う。 キャンプ地の外へ出ると、そこには数人の中佐直属の部下と彼らの機体が居た。「中佐……これは……」 彼女の頭に浮かんだのは“敵前逃亡”の単語。 しかし、愛機であるシールドライガーの前に立つ中佐の口から出た言葉は、「これは決して敵前逃亡ではない。フェナンと決めたのだが、明日の以降の戦いにおいて、私達は互いに連携を取りながら、お互いを囮としてデススティンガーを誘い出す。そう言う作戦に出ることにした。そこで私達は敵前逃亡をしたと見せかけなければならない」 中佐の言うとおりだと思った。 この中佐は戦いで死をも恐れることはない。「了解しました」 女性兵はいとも簡単にそう答えた。「そうか、では、皆が寝静まったら君の愛機をつれてここへ来なさい。それを合図に出発する」「はい」 そう言って女性兵はキャンプ地に戻り、深夜を少し回った頃、己の愛機、サーベルタイガーに乗ってその地を訪れた。「来たな。行くぞ」 中佐の号令の下、一同は行軍を開始する。 そして、夜が明けたころ、フェナン准将から緊急通信が入った。 本隊がデススティンガーに襲われているので救援を乞うとのことで、途中からその声はノイズに消えた。 そして、中佐は女性兵に、「君の雇用は終わった。ここから先は正規軍人の仕事だ。まぁ、簡単に言うと死地への突撃だ。傭兵は何処となりとへ消えるがいい」 と言った。 女性は何か言いかけたが何も言わずに愛機に乗ってその場を離れる。 だいぶ離れたところまで来た時に再び通信が入る。「私の部隊はほぼ壊滅した。私もこれより撤退するが、離脱は難しいだろう。だが、君だけには無事逃げ切って欲しい。会えるならいつか何処かで会おう。最後の命令だ。スヴァイス・デュッセル」 その通信を最後に中佐から、オールデン・ナッシュベル中佐からの連絡はノイズに沈んだ。「……中佐……」彼女のスヴァイスの眼には涙が浮かんでいた。「………」 ここは何処だろう?何故ここにいるのだろう? 意味のない質問が真っ暗とは言えない世界の中で生まれ、渦巻き、ねじれ、消えていく。 そして、一つの答えにたどり着く。 ここはゾイドイブポリスだと。「エレお姉ちゃん!」 蒼い髪をした少年が駆け寄ってくる。 エレと呼ばれた10歳を少し下回ったぐらいの少女は、駆け寄ってくるさらに年下の男の子を見据える。「なあに?リゼル」「えっとね……長老様が呼んでるの!ヒルツお兄ちゃんがなんか大変なことをしちゃったみたい」「お兄様が?」「うん……あと僕のお姉ちゃんも行方不明に……」「リーゼが?」 リゼルの姉、エレと同年代の少女であるリーゼとエレの兄であるヒルツの奇行。「リゼル、1人でお家に帰っていてね!」 そう言って彼女は走り出した。 目的地はセントラルタワー。 長老議会のある場所である。「エレです!ヒルツお兄様の件でお伺いしました!」「……入れ」「失礼します」 重苦しい雰囲気の中で彼女は部屋に入る。「待っていたぞ、ヒルツの妹、エレ」「はい……」「率直にだが、用件を言おう。お主の兄ヒルツはリーゼと2人のオーガノイドを連れてこのゾイドイブを出た。リーゼの方はわからないが、ヒルツの目的は多分、力じゃろう」「……長老様達ではなんとかならないのですか?」「……無理なのじゃよ。あのヒルツのオーガノイドは特別な星の下に生まれてきておる。対抗できるのはお主のオーガノイドぐらいの物……」「それならば、私が今すぐ兄を止めに……」「それも無理じゃ。ヒルツはすでに何処かで凍結睡眠に入ってしまった。探すのも破壊も不可能じゃ」「で……一番良い方法は、お主とリゼルにお互いに追討令を出して己の兄妹を倒してもらうと言うことなのだが……」「私は構いません。ですが、リゼルには……無理です」「一考しよう」 そう言って会議は打ち切りとなった。 その後、彼女は凍結睡眠に入り、その後を追うようにリゼルも凍結睡眠を余儀なくされた。 そして、彼女の意識は復活した。
どうも、ロストです。レジェンドブレイカーズ第一幕もまもなく終わりです。あと2〜4話ほどの予定です。暫定的なものですが。エルの親父の知り合いスヴァイス。リーゼの弟、リゼル。メーベの行動は何故。あまり期待せずにお待ちあれ(殴、蹴
物語が急展開しましたなぁっ!メーべ達が特に気にかかります。なんかものすごく嫌な予感が(何息をもつかせぬ展開になってきましたね…。次回も楽しみにしています。
「う…………」「あ、目が覚めたみたいだね」「……ここは……?ひゃっ!」 エレはぼんやりとした意識の中で目の前に転がっている物、メーベという名の男の体を突き飛ばした。「……!メーベさん!」 慌てて放り出した物がメーベだと気づき近寄るが返答はない。「酷いな。エレお姉ちゃんは」 ほんのりと光を放つ硝石が辺り一面に隆起した洞窟内の闇から、声が聞こえる。「……誰?私をお姉ちゃんなんて呼ぶ人は……」「やっぱり酷いよ。僕のこと忘れちゃうなんて」「……まさか……リゼル?でも、あなたが何故……!」「お姉ちゃんは眠ってたから知らないだろうけどさ、僕もお姉ちゃんが眠った後にその後を追わされてね」 暗闇から声が返される。「そうだったの……」「でさ、そこの爺さんから聞いたんだけど、僕の本当のお姉ちゃんはこの時代でなんかすごいことやっちゃったんだってね?」「そうよ」「お姉ちゃんの居るところ、知ってる?」「知らないわ」「ふ〜ん……じゃあ、最後に、お姉ちゃんを敵討ちの対象にしている人達が居るって本当?」「居るわ」「そう……その人ってエレお姉ちゃんの知り合い?」「なんでそんなことを聞くの?リゼル」「簡単な事だよ。僕の一生を滅茶苦茶にしてくれたお姉ちゃんに復讐するためさ」「リゼル……。残念だけど私は知らないわ」「……エレお姉ちゃん……嘘をつかないでよ」「……!」「僕がその気になれば、ラグナクトリィとこいつらを使ってお姉ちゃんの意識から直にも聞き出せるんだよ?」 彼がそう言った瞬間、ヴンと虫の羽音が一斉に聞こえ、辺りから小型のダブルソーダが無数にあらわれる。 さらに、背中に甲殻系の羽根を持った小型恐竜型ゾイド、ラグナトリィもその姿を現す。 その色は透き通るような蒼である。「さぁて……と。お姉ちゃんの言葉が本当かどうか確かめてみようか?エルって言う人が本当に僕のお姉ちゃんを狙っているのかどうかを」「……エル……エルは何処?」「ははははは……。今思い出したの?あの人なら荒野の真ん中に捨ててきたよ。助かるかどうかは運次第だね。あ、それとお姉ちゃんのオーガノイド、レヴァンティもしぶとく抵抗したから捨てて来ちゃった。ごめんね」 悪びれた様子もなくリゼルは言う。「そんな……」 エルも、レヴァンティも居ない。 唯一の協力者、メーベは倒れている。「じゃあ、覚悟はいいね?大丈夫。痛くはないから」 その声に反応して一匹の小さいダブルソーダがこちらに向かって飛んでくる。「エル……」 エレは小さく呟く。 小さいダブルソーダが首筋に止まる。「バイバイ」「エルゥゥゥゥゥウウ!」 リゼルの言葉とエレの絶叫が重なった。 そして、暗い洞窟は虫の羽音に満たされていった。 「ん……?なんだありゃ」 最初に気が付いたのはサークであった。 夕暮れ時の荒野に残るウルフの足跡から少し離れた場所に転がる、紅い塊。「……まさか……」 エルが呟く。「どしたの?エル君」「止めて下さい!多分、僕のゾイドです!」「ったく仕方ねぇな!」 加速してたサークのグスタフはしばらく地面の上をすべった後、ようやく止まった。「レヴァンティ!」 エルはコックピットから駆け下り、一直線に紅い塊、レヴァンティに駆け寄る。 レヴァンティはそれを見て弱々しいうなり声を上げる。「レヴァンティ!無事か!エレは……エレはどうした!」 レヴァンティはただウルフの足跡が向かう方向へとうなり声を上げ続ける。「あっちにエレは居るんだな?よし……。サークさん、すぐにグスタフをだして下さい!」「わーったよ。騒ぐなっちゅうに」 そう言うサークを横目にエルは紅い獅子型ゾイドの乗っているトレーラーにレヴァンティを引きずり上げる。「死ぬなよ……レヴァンティ」 そのかけ声に答えるのは弱々しい声。「お前が死んだら、エレが悲しむだろう?」 返答の唸り声がしない。「レヴァンティ?」 辺りはすでに夕闇に閉ざされつつあった。
「うっ……うう……うっうう……」 エレのむせび泣く声が聞こえる。 無理矢理心をのぞき込まれた人間は下手すれば廃人。 良くても心に多かれ少なかれ傷を負う。「ふふ……お姉ちゃんにはちょっと辛かったみたいだね。でも大丈夫。待ってた人が来たよ」「……え…?」「じゃあ、僕は行くよ。歓迎してあげないと」 そう言ってリゼルは行ってしまった。 エルのウルフを従えて。 「あそこの鍾乳洞に足跡は続いてるみたいだぜ?」「ありがとうございます。ここからは自分の足で行きます」 そう言ってエルはグスタフを降りて1人、エレの元へと向かおうとする。 無論、レヴァンティは横たわったままである。「待ちなよ」 声を掛けてきたのはスヴァイスであった。「何か、用ですか?」「そうだよ。アンタをみすみす死なせるわけにはいかない。亡きオールデン中佐に申し訳が出来なくなっちまう。そう言うわけであたしも行くよ」 そう言ってスヴァイスは自分のセイバータイガーに乗りこむ。「あ、ついでにこの獅子は好きに使いな。実戦テストも悪くないだろう」「ですが……」「気にしない気にしない」「……そうですね」 スヴァイスに感謝しながら納得するエル。「お……おい…!」「何?傷つくからやめろとか言うんでしょ?いいじゃない、盗賊に追っかけられたって言えば」「そうだな。アンタ、そいつの名前はレオブレイズだ。共和国の新型だぜ」 サークも折れた。「レヴァンティをお願いします。行こう。レオブレイズ」「おう!じゃあ、俺はここでまってるからな〜!」 サークの声に見送られて、エルとスヴァイスは鍾乳洞へと向かった。 洞窟の入り口付近にたどり着くと、エル達の前に一機の機影が立ちはだかっていた。「あれは……」 スヴァイスが口を開く。「……ウルフ……」 彼の愛機である。「やぁ、遅かったね。君がエル君かい?」 その声は唐突にエルの耳に届いた。「誰だ?」「初めまして。リゼルって言うんだ。よろしく」「エレは何処だ?」「君、率直だね」「エレは何処だ?」「ふふ……気が短いのかな?短気は損をするよ?」「エレは何処だと聞いている……!」「ははは……。お姉ちゃんならこの中だよ。大丈夫生きてる。あのメーベって男もね」「通してもらえるか?」「お断りだよ」 軽い口調のまま、リゼルが言葉を返してきた。「じゃあ、仕方ない」 そう言ってエルとスヴァイスは同時に機体を走らせる。 速度は若干スヴァイスの方が速い。「キラーサーベル!」 スヴァイスのセイバータイガーが宙を舞い、鋭い牙が一瞬前までコマンドウルフのいた場所を通り抜ける。「しまった……!」 気付いた時には正面にコマンドウルフがおり、背中に装備された火器が火を吹いた。 無論セイバータイガーも相打ち覚悟で火器を放つ。 セイバータイガーは近距離で弾丸をくらい、機能停止する。 コマンドウルフは何事もなかったかのように立っている。「スヴァイスさん!」 叫びながらもエルは攻撃を始める。 格闘センスは明らかにエルの方が高い。「仕方ないなぁ。ラグナクトリィ、来いよ!」 リゼルの声と共に、蒼い矢尻が大空へと舞い上がり、コマンドウルフに突き刺さる。 しかし、目に見えた変化はほとんどない。 違うのはカラーリングが蒼くなったと言うことだけだろうか。「虚仮威しか!くらえ!」 エルの乗ったレオブレイズから鋭い爪撃が繰り出され、コマンドウルフの肩に当たり、その装甲を打ち砕く……はずであった。 しかし、レオブレイズの爪は弾かれ。むしろ先端はひしゃげている。 そして、エルは見ていた。彼の機体の爪が振り下ろされた瞬間、コマンドウルフの装甲が蒼い光を発したのを。「ふふ……気付いたみたいだね。そう、僕のオーガノイド・ラグナクトリィの能力の一つは、ゾイドに強力なEシールドを持たせること。君の攻撃は僕には通じないよ」「くっ……!」 リゼルの声が嘲笑へとかわった。
外から激しい戦闘の音が聞こえる。 鍾乳洞の入り口まで這ってでると、外では蒼いウルフと紅い小獅子が戦っている。 動きは小獅子の方が格段に良いのだが、ウルフには強力なシールドが装備されているらしく、攻撃するたびに獅子の爪や牙がえぐれていく。「エル……リゼルには勝てないよ……。オーガノイドの力は知ってるでしょ……」 誰とでもなく、聞こえるはずがないエルに対して語りかける。「お願い……逃げて……」 ウルフの頭突きが小獅子をとらえ、吹き飛ばす。 地面に叩きつけられたところに上空から襲いかかり、胴体部に喰らい付く。「レヴァンティ……何処かで私の声が聞こえるなら……エルを助けて……!」 泣き崩れながら、エレはそう呟いた。 その時、奇跡を導く紅い天使が小獅子に舞い降りた。「レヴァンティ……」 エレの小さな声は、復活した小獅子の雄叫びによってかき消された。「くっ……、もう駄目かもな……。あのシールドを破れる武器がこの機体には無い……」 珍しくエルは弱音を吐く。「ザンクラッシャーもザンブレードも……ストライククローも……」 顔には自嘲の笑みが浮かぶ。 共和国の小隊と、帝国の中隊と、共和国の少佐と互角以上にやり合っていた自分がここまで無力だったとは。 エレとレヴァンティが居ないと何も出来ない自分がここにいた。「ははは……はは……。みんなを守るつもりで居て、結局エレやレヴァンティどころか自分のことすら守れないなんて……情けなさ過ぎ……」「まだよ、エル」 声が響いたような気がした。 静かな、優しい声が。「……エレ?」 その瞬間、彼が駆るゾイド、レオブレイズはオーガノイド・レヴァンティの力によって復活した。「ふん……。あのオーガノイド。まだ生きてたんだ。殺しとけばよかった」 ウルフのコックピットでリゼルが呟く。「まぁいいや。ここで殺しちゃえば帳尻も合うし」「誰が誰を殺すって?」 エルが答えてきた。「あれ?さっきまで弱音を吐いていたくせにオーガノイドが来たらその態度かい?本当に君はオーガノイド無しじゃあ、どうしようもないクズだね」「そうかも知れない。確かに僕はエレやレヴァンティ無しじゃあ弱いかも知れない。だけど、僕にはエレとレヴァンティという仲間がいる……!」「いつぞやの英雄気取りかい?泣かせてくれるねぇ。でも、前哨戦はここまでだ。行くよ?」 言うが早いか、リゼルはウルフを走らせてくる。「遅い!」「ぐあっ……!」 その声が聞こえた瞬間、彼の乗るウルフは、宙を舞っていた。 高速で体当たりをされたのだ。 シールドを展開する暇もないほどの速さで。「さっきよりかやるじゃないか……でも、僕も負ける気はないんだよ!」 リゼルが声を荒々しくしながら再び機体を走らせる。 正面からエルのレオブレイズが飛び掛かってくる。「ラグナトリィ!シールド展開!」 リゼルが叫ぶと同時に蒼いシールドが前面に展開される。「レヴァンティ!シールドブレイク!」 リゼルは耳と目を疑った。 エルという人間が古代ゾイド人に懐くオーガノイドに命じ、その命じられたオーガノイド・レヴァンティがそれに素直に従い、爪のを鋭く強化すると同時に、爪の周りにEシールドを展開する。 完璧なコンビネーションであった。 そして、二つのEシールドは互いの力場をゆがめながら消滅し、直後にエルのレオブレイズの強化された爪がウルフの右前足と首の右側を深く切り裂いた。 当然、ウルフは機能停止する。「ちっ……ただの人間のくせに……少しは出来るんみたいだね」 炎上するウルフの頭部のコックピットから通信が入る。「お前に言われる筋合いはない」「ふふん。いつかまた会える日を楽しみにするよ」「いつかまた会う?この場で仕留めてやるよ」 そう言ってエルはレオブレイズの左前足を振り上げ、ウルフのコックピットに振り下ろす。 それと同時に一筋の蒼い光りが天空を指し貫いた。 ご丁寧にレオブレイズの足首を貫通しながら。「逃がしたか……。……エレ!」 相手を逃がしたことを後悔しながらも、鍾乳洞の入り口でへたり込んでいるエレの元に駆け寄る。「エル……無事?」「それはこっちの台詞だよ。大丈夫?」「私は大丈夫だよ」「そっか、それならいいや。じゃあ、行こうか?」「待って、奥にメーベが居るわ」「君をさらったじゃないか」「操られていたのよ……リゼルに……」「そうか……じゃあ、連れて行こう。レヴァンティ、手伝ってくれ」 エルが言うとその声に反応するようにレヴァンティが声を出した。「すっかり仲良しになったわね」「ああ」 エルが答えた声に被って、レヴァンティも高い鳴き声をだした。
どうも、ロストです。新設のサイトがジオシティーズ内の問題で巧く開けなくなってますが、一応活動しています。さて、本題ですが・・。第1部【旅立ちに憂う夜明け】編終了です。最初と第1部タイトルが違う。とか言わないで下さい。言ったら泣きますよ(オイで、ですが、第2部【激闘に揺れる真昼】編は私のテスト及び部活が無い暇になった頃投稿し……(殴次も20話前後の構成でいこうかなぁなどと思っていますが、その続きがあるか、いきなり終わるかは私にも分かりません(帰れそれでは、またテストが終わった頃に……(蹴
マジすごいですねぇ。これは前作の「果て無き東の空の下」に勝るとも劣らないできではないでしょうか!話も筋が通ってますしなにより意表をつく展開や、ロストさんならではの迫力のある戦闘シーンが見ものですねぇ。これからの展開にも期待しております。
プロローグ 勝利の代償として 1機の紅い小獅子型ゾイドが急停止する。「ぐぅっ……」 1人の青年がコックピットの中で左腕を押さえてうずくまる。「エルっ!」 旅の仲間である彼女の叫び声が聞こえる。「大丈夫……大丈夫だから……」 青年はかすれた声を絞り出す。「でも……」 彼女の声は弱々しい。 それほどまでに青年の顔には苦痛の色が浮かんでいた。「大丈夫だよ……。行こう。早く彼奴を、蒼いオーガノイドの持ち主を追わないと……」「……うん」 彼女は泣き出しそうだったが、青年が何とか体を起こし、機体の操縦を取り戻すと、少し落ちついたようだった。「でも、無理はしないでね」「わかってるよ」 青年はそう答え、右手で左腕の付け根をさすりながら、自分の愛機であるレオブレイズを再び走り出させた。 行き先はレアヘルツの谷。 その脇ではとことこと小さなゾイドが全力でレオブレイズの後を追っていた。 夕暮れのせいか、小獅子も小型ゾイドもやけに紅く染まって見えた。
「レヴァンティ!行くぞ!」 彼の声に反応してレヴァンティとよばれた小型恐竜ゾイドの形をとるオーガノイドが咆吼し、紅い矢尻となってレオブレイズの背に突き刺さる。 すると、レオブレイズの装甲が見て取れるほどに材質までもが様変わりし、防御力をより強固な物へと変わりそれに見合った金属質なゾイド特有の筋肉が一気に膨張、発達する。 その爪はもとの長さの2倍近くまで伸びて鋭さを増し、牙もより一層貫通力の有りそうな物へと変わる。 そして、セピア色だった機体の色は真紅へと変わる。 これらは全てオーガノイド、レヴァンティとエルの乗る機体が合体した際に起きる変化の第一形態であった。「ほぅ……オーガノイドか。しかし、私には勝てぬなぁ……ひぇっひぇっひぇっ」 目の前の男、見た目ならば六十代程だろうか。 エルの機体はすでに男との距離を数百メートルにまで縮めていた。 彼の機体の足ならあと数秒である。「さぁて、出てくるがいい……。この地で不名誉なる死を受けた者どもよ。この私が、メーベ・クラウンが貴様らの悲しみを引き受ける者となってやろう」 そう言って男、メーベ・クラウンは金属質の左腕を掲げる。 ゾイドの装甲にも用いられる古代チタニウム金属製だろう。 彼はもとから義手だったのだが、このような義手を付けていたことは今まで一度もなかった。 そしてその金属の左腕に刻まれた幾何学的な紋様が怪しく、黒々とした青い光りを放つ。 それとほぼ同時に、エルは機体を大きく後方に飛ばす。 そして、飛び退る前の地面から、腹部に大穴を空けたゴジュラスと体のパーツが欠けた数匹のガイサックがわき出してくる。 メーベはゴジュラスの頭部に腰掛けている。「エレ!どうやって彼奴がああいうのを呼び出してるか分かるか?」「多分、あの金属ね。古代チタニウム金属に特殊な技法で、死にかけたゾイドに対して、強力な蘇生、つまりオーガノイドと合体して傷を治したのと同じ効果をもたらすみたい」「能力強化は?」「多分無いわ。傷が治りきる前に強化しても無駄だもの」「じゃあ、行ける!」 そう言ってレオブレイズを走らせ、先兵として駆け寄ってくるガイサックを次々と踏みつぶし、引き裂き、確実にコアを叩きつぶす。 そしてゴジュラスの目前に迫り、一気に跳躍する。 それと同時に今さっきまで居たところをゴジュラスの尻尾がかなりの速度で通り抜ける。 それを横目にエルはゴジュラスの肩口にレオブレイズを着地させ、そのまま勢いを利用して前方に回転し、ザンブレードで頭部を叩っ斬る。 普通のレオブレイズのザンブレードでは途中で刃が食い込んだまま抜けなくなると言うオチになるのだが、レヴァンティにより強化された今の機体状態では、この程度のことは朝飯前である。 そして、ゴジュラスがよろけたところに勢いよく飛び付き、押し倒し、胸部を爪で引き裂いてコアに牙を立てる。 がきっという嫌な音がしてコアが輝きを失い、石化が始まる。「あとは、あの地面で伸びてる奴をどうするかだな」 そう言ってエルはコックピットから飛び降り、倒れているメーベの方に近寄る。「あの高さから落ちて生きてるかどうか……」 そう呟いた瞬間、エルはメーベに足払いを掛けられ、2人の上下が入れ替わる。「来るな!エレ!」 そう言う体勢になって最初にエルが発したのはエレへの忠告である。 叫ばれてエレはびくんっと体を震わして動きを止める。「ひぇっひぇっ……女性に対する心構えは一人前じゃな。しかし流石に効いたよ。わしの命もそう長くない。じゃが……やらねばならぬことがある」 そう言いつつ、己の金属製の左腕をエルの左腕に押しつける。 じゅうっ、と嫌な音がして、エルの左腕に皮膚が溶かされたように裂け、鮮血が吹き出す。「…………っ!」 エルは人の言葉とは思えないほど甲高い悲鳴を上げる。 エレは硬く目をつぶり、両手を耳に当てて悲鳴が聞こえないようにしている。「あとは……待つだけじゃな……」 そう言ってメーベはどろどろと溶けてエルの左腕へと移動していく己の左腕を眺めた。 メーベの左腕の大半はほとんど溶けて消え、その腕を構成していた金属がエルの左腕にまとわりつき、硬化をはじめる。「…………………っ!」 エルが皮膚を焼かれる痛みで悲鳴を上げる。 もはや人間の悲鳴と言うよりも獣の雄叫びである。「これで……わしの役目は終わりじゃ……できれば、ホートレイと……リゼルを……止めてくれ……。……ようやく……眠れる」 悲鳴を上げながら地の上でもがくエルを横目にそう言ってメーベは事切れた。「エルっ!」 エレがエルのもとにたどり着いたのはこの直後であった。 エレは応急処置を施そうとしたが、すでに彼の腕にへばり付いた古代チタニウム金属が新しい皮膚の役割をしており、出血はしていない。 彼が怪我をしていたなどと分かる形跡は服に残る半乾きの血痕ぐらいである。 エルはエレが近くに来たことを確認すると、意識を失った。
え〜……。誰も待っていないどころか誰も覚えていないと言うのが実情ではないかとも思いつつ、たいへん長らくお待たせ致しました。レジェンドブレイカーズ第2部を今日よりはじめさせて頂きます。第1話から派手に行きましたが、第2部は度を超えた派手な戦闘シーンをふんだんに駆使していきたいと思います。もちろん私の作成能力を上回る文は書けませんが……。と言うわけで色々制約が付きそうですが、できる限りお楽しみください。
エル達は2年ぶりにレアヘルツの谷へとやってきた。 2年前とは違い、エルとエレとレヴァンティの2人と1匹で、レオブレイズに乗って。 この2年間は特に大きな騒動にも巻き込まれず、機体強奪犯の罪状もレイ達が共和国側に付いたこととエルがすでにその機体に乗っていないために無用と化した。 なにしろ、手配書には6人組でコマンドウルフが2機、ゴドスが1機、プテラスが1機、ガイサックが2機とは書かれているが、肝心の犯人像が載っていないのだから。 小さい出来事をいくつか述べると、まず今エルが乗っている機体レオブレイズは結局リゼルとの戦いの後、スヴァイスとサークがすけべ爺さんとよばれる共和国の旧科学者に頼んでエルに譲渡されることになった。 そして、その基地でのテストでその科学者の手伝いをしているという金髪の古代ゾイド人の女性と出会い、エレとその女性が話をしている間にエルはデススティンガーとデスザウラーを倒した英雄、ガーディアンフォース所属共和国軍少佐、帝国軍大佐の青年に出会い、相手のことも知らずにオーガノイドについて話をした。 相手の連れていた白銀のオーガノイドは最初は警戒していたが、すぐにレヴァンティとうち解けていた。 エルとしてはもう少し話をしていたかっただろうが、近くにてゾイドの暴走事件が発生したために彼はガーディアンフォースとして出向いてしまった。 そしてその後はしばらくスヴァイスとサークとメーベと共に旅をしていたが1年半前にスヴァイスが厄介な事件に巻き込まれてサークと共にいきなり姿を消してしまった。 多分、エル達を巻き込みたくなかったのだろう。 そして半年前、2,3日何処かへ行っていたメーベが戻って来るなりエルに襲いかかってきた。 まるで別人のように。 それが昨日、腕の痛みで思い出してしまった嫌な夢である。「エル?早く行こうよ。この先で……リゼルが待ってるんだから」「ん……ああ、行こう」 エルはエレに促されてレオブレイズをゾイドイブポリスの廃墟へと進めていく。 そして、旧ゾイドイブポリスの中心地、セントラルタワーの前で歩を止める。「ここ……だよな?」「リゼルが指定した場所はここよ」「そうか……」「でも……いないわね」「いや……」 直感的に相手が居ると答えようとするエル。「僕ならここにいるよ?エレお姉ちゃん」 そしてその場に、廃墟には似合わない明るい声が聞こえた。「リゼル!!?」 エレが慌てて声の方向に目を向けるとそこにはラグナトリィに乗って宙に浮かぶリゼルが居た。「そうだよ?久しぶりだね。2年ぶりかな?」「そうだろうな」 身も蓋もなくエルが返す。「2年前も言わなかったっけ?気が短いと損するって」「用件はなんだ?こんなところまで呼び出しておいて」「ふふっ、まぁいいさ。一応ホートレイの借りは返しておこうと思ってね」「ホートレイ?誰のことよリゼル」 エレが疑問符を浮かべる。「ホートレイ・クラウン、帝国第一級犯罪者の男だったと思う。一度灰色の剣獅子に乗った少佐が言ったのを聞いたことがある」「あの死んだゾイド使いの?」「そうだよ」 エルはなにやら考えているような目をしながらエレの質問に答えていた。「気付かなかったみたいだね。そういえば、お姉ちゃんは僕が何処で眠っていたか知ってるっけ?」「誰もお前の身の上話は聞いてない」 割って入ったリゼルのからかうような口調にピシャリと一言あびせる。「関係あることなんだよ。僕とラグナトリィはね、エレお姉ちゃんと同じ洞窟で眠っていたんだよ。」 しかし、リゼルは全く臆した様子もなく、むしろ自分のペースで話し続ける。「……!」「でね、ここからが笑えるんだけども、僕とお姉ちゃんを見つけたのはメーベだけじゃないのさ。もう1人、ホートレイって奴が居てね。その2人が僕たちをそれぞれ別方向に連れて行ったんだよ。共和国領と帝国領とね」「一つ聞くわ、私達は確かにいろんな人たちと戦ったけど、ホートレイの操るゾイドの群れとしか……まさか!」「その通りだよ、お姉ちゃん。お姉ちゃん達がメーベだと思って殺したのはホートレイって男さ」「そんな……でも、あの人はどう見てもメーベだったわ」「ふふっ、お姉ちゃんって本当に夢がないねぇ。一卵性双生児って知ってる?顔も身長も声もすっごくそっくりなんだよ?生まれた時から左腕が無いこともね」「じゃあ……メーベは……」「生きてるよ。今は別任務にあたってるよ?おっと、おしゃべりしすぎたよ。そろそろ本番と行こうかな?ラグナトリィィイイイィィィイイ!」 リゼルが叫ぶと、彼とラグナトリィは蒼い光りの矢となって大空に舞い上がり、セントラルタワーの向こう側に突き刺さる。 途端に向こう側でゾイドの雄叫びが聞こえる。「こっちも戦闘準備だ!行くよ、レヴァンティ!」 エルの声に答えてレヴァンティがレオブレイズに合体し、咆吼を上げた。
小龍型だがウネンラギアよりも格闘戦向きに作られたブロックスゾイドで、飛行形態にも変形できるという戦闘能力、運用性にすぐれたゾイド、エヴォフライヤーである。「ふふっ、この前共和国基地から奪ったこいつの真の実力を見せてやるよ」 リゼルが言うと同時に、エヴォフライヤーの頭部に付いていた鶏冠とも言える部分がレーザーチャージングブレードに変化し、爪も鋭さ、長さを増す。 背中に背負った2門のアサルトライフルは格闘戦向きのレーザーシザースとラウンドシールドを装着した物へと変化し、それに伴い脚部筋肉が強化される。 尻尾にもあるはずのないテイルスナイパーライフルが装備されている。 そして色はラグナトリィと同じ透き通るような蒼である。「2年前は不覚をとったけど、こいつなら君には負けないね」「減らず口は勝った後に言え!」 エルはそう言いながらレオブレイズを全力で走らせ、一気に距離を詰める。 その間にリゼルはEシールドを展開する。 レーザーチャージングブレードを基点にレーザーシザースの4本の爪を大きく開き、その間の空間にEシールドを張った。「シールドブレイク!」 そして、飛び上がりざまにレヴァンティの第2の能力で爪と牙にEシールドを付加する。 真っ正面からではあるが、Eシールドを破る自信があってこその一撃である。 しかし、はじき飛ばされたのはエルのレオブレイズであった。「ふふっ、ふふふっ、ふはははははっ!甘いんだよ、同じ技が、2年前とてんでかわらないその技で破れると思ったのかい?とんだお笑いぐさだね」「くっ……」 地面に叩きつけられながらも何とか体制を立て直し、エルは再び距離を詰める。「無駄だって言うのに分からないのかな?」 そう言ってリゼルはシールドを展開したまま、エルの方に機体を走らせる。 正面衝突コースである。 当然避けることもできず、再びレオブレイズは弾き飛ばされる。 今度はまともにぶつかったために、頭部が一部変形している。「く……どうすれば……」「エル、落ちついて……」「ああ……そうだな……」 エレに言われ少しの頭にのぼりかけていた血がすーっと引いていく。「さぁて、この後どうするのかな?まさかチェックメイトなんてことはないよね?」 リゼルの嘲笑が聞こえる。 今は遠巻きにわざとはずれる位置にアサルトライフルを撃っているが飽きたら多分殺しに来るだろう。「やりたい放題だな……」「そうね……」 2人が呟いた時、一筋の閃光がレオブレイズのすぐ横を切り裂いた。 それは大地までもを引き裂いていた。「なっ……!」「ふふっ、驚いたかな?これがラグナトリィの第3の能力、ラグナロクソードだよ。シールドの発生を前方に集中させて、光りの屈折具合でこういう風に何でも斬れちゃうんだ。例えオーガノイドで強化したEシールドでもね」 リゼルはそう言って再び笑う。「エレ、これから少し賭に出たい。手伝ってくれないか?」 その笑い声をバックミュージックにエルが言う。「……それしか勝ち目はなさそうね……いいわ」「それじゃあ、エレ、レヴァンティ、僕の左腕に意識を同調させてくれ」「うん……」 エルが言うと、エレはうなずき、レオブレイズが咆える。「今度は何をする気かな?」「なんだろうな」「まぁいいや、そろそろ飽きたし。バイバイ」 リゼルは遊びあきたおもちゃに向けるような視線を送ると、こちらに向かってラグナロクソードを発動する準備に入っている。 それと同時にエルの左腕が痛みを引き起こし、エレの表情に苦悶の色が浮かぶ。「エレ、大丈夫か?」「大丈夫……それより、痛いけど良い?」「わかった、やってくれ」「……うん。レヴァンティィイイィィィイイイ!」 エレの叫び声と共に再び強い痛みがエルの左腕に走る。 そして、それと同時に暗い青い光りが左腕の紋様から発せられる。「せ……成功か?」 エルが激痛を我慢しながら呟いた瞬間、「■ぇぇぇえええぇぇ!」 リゼルがラグナロクソードを解き放つ。 レーザーチャージングブレードの先端に集まったEシールドエネルギーが、一筋の集束した烈光の剣となって振り下ろされる。 しかし、その烈光の剣が振り下ろされる前に、横薙ぎの一撃がリゼルのエヴォフライヤーを捕らえ、セントラルタワーにぶつかるまでノーバウンドで吹き飛ばされる。「なっ……なんだこれは……」 リゼルの表情は驚愕を示していた。何故なら彼の前に立ちはだかるゾイドはこの場で英雄に倒されたデスザウラーであった。「まさか……その左腕は……ホートレイの……!」「その通り」 苦悶の表情を浮かべながら、エルが言い放った。
リゼルは蛇に睨まれた蛙のようになっていた。目の前にいるデスザウラーの異形な姿に。 右腕が無く、腹には大きな穴が空いて、剥き出しのコアも一部が欠損している。 そのようなぼろぼろの姿でありながらも、リゼルの操るエヴォフライヤーにゆっくりと向かいながら、荷電粒子砲をチャージしてくる。「はは……旧大戦の魔物ごときに負けないよ!」 そう言って笑いながらレーザーチャージングブレードの先にチャージしたラグナロクソードを解放し、デスザウラーのコアを貫く。「甘いよ……」 リゼルが言うと同時にデスザウラーは機能停止し、たまっていた分の荷電粒子が爆発する。「ここからが本番だ!」 その直後にエルが左腕の力を解放する。鮮血が左腕よりほとばしる。 そして、今度は頭部が破損して砲塔が剥き出しになったジェノザウラーが3機、リゼルの周囲に姿を現す。 さすがのリゼルも3機の連続攻撃の前に追いたてられるが、相手の尻尾の攻撃を姿勢を低くしてかわし、その後繰り出したラグナロクソードで1機を葬るとそのまま2機目を鋭い爪で引き裂く。 真横から荷電粒子砲が放たれるが、レーザーシザースの盾の部位で防ぎ、次の瞬間、その鋏で首を引きちぎる。「残骸使いをやっていても僕には勝てないよ?」 ほんの少し疲れたという感じでリゼルが言う。 エルは何も言わずに機体を走らせる。「その攻撃は無駄だよ」 そう言ってリゼルはEシールドを展開しようとしたが、度重なる戦闘で爪に疲労がたまり、4本のうち2本が半ばから折れ、シールドが発生しない。「しまっ……」 そこまで言った時には、エルのレオブレイズが正面に迫り、爪を振り下ろしていた。 派手な音を立てて、リゼルのエヴォフライヤーは吹き飛ばされる。「やったのか……?」 エルが呟く。「……!かわして……!」「なっ……!」 エレが叫んだ瞬間、咄嗟に機体を横へ跳ばすが間に合わず、閃光によって右前足の駆動用ケーブルを切り裂かれる。「くそっ……まだ動けるのか……?」「はは……ははは……まったく本当に強いんだから……。今回は引き分けと言うことで引かせてもらうよ。また今度、機会があったら、確実に殺してあげるよ……ルキアナ!」 リゼルが渇いた笑いと共に台詞を言い終えると同時に、空から3つの影が舞い降り、その内の1機がリゼルのエヴォフライヤーを足で掴み、残りの2機が煙幕を張って逃亡する。 3機の飛行ゾイドはあっという間に飛び去り、正確な姿を捕らえられることもなく、その姿を見えなくする。「……今のは……?」「煙幕を張った2機はストームソーダーね。かなり改造がくわえられていて原型を判断するのが難しかったけど……。でも真ん中の1機はわからないわ」「わからない……?」「ええ、機種登録もされていないし、ドクターDからもらった研究ファイルにも載っていないわ」 ドクターDとはスヴァイスとサークの知り合いで共和国の研究所長のすけべ爺さんである。「あの人からもらったファイルにも載ってないってことは、新型かかなりの旧式か、もしくは……」「リゼルの力で作り出された化け物か……か」「そうなるわね」 半ば自嘲的に呟くエルにその可能性もあるという意味でエレが言う。「……さてと、とりあえず僕たちにも分かったことがある。メーベが生きていると言うこと。リゼルには複数の部下がいる、またはリゼルの上で動く連中がいる。そして、リゼルはオーガノイドの3つ目の能力を引き出している」「そうね……」「エレ、一つ聞きたいんだが……」「何?エル」「オーガノイドの能力は機体強化に始まって一体何個の能力を持つんだ?」「普通のオーガノイドなら、肉体強化ともう1つってわけなんだけど、レヴァンティやラグナトリィ、兄のアンビエント、リーゼのスペキュラー、他に7長老の所有していたオーガノイドの中の白、黒、緑、黄、灰色はそれぞれ4つの能力が眠っているはずよ。ちなみにこの世界ではすでに白のオーガノイドと黒のオーガノイドがジークとシャドーという名で蘇っているわね」「じゃあ……能力を引き出すには?」「実戦経験を積むのが一番なんでしょうけど、オーガノイドや対になっている古代ゾイド人やパートナーの危機的状況で発動する場合もあるわ」「つまり……?」「リゼルが差し向けてくると思う刺客や目的達成上での敵を倒しているうちに目覚めていくはずよ」「なるほど……じゃあ、他のオーガノイドを見つけるにはどうすれば?」「私には見つけられないわ。もちろんレヴァンティやリゼルにも。近くに行けば分かるかも知れないけど、現実的じゃないわね」「わかった。……とりあえずレオブレイズを直してくるよ。このままだとレヴァンティがゾイドが大破するって言う危機的状況に慣れちゃうからな」「それもそうね。じゃあ、私は神経ケーブルの修正と余分なパーツを探してみるわ」 そう言って2人は小さく笑いそれぞれの仕事に移った。
エルとエレがリゼルと接触する数週間前、アトラス大佐はミレニア中尉とその他新参の部下2名を率いてドラゴンヘッド要塞の近くで研究施設として使われていた旧レッドリバー基地へ足を運んでいた。「こりゃ酷いな……一体何があったんだ?」 漆黒の闇を纏ったかのようなアロザウラーのパイロットで新参の部下の一人が呟く。 よれた茶髪に茶色の瞳。 顔にはそばかすのできていた跡がある。 声質からしてまだ20代にもなっていないだろう。 しかし、その右胸に付いた階級章が示す地位は少尉。「まったくね……。襲撃されたって言うより、まるで内側から何かが暴れ出したみたい」 もう1人の部下で、白銀のケーニッヒウルフを駆る栗色の髪をショートカットにした女性兵士が答えるように言う。 彼女の胸にも少尉の階級章が付いている。「相変わらず大した観察眼だな、二人とも」 アトラスが口を開いて褒めると、「あんたに世辞を言われたくて言ってんじゃねぇーよ!」 茶髪の青年はまるで悪友にでも答えるかのように言い、「お褒め頂きありがとうございます。大佐」 女性士官の方は他人行儀にそう言う。「……その反骨精神も相変わらずだ」「そのようですね、大佐」 ここ2年間で数々の族退治の武功を挙げ、ガーディアンフォースと協力して数多の汚職を行った軍上層部を粛正し、今やドラゴンヘッド要塞共和国軍側司令官、ドラゴンヘッド連合国軍副司令官となった、やり手の大佐と恐れられるアトラスが呆れて言うと、ミレニアがそれに続く。「さて、と。昨日送られてきた救援信号の発生源を調べるぞ」 しかし、破壊された建物の近くに来ると、流石に真面目な表情となりそう言う。「はい」 3人が答える。 「まず、私が先行する。その次に君たち二人が続き、しんがりはミレニア中尉に頼む」「了解」「あいよ」「はい」 3人は思い思いの答えを返すとその陣形を取り、ゆっくりと歩みを進める。 基地まで後数百メートルと言う時に異変が起きた。 辺りの岩壁がいきなり消滅し、数十機の共和国最新鋭ゾイド、すなわちブロックスゾイドが躍り出てくる。 そして、基地真っ正面からは、ゴジュラスキャノンmk-2が2機、ゆっくりとせり上がってきている。「ほぅ……ずいぶんと派手な歓迎だな」 アトラスは人ごとのように呟く。「た、大佐……!」 流石のミレニア中尉もこの状況は予期できなかったらしい。「うろたえるな、この研究所で開発されていた超光学迷彩だ。研究所が落ちたのなら相手が保有していてもおかしくはない。」 そんなミレニアをアトラスが激昂する。「は、はいっ!」 ミレニアが慌てて言う。「大佐、そんなにカリカリしてると早死にするぜぇ?」 茶髪の青年が言う。「その通りです。貴方に死なれると私達がこちらに付いた理由が無くなります」 栗色の女性兵士も言う。「ああ、そうだな」「じゃあ、大佐にはメインディッシュのゴジュをお任せしよーぜ!行くぞシェリア!」「良いわよ?レイ!」 そう言って2人新参の兵士、レイとシェリアは自機を敵ゾイドの群れに躍りこませる。「大佐、私はどうすれば?」「レイ君とシェリア君の援護を頼む……こんなことならもう少し多くの兵を連れてくればよかったな……」 最近ドラゴンヘッド要塞付近で不可解な事件が連続して勃発していたせいで、現在要塞は人手不足なのである。 もっとも人手不足でなければ彼のような副司令官が前線に立つと言うことはほぼあり得ない。「了解です」 そう言って走り出す彼女のコマンドウルフATを尻目に、迫りつつあるゴジュラスキャノンに目をやる。 こちらの方が新型機とは言え、旧大戦ではわずかながらもデスザウラーやデススティンガーの装甲にわずかながらもダメージを与えたロングレンジバスターキャノンを装備している機体が2機も相手では分が良いとは言えない。「だが、負けるわけにはいかんよ」 そう言葉にすると不思議と負ける気がしなくなる。 研究所方面では3機のゾイドがすでに数機のブロックスゾイドを血祭りに上げている。 それを横目にアトラスはおのれの愛機である灰色の剣獅子、ブレードライガーASのブースターをフルパワーで使用し最高速度まで一気に加速して1機目のゴジュラスキャノンの右脚を切り裂く。「格闘戦なら有利だな」 呟きながら目の前に迫るほぼ垂直の壁を足場に反転し、右脚をもがれて倒れかけているゴジュラスキャノンの頭部をあごの部分から真っ二つに斬り飛ばした。「パイロットは無し……か。まぁ、それもいいだろう」 そう言ってアトラスはもう1機のゴジュラスキャノンへと突っ込んでいった。
やはりロストさんの小説は読み応え抜群ですな。リゼルを助けた謎の者たち。アトラス達が出向いた旧レッドリバー基地に現れた謎のゾイドたち。誰が差し向けたのか…。新たな敵の予感です。激しい展開で先が予想できません〜w
先ほどの戦闘から約十分後、アトラスとレイは基地の中へと侵入していた。 さすがに基地の中にまでゾイドで乗り入れるわけにはいかないので、ミレニアとシェリアをコックピット内で待機させ、たった二人で侵入してきたのだ。 武装は8連装弾倉式の拳銃をそれぞれ2丁ずつとアトラスはプラスチック爆弾、レイは散甲手榴弾と格闘戦用の大振りのナイフを1本をそれぞれ所持している。 正直もう少しマシな武装が欲しいところだが立て続けに起こる怪事件のせいでそれすらままならなかった。「なぁ、大佐。聞きたいことがあるんだが……」 研究所に入って少ししたところでレイが口を開いた。「なにかね?」 この研究所の地図を表示した小型のノートパソコンをいじりながらアトラスが答える。「この研究所に侵入するのがなんで俺とあんたなんだ?普通は一番階級の高い奴が外に残って俺とシェリアかミレニア中尉が侵入するべきじゃないか?」「なんだ、そんなことか。理由は簡単だが……わからないか?」「普通に考えたらわからねぇぜ?」「ふっ、君のような少し荒れ気味の男性兵士とミレニア君やシェリア君と一緒に行動させたら、君が何をしでかすかわかったものではないからな」「なっ……てめぇ!人のことをどっかの色狂い大佐と一緒にするんじゃねぇ!」「だが、君がシェリア君に特別な感情を抱いているという情報を手に入れてな」 暴言を吐かれてなおアトラスは平然と言葉を続ける。「お……おい……だ、誰がそんなことを……?」「君のことをよく知っている人物からだよ。もうすぐ実戦に参加できるころじゃないかな?」 レイの頭の中で昔なじみの兄妹を思い出す。「ど、どうやって聴き出した?」「もちろん、小切手で」 アトラスの答えを聞いた瞬間、レイは転びそうになるのを必死にこらえなければならなかった。「あの2人……今度会ったらぶっ殺すっ!」「そんなにいきり立たないことだな。戦場では冷静さを失った者から死んでいくぞ?」「だいたい、あんたもそんなこと聞いてどうすんだよ!」「まぁ、あれだな。君のような荒れている兵士を抑えるために弱みを握ると言うやつだな」「この場で射殺してやろうか?」「……君にはそれはできない。私が死ぬと君の父上の志が永遠に消えてしまうからな」「……っけ!汚いやつだぜほんとに」「何とでも言いたまえ。っと……この次の角を右に曲がったところが例の区画だな」 レイを左手で静止させながらノートパソコンをたたんでその場におき、右手で拳銃を引き抜く。「あいよ……」 レイは力なく答えながらも両腕で2丁の拳銃を引き抜き、いつでも撃てる体勢で扉の横で配置に付く。「カウント3で行くぞ?」「りょーかい」「3、2、1……」「動くな!」 最後のカウントを待つことなど当然なく、レイはドアを開き中に飛び込んで拳銃を前方に向ける。 その直後にアトラスがレイの後ろに立つ。 しかし、部屋の中には武装した集団も、怪しい連中も、ましてやリーゼ一派などもいなかった。 居たのはただ一人、ぼろぼろの服をまとった50代後半の老人。 一見するとホームレスか何かかとも思えるのだが……。「メーべ爺さん!」「ホートレイ・クラウン!」 レイとアトラスが同時にかけた老人の呼び名は全く異なっていた。「ひぇっひぇっひぇっ……相変わらず短気で早とちりじゃのぉお主は。わしはレアヘルツの谷でお主らを襲ったホートレイじゃというのに……」「貴様がホートレイか?帝国第一級犯罪者としてこの場で逮捕する。抵抗する場合は射殺する」「ほぉ……威勢だけは十分じゃな、アトラス大佐殿。しかし、状況をもう少し把握したまえ」 ホートレイと名乗る老人がそう言った瞬間、彼の後ろにあったディスプレイに映像が映った。 それはこの基地の外側の様子で、ミレニアとシェリアが透き通るような蒼色をした小型のジェノブレイカーにも似たゾイドと戦っている。 戦闘は2対1にもかかわらずミレニア達の方が押されている。「早く助けに行かないと手遅れになるぞ?」「くっ……レイ少尉、先に戻って彼女たちの援護、救出を頼む。私もこいつを捕縛したらすぐに行く!」「了解」 そう言ってレイは一気に来た道を逆走していく。「さて、これで戦況は五分、いやこちらが有利になるだろう。大人しく捕まって頂こうかな?ご老体」「ひぇっひぇっひぇっ……わしも簡単に捕まるわけにはいかんのじゃよ。ここは任せるぞルキアナ。わしはこのオーガノイド・ジークとシャドーの研究データで作らなければいけない物があるでな」「承知しました」 ホートレイが言った瞬間、どこからともなくそのような返答が聞こえ、いきなりアトラスの目の前、ホートレイとの間に1人の黒装束の兵士が両腕に鉄爪を付けて立っていた。
「こいつ……強い……!」 シェリアは愛機であるケーニッヒウルフを後ろに跳躍させながらぽつりと言った。 いきなり出現した所属不明のエヴォフライヤーに彼女が警告を発すると同時に、これまたいきなり蒼い光がエヴォフライヤーに突き刺さり、その姿を小型のジェノブレイカーとも言えるような姿に変えていた。 ただし、その色は光と同じ透き通るような蒼。 そして、唐突に撃たれた。 砲塔の動きに反応できたと言う幸運と、その後にミレニアが放った正確無比な射撃が蒼いゾイドにシールドを張らせるところまで追い込んだという幸運。 この2つが重ならなければシェリアは確実にこの蒼いゾイドの餌食となっていただろう。「ミレニア中尉!援護射撃をお願いします!」 シェリアはそう叫ぶと、蒼いゾイドとの距離を詰めようと走り出す。 蒼いゾイドはシェリアが近付けば近付くほど後退し、距離を詰めさせない。 途中、後ろを取られないように壁の近くに移動したミレニアの射撃が蒼いゾイドにシールドを展開させることもあるが、移動しながらでもシールドを張ることは可能であるらしく、足止めにはならない。 そして、シェリアの突進とミレニアの射撃の一瞬の隙をついて、蒼いゾイドが背に装備していたアサルトライフルが火を吹く。 ミレニアは機体を飛び退らせて回避したが、蒼いゾイドの狙いはミレニアのウルフ自体ではなかった。 蒼いゾイドの狙いは彼女のゾイドの後ろの切り立った崖。 アサルトライフルの弾はその大きすぎる的を狙い違わず直撃し、岩雪崩を引き越す。 当然、崖の近くで宙を舞っていたミレニア機は着地と同時に岩雪崩に巻き込まれて動きを封じられる。「中尉!」 シェリアが叫ぶが返答は来ない。「くっ……二人が帰ってくるまでは足止めしないと……」 そう思いつつも距離を取ったら撃たれるだけなので猪突猛進を繰り返すしかない。 飛び掛かり、前足の爪で襲いかかり、牙を振りかざす。 そう言った攻撃を織り交ぜた連係攻撃もこのゾイドには効かない。 こちらの渾身の一撃をひらりと避け、かわし、受け止める。 その後に、あざ笑うかのように彼女の機体の装甲を薄く剥ぎ取っていく。 そうしているうちにシェリアは自分が追い込まれていることに気付いた。 相手ゾイドは立ち止まっている。 砲塔は少しずつこちらへと向いてくる。 しかし、先ほどまでのように飛び掛かるわけにはいかない。 何故なら、相手の機体のすぐ後ろには谷が待っている。 この崖の一番下ではレッドリバーが流れているのだろう。 落ちたら、ゾイドに乗っていようがいまいが関係ない。 彼女の先に待つものは相手、谷、そして死である。「仕留める……!」 先ほどまでの相手の回避性能を見れば当たる可能性など万に一つあるかないかである。 だが、やるしかない。さもなければ犬死にである シェリアはそのような意気込みと共に、飛び掛かることのできる距離へとケーニッヒを走らせる。 相手がアサルトライフルを容赦なく撃ってくる。 前足や腹部、頭部の装甲がバラバラと砕けていくが気にしてはいられない。 そして、飛び掛かれる距離まで来た。 爪を振り上げ牙を剥き出しにして跳び上がる。 相手はその場を動かず、砲撃もせずにこちらを見上げている。 牙が届く、そう思った瞬間にシェリアの機体は小型ゾイドの後方、すなわち谷へ投げ飛ばされていた。 小型ゾイドがしたことは単純であった。 自機の頭を低くし、背中の盾に仕込んであったレーザーシザースでケーニッヒの肩口の関節を挟みあげ、あとは勢いのまま後ろに放り出したのである。 格闘術では基本的な動作であった。 シェリアは宙を舞うというのを今更ながらも体験していた。 不思議とこの後待ち受ける死への恐怖は出てこない。 機体は少しずつ落下していく光景がやけにゆっくりと感じられる。 その時、「シェリア!」 レッドリバー旧基地研究所の方から彼女を呼ぶ声がした。 さらにその方向から二本のケーブルにつながったアームが勢いよく飛んでくる。 そしてそのアームは力強くシェリアのケーニッヒを掴む。 落下の速度が一瞬止まり緩やかに動き出し、衝撃と共に今度こそ止まる。「レイ?」 そのアームは特別に改造されたアロザウラーの電磁ハンドであった。「危なかったぜ……このゴジュの残骸に足がかからなかったら俺もお前もあの世行きだ」 軽々しくレイは言う。「ちょ……なんでそう言う命がけのことをするのよ?」「決まってんだろ?惚れた女のためさ!」「……ま、それはおいといて感謝するわ」「おう!今引き上げるからな!」 ケーニッヒの引き上げ作業は非常に早かった。 蒼いゾイドがいきなりの展開でロスタイムが生じた事を差し引いてもそいつが攻撃を始める前に引き上げたのだから奇跡に近い。「さてと、助かったことだし反撃といこうかしら?」シェリアは微笑んだ。
アトラスは手にしていた拳銃をルキアナと呼ばれていた女の頭部へと向けて三発立て続けに放つ。 ルキアナは両手に付けた鉄爪で銃弾を弾くと走り寄ってくる。「させるかっ!」 直接上半身を狙っても効果がないことを悟ったアトラスは足下を狙って二発打ち込む。 流石に足下まではカバーしきれずに、ルキアナは後方へと飛んでかわす。 そして、着地と同時にアトラスの放った総計六発目の弾丸を弾き再び走り寄る。 迫ってくるルキアナの足下に再び一発撃ち込み相手を退かせると、「これだから生身の白兵戦は嫌いなんだ」 アトラスは自分の境遇に文句を言いつつ、後ろにあった鉄製のテーブルの奥へと身を翻す。 足音が迫り、大きい踏み込みの音が響き、自分の上に両腕を羽のように左右に開いたルキアナが現れる。 アトラスはそれと同時に倒れていたテーブルを引き起こす。 それと同時にテーブルの上部が爆発を起こす。潜り込んだテーブルの頭の上がはじけ飛んだが、破片にはそれほど殺傷能力が無く、怪我はしない。 乾いた爆発音が廃墟となった基地の中に響き、大音響の余韻を残すが次第に音は消える。「やったのか……?」 アトラスは大穴のあいたテーブルの下から這いだし、ぽつりと呟いた。 外の戦いも決着が付きつつあった。「はっ!」 シェリアのケーニッヒが前足を振り上げ爪を振り下ろす。 蒼いゾイドは横へと回避しようとするが、レイの投擲型電磁ハンドがそれを許さず、蒼いゾイドに爪が直撃する。 一瞬、Eシールドのようなものが発生したようにも見えたが、回避できる攻撃と相手は読んでいたらしく、発生させるのが遅れたようだ。 勢いよく叩きつけられたケーニッヒの爪は蒼いゾイドの頭部を変型させ、首から下が一瞬宙を浮くほどの威力であった。 当然、蒼いゾイドの背中に付いていたコックピットは衝撃に耐えられずにハッチが開き、パイロットがたたき出される。「よっしゃー!ナイスだぜ、シェリア!」 シェリアのコックピット内部のモニターに笑顔のレイの顔が映り、大音響で声が響く。 だが、シェリアの視線はレイではなく、コックピットからたたき出されたパイロットへとそそがれていた。「ん……?シェリアどうしたんだ?」「レイ、こいつ……」「なっ……」 レイとシェリアが倒したゾイドのパイロットの髪の色は透き通るような蒼であった。「まさか……リーゼか?」「わからない……染めてるだけかも知れないし……」「とりあえず、捕まえておくか」「それがいいわね」 レイが言うと、シェリアが賛成する。 それを聞いてレイは対人捕獲用のネットを放出する。 ネットは狙い違わず倒れ込んだ蒼髪の人間を包み込み、レイが回収ポットで回収する。「よし、大佐に報告して基地へ帰還だ」「そうなるわね……。ところでこの人がリーゼだったらどうするの?」「決まってるだろ?例え軍に刃向かってでも殺す。敵討ちは俺達がするんだ」「……そうね」 短い会話がすんで、レイとシェリアが基地の方向へと歩み始めた時、後方から蒼い閃光が放たれ、レイのアロザウラーのコアを一撃で刺し貫いた。 次の瞬間にはシェリアのケーニッヒも後ろ足を切り裂かれて立ち上がれなくなる。「一体……なんだ……?」「レイ……!あの機体よ!」 レイが後方をのぞき見ると首から先が異様な形に変型した蒼いゾイドがこちらに頭部の角を向けている。「まさか……あいつが?」「そうとしか考えられないわ……って、何か来るわよ!」「何かって言われても俺のアロはもうダメっぽいぜ?」「あたしのケーニッヒも同じよ!」 シェリアが言うのとほぼ同時に蒼い光がアロザウラーの腕を貫き、手にしていた人間を連れて行く。「あれは……!」 シェリアが呆然として言う。「スペキュラー……?」 彼らの目の前で自分の相棒を抱えて浮かんでいるゾイドはかつてリーゼが使っていたとされるスペキュラーの資料に酷似していた。「ははは……ずいぶんとまぁ、楽しませてくれたね。おかげでラグナトリィの第三能力が覚醒したよ。ありがと」 蒼い髪の人間がオーガノイドの腕の中で笑いながら、こちらに聞こえるように言う。 声は中性的で、男とも女とも判断しにくく、頭に直接届いているかのようだ。「本当は殺してあげたいところなんだけどさ、今日はもう疲れたよ。また今度、何処かで会おうね。ルキアナ、離脱する」「了解」 蒼髪の人間が言うと、旧基地研究所の屋根が破れて、見たこともない竜のような姿をしたゾイドが現れ、蒼いオーガノイドと機体を掴み、大空へと消えていく。「今のは……?」「さぁ……」シェリアもレイも、声には震えが入り交じっていた。
「無事か?」 屋根の破れた研究所から男が出てきてからの第一声はそれであった。「ああ。何とか全員生きてるぜ、大佐」 レイがアトラスに対して軽口で言う。「ええ、今、大佐を呼びに行こうかと思ったところです。私達の機体は大破してますから」 シェリアがかなり問題なことをさらっと言ってのける。「私を、か?」 いぶかしげな顔をしてアトラスが聞き返す。「そーだよ。ミレニア中尉のウルフが岩の下敷きになっちまったからな」「なっ……中尉は無事か?」「だいじょーぶだって気は失ってるけど出血もないしただの気絶」「そうか、なら私のライガーでさっさと堀だすとしよう。掘り出したら帰還だ」「りょーかいっす」「はーい」 アトラスの号令のもと、3人はミレニア中尉のウルフを掘り出し、大破したアロザウラーはその場に放置して、ドラゴンヘッド要塞へと帰還した。「新任務……でありますか?」「そうだ」 アトラスが聞き返した相手はこの要塞の総司令官ムヘクト・ビュラン大将であった。 今居る場所はドラゴンヘッド要塞、総司令官室。「しかし、我々は立った今帰還したばかりであり、機体の方も手痛くやられておるのですが」「その点なら問題ない。昨日、君の部下のロック少尉とオルディア准尉が帰還している。彼らのガンスナイパーウィーゼルユニットとレイノス・ヴォルケイノは非常に戦力になる」「ですが、ミレニア中尉とレイ少尉の機体が……」「そちらの方も問題ない。ミレニア中尉にはシャドーフォックスがある。レイ少尉には実験機に乗ってもらう」「実験機……ですか?」 アトラスの表情が曇る。「そうだ。最終調整が終わったので本日付でこの基地に7機配属されたライガーゼロだ。これでもまだ不服があるかね?」「いえ、ありません」「そうか。出発は明日○九○○時にノーデンス遺跡方面だ」「ノーデンス遺跡……ターゲットは?」「失踪中だった黒烏と蒼い悪魔が見つかった」「了解しました」「成功したあかつきには君もいよいよ上級将校の仲間入りかも知れんな。最年少記録を十歳は更新するぞ」「ははは……」 アトラスの乾いた笑い声が司令官室にこだました。 「大佐、お久しぶりです」 基地内の酒場の方から歩いてきたオルディア准尉が話しかけてくる。「久しいな。ロックはどうした?」「ロック少尉は今頃酒場でぐてんぐてんに酔ってますよ」「そうか」「明日から同じ任務に配属されるらしいですね」「そうだな」「では、明日に備えて準備がありますのでこれで失礼させていただきます」 そう言ってオルディア准尉は酒場の方へと駆けていった。「ああ、また明日」 翌日、「ふぅ……よく寝たな」「遅いわよ、レイ」「あー……悪い」「あたしに謝れれてもどうしようもないのよね。大佐に呼ばれているんでしょ?」「そうだった……急がねぇと……」 そう言ってレイは格納庫へと向かって全力で走る。「はぁ……はぁ……すみません、大佐、遅れました」「遅いな。今月の給料十五パーセントカットと言うところか?」 大きな防水布に包まれた巨大な物品にもたれかかったアトラスが平然と言う。「そりゃないっすよ」「冗談だ。それよりこいつがお前の新しい機体だ」 そう言ってアトラスは自分が寄りかかっていた物品の防水布を一気に引きはがす。「うわー……きれいな機体だな……鑑賞用か?」 レイがその機体を見て呟く。 機体は黒の素体に白銀の装甲をまとわせており、爪と牙は金色。本来ゼロには装着されていないはずのEシールドが装着されており、頭部が少し重そうではあるが、全体的に軽快なフォルムをしている。「違う。こいつがお前の新しい機体、ライガーゼロだ。まだテスト機で共和国内でも十数機しか配属されていない代物だ。大事にしろよ」「戦場で大事にするなんて無理っすよ」「無理でもだ」「へーい」 こうして、アトラス達はノーデンス遺跡へと向かった。
「なぁ、エレ」「なに?エル」「あのさ、レヴァンティが能力に目覚めるには強い相手と戦う必要があるんだよな?」 エルが再度確認する。「そうよ」 エレが肯定する。「じゃあさ、やっぱこんな奴らじゃダメかもな」「それを言っちゃダメよ……」 エレが言い返し、二人同時にため息をつく。 辺り一面に転がる十機ほどの機体を見て。「やっぱさぁ……盗賊退治なんかしててもダメなんじゃないかな?」「そう……かもしれないけど……」 リゼルとの戦いの後、エルとエレはレオブレイズを修理すると、大きな街に出て何でも屋の仕事を始めていた。 引き受ける依頼は主に盗賊退治や商品輸送の護衛。 最初のうちは信頼がないがために仕事もさっぱりであったが、ある金持ちの護衛任務に成功してからは、破格の値段の安さとその実力と何よりもその若さが評価され、日々仕事が舞い込んでくる。 しかし、強い相手と言うやつは滅多に山賊などをやっていることも少なく、どちらかというと軍に喧嘩売った方が早く成長するのではとエルは思ってしまうときもある。「でも、とりあえずはもう一つの仕事を片付けてからにしましょうよ」「そうだね」 こうして二人を乗せたレオブレイズはイセリナ山を離れ、ノーデンス遺跡周辺を荒らすという山賊団退治へと向かった。 ノーデンスまでは約十数日の日程である。「ま、残念なことに何もないだろうな。商隊の護衛ってわけでもないし」「そうでしょうね」 エルの呟きにエレが答えた。 そのころ、ノーデンス遺跡近くの山奥で……。「何が、見えるんだい?」 床に転がった二十代中盤の蒼い髪の女が問う。「星、かな。若しくは僕が星だと思っているだけのものかも知れないけど」 それに対して同じぐらいの年の黒髪の男が答える。 彼は大きな椅子に座り、天体望遠鏡で宇宙を眺めている。 左手で天体望遠鏡の見える先と倍率を動かしながら、右手で蒼い髪の女の髪を上からなでる。「そうやってボクのことを子ども扱いするのはやめて欲しいな」 身をよじって髪をなでる手から逃れると女は言う。「悪いな。癖になった気がする」「悪癖だね」 女は身も蓋もなく言い返す。「そうでもないかも知れない」「どの辺がさ?」「色々……おや?」 答えを出そうとしていた男がいきなり違うことを言う。「どうしたんだい?」「星が流れた」 男が見たままの事を言う。「流れ星か……よくあることじゃないか」「ああ。吉星か凶星かはわからないがな」「ふふ……キミはいつも不安げなんだね」 苦笑しながら蒼い髪の女が呟く。「そうかも知れない。だが、当面の問題は……」「わかっているよ」「シャドー」「スペキュラー」 二人の声が重なりながらも違う言葉を発する。 途端に蒼と黒の光の矢尻が宙を舞い、辺りに爆煙の華が咲いた。「やっと着いたな……」 イセリナ山を出て十数日後、エルとエレはノーデンス遺跡近くの村まで来ていた。「ええ、まずはここら辺で聞き込みをしましょう」「そうだな」 そう答えてエルは村へと機体を進める。 村まで後数百メートルと言うところで、エルは機体の足を止め、右に跳ぶ。「ちょっ……いきなりどうしたのよ。エル」「敵だ」「え?」 エルに言われるがままに見てみると、今さっきまで彼の機体があった場所にガトリング砲の弾痕がある。「いきなり撃ってくるなんてどういう神経してるんだろうな?」「さぁ?」「くらえぇぇぇえええ!」 エレの返答と重なって男の叫び声が響く。「おっと」 エルは軽い呟きと共に飛び掛かってきた機体、アイアンコングのハンマーナックルをかわす。 拳をかわされたアイアンコングはこちらへとすぐに向き直り臨戦態勢をとった。
どうも。ヴォルドです。いや、もう感動物です(何名前は言いませんが某氏と某氏が登場しましたね?w公式のキャラを出すのは自分はあまりやったことない(やったことのあるのは全部旧バトストのキャラですし(汗)ですので真似できません。。次が楽しみです〜w
「おいおい……あんた一体どういう神経してるんだよ……」 エルは呆れたようにエレの開いた強制通信で呼びかける。「な……操縦者はガキか……確か三十程の大男と聞いていたが……まぁいい、その部下だろう。私はダーツ、ダーツ・マクウェル中尉。誇り高きガーディアンフォースに所属する者だ。この一帯を荒らす盗賊よ、私に会ったことをあの世で後悔するがいい!」 いきなり現れたアイアンコングのパイロットは声高にそう宣言する。「がやがや五月蠅いわね、エル」「冷静に突っ込んでる場合じゃないと思うけど……ダーツ……さん?俺達はこの村で雇われた傭兵なんですけど……」「何処にその証拠がある!お前らはそうやってとりあえずこの場を逃れようとしているだけだ!この私を恐れてな!」「……じゃあ聞くけど、俺達が盗賊だって言う証拠は何処にあるんだよ?」「こんな夜中に戦闘型ゾイドに乗って村に来るからだ」 ダーツは画面の中で胸を張って言う。「それじゃあ武装無しで旅しろって言うのか?それこそ本物の盗賊の餌食じゃないか。それにたまたま出発が遅れたり早くなったりして夜中に付くことだってあると思うな」「……だー!次から次へと嘘八百や屁理屈を述べやがって!もういい、捕まえて自白させる!」 そう言ってアイアンコングがその巨体を動かし始めた瞬間、光の雨が無数に降り注ぎその進路を絶った。「な、誰だ!」「誰だ、じゃないでしょこの猪突猛進馬鹿。その子どもが乗っている機体には軍の認証番号が入っているわ。攻撃した瞬間に友軍攻撃罪を問われるわよ?」「あ……アウラ姐さん……」 軍人にしてはスレンダーな衣装に身を包んだ女の登場で一気にダーツの腰が引ける。「けど、きっと盗難機ですよ!」「問い合わせてみればわかることよ。その機体のパイロットの坊や」「……なんですか?」 坊やと言われたことが気にくわなかったのか、エルの声はぶすっとしている。「悪いんだけど一緒に来てくれないかしら?任意同行って形になるけど、無実が証明できたらすぐ解放するし、ちゃんとえん罪の分の慰謝料も払うわ」「わかりました、付いていきます」「OK、じゃあ、とりあえず聞くけどその機体はどうやって手に入れたの?」「Dr.ディーからもらいました」「そう、じゃあ連絡はとれるわね。あの人に判断してもらえれば楽で良いわ。じゃあ私達の宿舎まで来てもらおうかしら」「はい」「ええ」 エルとエレはそれぞれ答えた。 「あー……そのなんだ?つまりだな……その……俺が悪かった」 先ほどガーディアンフォースの二人組について行ってからわずか数十分後、ガーディアンフォースの片割れであるダーツはエルとエレに頭を下げ、かなり歯切れの悪い謝りの口上を述べていた。「だからもう良いって……。五回目だし慰謝料もきっちりもらったから……」 エルが言う。言葉の通り多額の慰謝料ももらっていたし、村人からの要請も受けられた。「いーや、俺の気が済まん!何としてでもちゃんと謝らなければ……」「これ以上謝られると気がおかしくなりそうなんだけど……」「そうか?だが、すまんな俺が気が済むまで謝らせてくれ」「……」「ダーツさんって方、面白いですね」 エルとダーツの会話を耳に挟みながらエレが言う。「あなた、変わってるわね」 それを聞いたアウラ、アウラ・ハブラプトル少佐は少々引きつった笑みを浮かべながら言い、「エルバート大佐がいればあなたとは気が合うかも知れないわね」 不適にレヴァンティの方を見て、そう告げた。「ああ、そうだ、アウラさん」 言った直後に ダーツをほっぽり出してきたエルが声をかける。「何かしら?Dr.ディーに見込まれたエル君」 からかうようにアウラは答え、エルの方を見る。「フェナン・アーラクルス准将の隊に所属していたオールデン・ナッシュベル中佐についてご存じのことはありませんか?」「フェナン准将の部下のオールデン中佐について?あの大戦の英雄のことでしょうけど……何で知りたいのか理由を聞かせてもらえるかしら?」「オールデン中佐は……父です」 エルは言いづらそうに言う。「あなたが、あのオールデン中佐の?……なるほど確かに目元が似てるわね。ダーツ!」「はい?」 エルに無視されてしょぼんでいたダーツが情けない声で返事をする。「あなたの尊敬するあのオールデン中佐のご子息が見えてるわよ?」「ど、どこですかっ?アウラ姐さんっ!」 アウラが言うなり、ダーツが目に生気を宿して走り寄る。「あなたの目の前よ」「へ?」「間抜けな声を出してないでちゃんと見なさい」「えーっと……もしかして……お名前は?」 ダーツが恐る恐る聞き、「エル……エルロイド・ナッシュベル……」 エルが答えた瞬間、ガーディアンフォースの仮宿舎に少しだけ気まずい雰囲気が流れた。
えと、ヴォルドさん、感想感謝です。名前は出しませんが某氏と某氏……と言われましたが実際最初の方で思いっきり名指しで片方出してるんですよね……(汗固有キャラクター引用の作品はゾイドハンターズに引き続き2作目なのですが、今回の方がキャラの性格が難しいので少々手こずりそうです。今後の展開ですが、簡単に説明しますと……。蒼い悪魔に遭遇……はさせないとつまらないですよね。せっかく出したんですし(何で、まぁ、いろいろと謎を残して第三部に突入したいかなぁって感じです。戦闘は盛りだくさんで行くので乞うご期待!
「で、その絶体絶命の俺の親父の部隊をヒルツの魔の手から救ってくれたのがエル君、君の親父さんって訳だよ」 時刻はすでに深夜の二時。 いつもならば毛布にくるまってコックピットの中か岩場の影で休んでいる時間帯なのだが、エルはダーツの語る自分の親父の武勇譚を延々と聞かされていた。 ダーツに酒が入った時点から同じ話を軽く二回は聞いているだろう。 エレとアウラはとっとと寝てしまった。 夜更かしは美容に悪いとの理由で。 エルも一緒に行って寝てしまおうと思ったのだが、ダーツが、「男に美容なんて関係ないよなぁ?」 といって彼の服の端を掴んで放さなかったので、結局今に至ってしまっている。「親父が言うには光学兵器の砲撃が飛び交う中を一発もかすりもせずに敵一個中隊を壊滅させちまったって話だ。俺もいつかはそうなりたいぜ」「ふぁぁぁ……」 熱心に言うダーツをよそにエルはあくびをする。「おいおい、人がせっかくオールデン中佐の武勇譚を聞かせてやってるのに……」「その話は……もう、聞きました」「そうだったかな?じゃあフェナン准将と一緒にデススティンガーから村一つを完璧に守ったって話は……」「しました」 最後まで言わせずにエルが言う。「……そうか……他には……」「もういいです。これ以上起きてると明日の仕事に支障が出そうなので……寝ます。では」 そう言ってエルは静かな寝息を立てて眠っていた。「あーあ、これからフェナン准将とオールデン中佐とラメア少佐の誓いの話をしようと思ったのに……」 その話はエルがまだ一度も聞いていない話であった。 翌日、エル達はノーデンス遺跡の周囲の山を探索しある物を見つけた。「これは……戦闘の跡か?」 絶句しているエレに対しエルは呟く。 それは戦闘の跡とはとてもではないが言える物ではなかった。 十数機の大小様々なゾイドが何かを取り囲んでいたことは分かったのだが、そのゾイド達は全て死に絶え、石化していた。 コックピットも完全に破壊され、生存者はいないだろう。 そして、なによりも興味深いのが、そのゾイド達は全て、人間大の大きさの物体にゾイドコアを貫通されて倒されていたということだった。「……とりあえずアウラさん達を呼ぼう」「わかったわ」 そう言ってエレは通信を始めた。 数分後、ディバイソンに乗ったアウラとアイアンコングに乗ったダーツが駆けつけてきた。「これは……酷いわね。ゾイドのデータベースも死んでて襲撃者の情報も得られない」「うわー、コックピットもぐちゃぐちゃだ……これじゃあ検死はムリだな」「……」「……」 二人は残骸を見るなり、意見を言う。「……で、どうします?」 黙りこくってしまった二人にエルが言う。「そうね……これだけの数のゾイドを殺っておいて戦った痕跡も見せないなんてどんな化け物が相手なのかしら……」「アウラ姐さん、俺のコングなら探索が効くかも知れません。この前トーマ中佐にジグムティアスという超AIを搭載させて頂いたので……」「ふーん……あの直情機械いじり中佐に?どうせ私達に恩を売ろうって魂胆だろうけど……。まぁ、あの人の機械なら信用できるわね。やってちょうだい」 帝国の名門であるシュバルツ家に対しかなりの暴言に当たるアウラの物言いを聞き、「……トーマ中佐ってヒルツ一派を倒した一人じゃなかったっけ……」 エルは一人、誰にも聞こえないように呟いた。 それから数十分後、「……ダメです。ジグムティアスの探索結果では小型ゾイドの足跡が二種類見つかっただけでこれだけのゾイドを倒すような大型ゾイドの足跡やエネルギー粒子、弾痕、その他諸々の戦闘形跡は残っていません」「あの、ダーツさん、足跡のデータを送ってもらえますか?」 エレが聞くと、「あ、いいっすよ」 ダーツは二つ返事でデータを送ってくれる。「……」「……」 それを見て今度はエルとエレが沈黙する。「……どうしたのかしら?」 今度はアウラが問う番だった。「……これは……きっと……」 エレが言いかけ、「オーガノイドの足跡……」 エルが一押しに言った。 レヴァンティがいつもより少し甲高く鳴いた。
エレは精神を統一し、周囲の感覚を探っていた。 2体ものオーガノイドを連れた連中が近くにいるなら感覚を研ぎ澄ますだけですぐにわかるはずだ。 結局、エル達はあの戦場跡からエレの感覚だけを頼りにこの道を延々とゾイドを歩ませていた。 先頭にエルのレオブレイズとレヴァンティ、その後方にアウラのディバイソンとダーツのアイアンコングとが横に並んで続く。 エル達が進み始める前にアウラは誰かに連絡を取っていた。 多分救援の要請だろう。 オーガノイドを所有する相手に対し3体では心ともない。「近いわ……」 エレが独り言のように呟く。「オーガノイドは2体……片方は……懐かしい感じ……きっとスペキュラーね。もう片方は……」「シャドーよ。蒼い悪魔リーゼと黒烏レイブンも一緒でしょうね。敵の機体数は分かるかしら?」 アウラがぴしりという。「……一機……何?この感覚……普通の命じゃない……酷くゆがめられている……」「ジェノブレイカー……か……」 ダーツが忌々しげに呟く。「とりあえず敵は一機です。僕が正面から惹き付けるので両サイドから攻撃をお願いします」「そうね……それが上策でしょうね」 エルの進言にアウラがうなずき、機体を右前方に歩ませる。 それを見たダーツは逆に左前方に進んでいく。「いよいよ……か」「エル、無理しないでね」「わかってるよ、エレ。でもレイやシェリアのためにもやらないといけないんだ」「……そう言うと思った」 そう言ってエレは微笑を浮かべる。「ははっ……これで全てが終わったら……良いんだろうけどなぁ……」 その笑顔を見てエルは呟いた。 彼らはまるで客をもてなすかのように森の開けたところで待っていた。 ゾイドに乗りこんでおらず、平服でただずんでいる。 しかし、二人の横に立つ二体の小竜型のゾイド……オーガノイドと後ろに立つジェノブレイカーが彼らの余裕を物語っている。「やぁ、よく来たね。ずっとつけ回しているようだけど、俺等に何かようかい?」 ゆっくりと歩み寄るエルのレオブレイズを悠然と見ながら黒髪の男、レイブンが言う。「用があるのは貴方じゃない。リーゼ、お前だ」 エルはゆっくりとかみしめるように言う。「ボクに……かい?残念だけど君にあった記憶は無いなぁ」「貴女に用事があるのは私です、リーゼ」 リーゼが言った瞬間、レオブレイズのコクピットハッチが開き、エレが姿を見せる。「久しぶりね、リーゼ」「そんな……まさか……エレーシア?」 その姿を見たリーゼは困惑を隠せないでいる。「そうよ」「でも……なんで、なんでこの時代にいるんだい?」「お兄様を止めに……残念だけど間に合わなかったわ」「そうか……7長老の考えそうな事だよ……自分たちは何もしないで他人に仕事をなすりつける……」「リーゼ、お兄様は一体何をしようとしていたの?」「ヒルツは……ヒルツはこの惑星Zを嫌っていた。それで、世界を破壊しようと……ボクは捨て駒だったんだ……」 思い出すのも辛そうにリーゼが言う。「リーゼ?」「もう、良いだろう」 エレの心配そうな声に答えたのはレイブンだった。 その眼は殺気立っている。「リーゼはもう十分苦しんだ。これ以上、こいつを苦しませるというなら俺がまず相手をしよう、シャドォォォオオオ!」 叫んだ瞬間、黒いオーガノイドがレイブンを引き寄せ、赤黒い光の矢となってジェノブレイカーに突き刺さる。 が、外見上にほとんど変化はない。「……くっ……エレ、仕方ないけど戦うよ?レヴァンティィィイイイ!」 それを見て取ったエルがハッチを閉め、叫ぶ。レヴァンティは即座に真紅の光の矢となってレオブレイズに突き刺さり、その身を強化していく。「ほぉ……お前も オーガノイド使いか……面白い、こうでなくてはなっ!」 レイブンがジェノブレイカーのバーニアと高機動スラスターとをマックスに使って一気に距離を詰めてくる。「はぁっ!」 エルはそれをよく見て取り、ジェノブレイカーのエクスブレイカーが咬み合わされる直前に横に回避し、すぐさま飛び掛かる。 しかし、横薙ぎの尻尾の一撃をくらい、吹き飛ばされる。「エル君っ!レイブンめ……くらいなさい!」「英雄の息子に何をするっ!」 その直後、両サイドからアウラとダーツが現れそれぞれの火器を惜しむことなく放った。
「甘い!」 レイブンは惜しむことなく放たれた17連突撃砲や無数のミサイルポッド、AZレーザー、ビームバルカンなどを避け、弾き、叩き落とし、受け止めて全て防いでいた。 フリーラウンドシールドには多少の焦げ跡がついたが、大した損傷ではない。「な……」「化け物だな……おい」 流石にアウラもダーツも驚きを隠せない。「くらえっ!」 背中を見せるレイブンに後ろからエルは飛び掛かる。「見え透いた攻撃はするな!」 その攻撃は反転したエクスブレイカーによって阻まれる。「メテオ・バースト!」 後方に大きく飛んだエルを見計らうかのようにアウラが全火器を一斉発射する。「……馬鹿の一つ覚えか……」 レイブンはそれをスラスターで横に素早く移動すると呆気にとられているダーツのアイアンコングの頭部をエクスブレイカーで一閃する。 アイアンコングの頭部はぐらりと揺れて地面に落下していく。「ダーツっ!」 それを見たアウラが突進をかけるがいとも簡単にかわされた上、跳び爪で後ろ足を取られて引き倒される。 エルは再び機体を飛び掛からせるが弾き飛ばされてしまう。「これで二機だ」 レイブンは冷酷に言うと、アウラの機体を投げ飛ばす。 地面にぶつかる衝撃でディバイソンの角は半ばから折れ、突撃砲は砲塔がひしゃげる。 パイロットであるアウラも機体の外にはじき出されている。「あとは……お前だけだ。今なら逃げることも許してやる。お前は軍人では無いからな」「……誰が逃げるか!」 エルがいつもらしくなく叫び、左手を掲げる。「エルっ!」 エレが叫ぶがそれを気にすることなく力を発揮する。 左腕から血がしぶくが気にしている場合ではない。 戦況は再び三対一へと戻っていた。「……倒したはずのゾイドが動いている……だと?」 レイブンも突然の事に対応しきれていない。だが、「レイブン!それは古代ゾイド人の技術の一つだ!戦闘能力はさして高くないから警戒しなくて良い!」 リーゼがスペキュラーの背にまたがった状態で叫ぶ。 その眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。「そうか……行くぞっ!」 レイブンはリーゼの忠告を素直に聞き入れてブースターをふかし、頭部の無いアイアンコングへと肉迫していった。「何?頭部のないアイアンコングが動いているだと?」 アトラスは部下のオルディアがもたらした情報を聞き、そこにあのホートレイがいると思った。「急ぐぞ!」 そう言ってアトラスは自機のイオンブースターを最大限に吹かしてスピードを上げていく。 ついてきているのはレイのライガーゼロぐらいである。「ミレニア中尉、レイ、シェリア、ロック少尉はまずは私と共にレイブンを抑える。オルディア准尉、クラミア、オルン軍曹はレオブレイズを抑えろ。ホートレイが乗っているはずだ!」『了解』 レイ以外のメンバーが声をそろえて言う。「了解」 それから少し遅れてレイが返事をする。 そのレイはいつものように気性が荒れていない。 よほど集中しているのだろう。 いつもこうだと助かるんだがな……。 アトラスは心の中で独白した。 紅いジェノブレイカーが視界に入ってきた……。 結局、力を発動させたもののエルの機体以外の機動力は半端ないほど遅く、レイブンに対しての脅威には成り得なかった。 左手を負傷してまで動かしたのにあんまりの結果である。「……っ……」 エルは左手を押さえて呻く。 彼の機体はぼろぼろであった。 爪はひしゃげ、牙は折れている。装甲もすでにはがれ、砕けているところの方が多い。「なかなか面白い力だった……オーガノイド以外にも切り札があったとは……正直驚いた」 レイブンが言ってくる。「俺はこれから馬鹿な軍隊の連中の相手をする。お前はさっさと去るんだな」 レイブンはそう言うと機体を翻し土煙を上げて迫ってくる軍のゾイドに体を向けた。 すでにエルは眼中にないらしい。 エルが怒りを抑えられずに喉元に設置されているバルカン砲でリーゼを狙おうとするとレイブンのジェノブレイカーの小型レーザーが放たれ、バルカン砲は破壊される。「早く引きましょう……私達が勝てる相手じゃないわ……少なくとも今は……」 それを見てエルはエレに促されるまま機体を退かせ、逃亡を開始した。
「ミレニア中尉、ロック少尉は左側に、シェリア少尉は右側に、レイ少尉は私と共に中央突破だ!」 アトラスが叫び、全員が素早く反応し、行動に移す。「軍の犬がっ!この俺に勝てると思うなっ!」 レイブンは叫びながらバーニアを噴かして宙に浮き上がり、上空から荷電粒子砲をロックとミレニアに向けて放つ。 ミレニアが操るシャドーフォックスはその不意の一撃をかろうじてかわすが、ロックのガンスナイパーはすでに射撃体勢に入っており、回避が間に合わなかった。 大地を引き裂きながら迫る荷電粒子砲を前にロックは死を覚悟する。 しかし、彼はその光の奔流に飲まれることはなかった。 硬く目を閉じた彼が再び目を開けると、そこにはEシールドを限界まで張ったレイのライガーゼロ姿があった。「おっさん!早く退きな!ここは俺に任せろ!」「誰がおっさんだっ!まぁ、とにかく助かった礼を言うぜ」「ンなこと良いから早く退いてくれ!こっちのEシールドだってどんだけ持つか分からないんだからっ!」 言っているうちにもレイのゼロはゆっくりと後方に押されていく。 力負けは必至だった。 相手はオーガノイドと合体している。 荷電粒子砲を受け止めているだけでも奇跡に近い。「くらえっ!」 レイブンがレイに気を取られている隙を見てアトラスがブレードを展開して飛び掛かる。「当たるものかっ!」 その時速三百キロの速度で突っ込んでくるアトラスのブレードライガーのブレードの付け根をその強靱なエクスブレイカーで挟んで受け止め、時間差で飛び掛かろうとしたシェリアのケーニッヒに向けて放り投げる。 ブレードライガーとケーニッヒウルフはもつれ合うように転がり、ブレードライガーのブレードが転がる最中にケーニッヒの脚や腹部を切り裂く。「シェリアっ!」 レイが叫ぶのと同時に無事立ち上がったアトラスの機体に向けて荷電粒子砲の発射をやめたジェノブレイカーの頭部に設置されたAZライフルが火を吹く。 アトラスはそれをEシールドを展開して受け流すと再び飛び掛かる。 空中で無防備状態のアトラスにレイブンはAZライフルをたたき込もうとしたが、ロック少尉の特殊鉄鋼弾によってAZライフルが破壊されて仕方なくバーニアを噴かして回避行動を取る。「あたしは大丈夫よ、レイ。それより奴をお願い」「……わかった」 その間にレイはシェリアからの返答を受け、行動を再開する。 回避行動をとったばかりのレイブンの後ろで思いっきり爪を振りかぶり、たたき込む。 当たれば確実に機能停止できただろうが、残念なことにEシールドを展開されてはじき飛ばされる。 しかし、その行動は無駄にならなかった。 直後に無防備となったレイブンのエクスブレイカーにミレニア中尉の特殊鉄鋼AZガトリング砲が炸裂し、4本のうちの1本がへし折れる。「……なめるなぁっ!」 途端にレイブンが叫び、エクスブレイカーの根本に収納してあったAZ3連ビーム砲を掃射して足場を固定していたロック少尉の右脚を破壊し、ミレニア中尉の特殊鉄鋼AZガトリング砲を消し飛ばす。 そして、レイブンは悠然とバーニアを切り、地上へと降り立った。 そのころエルはレオブレイズを森の中で最高スピードで走らせていた。 アウラやダーツのことは気がかりだったが、共和国軍に邪魔者として排除されてしまうのもまずい。 なにしろ彼はホートレイの力を受け継いでしまったせいで彼と勘違いされてもおかしくないのだ。「エル!後方に共和国軍追撃部隊。数は3機で1機は飛行ゾイドよ」「やっぱ見逃してはくれないか……」 エレに現状を報告されるとほぼ同時にエルは期待の足を止める。 そして、すぐに共和国軍の追撃部隊は追いついてきた。 レイノスがエルの真上を高速で通り過ぎ、進行方向を封鎖し、その上2機のガイサックが飛び出してくる。 2機のガイサックのうち、1機は鋏の代わりに高出力のレーザーブレードがくないのように取り付けられており、もう1機は尻尾が二股に分かれてそれぞれ高出力ビームキャノンが取り付けられている。「……まさか……オルン、クラミアか?」 エルはその機体を見て呆然と呟く。「え……エルなのか?」「じゃあ……ホートレイは……エル?」 オルンとクラミアも同じように口をあんぐりと開けて呟く。「違う、僕はホートレイじゃない、エルロイド・シックスバクトだ」「でも、あの時、僕たちが捕まったと**なかったし、今さっきだって……」「オルン軍曹、無駄口はいいから奴を捕らえるぞ」 そこまで言ったオルンを遮るようにオルディアが叫ぶ。「は、はい、オルディア准尉!」 オルンは慌てて答え、ブレードを左右に展開する。「オルン、わかってるだろ?お前の腕前じゃあ僕には勝てない……」 エルの説得も虚しく、オルンとクラミアは臨戦態勢に入っていた。 すでに彼らはエルを敵としてしか見ていなかった。
「うわっと……」 エルはクラミアが放つ高出力ビームキャノンの雨の中、ほとんど直進でオルンのガイサック・ツインブレードに迫っていた。 レヴァンティと合体すらしていない。「オルン、頼むからやめてくれ!」「五月蠅い!僕たちを裏切ったくせに!」 オルンはそう言ってブレードを振りかざし迫ってくる。 エルはその単調なブレードアタックを軽々と飛び越えてかわした。 本当なら今のところで倒せるのだろうが、彼としては倒したくない相手である。 着地したところにオルディアの放ったガトリングの嵐が吹き荒れるがすでにエルはそこにおらず、孤立したクラミアに向けてひた走っている。 驚いたクラミアはビームキャノンを連射するがろくに照準もしていない弾が当たるはずもなく、エルに一気に距離を詰められ、二本の尻尾をその爪で切り落とされてしまう。「まず、1機」 そう言って振り返るとオルンが突っ込んできている。「くらえっ!」 単調な攻撃を再び飛び越えようとすると、オルンが思いもかけぬ行動に出た。 自らの尻尾を思いっきり振り下ろし、その反動と脚力のジャンプでかなりの高度まで跳び上がってきたのだ。「な……くっ!」 エルはその捨て身ともとれる攻撃をかろうじて避け、着地と同時に反転して向きを直しきれていないガイサックの脚を踏み砕く。「あと1機……」 言うと同時に彼の機体は再び駆け出す。 向かった先では背の高い樹が密集して生えている。「あ、貴様っ!」 オルディアは慌てて機体を降下させレオブレイズの後方に付き、ガトリングの照準を合わせるが……。「き……消えた?」 呟いた瞬間、上から物凄い圧力がかかり、彼の機体は大地に押しつけられて武装の類をほとんど破壊される。「じゃあ、逃げさせてもらいます」 エルはそう言って姿を消した。「くっ……逃げられたか……」 エルが姿を消して数分後、オルディア准尉は何とかレイノス・ヴォルケイノの機体バランスを回復させると、オルンとクラミアのいるところまで引き返した。「私はこれから大佐のところに向かう。君たちはここで待機していてくれ。なに、一時間以内には皆で会えるさ」「了解」「はい」 返事を聞くとオルディアは再びレイノスを空へと舞い上がらせた。 レイノスはバランスを崩しながらもゆっくりとアトラス達の方へ飛んでいった。「僕たち……まだまだ弱いな」「そうね……もっと強くならないとレイにおいてかれちゃうね……」 二人はオルディアを見送ったあと、呆然と呟いた。 その時、辺り一面に猛然と虫の羽音が広がった。「な……なにこれ……お兄ちゃん……」「わからない……とにかく脱出しよう」 オルンは片方の脚がないガイサックを引きづるように、クラミアは健在な機体で兄を助けながらその場を離れようとする。「ふふ……残念だけど君たちには死んでもらうよ」 虫の羽音の中から唐突に声が聞こえた。「だ、誰だ!」 オルンが叫ぶ。 その声に反応するかのように彼らの目の前に蒼い、小型のジェノブレイカーのような機体が立っている。「誰だって良いだろう?君たちはここで死ぬんだから」「く……くそぉぉおお!」 相手な静かな物言いに苛立ったオルンが尻尾のAZ20mmレーザーライフルを放つがジェノブレイカーのような機体はそれをかわすこともなく平然と凌いで近寄ってくる。「ははっ!身の程を知りなよ」 その途中でその機体のパイロットがぽつりと言い、次の瞬間には頭部のレーザーチャージングブレードから閃光が走る。「……え……」 クラミアには何が起きたか全く分からなかった。 気が付いたときに目に入ったのは切断された兄のガイサックと体の中心を縦に真っ直ぐ斬られ、焼けこげた兄の変わり果てた姿であった。「……ぃ……いや……いやぁぁぁああっ!」 クラミアは叫び声を上げて兄の機体を放りだし、その機体へと突撃する。「やれやれ……まぁ、これで筋書き通り……かな」 彼女の兄を殺したパイロットはため息と共にそう言うと、クラミアの方へと向き直り、「ぁぁぁああああっ!」 悲鳴とも雄叫びとも聞こえる声を上げている彼女の兄を殺したのと同じ技、ラグナロク・ソードを発動して彼女の機体を切断する。「さて……これでもう、エルは逃げられないよ、エレお姉ちゃん。リーゼお姉ちゃんへの復讐はお姉ちゃんの言うとおりもう少しだけ先延ばしにしてあげるよ。先にあの子の復讐に力を貸してあげないといけないしね」 そう言ってオルンとクラミアを殺したリゼルはゆっくりとした動作で森の中に消えた。
そのころオルディアは急いでいた。 ホートレイがエルロイドと名乗っていたこと。 これだけでも大佐に伝えれば十分な手柄になるのだ。「……!後方に敵だと……しかも速いっ!」 レイノスは故障しているとは言え、軽く300km近く出している。 その機体に倍近い速度で迫ってくる機体があるのだ。「……くっ!」 その謎の機体に追いつかれそうになったオルディアは慌てて機体を反転させて敵機体と向き合う。 その機体はこちらに顔を向けて悠然と宙を浮いていた。 見たこともないブロックスゾイドであった。 頭部と胴体と尻尾はエヴォフライヤーの物で、前足にもエヴォの後ろ足が使われている。 背中にはフェニックスと呼ばれるレッドリバー基地で開発中だった機体の羽根がついており、後ろ足もフェニックスの物だ。 その姿はまるでガイロスの紋章についているようなドラゴンであった。「な……一体この機体は……」「ふふ……久しぶりね」 呆然となるオルディアに対し、その機体のパイロットと思われる少女の声が聞こえてくる。「……久しぶり……だと?」「そうよ、わからないかしら?まあ、私も大人になったからね」 困惑するオルディアの反応を嬉しそうに感じながらそのパイロットは言う。「とりあえず、お返しさせてもらうね。エヴェフェニールの力を見せてあげる。」 そう言った瞬間、翼から十数条の閃光が放たれる。「なっ……くぅっ!」 オルディアはそれを何とかかわしきる。「やっぱり強いねぇ……。でも、もう負けるわけにはいかないんだ、ゴ・メ・ン・ね」 そう言って超高速で距離を詰めたエヴェフェニールはそのエヴォフライヤーならば後ろ足に当たる前足を振りかざす。 オルディアはその一撃を機体のバランスを微妙に崩してかわす。「ふふ……そうでなくっちゃ……」 少女は嬉しそうに言うとさらに攻撃を続ける。「これは……どうかなぁ?」 呟きと共に放たれたのは先ほどの十数条の閃光。 しかも先ほどとは違い、放たれる方向がランダムの上に連射しているため何処に飛んでくるのか全く予想が効かない。「くっ……」 オルディアは必死にレイノスの操縦桿を握り、汗ばむ拳と背中を湿らす冷や汗と戦いながらレーザーの嵐をかいくぐっていく。 それでも無数のレーザーはレイノスの機体を浅く捕らえて所々をやけ焦がしていく。 それから数十秒オルディアは回避を続けたがついに一条の閃光がレイノスの翼を捕らえ、完全に左翼がその効果を失う。「さぁーて、絶対絶命だけどここからどうしよっか?」 次第に高度を落としていくレイノスを見ながらエヴェフェニールのパイロットは嘲るように言う。「何が……何が楽しいっ!」 相手が気を抜いてレーザーの嵐が止まった瞬間にオルディアは二機の間の距離を一気に詰めて、シュツルムクローをエヴェフェニールの右翼にお見舞いしようとするが、「この翼は飾り物じゃないんだよ、お兄ちゃん♪」 そうパイロットが言うと同時にエヴェフェニールは翼を翻してシュツルムクローを回避し、レイノスの背中をその翼で打ち据える。「お兄ちゃん……だと? ……まさか……しかしあの子は死んだはずだ……」 レイノスは高度を下げる速度を増していたがまだ宙に浮いている。 そのコックピットの中でオルディアはさらに困惑する。「何迷ってんのよー。私よ、お兄ちゃん」 何処かぎこちなさのある明るい声で少女は言う。「まさか……本当にレミファナなのか……?」「へへっ……残念でしたー。惜しいっ!半分正解半分間違いだよ。私はもうレミファナじゃない。ルキアナ、そうルキアナよっ!」 してやったりといった感じの声で少女、ルキアナが言う。「ルキアナ……だと?何を馬鹿なことを言っているんだレミファナ!」「妹ってわかったらすぐにお兄ちゃん面するなんてずるいねぇ、前はわからなくて私のこと殺そうとしたくせに」 ルキアナは先ほどまでとは声のトーンを落とし、暗い感じの声になって言う。「そ……それは……」「だから、お返ししてあげるから気にしないで。ばいばい、お兄ちゃん♪」 言葉につまるオルディアにまたぎこちない明るい声でルキアナは言い、レイノスに向かって一気に距離を詰めた。 呆然としたオルディアは回避することも出来ず、その前足の爪を両翼にくらい、一気に大地に叩きつけられる。「ヴェルダニティを呼ぶまでもなかった……ね」 呟きながら降下して機体を見に行くと機体はぐちゃぐちゃに潰れて見る影もなかった。「さてと……お返しも済んだし、リゼル様をお迎えに行かないと。あのリーゼとか言う奴に変なこと吹き込まれちゃったら大変だもんね」 レミファナ、いやルキアナはそう言って彼女の機体であるエヴェフェニールを反転させて、自分の主人であるリゼルの元へと向かった。 超高速で飛ぶ彼女の機体のあとを一機の灰色の小型恐竜型ゾイドがこぢんまりとした翼をはやして飛んでいった。
「ほぉう……軍人にしてはやるほうだな……」 紅いジェノブレイカーのパイロット、レイブンはコックピットの中で呟いた。 すでに戦闘時間は2分半を超えようとしている。「そろそろシャドーも辛いだろうしな……」 飛び掛かってきたシャドーフォックスを健在な右のエクスブレイカーで挟んで受け止め、その部分の馬力を最大限に引き上げる。 金属フレームのひしゃげていく音が死刑宣告のようにミレニアに聞こえていた。 シャドーフォックスは死をもたらすギロチンから必死に逃れようとするが、全く抜け出せるような感じがない。 一方当のレイブンはミレニアを殺そうとすることを全く気にせず、シャドーに言う。 その声に相対するかのようにシャドーの声がコックピットに響く。「まだ、やるというのか?大丈夫だこんな奴ら俺一人でも十分だ」 レイブンは言うが、シャドーの声は完全に臨戦態勢を解いていない。「仕方ない……あと1分以内に片付けるぞ」 呆れたレイブンが言うとシャドーが歓喜の声を上げ、一気に機体のポテンシャルが上がっていく。「中尉!」 アトラスがブレードを振りかざして飛び掛かるが、一本しかないエクスブレイカーで凌がれ、ブレードライガーは背中から落ち、その腹を思いっきり強く踏みつけられる。「ぐぅああぁぁっ!」 アンカーのついたジェノブレイカーの一撃は非常に重く、あっという間にブレードライガーは半壊状態になる。 アトラスは意識を失ったのか返答がない。「大佐ぁっ!」 今度叫んだのはミレニアの方であった。 しかしレイブンはそんなことを全く気に介さずに、アトラスのブレードライガーを蹴り飛ばし、ミレニアのシャドーフォックスを投げ飛ばす。「あとはお前だけだ」 レイブンはレイに向けて冷たく言い放った。 レイはごくりと生唾を飲み込んだ。 リーゼは泣いていた。 泣くのは久しぶりであった。 最後に泣いたのは十年前のあの時、レイブンが死にかけたときであった。「エレーシア……君もボクを殺そうとするのかい……」 この前、とうの昔に死んだはずの弟が訪ねてきたときも、その弟が自分を殺すと言ったときも流れなかった涙が今、止めとどめなく流れている。 そんなとき、リーゼの耳にある音が聞こえてきた。「……この羽音は……リゼル……近くにいるのかい?」 彼女にとってその音はとても聞き馴染んだものであり、懐かしいものであった。「行かないと……リゼルにまでボクのような道を歩いてもらいたくは無い……」 リーゼはスペキュラーに命じてその羽音の方へと急いだ。 レイブンは横目でリーゼが何処かへ行くのを盗み見た。「何処見てやがる!てめぇの相手はこの俺だ!」 レイが叫ぶ。「吠えるのはほどほどにしておけ。あとでひけなくなるぞ」 彼の中に懐かしい人物の面影を見たレイブンはそう言い、エクスブレイカーをかまえる。「いくぜっ!」 レイはライガーゼロをイオンブーズター全開で走らせ、一気に距離を詰めて格闘戦に持ち込もうとするが、レイブンはそれを優雅とも言える動きでかわし、背後からエクスブレイカーを突き出すが、レイはそれを機体を捻らせてかわす。「少しは出来るな……」 レイの予想外の腕前にレイブンは軽い感心を持った。 急いでいなければ少しは遊んでやっても良いという感じだろう。「言われ無くてもわかってんだよっ!」 レイブンの呟きにレイが反応し、「ストライクレーザークロー!」 爪にエネルギーを集中させて飛び掛かる。「もう少し詰めが厳しければ良い戦士に慣れただろうな」 それを紙一重でかわしたレイブンはエクスブレイカーでレイのライガーゼロの動きを封じこめ、両腕の爪を飛ばして完全に捕らえて、放り出す。 レイの機体は遠心力と圧倒的な馬力の差で吹き飛ばされ、地に叩きつけられて動きを止める。「これで、終わりだ」 レイブンは言うより速く荷電粒子砲のチャージを始め、7割ほどエネルギーが貯まるとそれを解き放つ。 目もくらむような閃光が迸り、レイのライガーゼロが蒸気と噴煙の中に消える。「……シャドー、合体解除だ。リーゼを追うぞ」 レイブンは相手の生死を確かめることもなく、リーゼを追った。 ジェノブレイカーとオーガノイド・シャドーの姿はすぐに森の中へと消えていった。「……レイブン……次は……かならず……」 薄れていく意識の中でレイは呟いた。 それから数十分後、緑色のシールドライガーDCSが率いるグスタフの部隊がその場にたどり着き、彼らを回収して去っていった。
「うっ……」 レイは朝日の差し込む治療室の寝台の上で目を覚ました。「お、気付いたようだね」 途端に声がかかる。「……あんた……誰?」 寝ぼけ眼でレイは上半身を起こし、そちらの方を見て言う。 そこには一人の三十代後半ぐらいの男が座っており、その横ではアトラスが直立不動で立っている。「ああ、私か、私はエルバート。エルバート・ メルトクライという」「エ……エルバートさん?」「馬鹿者!エルバート大佐とお呼びしろ!」 レイ言うなり、アトラスが叱責する。「気にするではない。彼は私の階級を知らないのだからな、アトラス中佐」「はっ」 そう言われては仕方がないとアトラスは直立不動の体勢に戻る。「……エルバート大佐……もしかして……」「ほぅ……私のことを知っているのかな?」「知ってるも何も……ガーディアンフォースの凄腕のライガー乗りじゃないですか」 レイは珍しく敬語になっている。「ほとんどがお飾りの勲章だよ。私が一番誇りに思っているのは君のお父さんの部隊に所属していたと言うことだ」「……! 親父の部隊に所属しておられたのですか?」「そうだ。アトラス中佐はそのころからの部下であったよ。それよりもこの前の戦いでは済まなかったな。私達が一足遅れたために君の部下であるオルン君、クラミア君を失い、黒烏レイブンまで見失ってしまった」「それは……仕方ないです。戦っている以上誰かが死ぬのは……」「しかし、それでお前は良いのか? お前は愛する者を失ったときそう言えるのか?」 レイが吐き捨てるように言うとエルバートは問いつめるように言う。「俺には……わかりません」「まぁ、それも仕方ないだろうな。しばらく治療に専念しながら考えたまえ」 そう言ってエルバートはアトラスをともなって廊下へと出て行く。「本当に愛する者を失ったとき……か……」 レイの頭の中にはぼんやりとシェリアの姿が浮かんでいた。「しかし……まだ早すぎるのではないでしょうか?」「構わんよ。私達が万が一で黒烏に敗れてしまうか彼が間違った答えを出してしまったら、先ほどの問の答えを彼に教えてやりたまえ」「……了解しました」「それと、今回君たちを救出してくれたスヴァイス君とサーク君にはたっぷりと謝礼をはずんでおいてくれよ。彼らは信頼できる味方だ。少なくとも……はな」「それも了解しました……しかし大佐がいるとは言え6機であのレイブンが倒せるでしょうか?」「はっはっ!その点なら問題はない。途中でサラマーナとウィンディーク、ノームズ、ルネン、ウィスプスの別働隊と合流する」 愛機である緑色のシールドライガーDCSに乗りこんだエルバートは言う。「わかりました……それなら安心です」「では、な。行くぞ、アウラ、ダーツ、ジン、シェイド、フェア」『はっ』 エルバートの号令の下、彼のDCSに続いてアウラのディバイソン・AS、ダーツのアイアンコング・DS、ジンのブレードライガー・GS、シェイドのストームソーダー・3S、フェアのジェノザウラー・FSがそれぞれ基地を発った。「ガーディアンフォースのエルバート隊が本気で行動を起こしたか……。いくらレイブンといえどもこれでは跡形もなく消え去るかも知れんな」 アトラスはエルバートのDCSの背に乗った緑色の小型恐竜型ゾイドを見逃すことなくそう呟いてレイの部屋へと戻った。「中佐!」 彼が部屋に戻ると同時にレイの声が聞こえる。「なんだなんだ、騒がしい」「シェリアは無事なのか?」「彼女は無事だ。が、脚を骨折しているのでしばらくは療養生活だ」 それを聞いてレイはふぅ、と息をつき、真面目な顔になって、「……オルンと、クラミア以外に誰か犠牲になった隊員はいるんですか?」「……オルディア准尉も殉職したよ。それと、もう元気そうだな。クラミア機に搭載されていたブラックボックスから音声データが検出された。是非聞いてもらいたい」「ああ、わかった」 「じゃあ、行こうか」 二人は連れだってデータ解析班のいる情報解析部へと向かった。 それから数十分後……。「アトラス中佐……これは本当のことなのか?」 レイは信じられないといった表情で呟く。「機械は嘘をつかないだろう。オルディアは分からないがオルンとクラミアを殺ったのは十中八九ホートレイを名乗るエルロイド・シックスバクトだ」「……シェリアにこのテープは聴かせたのか?」「まだだ。彼女には刺激が強すぎる」「……ありがてぇ……感謝するぜ」 レイはテープの中身を聞いた今、オルンとクラミアと戦って殺したかつての親友、エルを殺す決意を固めた。
「うわぁぁあああああっ!」 エルの叫び声が見渡す限り何もない真夜中の荒野に響き、昨日の夕暮れから降り続いている雨の音にかき消されて消えていった。「エルっ!大丈夫、大丈夫だから……」 エレが必死に彼の右手を握り、左手を自分の胸元に当てながら言う 彼の悪夢の原因はいつもこの左手が呼び起こすホートレイの記憶であり、古代ゾイド人の自分と波長を合わせることでその悪夢を軽減することが出来るのである。「あ……エレ……ごめん……」「いいの……気にしないでエル」 ようやく自分を取り戻したエルは呆然と謝る。「またいつもの夢?」 エレが聞くと、エルはかぶりを振り、「いや……今日は違った……レイブンに……負けた。僕は、僕は勝てなかった」「ごめんね……」「なんでエレが謝るんだよ……」「私がリーゼに酷いこと言ったから……」「エレは何にも酷いことは言ってないよ」 天幕に当たる雨音の中、二人の声だけが暗闇に浮かぶランプの周囲で響く。「エル……ありがと」 エレが言った矢先に天幕が衝撃音と共に吹き飛ばされた。「なっ……」 エルが驚きの声を上げると同時にサーチライトが当てられてまぶしさに目がくらむ。 それでもエルはエレの前に立ち、彼女をかばう姿勢になる。「へっへっへっ……こんな荒野で野宿するってんだからもっと厳つい野郎かと思えばガキじゃねえか」「お、しかも女連れですぜ、兄貴!」「かなり可愛いから何処にでも買い手が見つかりそうだなぁ」 と、サーチライトを当てている3機ヘルキャットのコックピットからそれぞれ声がかかる。 どうやら旅人を狙う盗賊のようだ。 先ほどの悲鳴を聞いて近寄ってきたらしい。 エルは自分が招いた最悪の状況を恨みながらも相手をにらみつける。「さぁて、小僧。お前さんに選択肢をやろう。無駄に抵抗して殺されてそのお嬢ちゃんとゾイドを持ってかれるのと、そのお嬢ちゃんとゾイドを差し出して助かるのとどっちがいい? まぁ、こんな荒野のど真ん中でゾイドを放り出したらまず助かんねぇだろうがな」「へっへっへっ……兄貴、それじゃあ選択肢になってませんぜ!」「はっはっはっ!よーするにこの小僧には死しか待ってないんだな。ま、お嬢ちゃんの方はここで死んだ方がましってこともあるかもしれんけど、おいらの知ったこっちゃ無いな」「そう言うことだ。どうする?小僧」 勝手なことを言い続ける盗賊達に対し、エルは平然と立っている。「どうしたぁ?びびっちまって声も出ないのかぁ?」「僕の答えは……こうだ!レヴァンティ!」 エルが大声で叫ぶと、レヴァンティが紅い矢尻と変化してヘルキャットの頭部を打ち砕く。 盗賊達は悲鳴をあげる暇さえ与えてもらえずに息絶えた。「……あいつら……エレになんて事を……」 エルは平然としつつもかなり苛立っているように見える。「エル……もう良いわ……私は気にしてないから」「……それなら……。良いんだけど……」 エレが静かに言うのでエルはそれに従おうとした時、レヴァンティが甲高い泣き声を上げた。「……敵か!」「これは……野良ゾイドよ。すごい数……十や二十なんて数じゃないわ……」「とにかく早くレオブレイズに……!」 二人は慌ててレオブレイズに乗りこむ。 それとほぼ同時に周囲のくらやみからヘルキャットのサーチライトに照らされて見えるだけでも数十機のガイサックやモルガ、ゴドスにイグアンなどがひしめきながら近寄ってくる。「洒落にならない……」「ええ……今数を算出するわ」「頼む!」 そう言ってエルはレヴァンティと合体する暇すらなくゾイドの群れに躍り込む。 モルガを蹴散らし、ガイサックを踏みつぶし、イグアンの腕を引きちぎり、ゴドスの頭部を吹き飛ばすが次第に数で押されて、身動きがとれなくなったところでガイサックやゴドスが鋏や尻尾などで攻撃を仕掛けてくる。「くっ……レヴァンティィイイ!」 エルはその状況でレヴァンティを呼ぶ。 レヴァンティは再び紅い矢尻と化して数体のゾイドを貫き、最後にエルのレオブレイズに到達する。 すぐさまエルの機体に変化が起こり、周囲のゾイドを一気に吹き飛ばす。「シールドブレイク!」 叫びながら爪にEシールドを展開し、モルガの頭部装甲を引き裂く。「よしっ!」 威力は十分ですでに撤退を始めたゾイドも多い。もう一機仕留めれば完全に流れはこっちに来る。 そこまで期待させておいてレオブレイズは動けなくなった。 ここ数日間全く補給をしていなかったということを考えれば当然の結果であった。 再び流れが敵に回り、撤退を仕掛けていたゾイド達が戻ってくる。絶体絶命の中で、「無事か?今助けに行く!」その声は2年前に聞いた懐かしい声であった。
どうも、ロストです。今日はやけに張り切って五話ほど更新しました(このあと止まる(蹴これからテスト期間……すでに入っているのですが……。とりあえずテストなのでしばらく投稿できないかも知れません。そのあとも生徒会選挙、体育祭、試合、世代交代、期末、球技大会と忙しいので更新は夏休みかなぁ……(遠い目とりあえずあと二話で第二部も締めるつもりなので乞うご期待です。特にエル君を助けてくれた人とか期待してて下さいね。二部の最初を読めば少し分かるかも知れません……というかわかります。では、テスト後に会いましょう。失礼。
エルとエレはあのあと救援に来たガーディアンフォースのバン・フライハイト共和国軍少佐に助けられてガリル遺跡周辺のキャンプ地にいた。「しっかし……お前らなんでこんなところにいるんだ?」 バンはキャンプについて開口一番にそう言った。「僕たちは……その、親の仇のリーゼを見つけて……」 エルはその後の出来事をほとんど包み隠さずに語った。「そうかレイブンとリーゼはまだ無事だったのか……」「何を呑気なことを言ってるんですか!あのリーゼのせいで僕たちは親を失ったんです!」 フィーネの作った激甘カレーを食べていたエルが珍しく激昂する。「リーゼが……か? てことはお前達の親はサントコンク出身か?」 サントコンク、かつて蒼い悪魔リーゼが初めてその姿を現し、町中を占拠したところである。「違う……僕の親はオールデン・ナッシュベル中佐。リーゼとヒルツにはめられて死んだ」 それを聞いたバンはしばらく黙考し、「リーゼが単独で起こした事件などははサントコンク占拠、帝国軍兵器解体要塞占拠、レムリア島海底遺跡襲撃、ニューヘリックシティでのデススティンガー足止め……これ以外では無いと思うんだが……」「……ニューヘリックシティでのデススティンガー足止めの前にデススティンガーと交戦している部隊がいたのは知っていますか?」「知ってるぜ。フェナン准将の独立機動部隊だろ?」「父はその部隊の副隊長でした。あの時リーゼが貴方を足止めしていなければ……」「それは……」「バン少佐、僕にレイブンを倒せるだけの技術を与えて下さい」「けどなぁ……」「バン少佐」「……わかった。その代わり倒すだけだからな。絶対に殺すなよ」「……分かりました」 そう答えつつもエルの顔にはリーゼを殺すためになら手段を選ばないといった表情が浮かんでいた。 翌日、エルとバンはそれぞれ自らの機体に乗り込み、相対していた。「よし、じゃあ模擬戦闘をやる。俺のブレードライガーのEシールド出力の方がレイブンのジェノブレイカーのそれよりかは高いだろうから俺のEシールドを貫ければ合格だな。但し火器も兵器も全て実弾実装だから当たって死んでも文句いうなよ」「わかってます」「それじゃあ……ジィィイイク!」「レヴァンティィィイイイ!」 二人の声が荒野に響き、紅と純白の光の矢が宙を舞ってそれぞれの機体に突き刺さる。「行くぜっ!」 バンは先手必勝とばかりにアタックブースターを全開にしてブレードを展開した状態で一気に距離を詰めてくる。「はっ!」 エルはその一撃を軽く跳躍してかわすとすぐさま方向転換しブレードライガーに向けてバルカン砲を放つが、バンのブレードも減速と同時にアタックブースターを利用した横飛びでバルカンの斉射をかわし、反転する。「悪くない動きだ。だが、レイブンはもっと手強いぜっ!」 言うと同時にバンはABキャノンを連射し、エルが飛び退ったところに時速300km越えの速度でブレードアタックを仕掛ける。「シールド・ブレイク!」 着地すると同時にエルは前足の爪にEシールドを纏わせて、ブレードライガーのEシールドを叩く。 しかし、Eシールドにブレードの微少な振動で防御力を増加させているライガーのEシールドを破ることが出来ずにはじき飛ばされてしまう。「硬いな……どうやって崩すか……」「考えてる暇を与えるわけにはいかない!」 出力差を埋める方法を考えるエルに向かってバンが再びブレードアタックを仕掛ける。 先ほどよりもエネルギーを多く費やしているのかEシールドの具現化率が高い。「これなら、どうだっ!」 エルは半ば自棄気味に右の爪だけにEシールドを展開してブレードのシールドに叩きつける。 結果としてははじき飛ばされてしまったが今度はバンのEシールドにもひびが入っている。「……よし……感覚がつかめてきた」 言った矢先にバンが再びブレードアタックを仕掛けてくる。「これで終わりだ。シールドブレイク!」 右爪に全てのシールドエネルギーを集束させて、バンのブレード目がけて振り下ろす。 しかしその攻撃は当たることはなかった。「……?」 気が付いたときにはエルはバンの放ったABキャノンで吹き飛ばされる。「くはっ……」「もう、終わりか?」「まだだ……そう、まだだっ!」 エルは着地と同時に機体を走らせてバンのブレードに迫る。「これならどうだっ!」 エルが初めて仕掛ける攻勢。それで発動させたのは今レヴァンティが会得したと教えてくれた新能力。 すでにバンは目と鼻の先でEシールドを展開して待っている。「レーヴァテイン!」 エルが叫ぶと同時にレオブレイズの周囲に4本の真紅の刃が出現し、Eシールドを肉迫した。
エルのレオブレイズの両脇と両肩口に出現した計4本の真紅の刃はバンの展開したEシールドを完璧に切断し、コックピットの直前で止まっていた。「会得したみたいだな」 バンが言う。「はい、ありがとうございます」 エルはゆっくりと機体を後退させ、真紅の刃を消し去る。「これなら……リゼルにもレイブンにも勝てる……!」「いいな、最初にも言ったが勝つだけにしろよ」「はい」「よし、じゃあ、キャンプに戻って食事にするか?」「……そうします」 エルはキャンプに向かった。 その夜、「ねぇ、エル、こんな時間に抜け出すの?」「ああ、明日までいると足がつくかも知れない。なにしろホートレイと勘違いされている立場だからな……」「そうね……」「バンさん、フィーネさん、ジーク、ありがとうございました。ではもう二度と会わないように願っています」 そう言い残してエルはレオブレイズを走らせた。 ここから一番近くにある大都市、傭兵の街ブルーレイクシティへ。 それから半年後……。 かつてヒルツがデススティンガーを復活させた際に一番最初に消し飛ばされた街、イエローレイクシティ跡地付近の森に1機の紅いライトニングサイクスが息を潜めていた。「こちらサラマーナ少佐、黒烏と蒼い悪魔を補足、ウィンディーク大尉とノームズ中尉が追跡中、エルバート大佐ご指示を!」 二十代中盤の赤髪の男、サラマーナは少々興奮した感じで言い、返答を待つ。「よし、今から行く。1時間ほどで合流できるはずだ。全員手を出さないように」 そしてノイズ混じりの返答を聞くと、「了解です」 そう答えて追跡中の二人に打電する。「よし、シェイド中尉、ウィスプス大尉、俺達も追跡に行こう」 サラマーナが明るい声で言い、紅いライトニングサイクス……ライトニングサイクスSSが起動する。「承知……」 それを見て黒髪とそれに対照的な白い肌の男、シェイドが布のすれる音のようなかすかな声で言い、己の漆黒色のストームソーダーの羽を広げ、「おうっ!」 光る銀髪まぶしい褐色の肌をしたウィスプスがサラマーナより明るい声で応じ、銀色のライガーゼロがその機首をもたげた。「大佐達が来れば久々にエルバート隊が全員揃っての戦闘だな」「ああ、そうなれば怖い物無しだ」「俺達にかなう奴などあらず……」 それから数十分後、イエローレイクシティ跡地で戦闘の始まりを告げる爆煙が舞い上がった。「む……間に合わなかったか……。全員全速前進!」 爆煙を彼方から見たエルバートは渋い表情を浮かべて機体を急がせる。 その後方にジン中尉のブレードライガー、フェア中佐のジェノザウラー、アウラ少佐のディバイソン、ダーツ中尉のアイアンコングと続き、上空ではルネン中尉のサラマンダーが甲高い咆吼を上げる。 「フェア中佐、スクルディアスにも準備を」 全員がついてきていることを確認するとジェノザウラーのパイロットであるフェアに声をかける。「整っていますわ」 ジェノザウラーの背に乗り、優雅に金髪をはためかせる二十ばかりの女が答え、その横で黄色い小竜型のゾイドが小さく気乗りしなさそうに鳴く。「よし……これで戦力比は五分だな……これほど激しい戦いになるのは久しぶりだ、皆、心してかかれよ」『はっ』 部隊の面々が、フェアを除いて返事をする。「ウルデュリアス、お前も戦闘準備だ」 エルバートは返事を聞いて満足そうな声でライガーの背に乗る戦友に話しかける。 その緑色の小竜は力強く頷き、鋭い雄叫びを上げた。
どうも、ロストです。とりあえずテストが一段落しているのでこの辺で二部を切り上げたいと思います。ということで二部完です。第三部でけりを付けたいと思っていますが、もしかしたらもう一部増やすかも知れません。光輝さん、ご迷惑をおかけします。さて、第三部ですが、とりあえず勃発してしまったエルバート大佐チームVSレイブン&リーゼを度派手に飾っていきたいと思います。注目すべきは、・エルとレイとシェリアの親の誓い。・リゼルに付いたルキアナ(レミア)と彼女が操る灰色のオーガノイド。・メーベの動向。・怒りに狂ったレイの復讐の刃の矛先・リゼルの復讐はどうなるのか……。この辺ですかね?(言い過ぎではでは、この辺で失礼いたします。追伸……しばらく忙しいので次の投稿は夏休みにナルかも知れないです。光輝さん、申し訳ありません。
プロローグ 死闘の結末 シールドライガーのコックピットの中で一人の男が呟く。「……っく……【黒烏】レイヴン……奴は本物の化け物か……?」 戦いが始まってすでに2分。戦闘時間としては長いとは言え、たったそれだけの時間で彼、エルバート・メルトクライの部下十機のうち、分かっているだけでも三機、サラマーナのライトニングサイクス、ノームズのゴジュラス、ウィンディークのダークスパイナーがコックピットを破壊されて機能停止し、パイロットも生死不明、おそらく生きてはいないだろう。ジンのブレードライガーとウィスプのライガーゼロ、アウラのディバイソン、ダーツのアイアンコングもかなりの損傷があり戦力は半減している。 無事に残っているのはエルバート自身のシールドライガーDCS、フェアのジェノザウラー、ルネンのサラマンダー、シェイドのストームソーダだけである。「いや、今はそんなことを言っている場合ではないな。全員あと2分耐えきるのだっ!情報によれば奴のオーガノイドの合体限界時間は3分半だっ。ガーディアン・エレメンツの意地を見せろっ!」 それでも仲間を奮い立たせようと大音声で叫ぶとエルバートは果敢にレイヴンに突進していく。 彼の機体はオーガノイド・ウルデュリアスによって機体のポテンシャルを倍加させられており、またそのEシールド、大口径ビームキャノンの出力も本来の3倍から4倍にまで底上げされている。 合体限界時間は最長で一時間は持つので時間切れで負けると言うことは無いだろう。「大佐っ!無理しないで下さいっ!」 後ろからルネンのサラマンダーが追ってくる。 その間にもレイヴンとの距離はつまり、間合いを見計らってビームキャノンを放つと同時に飛び掛かる。そして唯一の逃げ場となる上空にはサラマンダーが火焔放射器と二連ツイストキャノンを構えて待っており逃げ道は無いように見えた。 しかし、レイヴンはアトラスの放ったビームキャノンをフリーラウンドシールドにEシールドを集中させて弾くと上空へと飛ぶ。 待ってましたとばかりに襲いかかったサラマンダーに弾かれたビームキャノンが直撃し、ゾイドコアを綺麗に撃ち抜かれて落下する。 さらにレイヴンは飛び掛かってきたエルバートの背をアンカークローで蹴り落とし、大地に叩きつける。「これでおわ……」「終わりだ」 レイヴンがエルバートにとどめを刺そうとしたその時、彼の言葉に女性の凛とした声がかぶり、光の奔流がレイヴンに迫る。先ほどからチャージを行っていたフェアの放った荷電粒子砲である。タイミングは完璧でこればかりはかわしようのない一撃であった。 直撃と同時に爆煙が膨れあがり、辺りにフリーラウンドシールドの残骸が散らばった。 次の瞬間、辺りに光が溢れた。
たいへん長らくお待たせしました。レジェンドブレイカーズ第三部、【結末に向かう夕暮れ】編を本日よりお送り致します。とは言っても……待っていて下さった方がいるかどうかは謎ですが……(ぇとりあえず今回も派手な戦闘で物語を彩っていきたいと思います!では、レジェブレの世界をお楽しみください。……光輝さんへ。二ヶ月以上ほったらかしにしていて申し訳ないです。夏休み中には仕上げたいとは思ってはいますが、多分無理なのでもしかしたら途中でとまってしまうかもです。すみません。 −−−雲が消える丘・ロスト−−−
「ハーケン・ベゼルギィ大佐、及びアトラス・ギルバーディア中佐、両名に残骸ゾイドを用い、共和国軍兵3名及び共和国軍機3機を殺害及び破壊した危険人物エルロイド・シックスバクトの追討を命じる。」 アトラスやレイ達がレイヴンに敗れて約半年後、怪我の完治したアトラスとその部下及び帝国からの援護部隊、、つまりハーケンとその部下に命じられた任務はエルの追討であった。「なお、第一目標は捕縛であるが抵抗する場合は……わかっているな?」『はっ』 アトラスとハーケンの声がかぶる。 彼らの後ろにはレイ、ミレニア、シェリア、ロック、ニーナの五人が直立不動で立っている。「では、行きたまえ。良い結果を期待しているよ。」 そう言ってドラゴンヘッド要塞総司令官ムヘクト・ビュラン大将は部屋を後にした。「さてと、アトラス。とりあえず礼は言っておく。お前のおかげでシュバルツ中将の後押しを受けて大佐にまで昇進させてもらえた。が、なんでお前が中佐に逆戻りしてるんだ?」 ドアが閉まるやいなや、ハーケンがアトラスに言う。「逆戻りした理由なんていちいち聞かないでくれよ。ちょっとミスをして部下をやられた。階級を落とされるには十分な理由だろう?それよりも急がなければな。この任務で一気に返り咲くつもりなんだから」 その台詞に対し、アトラスは平然と言う。「そうか。無駄な心配だったな。てっきり尻尾巻いて昇格を諦めたかと思ったが……。これでこそ手伝いに来たかいがあるという物だ。」 と言ってハーケンは司令室を出て行く。「まったく……いいやつなんだがときどき口が悪くて困る……。さて、全員格納庫へ向かうぞ。レイ、少し残れ」「ん?ああ」 ハーケンが扉の向こうに消えてしばらくしてからアトラスが言い、レイがそれに応じるや、ミレニア達は出ていく。「何だよ中佐?野郎同士で話しても楽しくないのはお互い様だろうが?」 レイが言うと、「今回の任務、誰がが死ぬかも知れない。その誰かに君の大切な人を入れたくないのなら……」「んなことわかってる。シェリアの奴が死ぬかも知れないってあんたは言いたいんだろ?けどな、あいつだって知らないとは言えオルンとクラミアの仇は討ちたいはずだ。行かせなきゃかわいそうだよ」「そうか……ならば何も言うまい」 そう言い残しアトラスは部屋を出て行った。 部屋にただ一人の残されたレイをスクリーンの蒼い光りが照らす。「……これで良かったんだよな?シェリア」 レイは一人で呟くと、アトラスの後を追って格納庫へと向かった。 この判断が正しいかどうか、今の彼にはまだ分かるはずもなかった。 レイが格納庫に着いたときそこは大騒ぎの真っ最中であった。 見れば、今さっき帰還したと思われる緑色のシールドライガーが床にはいつくばり、ゆっくりと石化している。 その横腹には大きな穴が開いており、そこから弱々しい脈動をするゾイドコアが見て取れる。 その横では右腕を失ったジェノザウラーが修理されており、そのパイロットと思われる若い女性が小型の恐竜型ゾイドと一緒によろよろと歩いている。 さらにその脇にはアイアンコングとストームソーダの頭部が転がっており、中から運び出された二人の男が緊急集中治療室に運ばれていった。「これは……一体……」 レイが呟くと、「エルバート大佐の部隊がレイヴンと交戦して帰ってきたらしいわ」 それに応じるかのようにシェリアが言う。「大佐は……エルバート大佐は無事なのか?」 レイが食って掛かるように言う。「そんなに慌てなくっても……大丈夫、無事よ。あれ?でもレイって大佐と知り合いだったっけ?」 レイの噛みつかんばかりの急接近にシェリアは多少驚きながらも言う。「いや、あの人は俺達の親の誓いを知ってるんだ……戻ってきたら教えてもらおうと思ったんだけどな……」「あの人もレイのお父さんの部下だったのね……」 理由を聞き、しみじみとシェリアが呟く。「会えると思うか?」「無理ね。私達は出発しないと」「そうだよなぁ……」「でも治療のためにしばらくはここから動かないでしょうし早く戻ってくれば会えるんじゃないかしら?」「それもそうだな。行こう」 そうレイが言い、二人は連れだって格納庫へと降り、自機に乗りこむとアトラスの指示を待つ。「二人とも来たか。よし、出発だ。目標は傭兵の街ブルーレイクシティ。ここからだと約一ヶ月ぐらいの街だ。各機出発」『了解』 アトラスの号令の下、レイ、シェリア、ミレニア、ロックは同時に返答し、機体を格納庫から躍り出させた。 かつての親友、エルを討つ戦いは今始まった。
「これで終わりだっ!」 紅いレオブレイズの爪がゴドスの脇腹を切り裂く。 レオブレイズが地に降りると同時に、ゴドスの脇腹は斜めに切り裂かれ、崩れ落ちる。「ふぅ、これで盗賊団ジャモン一味は一網打尽だな」 呟いた声はまだ若い少年の物であった。「そうね、これで800万共和国通貨ももらえるなんてちょっと悪い気もするけど……」 それに答えるのは同じく若い少女の物と思われる声。 そしてそれに続く小さなゾイドの咆吼。 彼らの背景に転がるのは全て足や武装、若しくはコアに損傷が出ないように破壊されたゾイドの残骸の群れであった。 ばらけているので正確な数は分からないが軽く20は居るだろう。「さてと、じゃあ電磁ネットで拘束して連れて帰れば良いんだよな?」「そうよ。あ、電流は弱に切り替えてから使ってね。じゃないと感電死しちゃうから」「うん、わかった」 と連れの少女の物騒な発言に対し、軽々しく答えた少年、エルはジャモン一味を片っ端から捕まえていく。 しばらくして電磁ネットの中に総勢23名の男がのびて捕まっている。 彼らは自分たちを捕まえにきたのがこんな子どもだとは知らないだろう。「じゃあ戻ろうか?換金もしたいし」 エルが言うと連れの少女エレが答える。「そうね、行きましょうブルーレイクシティへ」 こうしてエル達は最近本拠地としているブルーレイクシティへと向かい始めた。「なぁ、エレ。僕達は確か賞金首をとっつかまえてブルーレイクシティに向かってたんだよなぁ?」 エルがそうぼやいたのはブルーレイクシティのすぐ側まで来たときであった。「そうよ?」 そのぼやきに対し、エレが興味なさそうに言う。「じゃあ、なんで賞金稼ぎの団体様に囲まれて居るんだ?」「……私達の荷物に興味があるんじゃないの?」 今彼らを取り巻いている状況はお世辞にも良いとは言えなかった。 ジャモン一味を付け狙っていた賞金稼ぎの一団がその報奨金ほしさに襲いかかってきたのである。「さっさと報奨金に替えに行きたいのになぁ」「そうね」 敵機の数はおよそ40機。 さきほど壊滅させたジャモン団の約二倍。 しかも敵中にはそこそこ有名な賞金稼ぎもちらほら交じっていている。「けど、これなら久々にレヴァンティと合体しても厳しい戦いになりそうだ」 と、エルは少しうれしそうに言う。「行くよっ!レヴァンティィイイイイイっ!」 続けて発したエルの言葉にレオブレイズの背中に乗っていたオーガノイドのレヴァンティが飛び立ち、紅い槍となってレオブレイズに突き刺さる。 途端に機体の色が真紅に染まり、爪や牙の鋭さが増し、全体的な金属筋力部が一気に発達していく。 もちろん、賞金稼ぎ達も黙ってその変化を見ていたわけではない。 2機のステルスバイパーと3機のコマンドウルフが変化していくレオブレイズに飛び掛かっていく。 しかし、その攻勢も虚しく、一瞬にして脚や首を跳ねとばされて機能を停止してしまう。「危ない危ない……変化中を狙われるとやばいからな……」 そう呟いたときエルは最後のステルスバイパーの胴体をその鋭い爪で切り裂いたところだった。 その直後にステルスバイパーのことをかけらも考えていないようなゴルドスとレッドホーンの砲撃がエル目がけて降り注いだが、当然のごとくエルはそれらを宙に跳んでかわす。 だが、誤算があった。 爆煙の中に着地すると煙でセンサーが上手く機能せず、動くことを阻まれてしまう。 それを見計らったかのように突如4機のレブラプターがカウンターサイズや脚のストライククローを振りかざして跳びかかってくる。「やばいっ……レーヴァテイン発動っ!」 エルが叫ぶと同時にレオブレイズの周囲に4本の真紅のエネルギーブレードが展開される。 そしてそのブレードを展開したままエルはレブラプター目がけて跳ぶ。 何の手応えもなく4機のレブラプターは切り刻まれていた。「レーヴァテイン収納。次っ!」 着地すると同時にブレードを収納し、次の敵目がけて襲いかかる。 レーヴァテインはゾイドのエネルギーを著しく消耗するので持続しては使えない。 けれども、レーヴァテインがあろうと無かろうとエルの強さは変わることがなかった。「流石は【紅嵐】のエルだけの事はあるな……」 エルと賞金稼ぎ達が戦っている区域の一番端の方にいる二機のヘルディガンナーのパイロットの片割れが言う。「ははっ…そうでないと面白みが無いだろ?それよりG部隊に射撃準備をさせとかねぇとな」「ああ、こちらグリッセン。野郎共、準備は良いな?」「他の賞金稼ぎが全滅したら仕事開始だぜ?」 二人が交互に言った頃、戦地の砂煙が晴れた。「それじゃあ、行くかオドリュー」「おうよ、グリッセン」 二機のヘルディガンナーはゆっくりと歩み寄るレオブレイズに向き直った。
エルはほぼ全ての賞金稼ぎの機体を中破させて未だ無傷の二機のヘルディガンナーへと機体を歩ませていた。 残り数百メートルと言うところで強制通信が入る。「よぉ、【紅嵐】さん」 画面に映ったのはがっしりとした体格をしたひげ面の三十代の男であった。「……【紅嵐】というのは僕のことですか?」 紅嵐という呼び名に聞きをぼえがないエルとしては呆然と聞くしかない。「ぶはははっ!オドリュー、こいつ自分が情報屋でなんて噂されてるかも知らないらしいぜ?」 その問いに対し、さらに強制通信で帽子を深くかぶった、ひげ面の男よりも一回りほど年が若そうな男の顔がディスプレイに映し出される。「情報屋では情報を買って帰るだけですから。それにその呼び名も人が付けた物であって僕が付けたわけではありませんので、そんな名前を知ってても偉そうにしないでください」 帽子の男の挑発ともとれる言葉をエルはさらりと流し、逆に挑発する。「なんだとっ!てめぇぶっ殺されてぇのかっ!」 予測通り帽子の男は逆上して砲塔をこちらに向けるが、オドリューと呼ばれた男のヘルディガンナーがそれを制する。「やめろグリッセン。相棒が失礼した。【紅嵐】のエル、情報屋から聞いた限りではエル・バクトという名前らしいが……本名ではないのだろう?まぁ、どちらにしても君が【紅嵐】であることには変わりあるまい。【紅嵐】のエル、最近現れた書金稼ぎで弱冠十六歳程であるがすでに数十件の依頼を解決している……。そう言えば自己紹介がまだだったな、私達は……」「【砂潜】のオドリューさんと【砂殺】のグリッセンさんですね」 オドリューが自分たちのことを名乗ろうとするとエレが口を割ってはさむ。「お名前を聞いたので検索を書けてみました。経歴は見事ですね……。オドリューさんは賞金稼ぎ歴十四年の大ベテラン。獲得総賞金額は五億両国通貨を超えるとも言われている程の。グリッセンさんは賞金稼ぎ歴七年で密輸団オルディーノを一人で壊滅させたとか。お二人は約六年前から一緒に行動されていますね。そして二人とも特殊改造型のヘルディガンナーを使用……こんなところでしょうか?」 と、続けて淡々と二人について説明していく。「おう……嬢ちゃんの言うとおりだ。確かにその【砂潜】と【砂殺】のオドリューとグリッセンだ。」 少し惚けたような顔でオドリューが言う。「それで、お二人のような大物が僕のような新人に何かご用ですか?」「ま、簡単なこった。今連れている賞金首をそろって置いていってくれれば俺達は手出ししないぜ?」 エルが言うとグリッセンが応じる。「それは……無理ですね。僕たちもお金が必要なんです」「……残念なのだが【紅嵐】、君はそうせざる終えない状況なのだよ」 オドリューが言うと周囲の岩場から六機のガンスナイパーがこちらに背を向けてテイルスナイパーライフルをレオブレイズに向けている。「……罠ですか?」「そうだ。ちなみにあのガンスナイパーには全て特殊鉄鋼弾がセットされていて、背中のミサイルポッドには捕縛用合金製電磁ネットが装弾されている。逃げ道は無い。」 オドリューが淡々と言い放つ。「それでも、お断りします」「おいおい、状況がわかってねぇみたいだな?そっちのお嬢ちゃんはどうだい?頭の良いあんたならわかるだろ、その馬鹿を説得してはくれないか?」 エルのきっぱりとした否定にグリッセンが猫なで声でエレに向かって言う。「ええっと、すみません。私も馬鹿なのでお断りします」 エレがあっさりと即答した瞬間、レオブレイズが一気にガンスナイパーへと向かって駆ける。「ちぃっ!やっぱ説得なんて無駄だったじゃねえか、オドリューっ!」「仕方あるまい。ガンスナイパーは全機レオブレイズを撃てっ!くれぐれも背中の収納庫を破壊するなよっ!」 グリッセンが大声で吠えるように文句を言うがオドリューは何処吹く風と言った感じでガンスナイパーに指示を出す。 その間にエルは一機目のガンスナイパーの右脚を爪で叩き斬る。「まずは一機っ!次に近いのは何処だエレ!」「四時方向に二機居るわ。でも足場が悪くて最高スピードがでないから攻撃する前に敵の第一波が来るわよ!」「了解っ!」 エルはガンスナイパーが崩れ落ちるのと同時に後ろ右斜めに跳び、機体を加速させる。 前方にいる二機のガンスナイパーの尻尾がピンと張り、次の瞬間エルは機体を横にスライド移動させて特殊鉄鋼弾をかわす。 地面が砂漠と言うこともあり思ったよりスピードが出ていない。「これで三機っ!次は?」 そしてそのまま勢いに任せて二機のガンスナイパーを引き裂くと同時に聞く。「二時方向に一機っ!」 抜群のタイミングでエレが叫び、「わかった!」 エルが答えるのと同時にレヴァンティが咆える。 そしてバルカン砲を掃射しながらエルは射撃準備の出来ていないガンスナイパーに肉迫し、前足の爪で頭部を殴り飛ばす。 ガンスナイパーは首を直角に折り曲げて吹っ飛んでいく。「よしっ!後二機っ!」「エル、下よっ!」 エレが叫んだ瞬間、レオブレイズの足下の砂が動き出した。
それをかわせたのは全くの幸運以外の何物でもなかった。 戦闘に慣れた体の反射神経とレヴァンティの自動操縦が絶妙に合わさってギリギリでかわせた一撃であった。 なにしろ地面が突如へこみ、中からリニアレーザーガンが放たれるまでわずかに数瞬しか無かったのだ。「ふぅ……危なかった……」 エルが呟くとたった今リニアレーザーガンが飛び出してきた地面からヘルディガンナーが現れる。「へへっ……惜しかったなぁ。けどな、【紅嵐】さんよ、ここが砂漠である限り俺達には勝てないぜぇ?」 グリッセンが勝ち誇ったように言う。 後方からは同じようにオドリューと思われるヘルディガンナーが這い出てきている。「そんなことわからないよ。例えば今みたいにあなた達が油断している時ならっ!」 そう言い放つよりも早く、エルはグリッセンのヘルディガンナーに跳びかかる。 しかし一瞬早くグリッセンは砂の中に潜ってしまっていた。「危ない危ない……全く油断も隙もねぇ奴だな」 地下から強制通信で話しかけてくる。 確かに居場所は分かるのだが……。「エル君、君の武装では砂の中にいる私達には傷を負わせることは出来まい」 オドリューの言うとおり火力に欠けるエルのレオブレイズの武装では地下にいる二人には手が出せない。「くっ……」「エル、避けてっ!」 エルが呻いたところに二発の特殊鉄鋼弾が唸りを上げて迫ってくる。「Eシールド展開っ!」 咄嗟の判断で回避が間に合わないことを悟ったエルは慌ててEシールドを展開する。 二発の特殊鉄鋼弾はEシールドに浅く食い込んで止まった。「先にあっちのガンスナイパーを叩こうっ!」 エルはそう言って駆け出す。 だが、ほんの数秒走ったところで、「来るわっ!」「回避っ……って、うわっ!」 エレが叫び慌ててスライド移動でかわそうとするが、横に動いた先の足下に突如ヘルディガンナーの尻尾が現れ、足払いを掛けられてレオブレイズは転倒する。 慌てて立ち上がって再び走り出すと今度は捕獲用電磁ネット弾が上空から降り注ぐ。「あれに捕まるとまずいな……レヴァンティ、出力全開っ!」 エルが言うと真紅の機体がより一層輝きを増し、機体のポテンシャルが一気に跳ね上がる。 次の瞬間にはエルは一機のガンスナイパーのもとにたどり着き、その左足を薙いでいた。「あと一機っ!」 エルが声高に叫ぶと同時に特殊鉄鋼弾が再び襲い来る「それはもう見切った」 呟くと同時に機体を軽く揺らしてその一撃を流す。 そして最後の一機へと距離を詰めていく。「思ってたよりかやるじゃねぇか、【紅嵐】のエル!けどなこいつでケリを付けてやるよっ!行くぞ相棒っ」 途中で強制通信でグリッセンから一方的に告げられ、『クロス・ヘル・アンド・へヴンっ!』 オドリューとグリッセンの声が重なって聞こえたかと思うと、いきなり正面からリニアレーザーガンと一緒にヘルディガンナーが跳びかかってくる。 エルは慌てて機体を止めて身をかがめてその一撃をかわすが、直後に下から突き上げられるような感覚と共に、レオブレイズは宙を舞っていた。 激しく吹き飛ばされたレオブレイズは二転三転してようやく砂漠の上に横たわって動きを止める。「……っ……」 エルは薄暗くなったコックピットの中でなんとか意識を保っていた。 コックピットの中は薄暗く、ところどころスパークを起こしている。 あれほどの衝撃なのだからエレはおそらく気絶しているであろう。「さてと、そろそろ降参してくれないかな?【紅嵐】のエル。今の一撃でコンバットシステムは落ちてるはずだ。落ちてないにしてもガンスナイパーがお前をロックオンしている。もはやこれまでだ」 二機のヘルディガンナーが百メートルほどの距離まで近づいてオドリューが言ってくる。「誰が……誰が降参するか……」「お、まだ意識があったか。嬉しいなぁ。あのクロス・ヘル・アンド・へヴンをくらって意識を保ってた奴はお前さんで四人目だぜ」 弱々しいエルの声にグリッセンがにやけた声で言う。「機体も動かず、勝機も無いに等しい。それでもまだ諦めないというのか……?」「諦められるわけないだろ……もっと強い奴が待ってるんだから……」 呆れるようにオドリューが言うとエルは弱々しくもはっきりとした声で言う。「そうか、残念だな。ならば後腐れのない用に始末するしかあるまい」「レヴァンティ、いけるか?」 エルは小さく問う。しかし返事は返ってこない。おそらくレオブレイズの機能停止のショックで気を失ってしまったのだろう。「絶対絶命……か……」小さくエルが呟き、「撃て」オドリューが冷たく言い放った。 エルは最後の最後まで機体を動かそうと必死になっていたが無理だった。 そして、レオブレイズと特殊鉄鋼弾の間に一機の機影が躍り込んだ。
覚悟した瞬間、死の足音はいつまで経ってもエルの元を訪れなかった。「まったく、オドリュー、グリッセン、あなた達は仕事もろくに選ばないで賞金稼ぎをやってるって言うの?」 レオブレイズと特殊鉄鋼弾の間に割って入った夕焼け色のグスタフのコックピットの上に乗ったラフなショートパンツをはき、黒いアンダーシャツの上に革のジャケットを羽織った美女がオドリューとグリッセンに向かって叫んでいる。「げっ……アンタは……」女の声を聞いたグリッセンが嫌そうな声を出す。エルはその声に聞き覚えがある気がした。「なによ?私に会えたのがよほど嬉しいみたいね」 平然と女は言う。「違うっつのっ!アンタこそこんなところで何やってんだよっ!」「運搬屋の護衛に決まってるじゃない?目が悪くなったのかしら?」 グリッセンは完璧に怒鳴るが女は静かに言う。「あのさぁ、俺のグスタフの装甲が軽チタニウム合金だったから良いものの普通のグスタフだったら装甲貫かれてたぜ?第一運搬屋の護衛が運搬屋の機体を盾に使うなよな」 その発言を聞いてグスタフのパイロットらしき男が文句を言う。「五月蠅いわねぇ……良いじゃないの結果として傷は付いていないんだし……」 女はそんなことどうでもいいと言った口調で言う。「あ、あの……」「ま、そうだから良いんだけどな」 エルが声をかけようとするが、男の声と重なってしまい聞こえていない。「じゃあ、良いわね。どっちしても複数で一人を追い回すなんて格好悪いからやめなさいよ?いいわね、グリッセン」「へぇへぇ、わかりやしたよ」 ぐったりとした感じのグリッセンが答える。「あの、スヴァイスさん、サークさん?」 タイミングを見計らってエルが言うと、「ふふ、久しぶりねエル君。元気にしてた……って感じじゃないわね。とりあえず街まで行きましょう。サーク、乗せてあげて」 スヴァイスと呼ばれた女がにっこりと微笑んでそう言い、「あいよ」 サークと呼ばれた男がそう言ってトラクタービームとワイヤークレーンを起動させた。 数時間後、ブルーレイクシティ。「へぇ……私達と別れた後そんなことがあったの……」スヴァイスがポツリと言い、「そりゃ大変だったな……仇にボコられて、昔の友だちにまで追っかけられて……」 サークも哀れむような口調で言ってくる。 エルとエレは今、酒場の隅の一席にスヴァイス達と共に陣取って二人と別れた後のことを話していた。「そうか……それで仇を倒すために強い相手と戦って己を磨いていたのか……」 何故か同席しているオドリューが呟くように言い、「しっかしまぁ、エルも大変だな、仇はリーゼとレイヴン。おまけにリーゼの弟につきまとわれて、育ての親も敵方なんてなぁ……」 同じく何故か同席しているグリッセンが同意する。「で、これからどうするんだい?」「資金も集まったのでそろそろ本格的にリーゼを探そうと思ってます」 スヴァイスに問われたエルはそう言う。「リゼルって奴の方は放っておくのか?」「リゼルは……多分あちらから仕掛けてくるでしょう……」 サークの問いにはエレが答える。「けどよぉ、相手はあのレイヴンだろ?正直相手が悪いぜ。それにしても公式記録だとレイヴンとリーゼは死んだってコトになってたよな?」「それは世間への隠蔽だ。よくあることだろうが」 ぼやくグリッセンにオドリューが言う。「確かにグリッセンの言うとおり相手が悪いのは確かだね……。よし、中佐からの恩もあるし私も協力するよ。グリッセンとオドリューのおまけ付きで」「おいっ!おまけって何だよ」「おまけはおまけだ。」 怒るグリッセンに冷たく言い放つ。「悪いが私はおまけになるつもりはない」 そのやりとりを聞いていたオドリューが厳かに言う。「そうかい、アンタの手助けが得られないのは正直痛いね……」 少々苦々しい表情になってスヴァイスが言うと、「そうではない。私も一個人として彼の運命の行き先を見てみたくなった」「それじゃあ来てくれるのかい?」 オドリューの物言いに嬉しそうな顔つきになったスヴァイスが言い、「もちろんだ」 オドリューがそう答えた。「ま、オドリューが行くって言うなら俺も行くぜ。その女は気にいらねぇけどな」 とグリッセンが言う。「オドリューさん、グリッセンさん……」「どうした?」「ん?なんだ?」「その、ありがとうございます」 そう言ってエルが頭を下げる。「気にすんなって」 それを見てグリッセンは軽く微笑み、そう言った。 その時、一人の男が店に駆け込んできた。「大変だっ!共和国と帝国の共同部隊が軍人殺害犯を追ってこの街に来たっ!」 エル達はそれを聞いて勢いよく立ち上がった。
「本当に、本当にこの街にエルが居るんだな?アトラス中佐」 ライガーゼロのパイロット、レイがアトラスに問う。「ああ、情報ではそうなっている。他にも連続殺人犯ジェミ・ホン、爆弾魔オフ・レコーヌ、【死翼】エッジ・ロッドエルなども潜伏しているらしいが、一番の大物は軍人殺し、傭兵仲間での呼び名は【紅嵐】となっているエルロイド・シックスバクトだ」「レイ、本当にエルを捕まえるの?」 アトラスの答えを聞いたシェリアが聞いてくる。「ああ、正当防衛とはいえ軍人を殺してるからな……。一応捕らえておかないと。それに上手くいけば俺達の仲間になるかも知れないぜ?シェリア」「そうね、そうすればまた昔の仲間で……」 そこまで言って思いだしたのだろう、シェリアは口を噤む。「シェリア、今は思い出すな。悲しむのは後でだってできるんだからな」「うん……」 そこにレイが優しい言葉をかける。「ほぉ、ずいぶんと気の回る男になったなレイ少尉」「うるせーよっ!」 茶化すアトラスにレイは食って掛かる。「さてと、では任務と行こうか。ハーケン大佐、投降の連絡をお願いしますよ」 それを無視してアトラスはハーケンに言い、「ああ、そうしよう。ニーナ任せたぞ」「はい」 ハーケンは部下のニーナ中尉に指示を出す。 ニーナのレドラーBCと彼女率いる四機のレドラーはブルーレイクシティの上空まで飛び、スピーカーを使って投降を呼びかける。「投降してくると思うか?アトラス」「それはないだろうな」「そうだな。あの少年なら……」 ハーケンがそこまで言った時に異変は起きた。 突如宙を舞っていた一機のレドラーが胴体を半分に薙がれて墜落したのだ。「今のは……まさかっ!」 叫ぶハーケンの問いに答えるかのように一機の漆黒のゾイドが宙に現れた。 細いしなやかな機体を完璧な漆黒で塗りつぶした翼竜。ストームソーダだ。「くそっ……本命よりも先に【死翼】が出てしまったようだな……ロック少尉、フルバーストの準備を」 アトラスが苦々しい表情で指示を出す。ハーケンも周囲の基地に援軍を要請する。「了解っ!」 ロックがガンスナイパーウィーゼルユニットのフルバーストの準備をすると同時に再び上空で異常が起きた。 さらにレドラーが二機撃墜されたのだ。 そして空には明らかな小口径レーザーの残像が残っている。「きゃっほーっ!ルキアナとうじょーっ♪エッジ・ロッドエルさんですねぇ?座標をおくりまーす。」 その場にそぐわないやけに明るい声と共に現れたのは完璧な竜そのものの形をした灰色の機体であった。「ああ、そうだが、アンタは?」 エッジと呼ばれた男が問うと、「リゼル様のご命令でお迎えにあがりましたー。一緒に行きましょうっ♪あ、そこライガーのパイロットさん、お兄ちゃんの上司さんだよね?兄がお世話になってました。この前は鉄爪で切り刻もうとしてごめんなさいっ!でもってレイ、シェリア元気だったぁ?」 飛び抜けて明るい少女の声はそこまで一気にまくし立てた。「その声……」 レイには忘れることの出来ない声であった。 知らなかったとは言え実の兄に殺された少女。 かつての自分の仲間。「レミアっ!お前何やってんだよ!」「あ、レイ覚えていてくれたんだー。きゃー感激ーっ♪でも残念。私はもうレミアじゃないよルキアナだよーだっ!」 レイの怒声に対しても昔ならば縮こまっていたレミアが平然と言ってくる。「ちょっとレイ……レミアは死んだんじゃあ……」 恐る恐る言うシェリアに対し、「そぉーよぉーレミアは死んじゃってルキアナになったの。だぁいすきなリゼル様の元でメーベに治療してもらって助かったの。しかも今じゃあオーガノイド使いよぉ!あ、そうだ昔のなじみでオーガノイドの力を見せてあげるよぉ」 そう言ってルキアナは大きく息を吸い込む。「ヴェェェルダニティィィイイイイイっ!」 彼女が叫んだ瞬間、彼女の機体の上に乗っていた小さな恐竜型ゾイドが跳び上がり、灰色の矢と化して彼女の機体に突き刺さる。 見た目には特に大きな変化は見られないが、圧迫感が先ほどとはまるでちがう。「へっへぇー。それじゃあ力をみせちゃいまーすっ!」 明るい声で言いはなった後、フェニックスの物と思われる翼に内蔵された小口径レーサー砲にエネルギーがチャージされていき、「はっしゃぁっ♪」 彼女がそう言った瞬間、溢れ出すように光の奔流がブルーレイクシティの町並みに突き刺さる。その上、何故か四方八方に打ち出されたはずのレーザーは全て途中で屈折して全てブルーレイクシティに降り注いだ。 一発一発が小型の荷電粒子砲並みの威力を持った光の奔流が42本降り注いだブルーレイクシティは、完璧に阿鼻叫喚の巣窟、若しくは死の街と化していた。「どお?すごいでしょ」 ルキアナの自慢げな声だけが後に響いた。
「てめぇっ!レミアっ!なんてことしやがるんだっ!」「レミアっ!あそこにはエルとエレが居るのよっ!」 レイとシェリアが同時に叫ぶ。「そーんなに怒らなくってもだいじょーぶだって。エル達はとっくに逃げてるから」「どういう意味だ?ルキアナ君」 アトラスが問う。「この街の地下通路を使ってとぉーっくにブルーレイクの向こう側にいるんだよ?知らなかったの?」 嬉しそうにルキアナは言う。「そうか、貴重な情報をありがとう。ハーケン、行くぞ」「あ、ああ」 釈然としないハーケンを引っ張るようにアトラスがそう言って背を向けると、後方にいるルキアナが放った一撃が何故か彼の正面から襲いかかってきた。「……なっ……今、何をした」 アトラスがゆっくりとルキアナの方を振り向いて言う。「えっへへぇ、ちょっと空間をゆがめてレーザーを屈折させただけだよ。これがオーガノイド、ヴェルダニティの第二能力、空間屈折。第一能力はさっきのレーザー兵器の火力増加だよ。」「ずいぶんと気前よく教えてくれるな」「うん、殺す相手への手向けとしてそれくらい教えてやるのが当然だってリゼル様が言ってたからぁ。あ、エッジさぁん、この人達を始末するのを手伝ってくれませんかぁ?」「……かまわないが?」「じゃあ、いきましょーう♪」 瞬間、ルキアナの機体が加速し、さらに一機のレドラーが撃墜され、残る飛行ゾイドはニーナのレドラーBCのみとなってしまう。「馬鹿が……本当にこの少数が私達の全軍だと思っているのかっ!」 ハーケンが叫ぶと同時に彼のセイバータイガーBCS(ビームキャノンスペシャル)の後方から重装備のブラックレドラーが15機、ストームソーダが4機応援として駆けつけていた。「アトラスっ、ここは私とニーナと援軍で抑える。お前達はエルロイドを追えっ!」「ハーケン……わかった、この場は任せるっ!」 そう言ってアトラスは機体をブルーレイクに向かって走らせ始める。「ああ、それでこそお前だ」 ハーケンが小さく呟くと、「絶対に死ぬなよ、お前が死んだら酒を飲む仲間がいなくなってつまらん」「わかっている。むざむざ死ぬ気はない」 と互いに生き残ることを誓い合って二人の部隊は別れた。「さて、と。ニーナ中尉、先に【死翼】を落とす。援護をするから隙を見て打ち抜け」「了解です、大佐」 そして、死闘が始まった。「いーやっほぉうっ♪」 甲高い叫び声と共に放たれた十数条の光の筋が編隊を組んで飛んできたブラックレドラーを捕らえ、4機があっという間に爆炎にのまれて大地へと落ちていく。「……墜ちろ」 エッジが呟くと同時にその黒い機体が霞み、次に彼の機体が現れた時には3機のブラックレドラーが切断されて墜落していった。「つぉいですねぇー♪エッジさん♪」「それなりだ」「もぉー謙遜家さんなんですねぇーかっこいいですよぉー」 無口なエッジと騒がしいルキアナの抜群のコンビネーションで次々とブラックレドラーが撃墜されていく。「敵機のポテンシャルもパイロットの腕も桁外れだな……ニーナ中尉、例の策を実行する」「了解」 ハーケンの指示に待ってましたとばかりにニーナは地表すれすれまで降りるとエッジの機体の真下から一気に距離を詰めて昇っていく。 そしてそれに合わせてハーケンがセイバータイガーの背に背負ったビームキャノンを連続で発砲する。 エッジは多少驚いたそぶりを見せつつもビームキャノンの砲撃を片っ端からかわしていく。だがその回避行動の激しさ故に真下から迫るニーナには当然目もくれていない。「もらったぁぁああっ!」 ニーナが勝利の咆吼を上げ、背中の二門のビームキャノンを放つ。「しまっ……」 その一撃をハーケンの攻撃をかわしきった直後のエッジがかわせるはずもなく、二条の閃光はエッジの機体に迫り、直前で左右に分かれてはじけ飛び、コースを変えてニーナの機体へと迫る。「くぅっ!」 ニーナはそれを機体をひねらせて回避するが、ブースターとビームキャノン一門を破壊されてしまう。「中尉っ!」「まだやられるわけにはいきませんっ!」 それでも残ったブースターを最大限に発揮しエッジのストームソーダの左足を切断翼で切り裂きそのまま落下していく。 落下の途中で味方のストームソーダに助けられ、地表へと彼女は降ろされた。 一方脚を切り落とされてバランスよく飛べないストームソーダにハーケンの砲撃が迫るが、それは途中でことごとく方向をねじ曲げられて直撃することはない。「エッジさん、無事ですかぁ?とりあえずはリゼル様のとこまで引き返しましょう♪」 いつのまにやらエッジの後ろに回り込んだルキアナは彼の機体を抱えて高速で飛んだ。「ストームソーダ三機は奴を追跡!残りの機は基地に行って人手を借り出してこいっ!」 ハーケンが叫ぶ頃にはルキアナは遙か彼方まで飛び去っていた。
「前方にレオブレイズの機影を確認。他に2機のゾイドが同行している模様です」 ミレニアの事務的な報告がアトラスの元に届く。「了解。残りの二機の機種は?」「サーベルタイガーとグスタフです」「珍しい組み合わせだが多分奴の商売仲間だろう。ミレニア中尉、レイ少尉、シェリア少尉、少々飛ばすぞ付いてこいっ!」 アトラスはそう言ってブレードライガーのアタックブースターの出力を上げる。 レイもイオンブースターの出力を上昇させ、ミレニアとシェリアもそれぞれ特注のブースターを起動させて速度を上昇させる。「私達で足止めをする。ロック少尉はある程度距離を置いて射撃体勢を取っておいてくれ。」 一人最高速度の遅いロックにそう言い残し、アトラス達はぐんぐんと速度を上げていった。「しっかし危なかったなぁ……」 グスタフのコックピットに座る男、サークがぼやく。「まったくよね……軍からの勧告があってわずか数分で街に砲撃が来るなんて……」 蒼いサーベルタイガーを駆るスヴァイスも信じられないといった表情をしている。「あの地下通路が無ければやられてましたね……」 エレが小さく言い、「街の人達に悪いことをしてしまったな……」 エルが呟く。「エル君、悪いのは貴方じゃなくて軍よ?気にしなくて良いわ」「でも、僕のせいで……」「貴方は軍人を殺したの?」「殺しては、いません」 ゆっくりと小さな、しかしはっきりとした声でエルは言う。「じゃあそれが真実よ。貴方は殺してない。」「……でも……」「でもも何も無しよ」「はい……」「スヴァイスさん、私達は何処へ向かうんですか?」 エレが聞くと、「とりあえず廃墟になってるイエローレイクシティ跡地ね。あそこなら身を隠すにも最適だし……」「スヴァイス、やばいぜ?追っ手だ」 サークが叫ぶ。「もう来たの?予想外ね。応戦するわよ?」 そう言ってスヴァイスが機体を走らせるのをやめ、後方を見据える。「はい」「あいよっと」 エルとサークの機体も足を止めて同じように振り向いた。 砂煙を上げて迫ってくる4機のゾイドが見えてきた。「前方の機体が反転した。全機戦闘態勢っ!」 アトラスは叫ぶと同時にブレードライガーのブレードを展開し、速度をさらに上げていく。「中佐、単機突撃は危険ですっ!」 その後ろからミレニアとシェリアが続く。「……待ってろよ、エル。オルンとクラミアの仇は……討たせてもらうぜ?」 レイはいつもとうって変わって静かな声で呟き、最後にアトラスを追って加速していった。「はぁぁあぁぁああああっ!」 アトラスはブレードを展開したままエルのレオブレイズに跳びかかる。「くっ!」 エルはその一撃を後方に跳んでかわすがアトラスはすぐさま追撃を開始するが、「なっ……ぐはぁっ……」 横からグスタフの重い一撃をくらって彼のブレードライガーは吹き飛ばされる。「へへっ、どーだこのサーク様のシェル・アタックの威力はっ!」「ただ単に補助ブースターを前回にして加速した上での体当たりでしょうが……威張る程の事じゃないでしょうに……」 吠えるサークにスヴァイスが冷静に突っ込む。「とにかく、こいつらを止める……って……おい、スヴァイス、こいつら……」「ん?どうしたって言うの……よ……?」「っ……?君たちはあの時の運び屋か?何故エルロイドに荷担する?」 起きあがったアトラスが言う。「あたしはあの子の親父さんに恩があってね。でもってこの男はあたしの下僕だからよ」「誰が下僕だよ……」 きっぱりと言い切るスヴァイスにサークが小さな声で呟く。「そうか……助けてもらった恩があるので君たちと戦いたくはないのだが……」「ここで見逃してくれる……って訳にはいかないわよねぇ?」 スヴァイスはニヤニヤしながら言う。「残念だが、無理だな。私にも任務がある。」 アトラスの周囲に3機の機体が寄り添うように現れ、彼が言い切ると、「じゃあ、戦ってそこらにのびてもらうしか無いわね」「三機で何が出来る?数の上ではこちらが有利だ」「それはどうだか?今よ、グリッセン、オドリューっ!」「まだ仲間がいたのか……っ!」 スヴァイスの発言にアトラスが声を上げた瞬間、彼らの両側に砂柱が舞い上がった。
「ちぃっ!」 アトラスは咄嗟の判断でブースターを逆噴射して後方に跳ぶ。 他の三機もかろうじて両サイドからの攻撃をかわすことに成功した。「惜しいな……」「へ、たまには強い相手とやらねぇとなぁ!」 砂の上に着地した二機のヘルディガンナーのパイロット、オドリューとグリッセンの二人がそれぞれ言う。「さぁて、中佐さん。数の上ではこちらが有利ね?」 スヴァイスが言うと同時にシェリアから連絡が入る。「中佐、この二人賞金稼ぎ兼賞金首のオドリューとグリッセン……【砂潜】と【砂殺】です!」「二人ともそこそこの乗り手と言うことか……よし、レイ、お前にエルロイドは任せる。私があのサーベルとグスタフを抑える。ミレニア中尉とシェリア少尉であの賞金首を捕縛しろっ!」「了解」「了解です」「わかった」 アトラスが叫ぶと同時に4機は展開し、それぞれの相手を見据える。 激しい戦いが始まった。「へっへっへっ……あの司令官もいい人だなぁ?オドリュー。女の子が相手だとよ」「舐められているわけではなさそうだな。二人ともなかなかの乗り手だ」「わかってるって。だからこそ、倒しがいも屈服させるかいもあるってもんよ」 グリッセンとオドリューが交互に言い、ミレニアとシェリアに少しずつ迫る。「行くわよ、シェリア少尉」「了解です、ミレニア中尉」 一方、ミレニアとシェリアの二人は言葉数少なくこちらもゆっくりと相手に近寄っていく。「行くぜっ!」 オドリューとグリッセンが大きく跳ねて砂漠の中へと消える。「な……あの二人は何処に……」 ミレニアがセンサーにも映らない二機の機影を必死に探していると、「……ここだ」 真下から声がかかり、彼女のシャドーフォックスは下からの体当たりをかわせずに吹き飛ばされる。「中尉っ!」 シェリアがそれを見て声を上げるが、「嬢ちゃんの相手はこっちだぜぇ?」 どこからとも無くグリッセンの声が響き、左側から飛び出してきたグリッセンの体当たりを受けてシェリアのケーニッヒも体勢を崩す。 しかし、彼女は奇跡的な操縦テクで機体のバランスを持ち直させ、ヘルディガンナーの尻尾を右前足で踏みつけて大地に押さえつける。「これで……どうよ?」「へへへ……こうだな」 シェリアが言うとグリッセンが笑いながら言い、直後にヘルディガンナーの尻尾が切れる。「蜥蜴の尻尾切りだぜ?覚えておきな。あばよ」 そう言ってヘルディガンナーは地中に消える。 その時シェリアの耳に入ったのはピ、ピ、ピ、と言う電子音。「まさかっ!」 シェリアは慌てて飛び退るも、爆発を回避するには間に合わず、強烈な熱と衝撃が彼女の機体を襲う。「痛いわね……」 数秒後、吹き飛ばされた先で彼女は何とか機体を起きあがらせて状況を判断しようとする。右前足の爪は粉々に砕け、脚自体も損傷している。コックピットもキャノピー式であったら助からなかったであろう。 直後に二度目の爆発音。その場所は……。「ミレニア中尉っ……!」 そう、ミレニア中尉のシャドーフォックスが居た場所であった。「へっへっへっ……嬢ちゃんの上官さんも同じ事しようとして失敗したみたいだな」 その音を聞いてグリッセンが笑う。「さて、二人掛かりで片付けるとするか」「お、来たな。じゃあ、行くか」 それを境に二人からの強制通信がぱたりと止む。 しばらく無音が続き、突如後方で爆音が響く。 シェリアはその音に反応して振り返ってしまった瞬間、それが罠であることに気付いた。 直後に両サイドから二機のヘルディガンナーが飛び出してくる。「なっ……」 二機のヘルディガンナーはそれぞれシェリアの機体の右前足の肩部装甲と左後ろ足に体当たりを仕掛けてくる。 かわす術もなくシェリアはその一撃を受け、体を回転させて右回転させて宙を舞う。 直後にビームガトリング砲の発砲音が響き、二機のヘルディガンナーは地に潜ることなく大地に叩きつけられる。「有名な賞金首の割には油断し過ぎね……。こちらミレニア、二機を確保。シェリア少尉、無事?」 そしてシェリアに通信が入る。「こ、こちらシェリア。無事です。お怪我はありませんか?中尉」「大丈夫よ。さっきの爆発を隠れ蓑に超光学迷彩を使ったの。連絡無しに囮を引き受けてもらっちゃってごめんなさいね」「いえ、大丈夫です」 ミレニアの発言にぶすっとした感じでシェリアが答えた。
「レイ……」 エルは目の前に立ちふさがるライガーゼロを見据えてぽつりと呟いた。「エル……いや、エルロイド。お前はオルンとクラミアを殺したなっ!」 レイは深い怒りのこもった声で叫ぶ。「……! 僕があの二人を? 違う、僕は確かにあの二人を倒したけど、ゾイドの機能を停止させただけで殺してはいない!」 その言葉にエルは必死に弁明するが、「嘘をつくなっ!二人ともコックピットごと切断されて死んでいたっ」「……なんだって……?」 レイの言葉に信じられないといった表情で呟く。「だぁぁああああっ!うるせぇっ!てめぇが殺ったんだろうがっ!しらばっくれんなっ!」「だからレイ、僕は……」「本当よ、エルはあの二人を殺してはいないわ」 怒り狂うレイにエレが口を挟むが、「五月蠅いっ!ヒルツの妹の言うことなんか信じられるかっ!」「レイっ!エレはエレだ、誰の妹かなんて問題じゃないっ!」 結果としては二人の諍いの火に油を注いでしまっただけであった。「話を変えるなっ!とにかくこの場でお前を倒すっ!」 レイは叫ぶと同時にライガーゼロのイオンブースターを全開にして跳びかかる。「レイっ……っく……」 エルは悲痛な声を上げながらもレイの一撃をかわす。 レイは攻撃がかわされると同時に同じようにエルに跳びかかる。 エルは再び後方に跳んでかわそうとするが、直後にレイが二連衝撃砲を放つ。 そしてレイはその反動で着地地点を微妙にずらし、そこから再度エルに向かって跳びかかっていく。 エルはその一撃を回避できないと悟ると同時にEシールドを展開して防ぐが、同じくEシールドを展開したレイのライガーゼロの突撃をくらい、質量差で吹き飛ばされてしまう。「く……ぅ……」 エルは二転三転して何とか止まった機体を立ち上がらせるとレイの方に向き直る。「エル、悪いんだけどな、俺はいつまでも昔のお前の知っているお前よりも弱いレイじゃないんだよっ!」 するとレイがエルに向かって叫び、再び砲撃と格闘攻撃を織り交ぜた猛攻を仕掛けてくる。「やばい……」 エルはぼやくように言うとスモークディスチャージャーを発動させて辺りを煙で覆い隠す。 そして距離を取りつつも、「レヴァンティィィイイイっ!」 オーガノイド・レヴァンティを呼び、合体する。 彼のレオブレイズの紅い装甲は真紅に染まり、爪や牙がより一層鋭く変化し、金属筋力部も大幅に強化される。「それが本気か……。エル」 煙が晴れると正面にレイが立っていた。「じゃあ、遠慮無くやらせてもらうぜっ!」 レイはそう叫ぶと同時にまたしても暴風と化す。 しかし、その激しい攻撃もレヴァンティと合体したエルにはゆっくりとした流れでしかなかった。 エルはその砲撃や振り下ろされる爪や牙の一撃一撃をことごとく見切り、一旦後方に跳んだ後、一気に距離を詰める。「シールド展開っ!」 レイが叫ぶと同時に、「シールド・ブレイクっ!」 エルはレオブレイズの爪にシールドを集中させてレイのライガーに振り下ろす。 その一撃はレイの張ったEシールドを突き破り、ライガーゼロの左肩の装甲を切り裂くが、迷いのあったその一撃ではそれ以上の傷を付けることが出来ず、逆に再展開されたEシールドに吹き飛ばされてしまう。「……エル、やっぱりお前は俺を舐めてるのか?俺が弱いと思ってそんな生ぬるい技しか使わないのか……?」 レイが呟くように言ってくる。彼の機体、ライガーゼロはゆっくりと近づいてきている。「……っ……ちが……」「ちがわねぇっ!お前は俺が弱いと思ってる。そうなんだろっ!?」 ほとんど半泣きになってレイが叫ぶ。「レイ……」 エルはそんな親友をぼーっとした目で見ながら呟く。「だがな、エル。お前は手を抜きすぎたんだよ。だから俺は勝つ……!」 そう言ってレイはエルにとどめを刺すために爪にエネルギーを送り、飛び上がり、横から吹っ飛んできたアトラスのブレードライガーと共に吹き飛ばされた。「え……」「エルっ!急げ、逃げるぞ!スヴァイスがやられてグリッセンとオドリューも捕まった!離脱するぞっ!」 ぼけっとするエルにサークが怒鳴る。そのトレーラーにはサーベルタイガーが転がっている。「あ、はい」 エルは返事をすると慌ててグスタフの後方にあるトレーラーに乗る。 直後にジェットブースターが起動しサークのグスタフは猛スピードでその場から離脱した。「待てっ!逃げるなっ!エルゥゥウウウっ!」 後にはレイの怒り狂った叫び声だけが残った……。
「アトラス・ギルバーティア中佐、今回の軍賞金首八名の捕縛、及び、新たなる危険人物三名とその情報を入手、さらには崩壊したブルーレイクシティの住民の離脱の手助けを行った栄誉を讃え、二階級特進を命じ、今ここに准将の位を与える」 アトラス達がエル達と交戦してから一ヶ月半後、アトラスは軍の昇進式に参加していた。 彼とその部下である四名も彼と共に昇進し、それだけでなく最近昇進したばかりのハーケンを除くブルーレイクシティ壊滅に関わった全ての生還した軍人は昇格していた。「口封じってやつか……」 その昇進式に参列している軍人のちょうど真ん中より少し前の方に並んでいるレイはぽつりと呟いた。「レイ、静かに」 その横からシェリアが口元に人差し指をあてて言う。 この二人とロックも今回の事件で中尉に昇格し、ミレニアも大尉に昇格していた。「けどよ、シェリア。本当に口封じだろ?」「そりゃあそうなんだけど……」 結局二人は式の最中ずっとひそひそ声で話していた。 式が終わった後、「アトラス准将、エルバート大佐に面会したいのですが……」 レイは珍しく仰々しい物言いでアトラスに聞く。「レイ中尉、そんなにかしこまるな。気持ちが悪い」「はっ、そうですかい。じゃあ、手っ取り早く会わせてくれよ」 アトラスがそう言うなり、彼の口調はいつものそれに戻る。「……相変わらずだな。シェリア君を置いてきてしまっていいのかね?」 その変化の速さに呆れながらもアトラスが言うと、「彼奴にはまだ聞かせたくないんです。誓いの内容によっては一生……」 レイは急に真剣な口調になって言う。「……優しくなったな」「五月蠅いっす」 しかしそれもつかの間、彼はすぐにそう言う。「会えないこともないが……会っても……いや会うだけ会おう」「どういう意味だよ准将」「行くぞ」 アトラスは意味深な言葉を残し、さっさと歩き出してしまった。 レイは慌ててアトラスを追いかけた。「どういう……ことだよ……」 レイはわなわなと震えながら言うがアトラスは答えない。「どういうことだって聞いてんだよっ!」「どうもこうも無い。これが現実だ」 アトラスがレイを連れてきた部屋、即ちエルバートの居る部屋であるが、そこにいた、いや、あったのは両足の付け根から下が無く、両腕も手首から先のない、何十本ものケーブルと多数の医療機器に繋がれた一人の男、それはガーディアンフォース特務部隊ガーディアン・エレメンツの隊長、エルバート・メルトクライのなれの果ての姿であった。 頬肉は刃物で切り落としたかのように消え去り、逞しかった体は今ややせ細ってすらいる。「こんな状態じゃあ話も出来ねぇじゃないかっ!」「私は会えるとは言ったが話せると言ったつもりはない」「てめぇっ!」「騒ぐな。大佐の症状が悪化したらどうする」「この状態じゃあ死んだも同じだっ!」 レイがアトラスの忠告を無視して叫ぶと、「……死……死ぬよりか……は……まし……だ……」 か細い、男の声がした。「……っ!大佐、意識が戻ったのですか?」 アトラスが慌てて言う。「ああ……がはっ……そう、長くは……持たない……だろうがな……」 咳き込みながらもエルバートが言う。 その時、「大佐、お目覚めですか?」 治療室のドアが開き、一人の金髪の女性が入ってくる。 ガーディアン・エレメンツ、通称エルバート隊の副隊長を務める女性、フェア・アンリーテイクであった。「フェア……君か……無事……でよかっ……た……」「無理をなさらないでください」 全く感情がこもっていないような声だが、心配しているのは確からしい。「そんなことを……言っている場合……では……無い。……アトラス……君……レイモンド君……に例の……話……を……」 しかし、その心配をよそにエルバートは言葉を続ける。「わかりました。ですから安静に……」「大佐、お願いですから安静に……」 アトラスとフェアが言う。「レイ、あの話はお前にしてやる。だから今は医者を呼んでこい」「は、はい」 アトラスに言われ、それまで固まっていたレイは足早に部屋を出て行った。 最後にレイが聞いたエルバートの言葉は……。「ああ……フェナン准将……貴方の息子は……り……ぱに……」 そこでレイはそこから先は聞くことが出来なかった。 次にレイが医者をともなって病室に戻ってきたとき、そこには無言で下を向くアトラスとその場に座り込んだフェアがおり、ベッドの上のエルバートは、すでに世を去っていた。
「アトラス准将……それが……それが本当に親父達の誓いなのか……?」「ああ、そうだ」 ドラゴンヘッド要塞の一角にある薄暗い一室でレイとアトラスは話をしていた。 内容は当然、レイ、エル、シェリアの親の誓いについてである。「……はは……それじゃあ俺はもうすでに一つは破っちまってる……」 アトラスが肯定の意を示すとレイは自嘲気味に笑う。「気を落とすな。この話には続きがある。」「……?」「君の父上、つまりフェナン准将達もこの誓いを最後まで守れなかったんだ」「それは……どういう……?」 レイはアトラスの言った意味が分からなかった。親父達はこの誓いを絶対としていたはずなのに……。「ここまで話した以上、話さねばなるまいな……良いだろう。真実を教える」 アトラスは静かにそう言った。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ あれは私がまだ一士官の時だった。 私達はフェナン准将の隊の一員としてデススティンガーの足止めに向かった。 しかし奴は私達をあざ笑うかのように神出鬼没で現れてもこちらの数を見てかろくに戦わずして再び地下に消えてしまう始末であった。 そしてそれを見かねた准将は苦肉の策を出した。 それは信頼の置ける部下……つまりエルロイドの父親、オールデン中佐を含む十名ほどの小隊を逃亡したと見せかけて別働隊として働かせ、互いを囮にして敵を誘き出すという作戦であった。 当然少人数になればなるほど、危険が大きいのは覚悟の上であった。 そして、私はフェナン准将の側に残された。 それから数日後、私達フェナン准将の隊はデススティンガーの襲撃にあった。 奴は私達の数が少ないのを良いことに好き放題に暴れ回った。 私達は必死に戦った。 すぐに来るはずの援軍、オールデン中佐の部隊を待ちながら、何度も挫けそうになりながらも戦った。 しかし、援軍は来なかった。 いや、一応は来たのだ。オールデン中佐ただ一人な。 だが、彼の機体には傷一つついておらず、他の仲間が何故いないかもその時は想像できなかった。 そして、オールデン中佐は果敢にもデススティンガーに挑み、互角とは言えないが十分に渡り合っていた。そこにフェナン准将とラメア少佐が加わり、私達は勝ったと思った。 が、それは儚い夢でしかなかった。 准将達が奴を追いつめた瞬間、奴はその尾から強烈な光を発した。 次の瞬間、その場に残っていたのは准将達3人と私、ハーケンそして4機のゾイドだけで、後の数十名は跡形もなく、大地ごと消し飛んでしまっていた。 それでも准将達は怯まなかった。 十数日前に命じられた命令、即ちデススティンガーのニューヘリックシティ到達の妨害という任務をこなすために。 准将達は奴の尻尾の荷電粒子砲を狙った。 奴もそれが狙われていることは承知で尻尾を動かして攻撃をかわしてしまう。 それを見かねたラメア少佐が奴の尻尾に飛び付き、動きを封じた。 今度こそ、私達の勝ちだと思った。奴の主力兵器が無くなれば、大軍を呼んで攻め滅ぼすことも出来るからだ。 が、ここで悲劇が起きた。 フェナン准将とオールデン中佐が放った砲撃のうち、准将の放った一撃は何故かデススティンガーの尻尾ではなく、ラメア少佐のウルフに直撃した。 中佐の放った一撃だけでは荷電粒子砲に大した傷も負わすことが出来ずに終わってしまい、さらにはフェナン准将とオールデン中佐が戦闘を始めてしまった。 これを好機とばかりにデススティンガーは地中に消え、フェナン准将との戦いを征したオールデン中佐も何処へと消てしまったた。 生き残ったのは私ともう1人、当時帝国から派遣されていたハーケンのみだった。 しかし、軍と合流した私達を待っていたのはさらに驚きの知らせであった。 フェナン准将の娘、リア・アーラクルス曹長の殉職の知らせだった。 彼女はまだ当時新米であったにもかかわらず、配属先は激戦地であり、その配属を決めたのはラメア少佐であった。もちろん、フェナン准将が決めていた配属先とは違った……。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※「君のお父上の判断が正しいかどうかはわからない。別の配属先でも君の姉が死ななかったと言う保障はない。しかし、フェナン准将は許せなかったんだろう。たとえ、長年の親友であっても。」「ちょっとまてよ……じゃあ、シェリアの母親は俺の姉の仇で、俺の親父はシェリアの母親の仇で、エルの親父が俺の親父の仇……なのか?」「そう言うことになるな」 震えた声を出すレイにアトラスはうなずく。「アンタが話したくなかった理由、わかったぜ」「そうか……」「このことを話ちまったらエルの奴を仲間に入れるのは無理だからな」「残念なことだよ」「……このことも……絶対にシェリアには言わないでくれ」 レイは小さな声を震えた声を振り絞って言う。「そのつもりだ」「感謝する」「お前らしくなくて、気持ちが悪い」 アトラスがそう言い、二人の話は終わった。
『悪いな。俺達はここでリタイアだ。で、まぁそのなんだ?とりあえず代わりに役に立つ奴を紹介するからそいつに頼んでくれ。腕は十分良いし、俺とオドリューの頼みって言えば多分動いてくれる。あ、ちゃんと送信履歴は消しとくから安心してくれよ。【砂殺】グリッセン』 ブルーレイクシティの近くでレイ達と交戦して一週間あまり、エル達はオドリュー、グリッセンという二人の仲間を失いつつも彼らが最後に送ってきた電子メールによって紹介された新たな仲間に会うためにある砂漠の一点を目指していた。「本当に、その【砂影】って賞金稼ぎは仲間になってくれるんでしょうか?」「わからないわね。まぁ、あの二人は意外と顔も広いしあっちこっちにも恩を売ってるからそう言う奴の一人や二人いるんじゃないのかしら?」 エルの素朴な疑問にスヴァイスが答える。「そう言う物なんですか……」「あ、エル、そろそろ目的の場所よ?」 エルが納得とは程遠い返答をしていると、エレから声がかかる。「よし、じゃあ、行こう。サークさんは念のためここで待っていてもらえますか?」「ああ、わかった」 サークが答えると、エル、エレ、スヴァイスはオアシスにある一軒家に向かって機体を歩ませていった。「ま、何事も無いのが一番なんだけどな」 グスタフの中で冷房を最強にしながらサークは呟いた。「すみません、ロミナス・ジェイクリルさんはいらっしゃいますか?」 エルは扉の前に立つと扉を軽くノックしてそう言う。 しばらくしてもう一度同じことを繰り返すが反応はない。「……居ないみたいですね。出直しましょうか……」 エルがそう言って扉に背を向けると、扉はゆっくりと開いた。「カラクリ屋敷みたいね」「そうだな」 エレとスヴァイスが言う。「本当にここに【砂影】のロミナスさんが住んでいるんだろうか……。」 エルは心配そうに呟いて中へと入った。「やあ、お客人、よく来た。まぁ、座れ。ウィスキーでも飲むかな?」 その家のリビングで待っていた男はソファーに横たわり、酒瓶をときどき口元に運んでいる。ウェーブのかかった茶髪にやる気のなさそうな緑色の目が特徴的である。「あら、気前が良いのね。一杯もらおうかしら……きゃっ!」 そう言ってスヴァイスがソファーに座ろうとするとソファーのバネが一気に伸びて彼女をはじき飛ばす。「悪い悪い、そのソファー、そろそろがたが来てたんだ」 男は悪気など全くなさそうに言う。「ま、よくあることね」 そう言ってスヴァイスは別のソファーに座った。「さてと、お客人、飲むかい?」「僕は未成年なので遠慮させてもらいます」「私もです」 エルとエレは聞かれるとすぐに身も蓋もなく断る。「そうかい、残念だな。で、用件は」「なかなか良い味ね。これ。あ、用件?【砂潜】と【砂殺】に教えてもらってきたのよ。【砂影】さん。」 残念そうな声で言う男に出されたウィスキーを飲んでいるスヴァイスが言う。「あの二人が……かい?こりゃあいい、あいつらができなかった仕事ってことか。楽しみだ。でどんな用件だ?」 男がそう言うのでエルは事の次第を説明する。「ふーん……つまり共和国と帝国の追っ手から逃げつつ、リゼルって言う子どもを倒して改心させて、仇であるレイヴンとリーゼを倒すか……。無理難題ばっかりな依頼だな……」「引き受けて……もらえませんか?」 男がぶつぶつと言うのでエルは心配そうに聞く。「んー……そうだな。話も聞いたし、最近やることもないし、男ロミナス・ジェスト、【砂影】の名にかけて引き受けてやるよ。あ、それと報酬はこんだけかかるぜ?」 そう言って指を五本立てた状態で右手を出してくる。「……五百万通貨ですか?」「違う違う」 エルが言うとロミナスは首を横に振る。「……やっぱり五千万通貨……?」 「違うって」 そう言ってロミナスはまたも首を横に振る。「……五億通貨ですか……?それだと返済に十年近く……」「わかってないなぁ。なんでそう高い方に持ってくんだよ。五十万通貨でいいよ。ガキからこれ以上巻き上げても仕方ないし」 ロミナスはやれやれといった感じで値段を提示してくる。「ですけど……命賭けですよ?」「……だからこそスリルがあるんじゃないか。それに君は俺を雇いたいの?雇いたくないの?」 ロミナスは明るい口調でそう言うと笑いながら質問してくる。 その問いにたいしてエルはおずおずと言う「雇いたい……です」「じゃあ、安くて良いじゃないか。さあ行こう格納庫へ、我が相棒が待っている」 ロミナスに言われ、彼らは階段を下っていった。
「じゃっじゃーんっ!これが俺様の愛機、デザートバイパーだっ!」 地下格納庫にあったのは見た目的には何の遜色もないただのステルスバイパーであった。 「これが【砂影】さんの愛機……ですか?」「あ、疑ってるのか?まぁ、強さは実戦でな」「エル、ちょうど良く実戦になりそうよ?」「どういう意味だ?エレ」 エレの発言の意味がくみ取れず、エルは聞く。「敵が来てる……オーガノイド連れのサークさんが危ないわ急ぎましょう」「わかった」「じゃあ、ちょっと技を披露するとしますかな」 そう言ってロミナスはデザートバイパーのコックピットに滑り込んだ。「サークさんっ!無事ですか!」「おせぇよっ!危なかっただろうがっ!」 エル聞くとサークが怒鳴り返してくる。「心配してもらったのにその口調はないんじゃないの?」「心配する前に彼奴を何とかしてくれっ!」 スヴァイスの文句に対してもサークは叫ぶ。「彼奴……?あれは……!」 それに応じて空を見上げると一機の黒いストームソーダが宙を高速で舞っている。 さらにその上空には一機の竜のような姿をしたゾイドが浮かんでいる。「エヴェフェニールあんどぉルキアナとうじょー♪」 そのあまりにも恐ろしげな外見からは予想も出来ない明るい声が響く。「エッジと言う。死んでもらう」 それと対照的な暗い声が響き、ストームソーダがグスタフに向かって急降下してくる。「うわわ……ざけんなっ!」 サークはその一撃をブースターを全開にしてかわす。「終わりのない自由砲火(ネヴァー・エンディング・フリー・ファイア)♪」 直後にルキアナの操る機体、エヴェフェニールから無数の光の帯が飛び出し、それらは全て意志があるかのように屈折し、サークのグスタフに降り注ぐ。「ぐぁぁああああぁぁああっ!」 グスタフではこの砲火の嵐を回避することが出来ず、サークは悲鳴をあげる。「くっ……エル君、あの竜は任せたわよ?」 そう言ってスヴァイスはストームソーダに向かって砲撃を開始する。「任せたって言われても……あんな高いところからせこい砲撃をくらってたらなぁ……」「じゃあ、落としたら後は片を付けてくれるんだな?」 エルがぼやくと何処からかロミナスの声が響く。「そりゃ、もちろん」 エルが軽く答えると、直後に彼の機体のすぐ脇の大地が盛り上がり、土柱が上がったと思う頃にはルキアナの機体にステルスバイパーが絡みついていた。「何?なに?なにぃ?どーなってんのよこれぇ?」 突然のことにルキアナも対処が出来ない。「嬢ちゃん、攻撃が届かないって調子に乗ったのが運の尽きだぜ?」 そう言ってロミナスはエヴェフェニールを締め上げる力を徐々に強くしていく。「あーもうっ!こんなのやってらんないっ!ウィング強制解除っ!」 ルキアナが叫ぶのとほぼ同時にエヴェフェニールの背中からウィングがはずれ、その衝撃でロミナスのバイパーも吹き飛ばされる。 数秒後にはエルのレオブレイズの正面に竜から蜥蜴へと退化したルキアナのエヴェフェニールが落下してきた。「もうっ!あたしのエヴェフェニールにこんな情けない格好をさせて……許さないっ!ヴェルダニティ、切り裂く翼(カッターオブウィング)を発動っ!」 ルキアナは大地に足が着くなり文句を言い、オーガノイドに何かを命じる。 すると先ほどまで落下していた強制解除されたウィングが落下を止め、その場で回転を始める。「いくわよぉ……エヴェフェニールの必殺技……カッターオブウィングっ!」 ルキアナが叫ぶと同時にウィングからレーザーが掃射され、徐々に翼は光のチェーンソーと化していく。「とっつげーきっ!」 そして、その光のチェーンソーはエル目がけて一直線に飛んできた。「のわっ……」 エルはその一撃をかろうじてかわす。「隙あり♪」 だが、着地したところをルキアナの乗るエヴェフェニールの本体に襲われ、呆気なく殴り飛ばされてしまう。「あーれれぇ?まだレヴァンティと合体してなかったのぉ?」 ルキアナは挑発的に言う。「くっ……レヴァンティ……来いっ!」 エルが叫ぶと同時に紅い光の槍がレオブレイズに突き刺さり、レオブレイズが咆吼を上げる。「いくよっ!」 それを見たルキアナは光のチェーンソーをまたしても飛ばしてくる。 エルはその一撃を避けなかった。「シールド・ブレイクっ!」 叫び声と共に鋭い爪の一撃を繰り出し、「ぐわぁっ」 呆気なく吹き飛ばされた。「そんなの効かないよぉっだ♪」 それを傍観していたルキアナはとても上機嫌にそう言った。
「困ったわね……」 スヴァイスはサーベルタイガーのコックピットの中で呟いた。 相手の機体はストームソーダ。 その高速飛行から繰り出される近接戦闘技は彼女でも反応するのが大変なほどのスピードであった。「まぁ、でも、やるしかないのよね」 スヴァイスがかまえる。 センサーには高速で接近してくる一機の機影が映っている。「……死ぬ」 得体の知れない強制通信が入った時にはストームソーダはすぐそこまで迫っていた。「ちぃっ……これでどうよっ!」 苦々しげに舌打ちしながら彼女は機体を跳び上がらせ、空中で一回転して真下を通り抜けるストームソーダに砲撃を仕掛けるが、タイミングが微妙に遅れていてその砲撃は虚しく宙を裂いただけで終わり、超高速の機体が巻き起こした衝撃波に吹き飛ばされる。「無駄だ……諦めろ」 ストームソーダのパイロット、エッジは淡々と言い、機体を旋回させて再びスヴァイスを肉迫する。 体勢を持ち直したばかりで回避すら出来ずに機体を沈めてこちらの機体が放つ衝撃波に耐えようとするスヴァイスの機体にエッジはワイヤーガンを打ち込む。「ぇ……しまった……っ!」 スヴァイスが気付いたときには彼女の機体はストームソーダに引きずられ、さらにエッジは無情にも大きくターンしながらそのワイヤーを斬り捨てる。 当然の事ながら遠心力でスヴァイスの機体は大きく吹き飛ばされ、一度も地面に触れることなく砂漠にありながらも風化しなかった強固な岩壁に直撃し、その岩壁を粉々に砕いてようやく止まった。「くふっ……!」 コックピットの中で彼女は呻く。「諦めろ」 先ほどと同じようにエッジが言いストームソーダの頭部にセットされたブレードを射出してくる。 それには小さなバッテリーが付いていて……。「くっ……ぐはぁぁぁああああぁぁあああっ!」 サーベルタイガーにその切っ先が突き刺さると同時に高圧電流を一気に流し込む。 スヴァイスは当然その電撃に耐えることなど出来ずに悲鳴をあげる。「とどめを刺してやる」 エッジが言い、大空へと舞い上がり……そのまま何処かへと飛んでいった。「たす……かった……?」 スヴァイスは消えかかる意識の中でそう呟き、彼女の意識は完全に途切れた。「く……ぅ……」 エルはレオブレイズを何とかその場に立ち上がらせた。 しかし、機体もパイロットもぼろぼろである。 光の翼に叩きつけた脚はEシールドのおかげで斬り取られてはいないがそれでも爪は数本折れてしまっている。「ふふふっ、第三能力も開花させていないエルじゃあ、これで終わりでしょ?昔は仲よかったけど、置き去りにされた恨みもあるしぃ、そろそろ死んでもらおうかな?」「あーあ……まだリゼル側の奴には知られたくなかったんだけど……仕方ないか……」 言いたい放題言うルキアナに対し、エルは静かに呟く。「どーゆー意味よ?それ」「簡単に言うと、倒せるならやってみせろって言ってるんだけどな……」 エルはこの危機的状況下にありつつも相手を挑発する。「むっ……あたしを馬鹿にしたわねぇ……許さないっ!いっけぇっ!」「当たるかっ!」 飛来する光のチェーンソーを何度も何度もエルは紙一重でかわしていく。 時には装甲を薄く切り裂かれるような事もあったが、まだ重大な損傷は負っていない。「トドメよっ!」 ルキアナはそれでも懲りずに真っ正面からエルに向かって光のチェーンソーを放つ。「今だ、レーヴァテイン発動っ!」 エルが叫ぶとレオブレイズの周囲四方に紅いエネルギーブレードが展開され、そのブレードの間に同じ色のEシールドが展開される。「くらぇぇぇええええっ!」 エルの気合いと共にルキアナの放った光の翼は切り刻まれ、さらには彼女の機体そのものへと肉迫してくる。「いやぁぁあああぁああっ!」 彼女は悲鳴をあげるがエルは止まらない。 そのままエヴェフェニールの頭部を真っ二つに切り裂いて、レオブレイズは走り抜けた。「……これでもう良いだろう。レヴァンティ、お疲れ様」 エルは機体の足を止めるとレヴァンティに労いの言葉をかけ、合体を解除する。「な……なんで……助かったの……?」 一方ルキアナは自分が斬られたと思って呆然としている。 そしてよく考えてエヴェフェニールのコックピットの位置を思い出し、「あ……そうかコックピットはお腹だった。頭にあるのはセンサーアイだったねぇ♪」 と一人で納得するルキアナにエルが声をかける。「……諦めはついた?レミア」「残念だけど、あたしには心に決めた人がいるからダメね。ばいばーい♪」 しかし、彼女はまったくエルの言葉に耳を貸さず、エッジに連れられて空の彼方へと消えていった。 ウィングの残骸もいつの間にか、完全に消滅していた。
【砂影】ロミナス・ジェストの隠れ家での戦いからすでに三日ほど経っていた。「こっちか……。」 レオブレイズに乗ったエルが搭載されているレーダーの情報を見ながら呟いた。「それにしても流石はオールデン中佐の息子ね。やることに抜け目がないわ」 それを聞いたスヴァイスが言ってくる。「実際に撃ったのはエレですよ」「その謙遜家なところもそっくりよ」 そう言い、スヴァイスはウィンクをした。「で、スヴァイス、本当に俺達はこんなかにはいっちまって大丈夫なのかよ?」 そこまで黙っていたサークが呟く。「一応、同種の発信器を入り口にもセットしていきますから大丈夫だと思いますよ」 その問いに答えたのはエレであった。「はっはっはっ、サークは心配性だなぁ」 そこにロミナスが茶々を入れる。「うっせぇっ!だいたい呼び捨てにするな」「ほぉ、つまり君は俺にサークんって呼んでほしいわけだ」「だぁーっ!んな気持ち悪い呼び方するなっ!大体、んが一個足りてねぇっ!」「サーク君ならいいのかな?」「もーいいっ!呼び捨てにしてくれっ!」「そっか、じゃあ俺のことはロミナス様って呼ぶんだぞ?」「なんでそうなるんだよ!」 と、サークとロミナスの二人は延々と言い合いを続け、「はぁ……」「やれやれ……」 呟くエルとスヴァイスの横で、「あの二人仲良いですね」 なんて呟くエレがいたりもしたが、「とにかく行きましょう」 エルはレオブレイズを森の中へと進ませていった。 それを見たスヴァイスも続き、少し立ってからロミナスとサークが先を争うように森の中へと入っていった。 その森はイセリナ山脈のふもとに広がるレアヘルツの谷にほど近い大陸最大の樹海、シェンリヴ大樹海と呼ばれる場所であった。「っく……これで何匹目よっ!?」 スヴァイスは飛び出してきたダブルソーダを背中のヘヴィーマシンガンで撃ち落としぼやく。「わかりません。この樹海は昆虫ゾイドの楽園ですし……」 そう言うエルのレオブレイズの脚の下には頭部を踏み抜かれたモルガが横たわっている。 そして、彼らの周囲には似たように破壊された野生体のゾイドがごろごろと転がっている。「ま、俺のグスタフにはこんな雑魚ゾイドの攻撃じゃあ傷一つつかないからいいんだけどさ」「俺のデザートバイパー改めフォレストバイパーも敵機に気づかれてはいないからなぁ」 と、サークとロミナスは全く相手を気にしていない。「ロミナスさん」「ん?どしたんだ嬢ちゃん?」 ロミナスはいきなり声をかけてきたエレに聞き返す。「ロミナスさんのステルスバイパー……使っているのは光学迷彩だけじゃあありませんね?」「はっ……お見通しか……。その通りだよ嬢ちゃん。俺のステルスバイパーは生まれつきの特性として保護色ってのを持っているんだ。砂漠なら砂の模様に、森だったら地面と木々に、沼地だったらドロドロな感じに表面を変化させて敵の目から逃れる。だから動きを止めれば相手はこちらの位置を全く掴むことが出来なくなるって寸法さ」 ロミナスはエレの眼の前ではゾイドについての隠し事は無用と思ったのか一気にまくし立てる。「ほっほぉー、じゃあつまりアンタが強いのはゾイドのおかげってコトか?」 サークがからかうように言うと、「そう言うことになるだろうなぁ」「なんだよ……からかいがいのない奴」 ロミナスがあまりにもあっさりと認めてしまうのでサークはがっくりと肩を落とす。「お前にからかわれるぐらいなら認めた方がましだ。事実でもあるし」 それを見てロミナスが言う。「けっ」 その返答を聞いたサークはそう言って言葉を切った。「エル……」「どうした?エレ」「近いわ……この先の開けたところに……レヴァンティとヴェルダニティの気配がする」「なっ……よし、皆さん、準備は良いですか?」 それを聞いたエルは周りを見回しながら言う。「あたしはいつでもいけるわ」 サーベルタイガーHM(ヘヴィーマシンガン)に乗るスヴァイスが言い、「俺もだ」「準備は万端だ」 グスタフSS(サークスペシャル)、フォレストバイパーにそれぞれ乗る二人も答える。「いつでも……大丈夫よ」 後部座席のエレが答え、「行こう」 全員の答えを聞いたエルが、言った。
「やあ、エル、エレお姉ちゃん久しぶり」 最後の茂みを抜け、開けた草原にたどり着いたエル達を待っていたのは3機のゾイドであった。 1機は先日戦ったばかりの【死翼】エッジの駆るブラック・ストームソーダ。 1機はエルは一度は眼にしたことがある蒼い小竜型のゾイド、リゼルのエヴォフライヤー。 最後の1機はリゼルの勢力では初めて見る機体、ジェノザウラーであった。「リゼルっ!」 エルが叫ぶ。「リゼル……」 同時にエレが悲しそうな声で言う。「この前の黒い翼……覚悟しなさいよ……」 スヴァイスが言い、彼女の後ろの二人も無言でかまえる。「そうかまえるなって……短気は損気、会うたびに言ってるじゃないか」 それを見てリゼルは悠々と言ってくる。「それにしてもどうやらルキアナがお世話になったみたいだね。お返しはさせてもらうよ?こいっ、ラグナトリィィィイイイイっ!」 そこまで言った瞬間、上空に蒼い光が舞い上がり、リゼルのエヴォフライヤーに突き刺さる。 そしてその瞬間、リゼルのエヴォフライヤーの色が深蒼に変わり、エヴォフライヤーの頭部に付いていた鶏冠とも言える部分がレーザーチャージングブレードに変化し、爪も鋭さ、長さを増す。 背中に背負った2門のアサルトライフルは格闘戦向きのレーザーシザースとラウンドシールドを装着した物へと変化し、それに伴い脚部筋肉が強化される。「くっ……レヴァンティィイイイイイっ!」 エルも叫び紅い光が彼のレオブレイズに突き刺さる。 彼のレオブレイズも先ほどとは違う、強い生命力を灯したゾイドと化す。「スヴァイスさんはストームソーダを、サークさんとロミナスさんはジェノザウラーをお願いします。……行くぞっ!リゼルっ!」「良いとも、来なよ。」 エルが吠え、リゼルが応じる。 今ここに1年ぶりの戦いが始まった。「くらいやがれっ!虐殺竜っ!ブースト・シェル・アタックっ!」 叫びながらサークはジェノザウラーに突っ込んでいく。 ブースターを全開にしたそのスピードからの一撃はかなりの威力を持っているのだが、「………………」 ジェノザウラーのパイロットは無言でその突進を避け、再びその場にかまえる。「分かりやすい攻撃じゃあ当たらないぜ?当てる攻撃ってのはこうやるんだよっ!」 ロミナスはその場で姿を消し、次の瞬間ジェノザウラーの首元に強烈な尻尾打ちをあびせる。「………………」 しかし、軽量のフォレストバイパーの一撃ではジェノザウラーに大したダメージを与えられない。「アンタだって当てるだけで効果がないじゃねぇかっ!」 今度はサークが叫ぶ。「攻撃とは……」 そこで不意にジェノザウラーのパイロットが口を開き、「あぁ?」「ん……?」「こうやるんじゃよ」 二人が応じる頃にはハイパークローがフォレストバイパーの胴体を鷲づかみにして手元へ引き寄せ、同時に走り出そうとしていたグスタフの前方に背中のAZビームライフルを放ち、その加速を停止させる。「青臭い小僧共が……このわしに勝てると思うな……」 そう言い、ジェノザウラーの牙でフォレストバイパーの頭部をかみ砕こうとするが、サークの放った二連衝撃砲がその頭部を直撃し、フォレストバイパーははじき飛ばされる。「その声……思い出したぜ……」 サークがポツリという。「なんじゃ……?知り合いかの?」「てめぇは……メーベ……そうだろ?」「ふぇっふぇっふぇっ……その通りじゃよ、サーク君」 からかうような口調を気にせずにサークが言うとジェノザウラーのパイロットは肯定を示した。「……エルの奴の憂い、ここで俺が断ち切ってやるよ」「お主に出来るか……?」「ああ、出来る。ロミナス……協力してくれ」「……ああ、いいぜ。サークん」「それでもいいよ」 がくんとうなだれながらもサークが答え、「んじゃまぁ」「行くか」 二人同時に動き出す。策を話さずともすでに二人はその内容を理解している。 フォレストバイパーが空気にとけ込むようにその姿を消し、次の瞬間にはジェノザウラーの脚に絡みつき、動きを止める。「今だっ!サークっ!」「うぉぉぉおおおおおおっ!ブースト・シェル・アタックっ!」 ロミナスが言うと同時にサークが再びブースターを全開にして突っ込んでいく。「馬鹿め……わざわざ脚まで固定してくれてありがとうよ。これでもくらうがいいっ!」 それを見ながら、メーベはジェノザウラーの口腔内に光を集束させ始めた。
「馬鹿はアンタだよ」 ロミナスが言った瞬間、メーベは何が起きたかも分からず、後方へと吹き飛ばされていた。「へへっ……こりゃとどめを刺す必要もないな」 サークが言う。 二人がやったことは非常に簡単なことであった。「しっかし、こんな簡単に引っかかってくれるとは……」 ロミナスが脚を押さえて固定し、サークが突っ込む。 相手に脚が固定されている、そう思わせてジェノザウラー最強の武器を使わせる。 サークはブースターでそれをかわす。 ロミナスは絡みついている脚から離れる。 結果……。 「あの爺さんも自爆とは情けないねぇ……。ま、楽だったから良いけど」「そりゃそうだよな、サークん」「その呼び方だけは出来ればやめて欲しいんだけどな」 二人の目の前には岩壁に背中から突っ込んで機能を停止した無様な姿のジェノザウラーがあった。「ちぃっ……!」 スヴァイスは音速で突っ込んでくる敵、エッジのストームソーダに向かってヘヴィーマシンガンを掃射した後、身をかがめてそのブレードを回避する。 しかし、あれだけ至近距離から撃ったマシンガンの弾は一発もストームソーダに当たってはいなかった。「はは……何故弾が当たらないか不思議なのだろう?それはこのルキアナより借り受けたヴェルダニティの第三能力、空間湾曲の効果だ。この機体はすでに光学兵器にも実弾にも影響されることはないっ」 いつになく雄弁にエッジは言う。「オーガノイドの一匹や二匹で調子に乗ってんじゃないわよっ!」 スヴァイスは叫びつつも多少困っていた。 空間歪曲の効果にもよるがかなりの確率で格闘武器ならば奴を叩ける可能性があった。 しかし、その唯一の攻撃方法も相手が高速飛行ゾイドであると言う事実がいとも簡単に打ち消してくれた。 ……あれは消費が激しいしなぁ……。 頭の中でスヴァイスは思う。 当てるなら一撃しかない。あのすけべ爺さんからただで譲り受けた物だから効果の方もいまいち怪しい。 その上、相手は雲の中に隠れていてこちらが油断したところをゆっくりといたぶる気だろう。 しかし、彼女にはその武器しかもう攻撃手段がなかった。 ……こうなったら一か八かやるしかないわね……!「来なさいこのロリコン野郎っ!」「誰がっ!」 スヴァイスが大声で叫ぶと雲の切れ間から黒いストームソーダが飛び出し、一直線に舞い降りて地面と平行に機首を持ち直させると一気に距離を詰めてくる。「はぁぁぁあああああっ!」 スヴァイスはヘヴィーマシンガンを掃射し、向かってくるストームソーダを迎撃しようとするが、弾はやはり全てあらぬ方向へとはじき飛ばされてしまう。「人のことを挑発しておいて何の策も無しかっ!」 その間にもぐんぐんとストームソーダは距離を詰めてきていて、「死ね……黒い翼の狂想曲(ダンス・ウィング・ロンド)っ!」 とエッジが叫び、そのウィングを多少内側にたたみ、一点突破の構えになる。 歪みのオーガノイド、ヴェルダニティの効果を最大限に引き出すには相手の内部に突き刺さるのが一番効果的である。 内部から歪みを発生させれば相手は自然に破裂してしまうのだから。「奇遇ね、でも勝ちはあたしのものよ」 その黒い死神のような姿を見てもスヴァイスは怯まなかった。「くらいなっ!騒がしすぎる夜想曲(ノイズィ・オブ・ノクターン)っ!」 彼女は叫びながらシステムを起動させる。 すると、彼女のサーベルタイガーの内部から4つの巨大スピーカーのような筒状の兵器が現れ、次の瞬間……、「こ、これはっ……」 超高密度で圧縮された音波の弾丸が4発渦を描くかのように回転しながらストームソーダの翼を引き裂いていった。 そして翼を失い地面に叩きつけられたストームソーダの脚部をスヴァイスは破壊し、「ふぅ……たまにはあの爺さんの兵器も役に立つものね」 と、呟いた。 その瞬間、彼女は岩山に新しい機影を発見し、照準を合わせるが、「あ……貴方は……」「どうやら、約束は果たせたようだな、スヴァイス君」 その機体、かなり旧式のシールドライガーのパイロットからの通信を受けスヴァイスは動けなくなる。 それを見たシールドライガーのパイロットはレオブレイズに照準を合わせる。「だ、ダメですっ!あのレオブレイズのパイロットは……っ!」 スヴァイスはせっぱ詰まって言うが、「わかっている。しかし、いや、だからこそリゼル君の邪魔をしてもらいたくはない」「ですがっ……オールデン中佐っ!」「たとえ実の息子だとしても……な」 シールドライガーのパイロット、オールデン・ナッシュベルはエルのレオブレイズに向けて三連衝撃砲と八連式ミサイルを放った。
「ははははははははっ!楽しいなぁ。そうは思わないかエル?」 笑いながらリゼルはエルのストライククローをかわしていく。「思わない」「連れないなぁ……」 憮然とした顔で言うエルに対しニヤニヤとしたリゼルが言う。「……これでどうだっ!」 直後にエルは左右にぶれるように動き、瞬間的に飛び出す。「やるねぇ……シールド展開っ!」 その一撃を回避できないと悟ったリゼルは1対のフリーラウンドシールドの4本の爪の間にEシールドを展開する。「シールド・ブレイクっ!」「シールド強化っ!」 エルとリゼルの声が重なり、リゼルのEシールドに同じようにEシールドを展開したエルの爪は弾かれる。「ははっ……去年と変わってないね。てんで話にならないよ」 空中で体制を立て直し、着地したエルに向かってリゼルが言う。「それは……どうかな?」「な、なぜ……」 エルが言った直後にリゼルのEシールドにひびが入り、消滅する。 さらにエルのレオブレイズの爪はひしゃげていない。「僕とレヴァンティだって多少は強くなってるんだよ」 エルが言う。「く……いいだろう……行くよっ!?」 それを挑発と受け取ったのか、リゼルはレオブレイズに向けて己のエヴォフライヤーを走らせる。「はぁっ!」 気合いのこもった声と共にエクスブレイカーを振りかざし、エルはそれを無言でかわす。 さらにリゼルはそこから蹴り技を組み入れた連続攻撃にはいるが、数多の賞金首を討ち取ってきたエルはその攻撃を凄まじいまでの正確さでかわしていく。 その動きには例との戦いで見せた迷いはかけらもなかった。「少しはできるようになったみたいだね……エル。ボクは今とても楽しいよ」 リゼルはそう言いながら蹴りから尻尾打ちのコンボを放った後大きくエルから飛び退り、こちらに向き直る。「けど、これで終わりだ……黄昏の終焉剣(ラグナロク・ソード)っ!」 リゼルが叫ぶと同時にエヴォフライヤーの頭部に着いたレーザーチャージングブレードに光が集束され、次の瞬間、それがレオブレイズ目がけてVの字に振り抜かれる。 しかしエルはそれを紙一重でかわすと一瞬の隙をついてリゼルに猛然と詰め寄り、その喉元に強烈な頭突きをたたき込む。 リゼルののエヴォフライヤーは勢いよく吹き飛ばされ、大地に数度叩きつけられてから動きを止める。「まだ……まだっ!」 リゼルはうわごとのように叫び、機体を立ち上がらせると、「黄昏の終焉剣(ラグナロク・ソード)っ!」 再び、光を屈折させて作りだした光速の剣を頭部に構える。「はっはぁっ!」 リゼルは大きく機体を跳躍させると、エルの上空からラグナロクソードを振り下ろす。「ちぃっ!」 エルはそれを横へ跳んでかわすがリゼルがラグナロクソードの向きを変えたことで絶体絶命の危機に追いやられる。「……傷付ける紅の刃(レーヴァティン)発動っ!」 あと少しでレオブレイズにリゼルの放つ光の奔流が突き刺さると言うところで、突如レオブレイズの周囲に出現した紅い四本のエネルギーブレードがその攻撃を受け止める。「それがレヴァンティの新しい力か……面白いよっ!」 そう言って一度光の剣を消滅させ、再びリゼルはラグナロク・ソードをかまえる。「終わりだっ!」 リゼルがレーヴァティンの隙間を突いてラグナロク・ソードを振り下ろすが、「甘いんだよ……」 さっきまでとは違う冷たい、刃のような異質な声がエルの口からこぼれ、ラグナロク・ソードはレオブレイズが体の角度をわずかに変えた事によりレーヴァティンに弾かれ、その一瞬に驚いたリゼルの元へとエルは一気に距離を縮める。「これで、終わり」「エル、駄目っ!」 エレの悲痛な叫びを無視してエルはレーヴァティンを振りあげる。 次の瞬間にはレーヴァティンの紅い輝きがエヴォフライヤーの首を薙ぎ、コックピットまであと少しと言うところでエルのレオブレイズは横からの激しい衝撃に吹き飛ばされていた。「……久しぶりだな……エルロイド。十年ぶりだな……」 体勢を立て直したレオブレイズに強制通信が入る。 そこに映し出された顔は髪の色と口元の無精ひげを除けばエルにそっくりであった。「……けっ……」「エルロイド……じゃないな。お前はアグナスか……」「そうだよ、くそ親父」 エルが答える。いつものような物静かで丁寧な口調ではなくぶっきらぼうで雑なそれである。「危ないところをありがとう、オールデン」「どういたしまして、リゼル君」 しかしそのエルを無視してリゼルとオールデンは会話をかわす。「エルの力もわかったし今日は引き上げよう。あ、そうそう姉さんならこの時期は……」リゼルの背後からホエールキングが浮かび上がりその後の声はエルにしか届かなかった。
ども、ロストです。いっつも更新しないクセに進めるときはいっつも一気にです。(すみません滅茶苦茶迷惑ですね……。)と言うわけで第3部もちゃっちゃとここまで来ちゃったわけですが、今後の焦点は、・エルVSレイ・エルVSリゼル・何故に親父出現……!?・アグネスとは……!?みたいな感じで行きたいと思います。では、残り数話ですがレジェブレ第三部をお楽しみください。
「急ぐんだスペキュラー」 リーゼはスペキュラーの背にまたがり、森の中を飛んでいた。 彼女を急き立てるものはただ一つ。 虫の羽音。 彼女と弟の一族とそのオーガノイドだけが操ることが出来た傀儡虫の羽音であった。 音がだいぶ近づいてきた……。 リーゼがそう思った矢先、スペキュラーは飛ぶのをやめてしまう。「どうしたんだい?スペキュラー……」 スペキュラーは首をリーゼの方に向けて横に振る。「わかっているよ。レイヴンと一緒じゃないって事はいつリゼルに殺されてもおかしくはないって……」 リーゼが言うとスペキュラーは頷くように首を縦に振る。「それでも、ボクは行かなくちゃあならないんだ。自分にちゃんとけじめをつけたい……」 そこまでリーゼが言うと、スペキュラーは悲しそうに喉を鳴らした後、ゆっくりと飛ぶ速度を上げ始めた。「ありがとう、スペキュラー」 リーゼはスペキュラーにもたれかかった。 森の中の開けた草むらにリゼルの乗る蒼いエヴォフライヤーが止まっていた。 その背中の上にリゼルは腰掛けて傀儡虫と戯れている。「はははっ……傀儡虫が騒ぐと思ったら……お姉ちゃんか……虫の知らせ、かな?」「リゼル……これは一体……」「あ、気にしなくて良いよ。これもあいつを追いつめるためさ」 リゼルのすぐ近くにはコックピットを焼き裂かれて機能を停止し、石化現象の始まっているガイサックが二体、転がっていた。「これでエルも破滅だよ……」「エル……エレと一緒にいた少年の事かい?」「気になるの?お姉ちゃん。駄目だなぁレイヴン兄ちゃんっていい人が居るのに……」 リゼルがけらけらと笑いながら言い、「やだなぁ、冗談だよ」「真面目な話をしたいんだ、リゼル」 リーゼが静かに言う。「……いまさら?」 その発言に信じられないとでも言いたそうな表情をしてリゼルが聞き返す。「今さらかも知れない……だけど……」「無理だね。てっきりボクはお姉ちゃんが自ら死を望んでボクに殺されたくってここまで来てくれたのかと思ってたのに……残念だなぁ」「リゼル……!」「冗談だよ。半分くらいだけどね」「リゼル、人をもう殺めないで欲しい……じゃないと……」 ふざけた調子のリゼルにリーゼは真面目な口調で言うが、「お姉ちゃんに言われてもなぁ……こっちの時代で目が覚めてすぐに一人殺したんでしょ?」 からかうようにリゼルが言う。「どういう……ことだい?」「名前は……なんて言ったけなぁ……チロル……?」 その名前が出た瞬間、リーゼの体がびくんと震える。「あ、違ったそれはヘルキャットの方だね。思い出したよ。ニコルだ」「……違う……」 呟くようにリーゼは言う。「違わないでしょ?お姉ちゃんが最初に殺した少年……ニコル」「違う……ボクは殺してなんか……」「でも、お姉ちゃんのせいみたいなものでしょ?」「違う……違う……」 呻くようにかすれた声でリーゼは言うが、あっさりと否定される。「違わない」 その言葉がリーゼの頭の中に刻みつけられていく。 「う……あ……ぁああ……」 そのリゼルの強い口調にリーゼの記憶が曖昧になり罪悪感で押しつぶされて嗚咽が止まらなくなる。「おっと……壊れないでね、お姉ちゃん。じゃないとボクが怖いお兄ちゃんに殺されちゃうよ」 そのリゼルの台詞にリーゼが振り向くとそこにはレイブンのジェノブレイカーが立っていた。「さっさと**、クズが」 開口一番、レイヴンが言う。「君こそ何処か行っていいよ。お姉ちゃんは連れてって良いから」「何を……っ!」 レイヴン何かを言おうとした瞬間、リゼルの後方からシールドライガーとジェノザウラー、そして見たこともないドラゴン型のゾイドが出てくる。「満身創痍のお兄ちゃんじゃ勝てないよ」「くそっ……行くぞ、リーゼ。貴様ら、次に俺とこいつの前に現れたら……」「分かってるよ。そんな月並みなこと言わなくても。ボクだって次会うときは……ボクかお姉ちゃん、どっちかが死ぬときだと思ってるから」「レイヴン……行こう」 消え入りそうな声でリーゼが言う。「バイバイ、お姉ちゃん」 立ち去るリーゼの背にリゼルの嘲笑が降りかかった。
「行こう。エレ」 シェンリヴ大樹海よりほど近い宿の二人部屋でエルが言った。 あの戦いからすでに一週間ほど経った、ある朝のことである。「待ってよ、エル。一つどうしても聞きたいことがあるの」「……」 エルは珍しく無言で部屋から出ようとするが、「逃げないで……どうしても、どうしても知りたいの……」「……アグナスについて……だろ?」 エルは、ふぅとため息をついてから言った。「うん……」「わかったよ……全部話す。アグナスは、」 そこでエルは言葉を句切り、「アグナスは僕の兄なんだ……」 エルは淡々と、自分の過去を語り出した。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ レイとシェリアは知ってるんだけども僕には一つ年上の兄が居た。 兄は5歳の時からゾイドに乗っていて、その才能は6歳の時ですでに共和国軍の一般士官の操縦技術を遙かに凌駕していたんだ。 そして、兄が7歳の時、悲劇が起きた。 ある研究施設から兄をテストパイロットとして起用したいと言う連絡が来た。 父さんはその申し出を快く受けた。 まぁ、上官からの命令ってのもあったんだろうけど。 そして、それからわずか二ヶ月後、兄が死んだという知らせが届いた。 遺体は損傷が激しくて引き渡せないと言うのが妙だって父さんはよく言っていた。 それからさらに一年が経って父さんがレイの父さんとシェリアの母さんと一緒に出陣するって矢先に僕にもテストパイロットの要請が来たんだ。 ただ、僕の場合は起用したいからという訳じゃなく、命令で無理矢理だった。 多分、父さんが反対したからだろうと思う。 そのテストパイロットの施設で僕は一度カプセルに入れられた。 生暖かい薄い青色をした水に満たされたそのカプセルは古代ゾイド人の遺跡から手に入れた物らしかったんだけど、それはどうでもいいことかな。 とにかくその中で僕は兄の夢を見た。 それからどれくらいの時間が経ったか分からなかったけど、目が覚めてすぐに僕はゾイドに乗せられた。 僕は兄ほど上手にゾイドに乗れた訳じゃないのに、自分はシールドライガー相手はレイフォースが3人って言うかなり危機的な状況だった。 僕の操縦技術じゃあ到底その三人に太刀打ち出来るはずがなかったんだけども、後一歩でやられるって時に、兄の声が聞こえたんだ。 エル、お前が望むなら俺が力を貸してやるよ……って。 僕は無我夢中でその声に頷いた。 途端に、体が言うことをきかなくなって、気付いたときにはレイフォースのライガーが地面に転がっていた……。 科学者達は大成功だってよろこんでいたけど、僕も父さんも母さんもよろこべなかった。 兄はその人達に殺されたんだから。 それ以来、僕は感情が高まると兄、アグナスの精神に支配されてしまうんだ。 小さい頃は完全に支配されちゃっててその間の記憶もなかったんだけど、最近は……うん、レミアのために戦ったときとかは……覚えてる。 それ以降の戦いでもリゼルと戦ったときもレイヴンと戦ったときも……。 そして今さっき戦ったときも……。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※「つまり……二重人格ってことかしら?」「いや、本当にあった精神がもう一つ住み着いているって感じなのかな……」「でもそれは思いこみの類じゃないかも知れないわ」「どういうことだい?」「古代ゾイド人リーゼの家は傀儡虫を使うことで有名だったけれど、彼女の家は同時に精神に関する研究を行っていて精神を混同させる器械とかも作っていたらしいの。もっともそれは血縁関係がなければ上手くいかないって言う代物だったから私達の時代では大した発明とは言えなかったけれど……」「じゃあ……僕と兄の入れられた器械は……」 エレの話を聞いたエルは信じられないと言った口調で言う。「多分……ね」 「まぁ、こんな事話しても仕方ないか……」「エル……話してくれてありがとう」「気にしなくて良いよ。話したせいで少し楽になった」 明るい声でエルは言う。「じゃあ、行くの?」「ああ、リゼルが言うにはリーゼは一ヶ月後にノーデンス遺跡を訪れるって話だから」「リーゼは何をしに遺跡に行くのかしら……」「墓参りらしい」「誰か……死んだの?」 エレは小さな声で言う。「わからないよ」「そうよね」「そろそろ、行こうか」「ええ」「それじゃあ、ノーデンス遺跡へ出発」 エルとエレは元気よく宿を出て駐機場へと向かっていった。 目的地はノーデンス遺跡。そこで全てが終わる気がした。
「アトラス准将、貴公に新たなる出撃任務が届いている。命令はカール・リヒャルト・シュバルツ中将からだ」 その日アトラスはドラゴンヘッド要塞総司令官ムヘクト・ビュラン大将に呼び出され、司令官室に着いた途端にその指示を受けた。「シュバルツ中将からでありますか?」「そうだ。君とミレニア大尉、レイ中尉、シェリア中尉、ロック中尉は明朝より新任務についてもらう」「その任務の内容は一体……?」「黒烏レイヴンと蒼い悪魔リーゼの追討だよ。何でも上層部にたれ込みがあったらしい。来月のある日にリーゼがノーデンス遺跡に訪れる、と」「上層部はそれを」「ああ、信じている。だから君に出撃命令が出されたのだ。唯一最近のレイヴンと交戦した生き残りとしてな」「……はぁ」 ムヘクト大将は力強く言うもののアトラスにはこの任務を成功させる自信はほとんど無かった。 結局、彼の言葉に応じたのはため息のような呆れたような声であった。「あ、そうだ君のところに一人転属になった部下がいる。……入りたまえ」 促された入ってきたのは以前エルバートの病室で出会った彼の副官、フェア・アンリーテイクであった。「失礼致します」 彼女はそう言いながら部屋の中央へと入ってくる。「彼女もレイヴン追討に名乗りを挙げてな。使える人員なら多い方が良いだろう?」「ええ、その通りです」「では、よろしくお願いします、アトラス准将」「こちらこそよろしく、フェア中佐」 二人は互いに恭しく礼をした。「それにしても物凄いポテンシャルですね、フェア中佐って」 ミレニアとロックと戦うフェアをモニタリングしながらシェリアが言う。「流石は元ガーディアン・フォースと言ったところか……しかしまさかこれほどとは……」 司令官室から戻るやいなやアトラスはフェアに実戦テストを受けさせていた。 戦闘時の仲間の能力を知ることは作戦失敗の確率を大幅に減らすための最優先事項であるからである。 その結果は驚きのものであった。 オーガノイドを所持しているにもかかわらず、その力を全く使わずに今現在、ミレニアとロックを翻弄しているのである。「よし、レイ中尉、出撃だ。フェア中佐、オーガノイドの使用を許可する」「へーい」「わかりました」 アトラスが言うと二通りの返事が返って来る。 そしてモニターにライガーゼロが映り、同時に、「スクルディアスっ!」 フェアが叫び黄色い光の矢が宙に舞い上がったかと思うとそれが彼女のジェノザウラーに突き刺さった。「はぁっ!」 その後は一瞬であった。 彼女の気合いのこもった声と共にジェノザウラーが超高速で移動しロックのガンスナイパーウィーゼルユニットを尻尾でなぎ倒し、次の瞬間には同じく瞬間的にチャージされた一点集中の荷電粒子砲によりミレニアのシャドーフォックスの脚が焼き切られる。 あっという間にレイとの一騎打ちに持ち込んでしまった。「く……速ぇな……」 レイも今の動きにはなんとか目で追えた程度で体の反応がついて行けるかは正直分からなかった。「今のがスクルディアス第一能力、超加速と第二能力、瞬間集束です。」 そこへフェアがわざわざ注釈を入れる。「これがオーガノイドの力か……けど、やるっきゃねぇな」 そう言ってジェノザウラーに向かって走り、距離を縮める。「そしてこれが……」 フェアが言った瞬間、彼女のジェノザウラーがぶれ始める。「今度は何する気だよっ!」 レイが走りながら二連ショックカノンを放つが弾はぶれているジェノザウラーをすり抜け、遙か前方で破裂する。「幻か……っ!?」 レイが驚いて足を止めた瞬間、彼の周囲に五体のジェノザウラーが並んでいた。「スクルディアス第三能力……第一能力、第二能力の同時発動とホログラム投影機による必殺技……」 どこからとも無くフェアの声が響く。「だぁぁあああっ!どれかが本物だろうがっ!くらえっ!」 それを無視してレイが砲撃を繰り返すが全てすり抜けてしまう。「幻惑の五芒星(ミラージュ・テンペスト)っ!」 フェアが叫んだ瞬間、五方向より拡散荷電粒子砲が放たれ、逃げ場のないレイはその場でEシールドを展開するが全てを防ぐには至らず、「ぐはぁぁぁああああっ!」 後方からの荷電粒子砲をかわそうと跳躍したときに脚を撃たれて着地を失敗し、砂漠にライガーゼロの頭より突っ込んでしまう。「く……くそぉ……」 最後のうめきを後にレイは意識を失った。
コツン、コツンと軍用ブーツの足音がドラゴンヘッド要塞の研究施設に響いていた。 足音は次第に奥の方へと進み、ある一室の前で立ち止まる。 その部屋にはオーガノイド・ウルデュリアス保育庫と書かれている。「ここか……」 その人物はその部屋のドアを静かに開ける。 中にはいると緑色のオーガノイドが拘束用の首輪を付けられて突っ立っていた。 エルバートのかつての戦友ウルデュリアスの現在の扱いは実験ゾイドである。「お前も、前の主の仇を討ちたいよな?」 その人物が言うと、ウルデュリアスも頷くように首を縦に振る。「じゃあ、俺と一緒に来るか?そうすれば、彼奴と、レイヴンと戦えるだろう」 その仕草を見てその人物は言葉を続ける。 そう言った途端、ウルデュリアスは大きく咆吼し、拘束用の首輪を根本から引き抜いた。「それで、良い。それでこそ俺の相棒になるオーガノイドだ」 その行動を見てウルデュリアスをパートナーとして迎えようとする人物は満足げに言う。「それじゃあ、よろしく。ウルデュリアス」 ウルデュリアスは再び咆吼すると新たな主と共に基地から飛び去った。「あれ、レイ、何処行ってたの?」 その晩、レイが部屋に戻るとそこにはシェリアが待っていた。「ちょっとトイレだよ。腹の調子が悪くて」「大丈夫?」「ああ、さてと、シャワーでも浴びて寝るかな……」 心配そうなシェリアに微笑んで、レイはそう言い上着を脱いでシャワールームへと入る。「そう、じゃああたしは先に寝てるね」「そうしてくれ」 それを見たシェリアはそう言い、レイもあっさりと返した。 数分後、レイがシャワーを浴びて部屋に戻ると、そこではシェリアがすでに静かな寝息を立てていた。 レイはそっと彼女が眠る自分のベッドに潜り込み、「……これで、これで本当に良いんだよな……」 一人、呟いた。「これで、多分シェリアは助かる。けど俺は、エルとレイヴンを倒しても……」 罪は消えない。その思いが彼の脳裏をよぎる。「けど、こいつが死ぬくらいなら……」 レイは彼女が起きないようにそっと彼女の頬に口付けをした。「おやすみ、シェリア。これが俺達の最後の戦いだ……」 レイはそう言って明日からの任務に備えて眠りについた。