| [285] 「学園事件」〜女学生編(フローネ&リア) 5 |
- 周防 松 - 2004年12月13日 (月) 15時44分
ええと?
私は、ちょっと混乱してきた思考を整理してみた。 視界がぐらっと回ったのは覚えてる。 そして、気がついたらクライブ君と、白衣を着た女の先生がいた、と。 で、先生いわく、「誰もいない」……。
「誰もいないって、どういうことなんですか?」 私は、先生に聞いてみた。 この先生、あんまり見覚えないんだよね。 もしかしたら、高等部の方で教えてるのかもしれない。
「そのままの意味よ。まだ放課後からそんなに時間が経っていないはずなのに、 校舎内に誰もいないの。部活動や委員会で残っているはずの生徒だけじゃなくて、 教師まで誰一人いないのよ。 おかしいでしょ? まだ勤務時間中のはずなのに」 そう言って、先生は腕時計と壁にかけられてる時計とを見比べる。 「時計が物凄く進んでいるとか、そういうわけじゃないみたいだし……」 ちらっと壁にかけられてる時計を見ると、午後の3時を少し過ぎたところだった。 うん、この時間に誰もいないなんて、それは変だ。
「どうして、誰もいないんでしょうか?」 リアちゃんが首を傾げると、先生は困ったように頭をかいた。 「今から私の考えを言うけど……君達、笑わない?」 「そんなこと、しません」 私も、便乗してこくこくうなづいた。
「それじゃ、言うわね。……私達が今いるのは、折り重ねられた空間だから……じゃないかしら」
先生の言葉に、誰も何も言わなかった。
いまさらながら、校舎内に誰もいない、っていう言葉の意味が、よくわかった。 誰もいないと、通い慣れた学校は、こんなにも静かな場所に変わるんだ。 ――薄気味悪くなる、くらいに。
「異世界、みたいなもの……?」 私は、無理矢理に言葉を紡いだ。 この沈黙を、どうにかして終らせたかったから。 「……と呼べるかどうかは疑問だけど、それに近いものではあるかもしれないわ」 先生は、長いため息をついた。
あの……それって。 どうにかして元のところに帰る手段を見つけなきゃいけない、ってことじゃあないでしょうか?
ああ。 小説やマンガに出てくるようなシチュエーションを、まさか自分が経験することになるなんて。 ……これ、夢じゃないのかな……。 夢であって欲しいな、なんてちょっと思いつつ、私はほっぺたに手を伸ばす。
ぎに。
「いたっ!」
あうちっ! つねってみたら、思いっきり痛かった。 夢じゃないのね……とほほ。 「どうかしました?」 つねっちゃったほっぺたをさすっていると、リアちゃんが顔を覗きこんできた。 「あ、ううん、なんでもない」 私は、笑ってごまかしつつ、空いているほうの手をひらひらさせた。
「さらに悪い話があるんだが」 クライブ君が、横から口を挟む。 「まだ何かあるの?」 ぼやいた私を、クライブ君がじろりと見下ろした。 黙って聞け、っていわんばかりだ。 むむ。女の子をいじめちゃ駄目なんだぞ、クライブ君。
「出られないんだよ、学校から」
「へっ?」
出られない? 学校から? なんで?
「昇降口のドア、開かないんですか?」 リアちゃんの言葉に、クライブ君は首を横に振った。 「ああ。昇降口だけじゃない。体育館の出入り口とか、とにかく外に出られるところは全部調べた。 だけど、どこも開かないんだ」 「鍵がかかっているんじゃないんですか?」 「鍵くらい、ちゃんと確認してる。妙なことに、鍵が開いてるのに、ビクともしないんだ」 「みんなまとめて鍵が壊れてるのかもしれませんよ?」 「あのなぁ!」 「じゃあ、窓から出たらいいんじゃない?」 ドアが駄目だったら、窓があるよね。 そう思って私が提案してみると、 「……やってみろ」 クライブ君が、保健室の窓に、くいっとアゴを向けた。
なーんかしゃくにさわるけど、まあいいや。やったろうじゃないの。 私は、窓に近寄ると、まずは鍵がかかってるかどうかを確認した。 えーと。鍵はー……かかってないわね。 確認したところで、窓枠に手をかけて――
「うーんっっ」
あ、開かない。 窓は、どんなに力を入れてもビクともしなかった。 まるで、そこに貼りついてるみたいに。
「リアちゃん、ちょっと手伝ってっ」 「あ、はいっ」 リアちゃんまで巻きこんで、開けようとしたんだけど……何回やっても結果は同じ。
「駄目だっただろ」
あきらめて窓枠から手を離したところで、クライブ君が声をかけてきた。 顔を見ると、なんとなく意地悪そうな笑みを浮かべてる。
……クライブ君、結果わかってて、やらせたな……?
「窓が開かないなんて言ってなかったじゃん!」 私は、クライブ君に抗議した。 開かないってわかってるなら、「窓も開かない」とか言えば済むことじゃないのさっ! なんでわざわざやらせるわけ? 『骨折り損のくたびれもうけ』ってやつだわ!
「外に出られるところは全部調べた、と言ったはずだ」 クライブ君は、それはそれはあっさりと私の抗議をかわした。 「窓って単語は出てないっ」 「それぐらい想像しろ。中3だろ」
うがーっ!! なんか腹立つーっ!!
「まあまあ、落ちついて」 クライブ君に怒りの視線をぶつけまくってると、先生が間に割って入った。 「実際に体験してみないと、信じられないでしょ? 鍵がかかっていないのに開かない、なんて。 だからわざわざやらせたのよ」 ね? なんて言われて、クライブ君は「ふん」と視線をそらした。 ……先生の言葉にも一理ある……のかなあ? 「ええ、おかげでよくわかりました」 リアちゃん、何も意識してないと思うんだけど、ちょっと皮肉にも聞こえるよ、その言葉は……。
「ところで、これからどうしましょうか?」 リアちゃんは、続けてそう言った。 どうしましょうか、ねえ……。 「どうにかして、元の世界に帰る方法を見つけなくちゃね」 割と前向きな意見を口にしながら、私は頭の片隅で不安を覚えた。 今現在、確実な手がかりは何もないから、だ。
「これが、おそらく唯一の手がかりだ」 え?手がかりがあるの? そう思って発言者のクライブ君を見ると、彼は、あの紙切れをじっと見つめていた。

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