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短編リレー

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[273] 『聖マルタンの夏祭り』(星の子供編)〜4
Caku - 2004年12月07日 (火) 16時15分


その威容は町を支配するが如く、見下ろす視線ははるか地上。
時計塔は気がついた、無粋な侵入者に。

ああ、誰だ。絶望を弄る者、悲嘆を掘り起す者よ。

そう語っているように、本来の役目たる時計の秒針は地上を串刺しにするかのように
切っ先をすべて下に向けて。
本来連歌色の塔の外壁は、なぜかこの暗闇よりもなお黒く、見る者に不安と恐慌を呼び覚ます。






不思議だね、なんとなく引き寄せられたように。
角の子供と不思議な少女と自分は、まるで光に引き付けられた夏の虫のように
この、手を繋いでいる子供へと集まったみたい。

真っ暗な道を、歩いていく内に気がついたの。
この子、この不思議な白い子が光を放ってることに。珊瑚が、満月の夜に自分達の子供を
月の光にくるんで潮に託すときのような、そうこれは光。
光る砂みたいな輝きが、歩くたびに足跡を引いて、そしてすぐに消える。

さらさら、さらさら。

廃屋と崩れた木々の、恐ろしい場所にあっても、いやあるからこそ、この子の光は強くなる。
銀の輝き、星の色だ。私はそう思った、これは、この子は“星の子供”だ。

「綺麗だね」

隣を並んで歩いていた水棲の子がそういった。一角獣のような角を持つ子だ。男の子かな?
淡水の香りがする、多分この子は湖水の民だ。

「体中が光ってるよ、さっきの祭りのなかじゃあわからなかったけど」

うん、さっきは分からなかった。
このささやかで控えめな輝きは、あの明るく強い色彩に負けていて見えなかった。
子供は、不思議そうに私達を見上げる。
この子が星の子供なら、どうして大地にいるのだろうか?
ああ、うえに帰れないとは、空に帰れないということか?でも、時計塔っていうところに行けば
帰れるのだろうか?そこはそんなにも天空に近い場所なのだろうか?


「時計、塔」


ぽつりと、水の波紋を音にしたような声が響いた。
それは、あの陶器人形のような少女から響いたと気がついたのはそれを見てからだった。
高い高い門構え、茨の蔦と氷の氷柱でできたみたいな不恰好な門。ひどく心が不安になる。
しかも、誰かの力でへし折られてるみたいに、ひしゃげてる。
誰か、先にここを壊して入っていったみたいだ。

「ねえ、先に誰か入ったのかな?」

「………」

お人形、みたいなその女の子は断ち切られた門を見つめて、首をかしげるだけ。
角の子も、なんだか薄気味悪そうに辺りを見回している。うん、ここは良くない場所だ。


子供の光がはっきり分かるほどに輝いてくる。
陸のお話で、旅人を導く最も清浄な星は北極星という。自分が空を見上げても、それがそれだか
わからないけど、きっとその光は目の前の子供のような光だろうと、訳もなく思った。
導く光は、目に見えるもの。わかるものだ。
光は闇にとって、攻撃する対象の目印にもなる。



Ruuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu−−−−−
Ieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee−−−−

この響く旋律は、どこから聞こえるの?

Aruuuuuuuuuuuuuuuuuu−−−−−

風?ううん、風はこんな音じゃない。もっと無機質でもっと硬いものだ。
生身を剥がすような怖気に襲われて、触覚がピン!と立つ。


weeeeeeeeeeeeeee−−−−ruyeeeeeeeeeeeee−−−


陶器人形のような女の子が敏感に反応した。
名前、まだ聞いてないね。馬鹿、何考えてるの自分。こんなときに。
角の子も「何っ!?なんだよっ」と異常事態を察してる。

子供が身震いして、しがみついてきた。
光はそれでも子供の内から溢れ出て、いや闇に比例するように辺りを照らす。
歌が聞こえる。あどけなくて、でも確実に迫る闇の歌。

Rairairairairairairairai………
Rairarararar………Airrarararara−−−−−

思わず羽根が逆立つのをとめられない。
子供のような無邪気な歌声に、深深と我が身から沸き起こる恐怖と…なぜか、痛み。




「走って!!」

思わず声を上げた。早く!早く!!ここを離れろ、と体中が叫んでる。
足のない自分が、水から跳ねるように空中で宙返りする、あるはずのない水面の波紋が、魔法
の波紋を空間に刻んで、蒼色に光る。
同時に何かがあちらこちらでもぞりもぞりと胎動しはじめた。影だ!

それを合図に、時計塔の入り口まで走る自分たち。
別に中に入れば安心、だなんてこともないだろうけど。この場所にいると恐怖に犯されてしまう。
ここは、入り口だ。時計塔の入り口であり、闇の入り口でもあるだ!
一番足の長い女の子が、もつれて転びそうになった子供の手をひいて走り始める。
角子は、服の裾をひるがえして駆ける。

雫が水面に落ちたような波紋の魔法印めがけて、影が殺到する。
彼らは光に反応するみたいで、魔法印の光を食べつくすと、子供の光を見て貪欲に笑う。
うん、顔も口もないあの黒い影が笑い、こちらを見ているのが分かる。
あの魔法、水の魔法であったはずだが、発動前に食われた。魔法自体を食べるなんて聞いたこと
ない!!


さあ、時計塔の入り口はもう少しだ!
幸い、先客かあるいは誰かが扉をあけて、中には松明の光がある。
ここは大丈夫だよ、少なくとも影は入って来れないよと囁きかける。あそに!早くあそこに!

転がるように、子供、銀髪の女の子、角子と最後に。
間に合わない!尻尾にぞわぞわと撫でる影の感触が、思わず泣きかけたその時。


「あっち行けぇぇぇーーーー!!!」

角子が松明を私の後ろに投げた。頬を掠める火の粉が熱い。
と、肉か水か、はたまた別の何かが燃えるような匂いがして影は悲鳴をあげた。


Hiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!


腕を引っ張られて、最後に私が水から引き上げられた魚のように尾を引く。
バタンっ!!と扉が閉まる。



松明が、ちりちり燃える。
石畳の、古い壁。鼠と羽音の声が聞こえる。
あとは、荒い呼吸を繰り返す私達の声と心臓。誰も喋ろうと、喋れない。

しばらく、呼吸音だけが響いた。


「……な、なんだよアレ……」

「…………」

「…ドキドキした……」

「ああ、はぁ……はぁ、そうだね…ってえぇ!?先にそっちなのか!」

角子の言葉に、何か場違いな事を言っただろうかと首をかしげる。
ふと、ぐったり倒れこんでる子供を尾っぽで持ち上げた、大きな瞳が、めいっぱい開いてる。
多分、びっくりして呼吸も止まってるんじゃなかろうかと思う。可愛いかも。

「…でも、まだドキドキすると、思う」

ぽつりと女の子が言った。
彼女は外に繋がる階段を見て、指をさした。

「外に、出ないと……うえに行けない」

「げ、マジで……」

とりあえず。
私は呼吸をおちつけて、忘れていた重要なことを発言する。
大事なこと、とっても大事なこと。とてもとても大切なことを。




「……とりあえず、全員自己紹介してみよう」







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