| [235] 『吸血鬼退治』(ウピエル&シエル&礫)――あらすじ |
- 葉月瞬 - 2004年11月03日 (水) 12時25分
その事件は砂漠の傍に位置する裏寂れた町で起こった。 美しい少女が死体で発見されたのだ。しかも首には二つの穿孔が見つかった。 事件はさらに続いた。しかもどれも被害者は飛び切りの美女ばかりだった。 犯人はおそらく吸血鬼だろうと踏んだ、自警団団長のボルドーは吸血鬼退治のため、ギルドハンターを雇う事に決めた。 依頼内容は、『吸血鬼を退治して下さい。 ミンラン自警団団長ボルダー』という、至極簡潔なものだった――。 ボルドーの依頼を受けて集まったシエル、礫、ウピエルの三人。 依頼内容を詳しく聞いた三人は、ウピエルのウクレレクラッシュを受けて倒れたボルドーが復活するのを待って「吸血鬼の専門家」と自称するちょっと風変わりなおじさんを紹介される。名前はヴラド・ツペッシェ・山田三世。男はコスプレよろしく、とがった耳、突き出た犬歯、高い鼻という酷く吸血鬼っぽい格好をしていた。 取り敢えず簡潔に自己紹介を済ませた三人。 早速食事をしながら犯人の見当をつけ始める三人。取り敢えず、依頼を受ける事を確認しあう。
食事を終えた礫はウピエルの吸血鬼についての講義を受ける。
「さて、ボウヤ。かる〜く吸血鬼のことについて教えてやろう。 どうせたいしたことは知らないだろう?」
椅子の背もたれに腕を乗せて、礫に席を促すウピエル。 シエルはと言うと当然の様にソファーに腰掛けている。 そして、話は始まった。
「まず、吸血鬼は大別して二種に分けられる。 で、片方を『真祖』もう片方を『死徒』と呼ぶ。ここまではいいな?」
結局椅子がなくてベッドに腰掛けることにした礫をみながら首を傾げてみせる。 礫のあやふやながら一応理解した、という態度に今度はシエルが口を開く。
「その二者の違いは、在り方なの。 『真祖』と呼ばれる存在(モノ)は生まれたときから吸血鬼だったもの。 そして『死徒』とよばれるそれは人間から吸血鬼になったもの。 もともと『死徒』は『真祖』の餌として彼らに血を吸われた人間達が自立した者なのよ」
「ちなみに、今回の俺たちの敵は十中八九間違いなく『死徒』の方だ。 こいつらは、昔の領主を気取って勢力拡大ゲームをするのが好きでな、 今はまだ力を蓄えている段階だが、 そのうち街一つ、ひいては国まで支配することになる。ほっておけばな」
「はい、ちょっと質問です。 その『真祖』というのは何者なんですか?」
律儀に片手を上げて、礫が口を挟んだ。 その態度にウムとうなずいてからウピエルは嬉々として講釈をたれ始める。
「『真祖』という存在はだな、簡単に言うと人の敵、機械の敵。 ありとあらゆる自然を脅かすものの敵だ。 吸血鬼と言ってもやつらの性質は精霊に近い。 この世界そのものから力を吸い上げているため無限に近い能力を誇り、 自分の想像したものを自然に反映させ、数多の能力を持つ。 この世界が、天敵のいない人間の為に生み出した究極の存在。 ちなみに人型で実体も持ってる。人を律するには人の型をって考えらしいな。 ま、運悪く遭っちまったら辞世の句でも詠む間があるかどうかもあやしいしろもんだ」
「圧倒的ですね…」
そろそろ日も完全に堕ち、月の時間帯となる。 件の吸血鬼騒ぎのせいか夜闇を出歩く者もなく、 彼らの部屋の中には語る声とランプの芯が焦げる音しかしない。 しかし真円を描く金白色の月も、まだ天の頂には達していないのだった。
「はなしを戻そう、この際やつらの起源やら実体についてはどうでもいい。 問題はどうやつらと戦いやつらを倒すか、だ。 礫、お前の武器は無銘の刀だっつってたっけか。 はっきりいってそれじゃあやつらにダメージは与えられん。 刀は確か鋼鉄と芯鉄から成り立っていたと思うが、どちらも人の意思を伝えにくい」
「刀の構成なんて、妙なものを知ってるのね」
饒舌に語るウピエルの弁に、シエルが茶々をいれた。 しかし牽制の意味も込めたその言葉は、 「まぁな、刃物のことなら任せてくれぃ」 というアブない一言に一蹴されてしまう。
「まぁ、とにかく『死徒』っつー吸血鬼は、 早い話が根性の力で無理やり死んだ体を動かしてるわけだ。 つまり肉体ではなくその根性を滅ぼさなければいけないわけ。 吸血鬼退治に銀の武器が定番なのも、あの金属が人の意思を伝えやすいからだ。 つまぁ〜り、やつらを簡単に倒すには銀のそれも飛び道具がいいわけだ。 なぜかというと…」
と、まぁ無駄に長いウピエルの話を総合するとこうなる。 ・もともと不死ではない人間が不死たりえているのは、 早い話がすさまじい精神力でその意識を保ち、吸血によって体の崩壊を抑えているから。 ・それを殺す方法は三つ @彼らの精神力を上回る気合で彼らを意識を奪うこと。 具体的には銀の、主に飛び道具による攻撃。 直接攻撃だと銀の特性を相手に利用されダメージをもらう恐れあり。 A意味上の死を与えること。 彼らの心臓に杭を打ち込むことは問答無用で彼らの死を意味する。 存在の意味が消滅すればその存在も滅ぶのが道理である。 B体を崩壊させる。 彼らの寝床を破壊し血を与えずにおくと、彼らは体を保てなくなり消滅する。 まだ、陽光にあてることで崩壊を早めることが出来る。 一番安全で手間のかかる倒し方。
「あぁ、あとあの伯爵のじぃさんは多分ほっといておっけーだろ」
ウピエルの軽い一言に、伯爵はどうでもいい者として処理された。
作戦会議で銀製の武器を調達するように決めた三人は、早速翌日から行動を起こした。 銀製の武器を調達する方と、自警団団長ボルドーに会いに行く方とで分かれた。 しかし、ボルドーは留守をしていた。
時を同じくしてボルドーは城門の前に来ていた。銀の弾丸を手にして、思いつめたような表情で。
買い物の途中で城門に向かうボルドーを見かけたウピエル。面白そうだという理由から、後を追いかけ始める。 そんなウピエルを見かけたシエルと礫は急いで後を追いかける。 「今夜は、満月よ」 シエルの言った台詞が不吉を増す。
ボルダー・シュナイフには兄が一人いた。吸血鬼退治専門の。 その兄が死に追いやられ、その仇討ちを決意していたボルダー。 ボルダーは満月の日、一人城郭跡地へと赴いていく。 それを追うウピエルと、ウピエルと合流すべく後を追うシエルと礫。四人の行動は交錯する。 ボルダーが吸血鬼に被害にあった少女たちに襲われそうになった時、ウピエルはボルダーと接触していた。そんなウピエルに対して、<風>で<声>を飛ばすシエル。 『ウピエルさん、武器は確保しました』 という内容だった。 焦ってもしょうがないと、ウピエルと接触する機会を待つシエルと礫。 対するウピエルは戦闘状態に入っていた。 既に『死徒』になっていた少女たちを、軽く片付けたウピエル。ボルドーに近付き、真犯人を言い当てる。
「なぁ、ホントは俺様達を雇ったのはカムフラージュなんだよな?」
「なっ!?」
「俺様達をやとって、いかにも怪しい爺さんを疑ってる間に自分は黒幕を仕留めておくつもりだったんだろ? なにしろあのジィさんもモノホンだ。そーすれば犯人はジィさん、真犯人ももういないから事態は丸く収まる…」
「しかし、何故私が…!?」
「そこから考えても、真犯人はアンタがそこまで彼の名誉を守ろうとする存在。 つまり、領主様が真犯人なんだよな?少なくともアンタはそう考えてる」
「私にはなんの事だかさっぱり…」
その会話は風を伝って後ろの二人にも筒抜けだった。
「足止めしたってコトは、別行動をお望みかしら?」
シエルのその疑問にウピエルはあっさりと答える。
『ま、そういうこと』
先を急ぐウピエルとボルダー。
―― 一方その頃、城内部にて――
「ボルダーよ、お前は私を裏切るのか…」
日のあたらない北側の窓辺で、豪奢な服を着た男が空に向かって呟いた。 窓の外には、二階であるこの場所にすら影を落とす背の高い木が群生している森がある。
「気にすることはないわよ。貴方には私がいるじゃないですか」
後ろから、女の声。 言葉面だけは敬語だが、その中にはむしろ見下すような響きさえ含まれているような声。
「そうだな、お前さえいてくれれば…私はいつまででも…」
ふらふら…と女の方に歩み寄る男。 一瞬だけ入った外の光に、その首にはっきりと刻まれた、 二つの刻印が照らし出されていた。

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