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短編リレー

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[480] 希望の炎―11(イートン&ベアトリーチェ)
熊猫 - 2008年04月14日 (月) 23時58分

覆いかぶさる暗い影はその速さと範囲を増し、
周囲はめまぐるしくその色を変えてゆく。

逆さ十字のシルエットに飲み込まれ、今や断崖の国は
どこよりも早く夜を迎えていた。

土竜によって遮られた空は、暗い。
まるでそれは夜の天蓋が何かの間違いで切り離され、
この国を覆わんとしているかのようだった。

「イートン!」

ベアトリーチェは怒鳴るようにして、いまだ巨大な竜の腹を
見上げている夫を呼んだ。
土竜が浮き上がるためにその翼を空打ちしているため、
発生する爆風が国中を蹂躙している。

「紙とペン!二人が心配だわ」
「あ――はい!」

二人、ルネアとセレナは今まさに頭上にいるのだ。
場所は特定できても、はるか上空にある空飛ぶ崖まで行く
すべは"天使様"とやらに頼るほかなかった。

「プリメラ、今何が起きているのかわかる?」

前を閉めたコートの内ポケットから手帳を引っ張りだそうと
しているイートンを横目で見ながら、愕然と空を見ている
プリメラへ問い掛ける。彼女ははっと我に帰ると、
震える声で答えた。

「竜が…復活したということは…弟が…ルネアが」
「じゃ、これから竜はどうすると思う?」

感傷に浸る間を与える暇を与えず、矢継ぎ早に質問する。
プリメラも何かを飲み込むように喉を鳴らし、険しく
瞳を歪ませた表情で上空を見上げる。

「わかりません…。もう贖罪はなされたはずだから、
竜が私たちに何かを求めるとすれば、この地を明け渡すことくらいです」
「つまりもう誰も死ななくていいってわけね」
「…はい」

沈痛な顔で目を伏せるプリメラ。
覚悟はできていたのだろうが、理不尽な肉親の死に
納得できるわけはない。
ベアトリーチェは口惜しそうに口を結んで彼女から目をそらした。

「…なんと書きますか?」

緊張した面持ちで、イートンが手帳のまっさらなページ
を開いて、ペンを持つ。
セレナの居場所を尋ねる文を書けば彼女の元へは行けるだろう。
しかし――

腕で顔をかばいながら頭上を振り仰ぐ。見えたのは
視界に収まりきらないほどの闇、そして国中に降り注ぐ小石や土。
その大元である、遥か上空に在る土の要塞に行って
帰ってこれるという絶対的な保証はない。

迷っていると、横手からプリメラが口を挟んできた。

「もしかして…"天使様"のお力を借りようとしているのですか?」
「信じられないでしょうが、その力で僕達は」

補足を入れようとするイートンを、わかっています、と元巫女は遮った。

「ええ、信じますとも…だって」

彼女もまた空の土竜へと視線を投げかける。

「私はこの国の人間なんですから。信じています」

きっと、彼女が信じたいのはもっと別の事だったのかもしれないが――

イートンは肩をすくめて、数秒考えるように顔を伏せた。
そして。

「…一つだけ、試したいことがあります。意味なんてないかもしれませんが」

顔を上げ、プリメラとベアトリーチェに言う。ベアトリーチェが頷くと、
胸元に手帳とペンを引き寄せて、絶え間なく降り注ぐ小石や
砂の音を聴きながら書く。


" あなたの名前は? "


そう一言書くとイートンは素早くしゃがんで、ひびだらけの
展望台の床に手帳とペンを置いた。

ペンが動くまでの沈黙を、悲鳴や喧騒が埋める。

「答えたっ」

ペンが動いた。プリメラが小さく息を呑んだ声が聞こえる。
さらりと書かれたその名を、ベアトリーチェは呟くように読み上げた。

「アル…バ?これが名前?」
「いや…まだ動いてます」

イートンの言葉どおり、ペンはひとり分の名前を書き上げてもなお
その動きを止めなかった。



"  アリサ・ジャワディ

  スーリア・サークル

  ローラ・ミシガン…  "



よくよく見ればそれぞれ筆跡も違うようだった。手帳の半分は既に埋まり、
ペンはさらにもう半分のページへと筆を進めている。

「…どういう事ですかね?"二人の天使"は二人ではない…のでしょうか」
「ねぇ、これ…みんな女の人の名前じゃない?」
「!」

ベアトリーチェの呟きに反応したのはプリメラだった。
地面にある手帳に跪くようにして身を寄せ、せわしなく視線を動かして
書き連ねてある名前を一つずつ確認しはじめる。

「やはり……これは…」
「どうしたの?プリメラ」

プリメラは答えない。ただひたすらに女の名前を書き綴るペンを凝視したまま、
石のように立ちすくんでいるだけだ。ベアトリーチェとイートンもまた、目の前の
奇妙な光景をただ見ることしかできない。
86人分の名前を書き終えたところで、ペンはぱたりと倒れてその動きを止めた。
同時にプリメラがとうとう耐え切れなくなったように嗚咽を漏らす。

「ベア、やはり僕達は選ばれたようです」

顔を両手で覆って泣きはじめたプリメラの背中へ労るように視線を注ぎながら、
まだ状況を把握していないベアトリーチェにイートンが口を開いた。

「天使は二人ではなかったんです。二つの力を見た人が、二人の天使によるものだと思った」
「どういう…こと」
「これは憶測ですが」

プリメラの脇を擦り抜けるように、地に広げてあった手帳を拾い上げる。

「"天使"の力が働くのは、紙に問いを書いたからではない。
その問いの内容に、力は働いていたんです」
「内容?」
「おそらく、巫女と怪物を擁護するために必要な問い。
その問いが発せられたときに、"天使"は反応する。二つの力を使ってね」

拾い上げた手帳をゆっくりめくり、イートンが新たに白いページを出す。
その何もない紙面を眺めながら、風になぶられる髪を正そうともせず
淡々と続ける。

「……竜の呪いで死ぬのは、選ばれた子供だけではありません。
彼らを生んだ母親もまた、死ぬ運命にあった」
「…」

まぶたを半分下ろしたイートンの目が、泣き崩れているプリメラを映す。
それが視覚的に見えたわけではなかったが、ベアトリーチェは避けるようにして
風が渦巻く空へと目をやった。

「……天使サマはユーレイってオチ?」

信じられない気持ちでうめく。たぶん、とイートンは言いながらプリメラの背に
そっと手を置いた。
いつもならそこで軽口のひとつでも言って困らせてやるところだが。

「母親…だったっていうの?ルネア達の」
「今の署名が何よりの証拠です。そうでしょう?プリメラさん」
「母さん――」

しなる枝が元の位置に戻ろうとするかのように、プリメラが問いに答えず立ち上がる。
イートンを振り払い、影で覆われた国をのぞむ展望台を見渡し、叫ぶ。

「どこなの!!」

当たり前だがルネアにとっての母親は、姉であるプリメラの母親でもある。
二人目の肉親を失ったばかりのプリメラの心中を察すれば、
手帳に書き込まれた亡き母親の名前を見て取り乱すのも無理はなかった。

「ルネアは、もうどうにもならないの!?」

絶叫に近いその声も、薄闇の前ではなんの効力も示さない。
竜の影を取り払っても拭いきれない夜の気配は、確実に世界を包んできていた。

「! 待って、答えました!」

放っておけばそのまま展望台から身を投げ出してしまいそうなほど
憔悴しているプリメラを引き止めるように、イートンが再度手帳を床に置いて前に跪く。

いきなり動いたせいでずれた眼鏡のつるを手で押さえながら、声に出して読む。

「『…すでに罰の代償として取り込まれた子供は』……」

ペンはその先も書いているのだろうが、イートンは読まない。

ベアトリーチェはプリメラの手をとってやった。さらにもう片方の手で肩をさすってやる。
その手に巻きつくようにしてすがる彼女の手はひどく冷たく、
握っている手からいくらか体温が奪われていく。
ペンが改行をしたところで、またイートンが読み始める。

「『しかし取り込まれたばかりのルネアであれば…助けることが出来るかもしれない』」
「本当に!?」
「まだ続きが…書き手が変わりました」

ベアトリーチェの歓声を遮るように、彼は手のひらをこちらに向ける。

「『我々の思念を"ルネア"として捧げ、ルネアの思念を"器"に移す』…?」
「なにそれ」

突拍子もない不可解な記述に、正直に感想を述べる。
イートンもお手上げのようだったが、いつのまにか落ち着きを取り戻して
手帳を見つめていたプリメラに声を掛ける。

「何か心当たりは?」
「おそらく…換魂(かんごん)をしようという事なんだろうと思います。
天使達の魂をルネアと偽って…」

やんわりとベアトリーチェの手を離すプリメラ。
まだ打つ手があることを知って、なんとか持ちなおしたらしかった。

「この天使サマ達の魂だかなんだかと、ルネアを交換するって事?」

おそらく、とプリメラが頷く。

「なるほど…しかしこの゛器゛というのは、すぐに用意できるものなのでしょうか?」
「あ゛〜〜〜〜〜〜!!」

ぐしゃぐしゃと目の前にあるイートンの髪をかき回しながら、
根負けしてベアトリーチェはうめいた。

「もーわけわかんない!とりあえずセレナはどこ!?」
「せめて自分の頭でやってください…うぅ」

ぼさぼさに乱れた金髪を抱えて、イートン。

「こんなとこでぐだぐだしてたら、ルネアどころかセレナだって助けらんなくなるわ。
あたしがあの子連れてくるからあんた達はどうにかしといて!」
「どうにかって…」
「はい、天使はとっととセレナんとこにあたしを連れてく!」

困惑しながら髪を正すイートンの非難めいた呟きを無視して、手帳の前に立つ。
相手の声はわからないが、向こうはこちらの話が通じているのだろう、
すぐに効果は現れた。

弾ける意識、めぐる視点。

何度経験しても慣れないであろうその感覚に翻弄されながら、目を凝らす。
目の前はすでに中空であった。
イートンとプリメラがいるはずの神殿が遥か下に見え、それを取り巻く
家々が見える。馬蹄形の崖に阻まれ海に追いやられているはずの断崖の国は、
今やそのシルエットを変えてただの沿岸沿いの街と化していた。
崖がごっそりなくなっている様は雄大ですらあったが、はるか上空にいても聞こえる
住人たちの困惑した悲鳴を聞いてしまっては感慨に浸ることもできない。

幽鬼のような雲の幕が景色を遮ったので、体の向きを入れ替え、上空を見上げる。
空は群青色に染まりかけていた。目を細めれば埃のように小さく煌く星が見える。
あといくばもいかないうちにそれは数を増やして輝き始めるだろう。

雲の層を突き抜けて、視界はとうとう土竜の横腹まで来た。
目をこらすと、昼間に訪れたあの洞穴が見える。そしてその中央で、確かに
ベアトリーチェは白い巫女服を見つけた。

「っ…」

少女の名を呼ぼうとして、ベアトリーチェは自分の舌を噛んで自制した。
今声を出せば体は実体を取り戻してしまう。そうなったら目もあてられない。
視界が近づくにつれて、彼女がうずくまっているのが見えた。

「セレナ!」

ようやく視界が洞穴の中に入ったところで、ベアトリーチェは彼女の名を呼んだ。
セレナはうずくまって両手に顔をうずめて泣いていた。その震える肩にそっと手を
起きながら、目は厳しく周囲に目をこらす。すでに体は実体を持ち、硬い岩肌の
冷たさすら肌で感じられるようになっていた。

「もう大丈夫よ」
「――大丈夫なんかじゃないわ!」

癇癪を起こしたようにセレナが涙で濡れた顔を向けてくる。
ベアトリーチェは次にくる怒号を想像してあえて口出しはせず、じっと
少女の瞳を見返していた。が、セレナはぐったりと疲れたように頭を垂れて
黙ってしまう。
無言で肩に置いた手をはずし、囁くように、しかしきっぱりと告げる。

「ルネアを助けに行きましょう」
「!……そんな事が…できるの?…本当に?」
「本当になるかどうかはまだわからないわ。けど、
あたしは嘘つきになりたくない。わかるわね?」

洞穴が揺れる。下手をすればここも崩れるかもしれない。
何にせよ時間がないのは代わりはない。

「でも、どうやって?」

泣き叫びすぎてだろうか。かすれた声で、不安そうにセレナ。

「あとで説明してあげる。でも今は、ここを出ましょう」
「…どうやって?」
「……」

まったく同じことを訊かれて、一瞬体が止まる。が、すぐに口の端を上げて
しっかとセレナの肩を再度掴む。ただし渾身の力を込めて。

「それは――ほら――こういう時は何かミラクルな力が働いて
数十メートルくらい自由落下しても腕一本なくなってまともに喋られなくなる程度で
最期にはみんな笑っているシーンでフェードアウトしてハッピーエンドってもんよ」
「あの、痛いんですけど…肩…」
「はぐれたら駄目だからこれくらいでちょうどいいのよ」

真顔で答えながら、背後を振り返る。ちょうど、轟音をあげて巨大な岩が
洞穴をかすめながら落ちてゆくところだった。

「本日の天気、晴れ時々ドラゴン。地域によっては落石注意」

さぁっと、セレナの顔が青ざめる音を聞いた気がした。
しかしそれを払拭するように明るい声で、ただし一瞬たりとも肩を掴んだ手は
緩めずそのまま洞穴の出口まで少女を引きずってゆく。

「行くわよー。こういう時は笑いながら行くと結構大丈夫だったりするから。
ほら笑って笑って。スマーイル★」
「いやああっ!」
「大丈夫よ!失敗しても違う天使様に会えるから!」

次の瞬間、二人は土砂が降りしきる宙へと身を躍らせていた。

[481] やはりというかなんというか
熊猫 - 2008年04月15日 (火) 00時01分

結局神頼み。

千鳥ちゃんおまたせしましたー!
なんかこう、すごくごめんなさいこれが熊猫の全力でした。

[482] まだこのBBS動いてるのね!
千鳥 - 2009年08月18日 (火) 22時41分

せっかくなので保守にレスしてみます。



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