| [472] 螺子れた箱 8 |
- るいるい - 2007年10月08日 (月) 04時32分
螺子れた箱 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ PC:ヘクセ ルリン NPC:悪魔i 場所:螺子れた箱の中 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
押し寄せる人波からヘクセを庇い、先頭に立って剣を振るい続けるルリン。 どこが一番守備が堅いか、と言われても、四方八方を取り囲まれている中を強行突破しているのだから、どこも同じ様に思える。 しかも背後にヘクセを置いて、彼女の安全も念頭に入れて立ち位置を入れ替えて戦う為、すぐにどっちへ進んでいたのか分からなくなる 。 更なる混乱がルリンを襲う。 先程逃げ切ってきたはずのトランプの兵士たちの内、確かに打ち倒したものがいつの間にか、同じ顔、同じ姿で襲い掛かってくるのだ。 しかも、最初に相手をしていたより速く、力強い。 剣を両手に持ち替え、刃でうまく受け流してはいるが、一撃を捌くごとに腕が痺れてくる。 それでも隙を見つけては切り返し、ひとり、またひとりと数を減らしていく。 「やるじゃん、ルリン」 後では、うまいこと隠れながら身をかわし続けるヘクセが、改めて感心したように言った。 「こりゃあ、援護はいらないかな?」 ルリンは敵の猛攻を凌ぐのに必死で、まるで聞こえていない。 トランプの兵隊と剣を打ち交わすこと数回、徐々に彼らの数が減っていく。 ルリンの動きから、無駄がどんどんそぎ落とされ、洗練されていく様を、ヘクセは目の当たりにした。驚くべきことだ。正にこの瞬間にも、彼は強くなり、更なる高み目指して進化しているようだ。 だが、もちろんそれは錯覚で、彼本来の強さが片鱗を見せ始めたのだ。 人には大きく分けてふたつのタイプがある。 ひとつは目的が決まった時に力を発揮するタイプ。ひとつは守るもの、責任を負ったときに力を発揮するタイプ。 ルリンは明らかに後者だ。 少しでも早く囲みを突破する為、押し寄せる敵の攻撃の中から、瞬時に受け流すものと反撃するものを区別し、的確に捌いてはひとり、またひとりと敵の数を減らしていく。 集中力が研ぎ澄まされているのだ。その様は、時計が正確に時を刻むのと同じ様に、冷酷で、非情で、精密で、正確な攻撃だ。 ヘクセの眼から見ても分かるように、相手は身体能力が数段上がっているのに、ルリンは互角に渡り合っている。 「呆れるね」 ぽつりと呟くその言葉とは裏腹に、込められた感情には、接近戦では無類の強さを発揮する彼への賞賛の念が隠しきれない。 「何をしている、早くその男を仕留めろ!」 兵隊の背後から悪魔が叫ぶが、彼にも分かっているようだ。 とてもではないが、兵士たちでは太刀打ちなどできないと。 その証拠に、騎士が4人がかりで攻撃をかけているにもかかわらず、ろくな攻撃が当たらない。 それどころか、戦闘が長引くたびに深手を負っているのは、取り囲んでいる騎士たちの方ではないか。
「何故だ!」 悪魔はまたも叫んだ。 「何故そこまで強い!」 ルリンが踏み込み、振りかぶった長剣を何となく振り下ろしたように見えた。 その一撃で、クローバーの騎士の首に剣が突き刺さり、彼は血を流しながらうつ伏せに倒れた。 ルリンの強い理由が、ヘクセには何となく分かってきた。 ひょっとして、彼は時間はかかるが、自分の信じた道を歩いてきたからこそ、今の強さがあるのではなかろうか? 軍を退き、ひとりとなってからどんな訓練や修行をしてきたのかは分からない。 だが、確かな信念をもち、誰も認めなくても、評価されずに馬鹿みたいでも守り通してきたからこその強さではないだろうか? 数字で例えるなら、彼は「1」なのだ。 誰から教わったわけではない。他に強い人や要領のいい人はきっと10や20の強さを持っているだろう。 だが、彼は何も無いところから、自分の力だけで起こした1を持っている。 ルリンが持っていないものはいっぱいある。栄誉や名声、富などは程遠いだろう。友人も無く、恋人も無い。家族も国も捨てている。 それがどれだけ暖かいか、知らないわけが無い。 しかし、それを振り切り、捨て去り、省みない。 無くしたものは戻ってこない。自分に無いものをねだっても手に入らない。 今、自分が持っている物は何か? それが大事なものではないだろうか。 「囲め、逃げられないように攻め続けろ!」 悪魔が指示を飛ばしているが、彼の何と薄っぺらに見えることか。 カーターに死なれ、リドルに負け、結局、彼が取った行動は逃避でしかない。 戦闘の均衡が崩れ始めた。 総勢50人はいるだろうトランプの兵士たちは、騎士を打ち倒すルリンに気圧され近寄ることもできず、辛うじて渡り合えた騎士たちは攻撃を見透かされたように避けられ、反撃をいいように受けていた。 確かに、ルリンには相手の動きが分かった。見切ったと言ってもいい。 理由は単純だ。 「そっか、こんな古い時代の戦い方を、軍にいたルリンが知らない訳ないんだ。問題の答えを知っていれば、答えるのは難しくないねぇ」 彼らの敗北の原因。それは、 「ルリンと戦った事か。こりゃあ、相手が悪かったね」 いつしか、ルリンとヘクセの周りには、大きなスペースができていた。 騎士たち3人に、ルリンは十字に剣を切り、切っ先を突きつける。古典的な決闘の合図だ。 それなのに、敵は足踏みするように攻め込めずにいる。 形勢は逆転した。 だが、それだけでこの箱の中から脱出できるわけではない。 「行くぞ」 不意に腕をつかまれおたおたするヘクセ。 次の瞬間、勢いよく飛び出したルリンは正面にいるトランプの兵隊を蹴り飛ばし、空いた所から囲みを突破して走り出した。 「こいつらが俺を何としても行かせたくなかったのは、こっちだ。75とやらは、先にあるんだな?」 「うんっ!」 ルリンは頷くと 「あの連中とは、この後もいつでも戦ってやる。謎を解くのは、ヘクセ、お前の仕事だ。そっちは任せるぞ」 「謎というほどのものではないけどね。」 ヘクセは走りながら答えた。 「この哀しい呪いはそろそろ解いてあげないとね。 それは私の役目だね。任せてよ。」

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