| [299] 『消えていく子供達(ミッシング・チャイルド)』 (マックス&エルガ)−3 |
- 夏琉 - 2005年01月04日 (火) 18時14分
エルガがもう一人の滞在者の部屋を訪れたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
「はじめまして」
ノックの音にドアを開けた男性に、軽く会釈して言う。
「エルガ・ロットといいます。この島には数日前から滞在しています。ソフィニアの魔法使いですが…えっと子どもたちが失踪したって話は知ってますよね?」
「今朝、村長さんがこられたので」
「少し中でお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
男性が返答をとまどうのが感じられて、「別に尋問ではありません」と付け加える。男性は、身体の位置をずらすと、エルガを部屋に招きいれた。 自分が宿泊していた村長の部屋と、配置は違えどさして変わらない部屋だ。エルガが椅子ではなく床に直にぺたりと座り込み男の顔を見てにっこり笑うと、彼は結局何も言わずにベッドのふちに浅く腰掛けた。
「霧が晴れないんです」
男を----というよりその背後にある窓を見上げながら、エルガは口を開く。
「おかしいですよね。もうお昼近いのに。しかも島の周りを取り囲むみたいに、海の上だけに」
「はぁ」
「まるで魔法みたいですよね」
「はぁ…、そうですね」
エルガが意味もなく始終にこやかに話すのに対して、男の反応は薄い。薄いが無反応とは違う。見知らぬ人間に対する適度な警戒と受容。非の打ち所のないほどのバランスだ。
口の中にある飴玉を転がして、喉を湿らせるとエルガは再び話し始める。
「あと…もしかしたら聞いてるかもしれませんが、子どもたちがまた3人ほど消えたらしいんですよ」
「またというのは…昨夜の3人からさらに?」
「ええ。それで、今回は子どもたちの消えるところを見た人がいたんです」
「消えるところを?」
「はい。他の2人に関してはわからないのですが、親と朝食をとっている途中で文字通り姿を消してしまった子が一人いて。姿が陽炎みたいに揺らいで、母親が手をのばしたときには、もう」
「それは…」
「魔法みたいですよね」
男の言葉尻を引き取ってエルガはそう言って、口を閉ざした。相変わらず男のほうをにこにこと見上げていたが、沈黙に耐えかねたのか彼のほうが口を開く。
「えっと、それで何なのでしょうか?」
「あ、私抜け出してきたんです」
「は…?」
「だって、面倒じゃないですか」
エルガが今までなく力をこめてきっぱりとそう言い切ると、男はとっさに反応できず口ごもる。その隙をついて、エルガはさらに言葉を重ねた。
「私昨日から、ほとんど眠ってないんです。あっちにいると全然休ませてもらえなくて」
そして「少し眠らせてください」と言うと、了承もとらずにそのまま横になる。あっけに取られた男が、気持ちを立て直して何か言おうとしたときには、エルガはすでに寝息を立てていた。

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