| [289] 『聖マルタンの夏祭り』(星の子供編)〜5 |
- マリムラ - 2004年12月21日 (火) 00時50分
「私は下弦。月の半身。海の女王の養い子よ」 ぼんやりと無表情のまま名乗る人魚。 悪気は感じないんだけどナァ、何で笑わないんだろう? そういえば下弦って月の形の名称とかそんなんだっけ。 こんなことならもっと外のことを勉強しておけば良かったなぁ。 「……あなたは?」 僅かに首を傾げ、やはり表情がないままの人魚に問いかけられる。 爺さん意外と話したコトってあんまりないし、話したことあっても竜の末裔とか名前っぽくない呼ばれ方をしてた。 大体爺さんが変化した姿って、どう見ても竜じゃないんだけどね。よくて蛇のでかいのとかそんなカンジ?あ、でも蛇でもないな。エラあるし、角あるし。なんか飛び魚みたいな羽根っぽいヒレもあるし。足には爪の代わりに大きな水掻き。やっぱり竜玉持って天空を駆けるような竜とは全然違うよ。爺さん達の夢物語には付き合ってられない。 ボクは幼生だからまだ変化出来ないって聞かされてたけど、大きくなってから変化出来るかどうかも怪しいと思ってる。だってボク以外に若い子は見たことないし、だったら爺さん達の方がボクみたいな姿に変化しているのかもしれないって思うじゃないか。 えーと、脱線脱線。そう、だからボクの名前は自分で付けたんだ。 どこかの言葉で川という意味のリヴィエラ。音の響きが気に入ったんだよね、素敵な名前だと思わない? 「リヴィエラ、リヴィでイイよ。湖水の民って呼ばれたこともあったかな」 吊り上がった大きな片目で、笑った。 よし、大丈夫、おかしくない。……と思う。 爺さん、知識量だけはなんか凄かったからナァ。頭の中に図書館があるカンジかな。 って、図書館も行ったことないや。行ってみたいなぁ、一応字とかは習ったんだけどなぁ。 色の抜け落ちた人形のようなもう一人の女の子は、やっぱり特に表情もなく立っている。 祭りの騒ぎの中で見た他の女の子達は、もっと表情豊かで自己主張が激しかった気がするんだけど。何でこの子達は表情が乏しいんだろう。 あれ、爺さんが前に言ってた「人見知り」ってヤツなのかもね。 「で、キミは?」 「…………クロース」 色のない子はそう言った。 何だろう、クロース……意味が思い出せないや。 とりあえず驚きで口も利けない状態の光る子は自己紹介を後回しと判断。 名前だけは聞いておいた方が呼ぶときに便利なんだけどね。 というわけで、私的に彼の呼び名は「星の子」に決定。だって光る姿が空に浮かぶ星達の仲間に見えたんだもの。 「えーと、どうする?上に上がるの外の階段しかないんだろ?」 「…………そうみたい」 小さく頷くクロース。 えーと、とりあえず女の子と子供は守らなきゃ、だよな。 何か方法、ないかな……。 さっきのことを振り返り、一つの疑問に辿り着いた。 「ね、さっきさぁ、魔法喰ってた化け物、松明避けてたよね?」 うろ覚えのまま二人に質問。 無我夢中で詳しくは思い出せないけど、確かそうだったはずだ、と思う。 「……多分、炎は苦手なんだと思う」 下弦が呟くように答えると、クロースも小さく頷いた。 「魔法を食べる魔物なんて…………初めて見た」 そう、魔法を食べるとなると、魔法で突破が期待できないのだ。 しかも見た感じ、二人ともそっち方面が得意そうだったりするし。 「よし、松明を沢山作ろう。明かりが消えたらココにいても無事でいられるとは限らないからね。それになにより『星の子』が上に行くのを望んでる……」 そう言うと、ハッピを脱いで、下に巻き付けていたサラシを解き始めた。 松明を沢山作るとなると、棒きれに油を染み込ませた布を巻き付けるのが手っ取り早い。と思ったのだ。 「あ」 どちらの声かはわからなかったが、少女が驚きの声を上げた。 サラシを解きつつ、顔を向けることもせずに声をかける。 「大丈夫大丈夫、どうせ殆ど胸なんて無いんだし、上から羽織るモノもあるから」 知識として羞恥心というモノは知っているが、それまで腰巻き一つとか、その程度しか身につけた覚えがない。寒くなってくるかが気にならないとは言わないけど、他の子の服を犠牲にするよりもずっと適当だと思ったのだ。 「で、必要なのは……棒だよね、棒」 外し終わり、ハッピを再び羽織ると、小さな袋から植物の種を取り出す。 掌に乗せ、じっと見ることしばし。 いきなり芽が出たかと思うと、ソレは驚異的なスピードで成長し、枯れていく。……残されたのは不自然に立ったまま床に置かれた小さな枯れ木だった。 「……ムリさせてゴメンな」 木を一撫ですると、枝を一本一本折っていく。松明に使えそうな枝が何本か揃うと、リヴィは振り返った。 「ボクの特技、植物操作なんだ……やろうと思えばこんなコトもできる」 少し悲しそうな表情を浮かべたが、一拍置いて思い直したように伸びをすると、にっこり笑ってサラシを拾った。 「あ、適当な長さに切ってくれる?」 サラシをクロースに渡すと、クロースはふるふるふると首を横に振った。 「ワタシ、魔法使えない…………」

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