| [282] 『聖マルタンの夏祭り』(時計塔の秒針編)〜3 |
- 魅流 - 2004年12月13日 (月) 01時55分
きっかけは、オヤジの「いっぺん世界を見てこい」っていうセリフだった。 酒に酔った上での言葉だけど、私自身そうしたかったから二、三日後には最低限身の回りの物を持って家を出ていた気がする。
自分で見て回る"世界"は家に居てはけして体験できないような事も多くあって本当に楽しかった。都会で宿に泊まったり盛り場に遊びに行ったりもしたし、のどかな村でちょっとした仕事を手伝う代わりに一晩泊めてもらった事もあった。 "世界"というモノは、自分を中心とした価値観だと聞いたことがあるけど、こういうまさに自分の"世界"が広がるような体験をすると、それももっともだなぁと思ったりもしたり。
そんな感じに、人間の世界をうろうろする事にどっぷり浸かっていたら、時間の流れるのが早い事早い事。この間昔泊まった宿に行ってみたら私をもてなしてくれた人は隠居してその子供や孫に仕事を任せていたり、そもそも店そのものがなくなっていたりしてたりして、種族の差を実感するなんて微笑ましい一幕もあったりね。
そんなこんなを経て、私はスピカの喧騒の中にいる。 もともとこの街は一年中お祭りをやっている街という事で興味はあったのだけど、今度年に一回の夏祭りをやる話を小耳に挟んで、その思いが一気に爆発したのだ。どっかーん。
私は、祭りというものがけっこう好きな方だと思う。例えソレが神に豊穣を願うモノだったとしても、あの浮ついた独特の空気は好きだと言い切れる。だから、ここの祭りの空気にもすぐに馴染む事ができた。人の流れに逆らわないように、いろいろなモノを並べている露店を冷やかしたりちょっと何か買って食べてみたり。
そんな風にふらふらしてると、今日最初の不覚が私を待っていた。 そう、目が合ってしまったのだ……露店のひよこと。
少し人ごみに疲れたので人気の少ない街の北の方をふらふらと散歩する事にした。 お祭りの空気は好きだけど、ここまで大規模なのは流石に初めて。大分閑散としてきたところでん〜〜〜っと伸びをする。右肩でピンク色の鳥類が上手くバランスを取って落ちないようにしている。あまりに鳥らしからぬ挙措にちょっと感動してみたり。 そのままもう少し歩くと、聳え立つ塔が視界に入ってきた。
「時計塔……?」
遭えて言うならクロックタワー。幽霊だとか化け物とか、そういった類のモノが棲んでてもおかしくないような、適度に寂れた雰囲気を持つ建物。入り口は錆び付いた格子戸によって括られていて、中には入れそうにない。まぁ、その気になれば話は別なんだけど。
格子戸の脇の石壁に背中を預けると、中からガシャコンガシャコンと機械的な振動が伝わってくる。その安定したリズムに身を委ね、なんとなく空を仰いだ。 明りが煌き、人々が笑いながら行き交う中から見上げるのとはまた違う、遭えて例えるなら暗闇の中それぞれ孤立して泣いているような星や月。この祭りに入る時に言われた三つの約束事にはこういう意味もあったのかなー、となんとなく思った。
――こんな寂しいところで一人空を見てないで、皆で楽しく騒ごうよ――
そんな囁き声が右の方から聞こえてきた気がして、私は思わず首を振った。人ごみに疲れたからといって、今度は人気のないところに来すぎたみたい。きっとさっきとのギャップが激しすぎて、そんな幻聴が聞こえたんだろうな。
「どれ、またいろいろ回ってみようかな」
そう思って身を起こした時に、ふと何かが足りないコトに気が付いた。 祭りの半ば、ちょっとした不覚によって私の右肩に住み着いた生き物がいない。
「ぴよ」
右斜め後ろからの小さな自己主張。格子戸越しに再び私を見つめる黒い瞳。なんでこの子とはこう目が合うんだろう。まるで、こちらの目をあの子が狙って見ているみたい。 そんなこちらの思いも知ったことではないというようにもう一声だけ「ぴよ」と鳴くと、桃色のひよこはそのまま奥に向かってチョコチョコと歩き始めてしまった。
――あまりのコトに、思わず思考が停止すること数十秒。
「連れ戻さなきゃ……!!」
自分の魔力を練り上げて、扉の内側に私と同じくらいの大きさの魔力の塊を生み出した。 目を閉じて、意識を集中する。
3 2 1 ハイっ!
目を開ければ、私の体は扉の内側に入り込んでしまっている。さぁ、誰かに見つかる前に捕まえてここから出ないと……!!薄暗い時計塔の中を、できるだけ足音を立てないように気を付けながらピンク色を探して奥へと進む。
外周に沿って半周くらいした所で、後ろの方からバキン、と何かが爆ぜるような音がした後でキィィィと何かが軋むような音が響いてきた。そう、ちょうどさっきの錆び付いた扉を開けたらするだろうな、と言うような。そして、なんとも形容しがたい怨念の呻き声のようなものまで。
「ちょっと、ホンキでお化け屋敷とか言うんじゃないでしょうね……?」
後ろからの呻き声がピタリとやんで、今度は話し声のようなモノが聞こえてきたと思ったら、奥の方から何かが爆発したような、何かを爆破したような、そんな下っ腹に響く音が響いてきた。
「あぁ、もう。なるようになれ、だ……」
自分を叱咤するように呟いて、私はさらに奥へと足を踏み出した。 ----------------------------------------------------------- と、いうわけで姐御第一弾! まだ細かいところが決まってないけど、大筋が決まってるのでなんとかなるさ!って感じに勢いでつっぱしってます。
いやもうほんと、なるようになれ…!
ってなワケで続きよろしくです。

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