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短編リレー

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[281] 「あなたを救う旅」 ◆6◇
マリムラ - 2004年12月11日 (土) 00時07分


 じわじわと、輪が狭くなってくる。

 岩の魚は僕の周りを回るように、砂の海を泳いでいた。
 その数はどんどん増え、もう既に全方向で砂がうねりをあげている。

「……っ!」

 耐えきれずに、何かを叫ぼうとした。何か、言葉ですらなかったかもしれない感情の吐露。

 しかし、緊張と暑さから喉が渇ききって声すら出なかった。
 涙すら枯れ果てたのか、頬を伝うあの感触も感じられなくなってきていた……。

 僕はここで死ぬのかな。それとも、あのオジサンみたいになるの?
 
 虹色の砂は答えてくれない。 
 目まぐるしく色を変えながらも、けして望むものを運んでこない砂、砂、砂。

 いやだ、いやだ、イヤダイヤダイヤダ……ッ!

 死ぬことに対する恐怖よりも、姿形を変え、永遠にも近い時間を彷徨い続けることの方が、何倍も何十倍も、いや何百倍も耐え難かった。


   フラッ


 それは、弱い心からの誘惑だったかもしれない。
 でもそんなことはもうどうでもよかった。
 体を支えることすら放棄して抜け殻のようになった自分が、ゆっくり傾いているのがわかる。

 色々なものがスローモーションで流れていた。
 景色も、意識も、音や風も何もかも。

 あ……オジサンに一度もお礼を言わなかった……。

 そう頭の端で考えていると、大きな衝撃と共に空へ突き上げられる。
 宙を舞い、視界に映るのは無数の岩の口。
 砂から我先にと頭を突き出し、落ちてくる餌を待ちかまえているのだ。

 僕……死ぬのかな。

 落ちて落ちて、もう歯に触れそうになったその時、別の衝撃を受けて体が折れ曲がる。
 どこから飛んできたのか、大人の身長の三倍くらいありそうな大きな羽を広げた鳥の足に捕まれていたのだ。



 爪に抉られなかったのは幸運な偶然だろう。
 でも、僕が再び涙を流したのは、その幸運を喜んでのことではなかった。

「海が……見えないよ」

 空高く舞い上がったその位置からも、砂漠の終わりを見ることが出来ないのだ。
 僕は途方に暮れて、吊り下げられたまま、はらはらと涙をこぼした。





   パオォォォォォン

「……テティス?」

 突然足を止め、嘶く象に、男は声をかける。
 象は鼻を高く持ち上げ、上を見ていた。

「一体……」

 つられるように上を見上げた男の顔に降ってきたのは一粒の涙。

「!!」

 男は米粒ほどにしか見えない上空の鳥を見失わないよう、慌ててテティスを走らせた。



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