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短編リレー

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[272] 「あなたを救う旅」 ◆4◇
千鳥 - 2004年12月06日 (月) 23時59分

 砂漠は白かった。
 まるで全てをリセットしたかのような、真白い砂漠の地平線に太陽が昇る。
 僕が背を預ける、象もまた白かった。僕の服も白かった。
 彼の服だけが、ただ真っ黒で、夜のカーテンの切れ端のようだった。
 黒い服についた白い砂が星屑のように瞬いては滑り落ちていく。

 そうしてまた、砂漠での一日が始まる。

  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 僕らは太陽が昇る方角――東に向かって進んだ。 
 何処へ行くのかという問いは、もう口に出さないことにした。
 彼は星を読んでいた、星は方角を、進むべき道を示してくれる。
 ここが海だったら、僕だって、知っている星座の知識を総動員して役に立つこともできるのに…。

 緑とオレンジで出来た斑(まだら)の地帯を少し迂回したところで――こういった場所の地下では、何か生き物が動き回っているらしい――僕は、ふと尋ねた。

「ねぇ、あなたは何と言う名前なの…?」

 二人っきりだから、名前など呼ぶ必要がなかった。
 でも、名前も知らないなんて、何だかよそよそしい気がする。
 僕はそう思うのに、彼は案の定、今までのように、子供をはぐらかす様な答えを返した。

「私は、名前を捨てた人間だ。ロッシが好きなように呼べばいい」

 好きなように?
 おじさん?お兄さん……?それとも……
 彼の容貌は年齢どころか、性別すら判断しようがなくて、僕は心の中で辛うじて「彼」と呼んでいた。

「じゃあ、この象はなんて名前なの?」
「テティス」

 それは迷うことなく返ってきて、僕は少なからず驚いた。 
 ………テティス。それは船人に道を指し示す、海の女神の名前。

「それって……」

 僕がさらに問い詰めようとしたときだった。
 ゆっくりと歩を進めていた、象――テティスの足が止まる。
 僕は、彼の横から大きく身体を乗り出して、前を覗き見た。

「あ――」

 人だ。
 人が倒れている。

「助けなきゃ!」

 ピクリとも動かない彼の背中を力いっぱい揺すった。
 しかし、皮だけの身体のどこにそんな力があるのか、彼はけして動こうともしなかった。

 どうして?
 どうして僕のときのように助けないの?

「その必要はないんだよ」

 ザザッと、波の様な音が僕の脇を通り過ぎていった。
 黒い影――いや、砂が、四方から集まって倒れた旅人の身体を包んだ。
 砂鉄をひき付ける磁石のように、男は黒い砂に隠れてしまう。
 その異様な光景に、耐え切れなくなって、僕は視線を落とした。
 その先に、彼の右手が映る。
 指を交差して、前に突き出した仕種は、やっぱり僕が知っている、船乗りが死者に向ける習慣で・・・・・・

 ここは、一体どこなんだろう・・・・・・?

 倒れた男を食らうように動いていた黒い砂が、弾けて散った。
 そこには黒いマントを被った男が佇んでいた。
 水分を失い褐色になった肌に、窪んだ眼孔が不思議そうに僕らを見ていた。

 ――― あぁ、彼は!!この人たちは!!
 
 彼は、くるりと象の向きを変えると、何も言わずに進み始めた。
 今、目の前で彼の仲間になったであろう男に、何の言葉を残すこともなく。

「ねぇ、どこに行くの?」

 緑色の、どこか爽やかな風が一陣、僕らを追い越した。
 緑色に染まる象、白いままの僕の服。黒いままの彼の服―――。

「あなたは、この砂漠の果てを見たことがあるの?」

 ―――――お前が望めばどこまでも・・・・・・この砂漠は続いているよ。

「僕も、あなたのように、さっきの人のようになってしまうの!?」

 あなたはいつからこの砂漠で彷徨っているの!!???

 長い沈黙が続いた。
 彼についていけば、きっと助かると思ったのに。
 僕は象の背中からを身を投げた。
 
「待ちなさい!!ロッシ!」

 彼が声を上げる。
 その焦った声が、今までの平らな調子と違っておかしかった。
 右肩を地面に打ち付けたが、砂のせいか、それほど痛くない。
 素早く立ち上がると、僕は砂に足をとられないように懸命に走り始めた。
 僕と彼の間に、強い虹色の砂嵐が吹き、振り返った時には別の光景が広がっていた。
 だから、彼の悲痛な呟きなど、僕には届かない。

「行ってはいけない・・・私は、やっとテティスとお前を手に入れたのに・・・」

[274] 感想文
匿名 - 2004年12月07日 (火) 23時14分

面白くなってきましたな。ムフー。
やっぱり書く人が違うと同じ題でもこんなに違ってきちゃうんですね。
もう一つの「あなたを救う旅」は乙女チックですがコチラはなんだか深みのある物語です。
実は砂漠の設定が好きだったりします。
ロッシはこれからどうなるんでしょう?



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