| [270] 「学園事件」〜女学生編(フローネ&リア) 4 |
- マリムラ - 2004年12月06日 (月) 17時25分
『空を重ねて』
その紙切れにはそれ以上の文字は出てこなくて。その意味だってさっぱり心当たりがなくて。 フローネさんと一緒にゴミかと思ったメモを相手ににらめっこしていた。 ……変な光景だ。 「なんだろう、どこかで聞いたことあるかも」 フロ−ネさんが首を傾げる。私も彼女も結構必死。 他に手がかりらしい手がかりもないから仕方がないんだけどね。
時計を見ても時間はあまり進んでいなくて、気ばかりが焦ってしまう。 あーでもない、こーでもない、と頭を抱えて、私は小声で呟いた。 「何かのタイトル? ……ですかね」 思いつきをぽつり。 なんか意味ありげだけど普段の会話で出てくるタイプの言葉じゃないし、深い根拠もなかったんだけど。 「うーん、そうかも」 返事の割には歯切れが悪そうにフローネさんが言った。 「なにかなぁ、思い出せないんだよね〜」 両手で頭をぽかぽかぽか。 うわ、なんてらぶりーなんだ、この人。 ついじっと注視してしまう。 「え、何?」 「あ、いや、その、うん、そうそう、絵とか歌とかなのかナァ?」 変な誤魔化し方でご免なさい。首を傾げて僅かに視線を逸らす。 だってこんな可愛い女の子、身近にいなかったんだから。 って、クラスメートの顔や名前もろくに覚えていない人が言っても説得力はないかも知れないけど、でもその通りだ、うん、多分。 「それじゃ、保健室の上が音楽室だから、そこから覗いてみよう」 なんかしっくりこないながらも立ち上がるフローネさん。 そうそう、さっき紙切れを拾った姿勢、つまり二人ともいつの間にかしゃがみ込んで考えていたのだ。 誰かに見られていたら何だと思われただろう? 「そうですね」 つられるように立ち上がり、足がしびれたのか思わずよろけてしまう。 『あ』 二人の声が重なって、スローモーションで視界がまわる。 助けようとして手を伸ばしてくれているのは見えたけど、あー間に合わないナァ、とどこか冷静な自分がいたり。
机に手をつこうとして硬いはずの机がぐにゃりと曲がる。 差し伸べてくれた手を慌てて掴んで巻き込むように倒れ込む。 何? 何? ワケが分からないよ、何なの、コレ。 今まで幾度となく転んできた私が言うのも変な話だけど、絶対普通じゃないって!
頭を打ったのか意識が虚ろだけど、なんだか男の人の声が聞こえるみたい。 手に感触があるってコトは、フローネさんも一緒で、しかも転んでからそんなに経っていないのだろう。
「……って、マズイな」 「仕方が……いじゃないの、わた……のよ」 はて、聞き覚えがあるようなないような。 「……イ、オイ!」 揺すられて、上半身を起こされて、恥ずかしく思いながらも目を開ける。
目の前にいたのは……誰だっけ、この人。
ぼーっと座ったままの私の横で、同じように揺り起こされるフローネさん。 あれ、彼女も頭打ったのかナァ、悪いコトしたナァ、とぼんやり考えることしばし。 「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」 彼女の悲鳴で目が覚めた。頭を改めて殴られたかのような衝撃。 大きな声って武器なんだナァとじんじんする耳を塞ぎながら私は思う。 「クライブくん、いたー!」 アレ、こんな顔してたっけ。改めて顔を再確認。
エーと、多分割とかっこいい部類の人だと思う。けど。 なんだか壁を作っているような印象の人で、いまいち中身が把握できない。
とりあえず目があったので、軽く会釈をしてみた。 「なんでココに居るんだよ」 突き放すようなしゃべり方。 あんまり話す声も聞き覚えがないんだよネェ。 「……チッ、それか!」 クライブくんがフローネさんの手からメモをむしり取る。眉間には深い皺が出来ていた。 「探してたんだよ? ヒドイよいきなり」 口を尖らせるフローネさんはやっぱり可愛い。 まあ、怒るのもムリもないかな。
「アンタら、よーく見ろよ」 目の前に広げられたのはさっきのメモ。 書いてあるのは『空を重ねて』の文字。かわらない。 「空を重ねて、くらい読めるわよ」 ねーっ、と同意を求められて頷く私。だって字の間隔が変だけど、そうしか読めないし。……アレ? 「コレはなー……」 イライラしながらも解説してくれる辺り、実は親切なのかも知れない。 「空 を 重ね て って書いてあるだろう?」 「何よその間ー」 「見てろよ」 しばらくメモを手で挟み込み、もう一度開いて見せた。 『あ』 フローネさんと声が重なる。 「これは『空間を折り重ねるてすと』って書いてあったんだよ」 「なによ、何の仕掛け?」 興味を引いたのか、身を乗り出す彼女。 いきなり近づかれて驚いたのか、顔を紅くしたクライブくんが怒鳴るように言った。 「手のひらで温めたら文字が浮き出してくるの!」 で、見渡せばソコはさっきの保健室。
あ、先生だ。
「話は一段落したかな?」 白衣の女の先生だ。うわー、気付かなかったなんて失礼なコトしたナァ。 「なんだかよくわからないんだけど、誰もいないのよココ」 「え」 「うそぉ」 「うん、多分そのメモのせいだと思うんだけどね」 まだ若そうな先生は、机に肘をついたまま苦笑した。

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