| [268] 「あなたを救う旅」 ◆3◇ |
- マリムラ - 2004年12月05日 (日) 23時17分
空が徐々に明るさを失い、薄闇は満天の星空となる。 きらきらと瞬く星達を笑うようにときどき砂のカーテンが覆ってしまうのはとても無粋だけど、それでもじっと待っていればゆっくりとその姿を取り戻し、また静かに砂漠を照らすのだ。
「風邪を引いてしまうよ、ロッシ」
僕は声をかけられてはっとする。魅入られたかのようにずっと空を見上げていたのだ。 そのくらい砂漠の空は魅惑的だった。
急に自覚できた寒さに体を震わせ、慌てて体を丸める。 本を一緒に読んだジェニーを思い出して、また泣きそうになった。
「ねえ、もっと寒くなるの?」
鼻声なのは泣きそうだったからだろうか、寒いからだろうか。 相変わらず姿勢良く象を操っていた主は前を向いたまま答えた。
「体が芯から凍ってしまいそうになるよ」
その答えが怖くて、僕は慌てて服をかき寄せる。 出来るだけ体を丸めて、体が外気に触れないようにして……でもやっぱり空を見たいから目元を覗かせる。 ああ、星は海辺と同じくらい綺麗だ、と思いながら。
「だから、象が凍える前に野宿しよう」
ほんのり表面が暖かい象の耳の辺りを撫で、主が告げる。 僕は返事を声に出すこともせずに、ただ、空を見ていた。
何を根拠に場所を選んだのか、僕にはよくわからない。 でも、止まった場所はオアシスでも何でもなく、枯れかけた木が一本だけ立っている寂しい場所だった。
「象は風よけにもなるし暖かい、離れないで寝なさい」
簡素な毛布を一枚渡される。 彼はというと、労うように象を二、三度撫でて寄りかかった。
「慣れるまではきついかも知れないが、早く寝ることだ……朝は早いからね」
目を閉じたままの彼に呟くように語りかけられて、僕は慌てて彼に倣った。 象をゆっくりと撫で、毛布にくるまって寄りかかる。 確かに触れた部分がほんのり暖かい。ちょっと硬いのが玉にきずだけど。
「ね……そっちに行ってもイイ?」
なんだか急に寂しくなって、ジェニーや父さんや母さんの顔が浮かんでは消え、僕はいてもたってもいられなくなった。
「……好きにしなさい」
そう答えた彼は背中を抜けたままだったけど、僕が寄り添ってみるとなんだか暖かくて。硬い背中が父さんを思い出して安心したのか、僕はそのまま眠りについた。
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