| [265] 「学園事件」〜女学生編(フローネ&リア) 3 |
- 周防 松 - 2004年12月05日 (日) 00時58分
私が『それ』に気付いたのは、一歩、足を踏み出した時。 机に手をついてうなだれたリアちゃんに、何か声をかけようって、そう思ったの。 その時だった。上履きの靴底に違和感を感じたのは。 なんだろうと思って足をどけてみると、小さな紙切れがあった。
「あ、何か落ちてるよ」
ぽつんと呟いて、それを拾い上げてみる。 ……ええと。 どう表現したら良いか困るくらい、それは、本当にただの紙切れだった。 何も書かれてないけれど……なんだろう、折りたたまれたような跡はある。
……これ、ゴミ?
私は率直にそう思った。
「何が落ちていたんですか?」
いつの間にかすぐそばに来ていたリアちゃんが、私の手元をのぞきこむ。 「ああ、うん。これが落ちてたの」 私は、リアちゃんに拾った紙切れを見せた。 「……なんでしょう? それ」 リアちゃんは、それを見て首を傾げた。 まあ、当然の反応だよね。 「うーん……」 私も、わかんない。
そのまま、しばらく二人で黙りこむ。 リアちゃんはどうなのかわからないけど、私の方は、はっきりと途方にくれていた。 だって、保健室にいるものと思ってたクライブ君はいないし。 しかも先生には保健室にいなかったら『探して連れていらっしゃい』なんて言われてるから、 このままノコノコ戻るわけにもいかないし……。
せめて、何か手がかりとかがあればなあ……。
「クライブ君、どこ行ったのかなあ」 私は、ため息をついてリアちゃんを見上げた。 「それはわかりませんけど……」 そうだよね。 ゴメンね、リアちゃん。そんなこと聞かれたってわかるはずないよね。
「先生ってば、ヒドイよね。保健室にいなかったら『探して連れていらっしゃい』なんて。 ただの生徒に探偵みたいなことできるわけないのにさ」
あの時のことを思い出すと、だんだんふくれっ面になってくる。 だって、有無を言わさず、って感じだったんだもん。 生徒だって暇なわけじゃないんだからね。もう! 宿題もやらなきゃいけないし、何より私には家事という現実がどどーんと横たわっているのよ。 うちは父1人子1人で、普段は私が家事担当なんだから。
ああ、今日の晩ご飯何にしよう。 お父さん、今日は残業で遅くなるって言ってたけど……。 ジャガイモとひき肉があるから、コロッケにしようかな。 あとは付け合わせにキャベツを刻んで、と。 ふんふん、なかなかいい感じ。 あ、でも肉じゃがもできるかな。ひき肉だけど。 うーん、どうしようかなー……。
「あの、フローネさん?」 「へっ?」
声をかけられて、私は思わず間抜けな声を上げた。 「どうかしたんですか? なんだかぼんやりしてましたけど……」 気がつくと、リアちゃんが私をじっと見ていた。 「え、ううんっ、なんでもない」 私は、顔にスマイルを張り付けた。 リアちゃん、ゴメン。 今、完全に別の世界にいたよ。 「ところで、どうしましょうか。保健室にはいないみたいですし……」 「うん、じゃあ他のところ探してみようよ。屋上とか、中庭とか、そういうところにいるかもしれないし」 「そうですね」 私の提案に、こくん、とうなづくリアちゃん。
「それじゃ、次はどこに行きます?」 「そうだねー、根拠ないけど、屋上行ってみようよ」
おしゃべりしながら保健室のドアに向かいつつ、私は、ふと、さっき拾った紙切れのことを思い出した。
そうだ、これ、ゴミ箱に捨てていこう。 何も書かれてないし、捨てたってかまわないよね?
まだ手に握ったままのそれにちらっと視線を落として――私は、違和感を感じた。 何かが、さっきと違う気がする。
私は、紙切れを広げてみた。 そして――どうして違和感を感じたのか、理解した。
「リアちゃんっ! これ!」
私は、リアちゃんの制服の袖を引っ張ると、紙切れを突き付けた。
そこには、いつの間にか、こんな文字が出ていた。
『空を重ねて』

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