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短編リレー

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[249] 『聖マルタンの夏祭り』(時計塔の秒針編)〜1 
Caku - 2004年11月26日 (金) 00時46分

大きな体のピエロが歌う。ここは星の都だと。
「さあさあ、一年三百六十五日でたった一回の天空のどんちゃn騒ぎだ!」
小さなネズミの集団が叫ぶ。ここは空が認める世界一の都だよと。
「それそれ、食事に宴に歌や踊り。今日だけはここの都は世界一!!」
笑顔のピエロが微笑む。両手に抱えきれないほどの風船を持って。
「はらはら、今日はドラマチックにロマンチックに何でも起こる!」
輝く街頭が魔法をかけられてお辞儀する、世界一の祭りにやってきた観客に。
「どきどき、だけど涙に気をつけて!悪魔が悲しい涙を狙ってる!!」

全ての笑顔が語ってる。今日は喧嘩も涙もご法度だと。
「星空の宮殿(みや)も天空の神の娘達も全部全部差し上げましょう!!」


街全体が紅、翡翠、蒼、帝王紫、鶯、菊朽葉、榛摺、銀鼠、白金、黒檀の光に満たされて。
灯火の魔法が町中飛び交い、水晶蜻蛉が透明な身体をくねらせて舞い、真っ赤な珊瑚兎の群れが道路を横切る。
七色の風船が夜空にばら撒かれて、金の小人がその薄い両羽根を広げる。
魔物も人も、全て飲み込む星祭り。いつもの隔たりも、いさかいも何もかも無くなるただ一日なのに。

…ひそひそ、見つけちゃいけない。
…こそこそ、見ちゃういけない。
…そやそや、無視するんだよ。
…すそすそ、黙って通り過ぎるんだ。

こんな暗黙の了解がある。人も魔物も、どうしてか絶対にその掟は守る。
なぜなのか、どうしてなのか。誰も問わないし、問おうともしない。
例えば、北に枕をむけちゃいけないとか、お箸をご飯に立てちゃいけない、とかそういうものだ。
なんとなく、ただ気分的に胸が重くなる。だから、守る。




街に入るときに、こういわれた。
「一つ、絶対喧嘩はしちゃいけない、相手が涙を流してしまうから。
 二つ、絶対涙をながしちゃいけない、悪魔が涙を見つけて喜ぶのだから。
 三つ、絶対泣いてる子供に気がついちゃいけない、一緒に夜空も泣いてしまうから」


ピエロは、赤い笑顔と蒼い泣き顔の仮面で微笑み、風船を手渡した。
星型の瞳と、月型の口は決して変わらないので、仮面に塗られた装飾だとわかる。
「あ、ありがとう!」
思わず上ずった声に、僕自身がびっくりした。
ピエロが気障ったらしく、アディオス(サヨナラ)の仕草を返して消える。
人込みでその後姿はすぐに消えてしまったけど、なんだかその方向にまだ彼がこちらを見てるような気がして。
しばらくは高潮した頬のままにじっと見えない背中を見続けた。
ふと、その中に泣いた子供が見えたような気がした。しかし、やはり目の錯乱であったか、すぐに消えて見えなくなった。
僕は、気を取り直して風船を持ち直した。




スピカ。星と宴の都、誰がつけたか知らないが、何かしらにつけてお祭り騒ぎの都市だと人は言う。
今日は街の一番の年寄りのエルダ婆さんの誕生日。
なら祝おうじゃないか。次の日は二次会だ。あらその次の日は薬草売りの坊主の一人立ちの記念日じゃないか。その次の日はー……。
まったく、年がら年中お祭りばかり。
でも、そんな浮かれ騒ぎの都でも、年に一度。この日だけは街全体がしっかり計画を立てて祭りに取り臨む。

この日はスピカの夏祭り。旧暦の夏の終わり、今の秋の中旬に行われる宴。
いつでも満開の摩天楼である夜空も、この日は日頃より最も輝く、まるで何かを祭りに期待しているように。
そう、この日だけは夕闇の影に潜む魔物にも暗闇を怯える人間もお構いなし。
陽光すらこの街の味方なのか、薄ぼんやりとした昼間の灯りで魔物を傷つけない。
祭りの準備をする人間たちの間に、黒い影や妖精がひょこひょこ見受けられるのも、この日だけの特徴だろう。




ピエロがくれた風船は、硝子みたいに良く光る。
透き通った皮膜に、幼いも異形な顔が映りこむ。よく見ると小さく笑っている。
僕の名前は上弦。そう、月の半分の名前と同じ、あの上弦。
由来は簡単。僕がまだ人間の小さな赤子のコロに、僕の魂を両断した「里親」の死神が斬られた僕の魂をみて、そう名付けたんだ。
そうして半分の僕は、海原の奥深くの、大地の血筋を司る黒龍の養子になった。
今日はね、そう、もう一人の『僕』に会いに行くところ。
なんか変な言い方だけど、なんか別の言い方が見つからないんだ。
もう半分の『僕』、ぼくは姉さんと呼ぶけど…あ、そうそう。性別も違うんだよ。
彼女は七つの海と十四の海流を支配する女帝…人魚の女王に引き取られた。
同じ海に住んでるけど、海は広く、深く、そして果てしない。
だから、滅多に会わない。寂しい、とは思うけど、悲しいとは思わない。
どうしてかな?半分だけの僕達なのに、一人でいてもそんなに辛くない。それほど、僕達は優遇されてるのかもしれないけど。

ポケットには、それなりの金貨が数枚ある。父様がくれたお小遣いだ。
父様は無口で無愛想で物欲ゼロ。あんまり笑わないのでコワイ。
みんなそういうけど…実は僕も同じで。でも噂話より意外と優しい。
今日だって小姑みたいな執事兼養育係のデイティルトですら「地上の騒ぎ事など……っ!」と言ってたのにあの人といえば「行きたいなら行かせてみればいい」のたった一言。
愛してる、とも頭をなでてくれたりもしない。でも、あの人は僕をかならず「息子」と呼んでくれる。
それだけでも、僕は多分幸運で愛されてる。


話が長くなってごめんね。
とりあえず、ぶっちゃけ久しぶりに会うなら、楽しい場所がいい。
そういう理由で僕は今、スピカにいる。こんなに肌寒いのに、夏祭りだって。変なの。
姉さんは上手く養母様…女帝ことだけど、に話して来れたのかな?
こんな世界中の人をこの町に詰め込んだような人だかりでも、姉さんを見つける自信はかなりあるんだ。だって姉さんの尾ひれはとてもとても綺麗だから。
七色に輝くパステルレインボー。珊瑚礁が人魚になったような姉さんは遠目でもすぐわかる。でも姉さんは見当たらない。
どうしよう?迷ってるのかな?
なにせこんな人だかりだ。迷うのも…僕はそうやってあんまりうわついて歩いていたから誰かとぶつかってしまった。

「うわっ」

慌てて体勢を整えようとすると、跳ね上がった龍の尾が後ろの人に思いっきり当たった。
ぶつかった人は、文句を言おうとしてすぐに苦虫を噛み潰した顔になる。今日は喧嘩や
文句はご法度なのだ。僕を見てすぐに人込みに溶けていった。
せめて後ろの顔面ヒットさせてしまった人には謝らなくちゃ!
なんか決意じみた信念で振り返ると、顔面を押さえている子供が目に入った。
痛そうに、涙を滲ませて、指の間からこっちを見ている。
檸檬色のような、若葉色のような明るい瞳で、少しだけ上目遣いに見上げてくる。
慌てて僕は、人込みを避けるように、その子の手をとりながら謝った。

「ごめんね、痛くなかった?」
痛いはずである。何せ僕の尻尾は龍の中でも硬質重量で知られる鋼龍黒龍のものだ。
膝をついて目線を合わせると、子供の色素の薄い顔と髪がはっきり見えた。
白い肌、白い髪。まるで色素が時に流されて、残った流木のような白さだ。
尖った容貌に、意志を主張する檸檬のような若葉のような冴えた黄緑の瞳。白髪白磁の子供の中で、それだけがやけに目だった。

「…痛い、すごく痛い」

やっと喋ってくれた。安堵したのだが、内容がけっこう辛辣。当たり前なんだけどね。

「ご、ごめんね。お詫びしたいんだけど…あ!お金ならここに…」

慌ててポケットをまさぐっていたら、意外と強い力で腕を掴まれた。
僕は驚いて、むしろ疑惑の表情だったろう。僕は父様の影響だろう、単純な力比べなら誰よりも自信がある。
こう見えても数トーンぐらい簡単に出せるんだ。
その僕が、彼の手一つで動けなくなった。

「お金じゃないんだ、どうしても取り戻さなきゃいけないものがあるんだ」

子供は、お祈りのような仕草で両手を合わせて目線に運んだ。

「どうしても、どうしても大切なもの。どうしても、どうしても取り戻さなきゃいけないもの。どうしても、どうしても」

上目遣いに見上げてくる子供の瞳の内に、懇願と瞋恚が宿る。
まるで異国の剣士のような、鋭く孤高な言葉と気配が、僕を圧倒して怯えさせる。

「とてもとても大切なもの。とてもとても大事なもの。
……一緒に、きて。千の夏祭りを過ごしてきて、やっと見つけたんだから」









聳え立つ時計塔は、なんだか祭りの狂乱とは無関係なまでに、静かで不気味だった。

「……ここ?」

僕は言葉に最大の不安を混入して聞いてみた。でも無意味っぽい。
少年はこくりと頷いたまま、例の祈りの仕草で目を閉じてしまった。

「本当?君の大切なものがここにあるって?しかも、夏祭りにしか取り戻せないって?」

街角寂れた、スピカの北の果て。
魔法の祭りの灯りですら、なんだか薄ぼんやりしていて、黒という漆黒に負けて地上をのろのろと鈍行列車のように這いずり回っている。
秋風が、つめたく吹き付けてきて思わず身震いした。おなじ街中でも、こんなに気温と景観が違うのだろうかと思うぐらい、寒くて冷たい風と、寂しい周囲。

こくり

少年が頷いて、目を閉じる。

「……嘘でしょ…」

半分ため息、半分落胆で僕はうな垂れた。
少年がお詫びなら身体で支払えと脅してきて、連れてこられたのは寂れて怪しい時計塔。
姉さんにも会えてないのに、さらに林檎飴や綿菓子といった食べたこともないお菓子もまだ口にしていないのに、身から出た錆であるのは自覚しているが、なんだか悲しい。
そうして、子供のほうといえば言葉数も少ないし、言ってることがちょっと理解不能。
僕は、またもう一回ため息をついた。


「…で?大事なものなんでしょ?
早く取り戻しちゃおう、この時計塔の中だね……よっと!!」

バキン!

割とあっさり、鉄格子の扉の鍵がハジケとんだ。
ひしゃげた格子を思いっきり捻じ曲げてやると、耐え切れなくなった扉が小さな断末魔をあげて開いていく。開く音が思いっきりホラー調、なんだかすごく気味悪い。

「…うわ、寂れてる…」

いかにもって感じ。祭りの音すら遠く遠くで、ここは異世界みたいで。
凍える風が僕と少年の頬を打ち据える、その風はさらに時計塔に体当たりして、塔全体から小さな小さな叫びを生み出している。
ようはかなり恐そうな場所。はやく戻りたい。姉さん、ゴメンナサイ。
そんな僕の心の声にまったく反応しない少年が歩き出す。

「待ってよ…ああ、もう!」

半分やけで、子供の後をついていく。
と、その時だった。子供の真剣で、悲壮な眼差しに疑問を持ったのと、辺りの闇がなんだかきゅうに騒がしくなったのは。


………
Ruuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu
Eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee
Saaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa…
………

…Yaaaaa…aaaaa……


「危ないっ!!」

とっさに子供に体当たりでうつぶせに組み倒れる。
その上をいらくさのような、棘の生えた手、いや手の生えた棘か?どちらにしろ不気味な『手』が5本ほど交差しあい、刺さりあってさらに悲鳴を上げた。

Hiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii…!!

そして『手』からまるで雨のように棘が落ちて、いや槍のように降ってくる!
とっさの判断で尾で全部横なぎにはらって、一挙動で前に転がって逃げる。
諦めの悪い『手』は地面に刺さってなおも跳ね上がり、狙うのは二人の三百六十度全方向から。

逃げられない。
そう判断した僕は、どうしてか腕の中の子供を抱え込んで目を閉じた。
子供の潰れた悲鳴と、僕に突き刺さる黒い闇の『手』が同時に………………


「え?」



死も、痛みもない時が流れて、ようやく僕は顔をあげた。
今までぼんやりとした暗闇しか、影と宵闇の色しか見てなかった僕の視界には、その色違いの瞳を持ったその人は、ひどく鮮やかに存在していた。



あれは……左右違いだ。
あれは、左右違いのオッド・アイだ。


[254]
Caku - 2004年11月29日 (月) 00時10分

感想どうもです。
さすが自分、苦心の作にでたのが誤字脱字だらけというのはむしろ笑えます。

直します。でも寝させて…寝たい…


なんでこんなに修羅場なのか自分。



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