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短編リレー

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[247] 「あなたを救う旅」〜心のかけら探し〜 1
周防 松 - 2004年11月23日 (火) 17時30分

今日は天気も良いし、そよ風も吹いていて、絶好の洗濯日和です。
屋根の上の古びた風見鶏は、お日様を浴びながら南の方角を見つめていました。

私は、いそいそと洗い終えたシーツを干す作業に取りかかりました。
家の南側にある、2つの木の枝の間にロープが渡してある場所――いつもそこに、洗濯物を干しています。
シーツをロープにかけて、シワができないように手で広げて、洗濯ばさみで上をつまんで。
シーツが全部なくなるまで、その繰り返しです。

さて、あともう少し。

私は、足元に置いたカゴから、シーツをもう1枚取り出そうと、身をかがめました。
なのに、シーツは、私の指先をするりと抜けて、いなくなってしまいました。
どうして? シーツが勝手に動いたりするはず、ないのに。

ばさあっ。

身をかがめたまま、しばらく考え込みそうになった私の耳が、布の広がる音を拾いました。
一体何だろう、と身を起こして――私は、目を丸くしました。
いつの間にか、すぐそばで淡い金色の髪の少年が、シーツ干しをしていたからです。

彼は、この村の村長の1人息子で、マロウという名前です。

そして――私の恋人、です。

「マロウっ」

私が声を上げると、マロウは、綺麗な紫水晶のような目をふわりと細めて、
「手伝うよ」
そう言うと、カゴからもう一枚、シーツを取り出しました。
「駄目っ」
私は、慌ててシーツの端をつかみました。
まるで、シーツの取り合いをしているような格好です。
「どうして?」
マロウは、首を傾げて私を見つめました。
「村長の息子が、人の家のシーツ干しを手伝ってたなんて知られたら、笑われちゃう……」
「そんなの平気だよ」
「でも……」
「いいからいいから」
そう言うと、マロウはシーツを握り締める私の手を、やんわりと握りました。
同い年のはずなのに、私の手よりも大きな手。

――男の人の手。

そう意識したら、私は頬がやたらに熱くなってきて、動けなくなりました。
するり、と手の中からシーツを引き抜かれても、しばらくそのまま固まっていました。
そんな私を傍らに、マロウは最後のシーツも干してしまいました。
「……あ……ありがとう……」
ちゃんと顔を見て、お礼を言わなくちゃ。
頭ではわかっているのに、私は足もとの小石ばかり見つめていました。
いつもいつも、そうです。
私は、大好きな人の顔を見つめて、にっこり微笑む、ということできないのです。
その前に、顔がトマトのように真っ赤になってしまうから。
そんな自分が情けなくて、なんとか変えたいと思っているのですが。

ぽす。

不意に、頭の上に手を置かれました。
そのまま、その手は私の頭を優しくなでました。
マロウ……。
胸の奥のどこかが、ほうっと暖かくなった、その時、でした。

「マロウから離れなさいよ!」

突然浴びせられた罵声に、私は、ビクンッ、と体を震わせました。
その体を、マロウの腕が包み込みました。
「……大丈夫、守るから」
マロウの声を聞きながら、私は、おずおずと声のした方へと顔を向けました。

「マロウは私のものよ! 近寄らないで!!」

豊かな金色の巻き毛を揺らし、赤紫色の瞳を見開き――声の持ち主である彼女は、私に怒声を浴びせました。
いつか、街から来たという商人さんが見せてくれた、ガラスケース入りの綺麗な人形のような顔をしているのに、それが台無しです。
彼女の名前は、ラフレシアといいます。
ラフレシアさんは……マロウのいいなずけでした。

「マロウはこの村の村長の1人息子なのよ。それだけじゃない、貴族の血だって引いてるわ。
本当なら、アンタみたいな汚い孤児なんか、顔を見ることすら許されないんだから。
それなのに、マロウの優しさにつけこんで――なんて図々しいヤツなの。さすがは孤児だわ、神経が図太いのね!」

ラフレシアさんは、怒り顔から一転、意地悪そうな笑みを浮かべました。

ラフレシアさんの言う通り、私は、孤児です。
物心つく前に両親を亡くし、村の魔女に引き取られました。
病弱なせいで、両親の親戚が皆、引き取ろうとしなかったのだと、村の人に聞かされたことがあります。

向けられる、侮蔑しきった眼差し……それが全く辛くないと言ったら、嘘になります。
けれど、それ以上に、彼女を悲しいと思いました。
自分で、気付かないのでしょうか。
誰かを侮蔑している時の人間の表情が、どれだけ醜く恐ろしいかということに。

「ラフレシア!」

今までに聞いたこともないような、厳しい声がマロウの口から発せられました。
同時に、私はぎゅっと抱きしめられました。

「ミモザを侮辱するのなら、許さない」

「マ、ロウ……」

ラフレシアさんが、ぼう然とした顔で、かすかにつぶやきました。
そして、しばらくぼう然とした後――くつくつ、とかすかに笑い声を上げました。

「ミモザのせいなのね」

ラフレシアさんは、ゆらゆらと体を左右に揺らしていました。
ゆらゆら揺れながら、彼女は口元にかすかな微笑みを浮かべていました。

「マロウ……マロウがミモザを大事にするのは、そいつが汚い孤児だからよ。
かわいそうでたまらないんでしょう? 同情して、哀れんでるんでしょう? 
それを愛情だなんて勘違いしてるのよ」

「勘違いなんかじゃない」

マロウ、私は罵られたって平気だから……。
むしろ、私は……私のために、あなたが誰かを睨んだりすることの方が、ずっと悲しい。

そう言おうとしているのに、どうしても声が出てきません。
代わりに、ぼろぼろと涙が頬を伝いました。

どうして泣くの。マロウが心配してしまうじゃない。

そう思えば思うほど、私は余計にしゃくりあげてしまいました。

「そうやって、憐れみを買ってるのね。ほうら、汚い……」

「ミモザ。行こう」
マロウは、あえてラフレシアさんを無視しているようでした。
やんわりと首を振ると、私の肩に手を回して歩き出しました。
うながされるようにして、私も歩を進めます。

「わかっているのに。本当に愛してるのは、私だって、わかってるはずなのに。
弱いフリをした孤児にすがりつかれて、ただの同情を、愛情と取り違えてるんだわ。マロウは、優しすぎるから……。
でも、それも今日で終わり」

今日で終り?

その言葉がなんとなく引っかかって、私は、ちらりと振り返りました。

「後から出てきて、私とマロウの間に割り込もうなんて、孤児のくせに生意気なのよ」

乱れた巻き毛のすきまから私を見据える瞳。
その色は、赤紫色、というよりも、赤黒く見えました。
ぞわり、と私の背中を寒気が走りぬけ、その場に縫い止められたように動けなくなりました。

「アンタさえ、アンタさえいなきゃ!!」

ラフレシアさんが言い終えた直後、視界いっぱいに、眩しい光が溢れました。
それは、生き物の口のようにも見えました。
なんでも噛み砕けそうなほどの、鋭くて大きな牙の並んだ……。

「ミモザ!」
マロウの声。
同時に、私は突き飛ばされ、尻餅をつきました。

パキインッ!!

光の中で、何かの砕け散るような音が、私の耳を突きました。

――やがて、眩しい光が消えた後。

私が目にしたのは、仰向けに倒れているマロウの姿でした。

「マロウ!」

仰向けに倒れているマロウを抱き起こし、私は、何度も何度も、彼の名を呼びました。

お願い、生きていて……!
どうか、その目を開けて……!

「なんで……!? なんでかばったりするのよ! こんなやつ、死ねばいいのに!」

ラフレシアさんは、豊かな金色の巻き毛を振り乱し、わめき散らしていました。
ひどい言葉や汚い言葉を、たくさん浴びせられたような気もします。
けれど、私の耳には、届きませんでした。
私はただ、マロウのことで、頭がいっぱいだったのです。

マロウ……!

どれぐらい、そうしていたのでしょう。
マロウのまぶたが、うっすらと開きました。

生きているんだ!

思わず飛びあがりたくなるほどの喜びが、体を突き抜けました。

「マロウ……!」

けれど、私は、次の瞬間、絶望のどん底に叩き落されました。

マロウの目は、どこまでも暗くよどんでいました。
あの、紫水晶のような色ではありません。
そこに映る私は、微笑みかけた表情を、固めていました。

彼の目は、確かに私を映していました。
でも、私を見ているわけではなかったのです。

マロウ、一体どうしたの……?

私は、そっと、震える指先をマロウの頬に伸ばしました。

――けれど、マロウは、反応らしい反応を見せてはくれませんでした。

[248] 感想
匿名 - 2004年11月24日 (水) 12時00分

地の文としゃべり言葉が違うという書き方、個人的に好きです。

「ミモザ」と「ラフレシア」という名前が対照的で、それだけで彼女たちの姿が浮かび上がってくるようです。
マロウがどうなってしまうか続きが気になりますね。



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