| [241] 『吸血鬼退治』(ウピエル&シエル&礫)――1 |
- マリムラ - 2004年11月18日 (木) 22時03分
「さ、いきましょう」
そう小さく言うと、さっさと来た道を戻るシエル。追うようにして急ぐ礫。 二人はウピエルが武器類を隠していた所まで戻って、ようやく普通に口を開いた。
「行くって、どこへ?」
「あのあからさまに怪しい伯爵の所」
「でも、ウピエルさんが放っておいていいって言ってましたよ?」
「そうね」
顎に手を当て、シエルはちょっと考える。
「なにしろあのジィさんもモノホンだ……って、さっき言ったわよね?あのバカ」
「ええ」
「ということは、吸血鬼には吸血鬼が見分けられるんだと思うの」
「じゃあ、彼が一番の手がかりかもしれないわけですね!」
本当に飲み込みが早い。 詳しい説明の前に事情を酌んでくれる賢い礫に、シエルは好意的な笑顔を向けた。 といっても、仮面で大部分が隠れているのだが。
「荷物も減らしていきましょうか?」
「そうね。元の場所に隠して、弾丸だけ念のために持っておこうかしら」
シエルは愛銃アルジャンに弾を込め、残りを隠しポケットに納める。
「アレだけ目立つ伯爵だもの、きっと居所を探すのは簡単なはずよ」
ちょっと自分に言い聞かせるように、シエルは呟いた。
「そうですね」
礫も同意する。 自分たちの今の役目は「ボルダー氏の推測が正しいかどうかを見極める」コトだろう。仮に彼の推測が正しかったとして、下手に突っ込み足を引っ張るだけならウピエルに任せた方がずっとイイ。 シエルは空を見上げた。 まだ、空は青々と晴れ、日もすぐには沈みそうにない。 日が暮れるまでどのくらいの時間が残っているのだろう? 伯爵に今は害が無くとも、月が出た後、無害のままで居られるだろうかの不安もある。
「急ぎましょう」
シエルと礫は小走りに街へ向かう。 胸をよぎった心配は、信頼でうち消すことにした。 (どうしようもないバカだけど、アレなら大丈夫よ、誰よりも信頼できるもの……) きっとウピエルなら一人でも無事だろう。いや。 (一人なら無事で済むけど、誰かを庇いながら、無事に済む相手かしら……?) だからこそ、急いで、真相を確かめて、サポートに向かうのだ。
「アレに全部、いいトコロを持っていかせることはないわね」
そのシエルの呟きは、ウピエルのピンチには必ず駆けつける、という、密かな誓いの言葉だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あっけなく、というか、案の定というか。 とにかく「吸血鬼マニアの自称伯爵」の住む家はすぐに見つかった。
「ああ、あの変わった人ね。お昼寝が好きだから、日が落ちるまで声をかけないでって言ってたわ」
「一回忍び込んだらねー、なんか黒い箱一つしかなかったんだよー?」
「カーテンを開けないんだよなー、健康に悪いって言うんだけどさ、吸血鬼になりきらなきゃ吸血鬼の気持ちは分からないとか何とか言って、アノ人忠告を聞かないんだ」
「え、だって有名ジャン」
ちょっと聞くだけで随分色々なことが聞けるモノだとちょっと関心。 多分自分たちのことも、噂の種になっているのだろう。
「で、ココね?」
「そうみたいです」
小さな貸家らしい。窓は目張りしてあるのかカーテンの隙間すらなく、玄関とは名ばかりの扉にも鍵がかかっている。
「いきましょうか」
シエルはそう言うと、小さな風を起こし、玄関扉を鍵ごと吹き飛ばす。 何事もなかったかのようにつかつかとブーツのまま踏み込むと、礫が呆気にとられている間に棺桶を蹴りあけ、愛銃を構えた。
「おはよう、伯爵さん」
見下ろすシエルの白い髪がさらりと額に落ちる。 銃を構えた手をそのままに、僅かに顔を振って髪を払いのけると、シエルは仮面の下で笑った。

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