| [177] No.086「噂」+(「金貨」+「ドラゴン」) |
- 匿名 - 2004年02月23日 (月) 22時11分
【馬車の中】
御者――お客さん、何だって人間のアンタがこんな辺境のドワーフの村なんて来たんでい? 御者――へぇ。吟遊詩人かい。しかし、ここにゃあアンタ達みたいな流れ者を泊める宿がねえ。 この村に来る人間は職人達に注文に来る商売人くらいしか、いねぇからな。 代わりに、酒場に行くといい。 あそこにはキャサリンがいるからな。是非あの娘の歌を作ってやっちゃあくれねいかい?
御者――そう、キャサリンはこの辺り一の別嬪さ。へへ、実はオイラもファンでねぇ。 ほら、これ見てみな。キャサリンに恋した彫金師の若い奴らが作ったコインさ。 あいつらは金貨に惚れた女の顔を描いて贈るのが習慣でね。 御者――え、交換してほしいって? いいぜ。キャリンのいい歌を作ってくれよ!
【酒場】
ドワーフの男A――やっぱり、キャサリンが作ったコボルト鍋は絶品だねぇ。 仕事が終わったら、まずはここに寄ってキャサリンの笑顔を見ないと疲れが取れないってもんだよ。
ドワーフの男B――うぉぉ、キャサリーン、好きだ〜〜。
ドワーフの男C――おい、そこの酔っ払い大人しくしねぇか!キャサリンが困ってるだろう。
ドワーフの男B――何キャサリンの前だからって格好つけてんだ、テメー! キャサリンはオレと話してるんだよ!! 引っ込んでろ!!
ドワーフの男C――何だと、やるか!?
☆★☆★
ドワーフの男A――若い奴らは羨ましいねぇ。血気盛んってもんだ。 おや、・・・そこのニィさん、珍しいねぇ。こんなところに何の用だい?
ドワーフの男A――なるほど、キャサリンを見に来たのかい。 美人だろう?エプロンとおそろいの青いリボンがよく似合ってる。 この酒場は『赤髭の熊座』って名前なんだが、今は赤髭の店主より姪のキャサリンの方が有名でねぇ。 皆あの娘の名をとって『キャサリン☆キャサリン』なんて呼んでるんだよ。
ドワーフの男A――え、キャサリンの歌を作るってか?俺達の話を聞きたい? キャサリンはそりゃあ見た目も器量良しだが、そりゃあ性根がいいのさ。 俺達酔っ払いの話も親身になって聞いてくれるし、料理が上手い。 ほら、このコボルト鍋なんて絶品だ。 食べてみなされ。
ドワーフの男A――え?いらない? いかん、いかん、それはいかん。それじゃあキャサリンの歌なんて作るこたぁ出来ないな。 酒はアンタたちにはすこぉし強いかもしれんが、これはキャサリンがわざわざ捕まえてきたコボルトの鍋なんだからね。
ドワーフの男A――ほら、旨いだろう? ここの辺りには宿は無いが、良かったらここの店主に話をつけてやろう。 なぁに、遠慮はいらんさ。赤髭とは古馴染みでな。
【酒場の二階】
キャサリン――ベッドのほう支度しておきましたから、自由に使って下さいね!
キャサリン――そんな、遠慮しないでください。吟遊詩人さんなんでしょう? 私の歌を書いてくれるって・・・。ダグズさんが言ってました。あたし、嬉しい。
キャサリン――・・・・・・・。あの、その・・・・・。 用事って程じゃないの。あなた、世界を旅してるんでしょう? あたしにも、出来るかしら? この村は皆良い人ばかりで、けして不満じゃないけど、ここはお日様の光も当たらないでしょう? あたし、一度でいいから一面のお花畑の中で花摘みをしてみたいの。
キャサリン――でも、みんな、あたしに力が無いから無理だって言うの。 今日の料理のコボルトも捕まえるのに時間がかかっちゃって。 駄目よね。 キャサリン――え?それで十分? ・・・でも、外の世界には怖い人がいっぱい居るんでしょう? せめてドラゴンくらい片手でやつけられるように、なれなきゃ!
キャサリン――やだ、あたし、初対面のあなたに何でこんなこと話してるのかしら? ごめんなさい。これはキャサリンとあなたの秘密よ。 じゃあ、お休みなさい・・・。
【翌日の酒場】
赤髭―――た、大変だ!?朝起きたら、カウンターにキャサリンの置手紙が!! 何てこった。旅に出るって。 お前さんキャサリンに何吹き込んだんだ!!
ダグス――おいおい、赤髭。 その旅人さんを責めるのはお門違いってもんだろ。 キャサリンは前からこの岩石に囲まれた洞窟の村から出たがっていたのさ。 俺は仕事上たまに、外の世界に行ってただろう?何度も相談を受けてたからな。
赤髭―――あぁ、これからうちで暴れる若いもんを、どうあしらえばいいってんだ・・・。
ダグス――なぁに、当分は若いもんも静かだろう。 キャサリンが村から居なくなったっていうショックでな。 その寂しさは、吟遊詩人さん、アンタの歌ででも紛らわせてもらうかな・・・。
【一週間後】
御者――たまげたなぁ、お客さん、ドワーフの村に行ったんですか! いえ、ここいらはドワーフの村に近いですからね、まったく見ないわけじゃあ無いですが。 正直、ワシら人間に比べたらおっかないでしょう?
御者――ええ、そうでございます。陽気な人たちなんですがね。 そうそう!少し前に、ドワーフの娘っこをこの馬車に乗せましてね。 ドワーフにしちゃあ毛深くなくて、ドワーフにしては色白でねぇ。
御者――あの子のおかげで、ワシゃあドワーフについての考えを改めさせられたんですわ。 ドワーフの女は情け深くて逞しい、ワシも女房さえいなけりゃ……ハッハッハッ。 なんたって、道の途中で出たドラゴンを倒しちまったんですからねぇ。素手で。 怖いもの知らずだ。
御者――あぁ、この子です。キャサリンっていうんですかい。 金貨に彫られるくらいだから、さぞ村では評判だったんでしょうねぇ。 御者――ええ、すっかりワシもキャサリンのファンですよ。 歌を書かれるんですか?お客さん。そりゃあ楽しみだ。
☆★☆★
その後、各地にキャサリンのファンは増殖し、吟遊詩人ユージーン=ウェハースによって書かれた『キャサリンに捧げる花曲』を、大陸中の人が耳にすることになる。時にはキャサリンをいう美しい女性を称える歌として、時には開花を告げる歌として。
しかし、今となっては我々は、ドワーフ族が作り出した最高の美女と呼ばれるキャサリンを、貴重な資料として残されている『ドワーフ族の金貨』からしか見ることができない。

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