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短編リレー

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[454] 大闘技会(エンジュ&ルリン)  5
るいるい - 2007年07月08日 (日) 01時03分

大闘技会5 エンジュ&ルリン

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『剣呑な午後』
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PC:ルリン エンジュ 
NPC:ユークリッド
場所:開催都市 大闘技会の会場
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 一本の木剣が宙を舞った。
 くるくる回るそれは、すぐに乾いた音を立て、石畳の上に転がる。
 そしてそれが音を立てるより早く、ルリンの木剣が相手の喉下に突きつけられた。
 その相手の背後では、エンジュの魔法で無力化されたもうひとりの対戦相手が倒れている。
「それまで!」
 審判が硬い声を出し判定を下すと、ルリンはゆっくり剣を引き、エンジュのいる場所へ戻ってきた。

「お疲れ様」とエンジュは出迎える。「これで本戦の2回戦も、勝ち抜きね」
「ええ、そうですね。いやぁ、今回の相手は危なかったです」
 ウソつけ。
 汗ひとつかいていない、のんびりとしたルリンの顔を見てエンジュは思う。この男は相当強い、と。
「ともあれ、これで午前の試合は終了ですね。後は準々決勝からでしたっけ?」
「それはもうちょっと先よ」
「では、始まる前に軽くお腹に何か入れましょう。体力が持ちません」

 いつも食に関してはイニシアチブを取ってきたエンジュだったが、この時ばかりはルリンに奪われた。
 立ち去ろうと舞台を降りると、ささやかな黄色い歓声が上がる。肩をすくめてさっさと会場を後にするルリンの背中を見ながら、そりゃそうか、と妙な納得もした。

 事実、彼は強かった。
 最初はいつ自分の魔法が必要になるか、身構えていたエンジュだが、予選を進む内にむしろ力が抜けてきた。2対2の戦いのはずが、予選ではルリンひとり対敵2人になっている。流石に本戦になり、エンジュも完全にルリン任せに行かなくなってきたが、攻守ともバランスの取れているルリンが敵を牽制、あるいは攻撃してくれる為、詠唱に必要な時間はたっぷりあった。
 そろそろ強豪がひしめいてくるだけに、体力の温存ができるのはうれしいが、なんだか拍子抜けだ。
 そんな強さが徐々に目立ち始め、予選で消えるくらいにしか見られなかったこのコンビは、いつの間にか有力な優勝候補になっていた。
 だから余裕があるはずなのに、ルリンの表情は落ち着かない。応援に駆けつけた店主に煽てられ、返答しているがどことなく上の空だ。

 エンジュが露店のアメを買っている時(もちろん、この代金もあの大男持ちである)、その理由を知るきっかけが訪れた。
 数歩前を行くルリンの前に、ひとりの男が立つ。近づいてきて挨拶をすると、何事か会話を始める。
 舐めているアメの甘さについうっとりしていると、急に悲鳴が上がった。
 ぎょっとして声の方を見ると、ひとりの女性が手を口に当ててルリンを、いや、彼に話しかけた男を見ている。
 男はゆっくりと力なくうつぶせに倒れ、背中に刺さったナイフが見える。
 倒れた拍子に、ルリンの持っているペンダントとそっくりなそれが、エンジュの足元に転がってきた。

「何? 何がどういうこと?」

 混乱する状況に自分も飲み込まれそうになりながら、エンジュは自分に落ち着け、と言い聞かせる。
 唖然として倒れた男を見ているルリンの横に立ち、エンジュは言った。

「よく分からないけど、近くにある冒険者の店へ連れて行きましょう。早く手当てすれば助かるかもしれない!」


 男の命は助かった。
 エンジュの言ったように、そして行動したように、早く適切な手当てが良かったのだ。
 だが出血と傷みのショックのせいで、男は気を失ったまま意識を取り戻さない。

「でも、このまま安静にしていれば、大丈夫よ」
 エンジュは同じ部屋で、椅子に座ったまま手当ての様子を見ていたルリンに言った。

「それで」と、急に口調が変わる。
「彼は知り合いみたいだけど、誰なの? どうしてこんな目に遭ってるの? 教えてもらえないかしら?」

 ルリン、無言。
「それに」と、エンジュはルリンに近寄りながら、男の落としたペンダントを突きつける。
「これ、あなたの持っていたものとそっくりよね。私も依頼主のエルジアから貰って持っていたけど。説明してちょうだい」

 うまく誤魔化そうと思案していたルリンだったが、ペンダントを見せられ、思わず驚いてしまう。そしてその表情を出してしまった事に気付き、今度は失敗した、と小さく呟いて俯いた。
 部屋にいるもうひとりの男であるユークリッドは、ルリンが抓られ釣り上げを食らうと思っていたが、違っていた。
 エンジュは椅子を隣に置くと、ゆっくり座りながら彼の目を覗き込むようにして言った。

「あなた、何か抱え込んでいるんじゃないのかしら? 彼はその仲間なんでしょう? 良かったら、教えてくれないかしら? 何か力になれることがあるかもしれないわ」
「……いえ、大丈夫、ですよ」
「本当に、そうかしら」と言って、エンジュは彼の腕に手を乗せた。
「でもあなた、大変そうな顔をしてるわ」
「……」
「まだ会ったばかりで分からないけど、私を暴漢から助けてくれて、正義感の強い人なんだと思う。そんな人が、どうして……」

 ルリンの視線がエンジュから外れ、しばらく床の一点を凝視していた。やがて振り返り、何か言おうとして首を振り、深いため息をつくと、今度はゆっくり話し始めた。
「……私は以前、軍に所属していました……」

 彼は今回、祖国の軍から依頼を受け、この大会に参加していた。
 本来なら現役の兵士を投入するはずだが、身元が知られれば大事になる為、冒険者として活動している退役軍人に話が来たのだ。
 目的は、優勝賞品の中にある機密情報。エルジア家から盗まれたもの、例のイミテーションの中に隠されている。それを複数の人間が違う目的で参加することで、情報の奪還という本来の理由を隠蔽し秘密裏に作戦を成功させようとしていたのだ。

「でも、どうやって隠しているのよ?」
 そう聞くエンジュに、ルリンはガラス板を1枚取り出した。
「普通のガラスだけど?」
 そういうエンジュの目の前で、別に1枚同じものを取り出し、重ねる。
「これが、どうしたの?」
 聞くエンジュに、ユークリッドが床を指して言った。
「見てみなよ、姉さん」

 視線を移すその先には、差し込む光に照らされたガラスの影に、はっきりと文字が浮かび上がっていた。

「ドワーフから伝わった、細工です」と、ルリンが言った。「一枚ではただのガラスですが、もうひとつ、細工のされたガラスを重ねると意味のある隠された情報が現れます。エルジア家の人も知っていたのか、あるいは祖国がこっそりしたのか分かりませんし、どうしてそんな所にあるのかも、私は知らされていません。ただ大事なことは、これを気付かれてはいけないし、必ず確保しなくてはいけない、ということです」

「じゃあ、これは?」
 と、エンジュがペンダントを差し出す。ルリンはそれを受け取りながら言った。
「これは、味方を識別する為のものです。妨害しあわないように」
「じゃあ、あなたに余裕がなくなってきていたのは、その味方が試合で負けたから?」
「それもありますが」ルリンは言った。「それだけではありません。味方は僅かですが、まだいます。どうもこの件に、盗賊ギルドがからんでいるようだからです」
「機密情報を狙って、かしら?」
「分かりません」と、首を振る。「あるいは単に、他の賞品と同じように価値があるもののひとつとして、盗もうとしているだけなのかも。彼はそれを私に伝えようとして、刺されたのです」

 ルリンはエンジュに向き直り、頭を下げた。
「すいません。黙っていて。でも、どうしても言うことはできなかったんです」
 急に出てきた情報に、エンジュは混乱しながらも、思った。
 こりゃあ、何が何でも優勝するしかないなぁ、と。
 そうなると、ちらり、と自分たちより先に試合をしていたあるコンビの事が気になる。
 大会のため、本物の剣を使っているわけではないが、まるで本物のそれを持っているような迫力のあった男のいるコンビ。
 確か、優勝候補筆頭だった。
 前評判通り、圧倒的な強さを誇り、今までの試合はみな短時間で決着が着いていた。
 目的を達成するには、あの男が一番の障害かもしれない。



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