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短編リレー

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[453] 大闘技会(エンジュ&ルリン)  4
千鳥 - 2007年07月03日 (火) 00時46分

大闘技会 エンジュ&ルリン

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『作戦会議』
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PC:ルリン エンジュ 
NPC:ユークリッド
場所:大会開催都市
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 『大闘技会』というお祭りを控え、人々の溢れたこの町で大会のペアを見つけ出せたのは僥倖だった。

「じゃあ、あなたはギルドに所属していないフリーの傭兵って言うわけね」

 エンジュは先ほど食べ損なったクレープ――生クリームにチョコソース、3種のフルーツと明らかにトッピングが増えている――を頬張りながら隣に座る青年に話しかけた。
 もちろん、クレープの代金はあの巨漢もちである。

「傭兵・・・という程ではありません。その日暮しの冒険者ですよ」

 そういってルリンは謙遜してみせたが、先ほどの盗賊のあしらいは見事だった。
 一人稽古をするだけでは身につかない、戦いなれしている人間の動きだった。
 
 しかし、多少使えるくらいでは駄目なのだ。
 他の強豪を蹴散らして、目指すは優勝あるのみ。

「となると、やっぱりペアの相性がものをいうわよねぇ〜。まぁ、あんたみたいな小技の使える剣士って便利で好きよ、わたし」
「はぁ・・・」
 
 口調の砕けてきたエンジュに対して、ルリンは相変わらず畏まったままである。
 一人分空いていた二人の距離を、じりじりと近寄って密着するとエンジュはにっこりと微笑んだ。
 黙っていれば美形なハーフエルフの微笑みに、ルリンは自然と胸元に落ちそうになる視線を誤魔化すように、空に流れる雲の動きばかり追っていた。

「わ、私は以前弓を得意とするエルフと組んだことがありますが、エルフの魔法については詳しくありません。エンジュさんは後者のようですね」
「弓は・・・正直得意じゃないわね。流石に味方の背中に命中させる事はないけどねっ」
「そうですか」

 風の噂で聞こえてきた『味方殺し』のエルフを話題に持ち出してみるが、どうやらルリンは知らないようだ。
 真面目な顔で頷くルリンにエンジュはガクリと肩を落としてみせる。

「ともか〜くっ、私の魔法は詠唱が長いの。威力があればあるほどね。撹乱や単純な魔法なら短くても行使できるけど」
「では、私が時間稼ぎをする間にエンジュさんが一撃必殺の魔法を唱えてくれればいいわけですね」
「ん〜・・・・」

 エルフの使う魔法は基本的に精霊の力に依存している為、殺意を込めた魔法が少ない。
 使えそうな魔法の候補を頭の中でいくつか思い浮かべながらエンジュは唸った。

「何分ぐらい持ちそうなの・・・?」
「あなたが望むだけ持ちこたえてみせます」

 意外にもルリンの返事は即答だった。
 若者らしい生命力に溢れた返答に、エンジュは一瞬眩しいものをみるかのように目を細めた。
 手足のひょろりと長い、オッドアイの人間の剣士。
 意外と頼もしいじゃない?

「だったら、3分は頑張りなさい」
 
 とん、とルリンの肩を軽く叩くと、エンジュは珍しくやる気に溢れた声で答えた。

「災害クラスのをお見舞いしてやるわ」

 -------------
 
 その頃、エンジュたちが腰を下ろした道端の反対側にある食堂では、二人の兄弟が息を巻いていた。

「明日の大会では、我らバブソン兄弟の力を人々に思い知らすのだッ!」
「そうだね〜、兄さん」

 二人とも燃えるような赤毛に、深いブラウンの瞳の青年であった。
 小柄だが筋肉質な兄の言葉に、大木のような背丈の弟が間延びした口調で答える。 
 バブソン兄弟――この町では少しばかり名の知れた子悪党の兄弟である。
 悪党とはいえ、どこか憎めぬ愛嬌のある兄弟は、町の人々から愛されてもいた。

 大勢の人々が集まるこの大会で、二人は名を上げようと一ヶ月前から特訓を始めた。
 といっても、そんな短期間で実力が上がる筈も無く、彼らの優勝など夢の又夢であった。

「もし、貴方たちはあの有名なハブソン兄弟ではありませんか?」

 そんな彼らに話しかけたのは、黒いコートを着た気障な男だった。
 金持ちの商人だろうか、腕の金のネックレスがこれ見よがしに揺れ、ウインナーを食べる手が止まりヴブソン兄の視線が釘付けになる。

「そうだが・・・あんたは?」
「私はエルコビッチと申します」

 大仰に一礼してみせると、男はウエイターに「こちらのテーブルにお酒を」と言って、声を潜めた。

「実は、今回の大会の優勝者を予想する賭けに、私はあなた方を賭けているのです」
「なんだって!?」
「しーっ、お静かに」

 思わず立ち上がった兄を制止すると、エルコビッチは二人の方に顔を寄せる。

「金額にして金貨300。故にあなた方には何としてでも勝ってもらわねばいけません。そのための協力は惜しみませんよ」
「さ、さんびゃ・・・っく」

 呆ける兄に対し、弟は好物のハンバーガーを一体何個買えるのかを必死で計算し始める。
 結局答えはでなかったのだけれど。

「もちろん、あなた方なら期待に答えてくれると信じております。どんな手を使ってでもね」
「「どんな手でも・・・」」

 テーブルにビールが届くと、エルコビッチは兄弟の答えも聞かずに席を離れた。
 
「金貨300とはよく言ったものだ」 

 入り口の前では紺色のマントを身に纏った大男が苦笑してエルコビッチを待っていた。
 その腰に下がった大剣はずっしりとした重みと威厳を放ち、一目で人々は彼が大会の出場者だと悟った。

「なぁに、ビール代の銅貨300枚で余計なライバルを潰してくれるのならば安いものでしょう」

 人の悪い笑みを浮かべるとエルコビッチは、後ろを振り返った。
 陽気だった兄弟の姿は一変し、何かに憑かれたような重い雰囲気が辺りに漂っていた。

「もちろん、私の本命はあなたですよ。是非とも頑張ってください」
「当然だ」

 この大会でもっとも強い男と噂される剣士は、後援者の言葉に力強く頷いた。



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