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短編リレー

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[452] 螺れた箱(ヘクセとルリン)2
るいるい - 2007年06月23日 (土) 04時57分

螺れた箱(ヘクセとルリン)2

PC:ヘクセ、ルリン
場所:螺れた箱の中


「みゅげっ!!」
 またヘクセがおかしな声を上げた。
 後方から迫り来る軍隊相手に、小さいとはいえ人ひとり抱えていたのでは戦えないと、ルリンがヘクセを放り出したのだ。
「先に行け、この長い通りで足止めする!!」
 というルリンの声を聞いているのかいないのか、ヘクセは文句を言おうと、したたかに打ち付けたお尻をさすりながら立ち上がるが、土埃でも上がりそうな勢いで追撃をかけてくるトランプの兵隊を見ると、
「じゃ、よろしくねっ。くれぐれも無理しちゃだめだよ」
 と言うが早いか逃走を決め込んだ。
「無理するなって……それが無理だろ」
 顔をしかめ、走り去る足音を聞きながらも、視線と神経は目前に迫り来る兵隊へ集中している。
 鞘からゆっくりと長剣を引き抜くと、ルリンはさっきまでの不平不満の態度はどこへやら、剣術のお手本のように正面にそれを構える。
 退却目的の交戦だから、倒すことよりも身を守ることを優先すればいいのだが、さて、この集団相手にどこまで持つか、引き際が肝心である。

 走り始めて少しすると、怒号と硬い金属音が幾つも背中から聞こえてきた。
「振り返っちゃだめ、振り返っちゃだめ」
 と念仏のように繰り返し唱えながら走っていたが、やはり気になる。ヘクセはスピードを緩めて振り返ろうとした。
 その時、建物の戸口を半開きにして、こちらの様子を伺っている、一見しただけで分かるほどやつれた女性と目が合った。
 彼女は騒がしい外の様子が気になったのだろうが、ヘクセが自分を見ていることに気付くと、短い悲鳴を上げ扉を閉めて鍵をかけた。
「何なの、アレ?」
 それは恐怖に怯えた態度に対して抱いた疑問ではなく、ここに住人らしき人がいることに抱いた疑問だった。
「ここの住人? それとも意識が閉じ込められた仲間?」
 様々な疑問が次々に浮かんでくるが、今すぐ解決できる訳ではない。今できることは、逃げること。
 ルリンは大丈夫だろうか、と振り返るその目に、カードとは違う、鎧を着込んだ騎士が見える。昔見た本の挿絵にそっくりなその顔、それは……
「げげっ、湖の騎士だ」
 こりゃ相手が悪いよ、と本気で心配し始めた。

「こいつ、後に目があるのか!?」
 Jの数字が刻まれた鎧を着た、湖の騎士が呆れた。
 先程からうまく建物の周囲を回り、決して背を向けようとしない敵は、逃げたと思ったら影で待ち構えていて、不用意に追いかけた部下を切り捨てたり、めくらめっぽうに剣を振り回しているように見え、好機とばかりに後から切り込む部下の攻撃を見ないでかわしたりしているのだ。
 1対多数の乱戦の経験があるのだろうが、こちらは数十人もいるのに、未だに手傷を負わせられない。それどころか着実にこちらの数が減っている。
「どんな修羅場を潜ったらここまでなるんだ?」
 疑いようも無く、この敵は強い。数に頼むだけではいくらけしかけても倒すのは難しいだろう。
 彼は部下に下がるよう命じた。
 下手な小細工はしても意味が無い腕がある。となれば、少数精鋭で戦うしかない。

 ルリンは急に周囲の敵の攻撃が止み、それまで包囲の輪を狭めていたカードの兵士が波の様に引くのを見た。
 怪訝に感じたその刹那、視界の隅に映った光に反応してとっさに体をよじる。
 数歩後退していなければ、地面に叩きつけられた両手持ちの大きな剣が頭を割っていただろう。
 持ち上げるのもやっとというような大きなそれを引き上げ、ルリンの前に鎧姿の騎士が4人立つ。
 絵札は皆、人型とはいえ、一体何者なのか。
「気をつけて、ルリン!」遠くからヘクセが叫ぶ。「そいつらは実在した本物の騎士だよ!」
「何だって?」
 どうしてそんな連中がここにいるんだ、という疑問が沸く。
「皆、音に聞こえた英雄ばかりだよ! 逃げて!」
「そんな訳にいくもんか」
 またぽつりと呟く。
 目の前にいる彼らからは、視線を外すことのできない存在感があった。すなわち、油断すればやられる。
 気味が悪いほど同じタイミングで剣を持ち、同じ型に構えると、一斉に襲い掛かってきた。

 ルリンは、振り下ろされるダイヤの一刀を剣で下から迎え撃ち、跳ね上げると、クローバーへ横殴りの一撃を見舞う。寸でのところで受けられると、背中からスペードが切り掛かって来る。
 とっさに剣を引き、横から受け止めるとすぐに力を抜き脇へ受け流す。
 すると最初に攻撃してきたダイヤと一緒にハートが正面から剣を突き入れる。
 再度下から剣を跳ね上げこれを打ち返すと、逆にハートへ鋭い横殴りの一刀で攻撃する。
 剣は体の開いたハートに命中するが、硬い鎧に阻まれ跳ね返される。
「やるな!」
 クローバーかスペードのどちらかが言った。
 左右に分かれるように位置を入れ替え、その二人がそれぞれ横から剣を振り切ってくる。
 素早くルリンはジャンプし後ろからのスペードの攻撃をよけると、剣を正面に構え前から攻撃するクローバーの剣を受けた。
 今度こそ体が開ききった敵の一人、スペードの顔面へ剣を振り下ろす。
 手応えがあった。
 切り裂かれ夥しく鮮血をこぼすスペード。そのまま脇を駆け抜け、包囲網を突破した。

 ルリンは急に通りを直角に曲がり、崖の様になっている箇所から飛び降りた。
 勢いよく落下したはずのルリンの体は、空中で徐々にその速度を落とし、また加速しながら反転して天井へ張り付いた。
「なるほど」ルリンは呟いた。「ここはこんな移動ができるのか」
 後を追って騎士たちも移動を始めるが、身軽な服装のルリンの方がそうした行動では有利だった。
 何とか地面を走ったり、自分たちでも行ける壁や崖から落ちて迫ってくるが、機動力が違い過ぎる。
 逆に上下左右を自由に移動され、空中で速度が落ちたところに、狙い済ましたルリンの攻撃が何度も当たる。
 集中攻撃を受けたクローバーは命こそ奪われなかったものの、重傷を負い、動けなくなった。
 どう、と倒れるクローバーや、一向に追い詰められない手下に業を煮やした女王は、残った部下に号令をかけた。
「いつまでひとりにかかってるの! さっさとやっておしまい!」
 兵隊たちは一瞬、互いの顔を見合わせたが、命令なら仕方ないとばかりに、またルリンめがけて走ってきた。
 流石に今度は多勢に無勢、今の様な戦い方をしていたのでは逃げ場が無い。
 ルリンは剣を鞘に収めると、猛然と逆方向へ逃げ出した。

 ヘクセはルリンとずいぶん距離が開いたせいで、状況がどうなっているのか把握できていなかった。
 背後の声が少し静かになったときはどきりとしたが、剣が打ち合う硬い音が微かに聞こえたので、まだルリンが粘っているのは分かった。
 だが、それも少しの間。
 再びどたどたと幾つもの足音が聞こえるので振り返ると、壁から壁へ、天井から地面へと目まぐるしく動きながら、ルリンと兵隊がやってくる。
「ひゃああっ!」
 その有り得ない追走劇に度肝を抜かれ、ヘクセは両手を突き出して叫んだ。
「うわぁ、ばかぁ、こっちへ来るなぁ!」
 もちろん、そんなことを言っても通じる訳が無い。
「いいから逃げろ! じぐざくに走れば、こいつらの視界からすぐに消えられる!」
 騎士たちとは違い、軽装だがやはり武装している分、彼らの方が体が重い。
 ルリンはみるみる兵隊との距離を引き離しながら、ヘクセへ向かって叫んだ。



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