| [449] 大闘技会(エンジュ&ルリン)3 |
- るいるい - 2007年06月13日 (水) 16時38分
大闘技会 エンジュ&ルリン
-------------------------------------------------- 『結成、名コンビ!?』 -------------------------------------------------- PC:ルリン エンジュ NPC:ユークリッド 場所:冒険者の店兼宿屋 開催都市 -------------------------------------------------- 「ねえ、分かる? ここが一番大事な所なの。分かる?」
ユークリッドの頬を抓りあげながら、エンジュが言った。 場所は移り、ここは開催都市の冒険者ギルド、その食堂。
「私は盗品を取り返さないといけないの。どうしてか、分かる? そう、依頼だからよ。そして私は準備金として、依頼主のエルジアからお金を受け取っているの。義理や人情もあってもう引き返せないってわけ。ここまでは分かる?」 「ふぁい、ふぁかりまふ」
ユークリッドは情けない声で答えた。 エンジュはゆっくり頷くと、動作とは裏腹にさらに頬を抓る。
「元はといえば、あんたが愚図って、大会になかなか行こうとしないからペアの人に逃げられたんじゃない? それにも関わらず、新しいペアの相手を見つけられないってのは、どういうことかしら?」 「ふぉ、ふぉんなこといふぁれても」
ユークリッドは無理矢理エンジュの指を外すと、無茶だよ、とばかりに抗議の声を上げた。 「だいたい、姉さんがペンダントを無くすからこうなるんだ。参加する人はもう相手を見つけているよ。今からじゃ名のある人なんか声をかけられないよ」 「あら、それは全部あたしが悪い……ってことかしら?」
かしら? に強い語気を込めて言うと、ユークリッドは泣きそうになりながら言った。 「それでも頑張って、腕の立つ冒険者とか連れてきてるじゃないか。彼らを見るなり組むのを断ったりして……面目丸つぶれだよ。何が気に入らないのさ?」 「顔」
ひとことそう返されて、ユークリッドの動きは止まる。 最初の数秒は口をぽかんと開けていたが、続く数秒で我に返り顔を赤くした。 「か、顔? 顔で姉さんは選んでるのか? 本気か?」 「嘘よ」 さらりと返されて、ますます赤くなるユークリッド。よほど苦労して集めた人材だったのか、文句を言う形に口が固まったまま、言葉がどもって出て来ない。
「だいたいあんた、腕の立つっていうけど、そんなにでもないじゃない。今度の大会には有名人も参加するのよ。最低でも、師範とか、達人とか、豪傑とか、そういう人じゃないと優勝なんて無理よ」 「そんなの、ますます無理に決まってるだろ! どこにそんな人がいるんだよ! 大会はもう明日なんだぞ!」 それこそ分かってるわよ、とエンジュも半ばふてくされて頬杖をついた。
もう勝手にしてくれ、と言い残して立ち去るユークリッドを見送り、エンジュはいよいよ八方塞になった。 準備金は相方を見つける為に使っているからすぐ返済もできない。 「ほんと、どうしよう……」 髪をかきあげ、テーブルに額をつけて落ち込む。 しかし、いつまでも落ち込んでいるエンジュではない。むっくりと起き上がり、自分の顔を両手でぱしぱし叩くと、よしっ! と気合を入れて立ち上がる。 「いつまでもこうしちゃいられないしね、とにかく、相方探しよ! あたしくらいの女なら、きっといくらでもいい男(?)が見つかるわ!」 周りがぎょっとして視線を向けてくる程の声を出すあたり、本人は気付かず、結構動揺しているのかもしれない。弟とは異なり、勢いよくギルドを出て行った。
色とりどりだなぁ。というのが、ルリンの感想だ。
大会に釣られ、各地から猛者が集まるだけでなく、大規模な開催に商人たちもこれ幸いと自慢の品を持って集まって来ていた。 中には塩、胡椒といったものから情報まで、集まるものは多岐に渡る。 着ているものも様々で、原色ままの派手な服で料理を売っているもの、寒くないのかと思わせるくらい布地の少ない服で集まっている女性たち。 交わされる言葉も他国語、方言取り混ぜて、そこは人類の坩堝だった。
人が集まるごとに熱を持つような大通りでもみくちゃにされ、ルリンはようやく少し奥まった道へ入ることができた。ふうと一息つき、買ったばかりのクレープを頬張る。 齧った中から溶けたクリームが染み出して口いっぱいに広がると、つい頬が緩む。 一緒に付けてもらった果汁でのどを潤すと、正に至福のときだ。 こういう時、友人や家族などと一緒にいるとさらに楽しいのだろうが、国を離れたルリンには、そこだけが無縁だった。 寂しくないと言えば嘘になるが、一人でいることが長かった為、その辺りの感覚が麻痺しつつある。
クレープを食べ終り、手についたクリームを綺麗に拭き取ると、さて今度は何を堪能しようかと考える。
「うん?」
ルリンの目が、視界の隅で物騒な集団を捉える。大通りへ行こうとして、さらに別の路地へ通じるその先で。 一人は大きな武装した男、後にいるのは盗賊ギルドの人間だろうか。 いいから来いよ、とか大人しくしてろ、とか言っているようだ。 だが、もちろん言う通りにしたところでいいことは何も無い。 見て見ぬ振りを決め込もうと思ったが、そういう類が大嫌いな性格がつま先を彼らへ向けた。
彼らが向き合っているのは、ギルドを飛び出し相方を探しているはずのエンジュだった。 お前たちがナンパするのは10年早いとか、今急いでいるとか、腕はあるのかとか言っているが、何より許せないのは、まだ食べ終えていないクレープを落としてしまったことだと、大声で張り上げていた。
「く、くだらない……」
脱力していくルリンの呟きを聞き取ったのは、盗賊だった。 自分たちのことをそう言われたと勘違いした盗賊は、ルリンに向き直り、脅し文句のひとつでも言ったようだが、目頭を押さえて首を振るルリンは、そんなことを全く聞いていなかった。 「バカにしてんのか!」 と凄んでみるが、盗賊はルリンから白けた目で見下されただけだった。
「お前も大会に出るのか?」 と、斧を背負った巨漢が言った。 「まあ、そうです。ただ組む相手がいないのは残念です。探しているんですがね」 そう言いながら、ルリンは下げているペンダントをいじるが、相手方は何も言って来ない。どうやら、彼らは今回の依頼、どちらとも無関係のようだ。
巨漢は背を反らせて(腹を突き出して?)笑ってから、声を変えて言った。 「そりゃ確かに残念だ。でもな、お前じゃ出ても怪我するだけだぜ。何をいい気になってしゃしゃり出てきてるのか知らねぇが、とっとと引き返しな」 「おいおい」とルリンは言い返す。「声を低くして、顔を傾けて睨むような奴がまだいるとは思わなかった。今度の大会のせいで人が集まってるとはいえ、そんな時代遅れの凄み方が通用する場所があるのか。どこの田舎から出てきた、お兄さん?」 「何だと?」 「女ひとりに文句を言うのに、いちいち集団にならなきゃダメなのか? 明日は楽しい大会だぞ。お前らこそ、さっさと国へ帰れ」
「……野郎」 巨漢は短気だったらしい。また、仲間の前でいいようにコケにされたため、急に凶暴な顔つきになった。 「痛い目に遭いたいらしいな」 背中の大きな斧を両手で構える。 「そいつを人様に向ける意味が、お前の足りない脳で分かっているんだろうな。おしきしてやるぞ?」 そういうルリンの後に、盗賊ふたりが回り込む。
「後悔しても遅ぇぜ」 ルリンが後からかけられたがらがらした声に、不快な顔をして振り返った時、巨漢は斧を振り下ろした。 が、ルリンは腰の剣を抜き放ち斧の側面を殴る。 硬い音がして軌道をずらされた斧は勢い余って壁にぶつかる。 そしてそのまま回転し、上から盗賊を切りつける。 声も無く倒れる盗賊。ルリンはさらに一歩踏み込み、返す一刀でもうひとりの盗賊を切り伏せた。
最初の攻撃を回避したまま後の二人を切り倒すまで、僅か数秒。巨漢は目の前の相手が強いことは分かったが、どれだけ実力が離れているか、測ることはできなかった。 もう一度斧を振り下ろす。力比べでは明らかに分がある巨漢は、決して広いとはいえない通路で自分の有利を確信していた。 しかし、振り下ろした斧はまた横から剣にブッ叩かれ、手に痺れを残して再び壁にぶつかった。 体勢を直そうと向き直る前に、顔面を剣で思い切り殴られる。 鼻血を流し前歯を折られ、痛みに耐えられず巨漢も地面にうずくまった。
ルリンは首を傾げ、ため息をついた。 「つまらない」 話にならないな、と剣を収める。 「まあいいか。そろそろ協力者か相方を見つけないと」
「ああ!」 エンジュが声を上げる。 「そのペンダント、ひょっとして!?」 一足飛びに地面で苦しむ彼らを飛び越え、目の前の三人を倒した戦士のそれを掴む。 「な、何ですか!」 驚くのも無理は無いが、エンジュはそれより気になった。このペンダント、ひょっとして……。
食い入るように見つめる相手に、ルリンはどきどきしていた。美人でどきどき、というのもあるが、この人は一体誰だ、というどきどきもある。 エンジュはペンダントを仔細に観察したが、エルジアのそれとは少し違う。 だが、ルリンの方が気がついた。
「ひょっとして、あなたが協力者?」 「協力者?」 「あ、いや、違います。ええと、エルジア家から依頼されたひとですか?」 「そうです。ペンダントを無くしてしまって、探していたんです」
「大変でしたね」と、ルリンは先程の諍いの原因には触れないようにした。「私……も、エルジア家から依頼された冒険者で、ルリンと言います。初めまして」 「エンジュと申します。助けて頂いて、ありがとうございます」 「いえ、助けるのも戦士の仕事みたいなものですから」 「そうですか。でも本当にお強いんですね。パートナーが大男だったらどうしようかと、心配していました」 「は? え?」 首を傾げ続けるルリン。 エンジュは相方が見つかったことに安堵しながらも、引っ掛かりを覚えた。 エルジアの物とは違うペンダント。別の協力者。 ひょっとしたらルリンという人物は、秘密があるのかもしれない。

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