| [448] 大闘技会(エンジュ&ルリン) 2 |
- 千鳥 - 2007年06月08日 (金) 23時28分
-------------------------------------------------- 『エンジュの屋敷訪問』 -------------------------------------------------- PC:ルリン エンジュ NPC:エルジア(貴族、依頼人) ユークリッド(情報屋) 場所:エルジア邸 --------------------------------------------------
エルフの村を出て早数十年。 頭では分かってはいるつもりだった。
それでも、久しぶりに訪れた知人は既に墓の中。唯一の血縁者である孫娘も貴族に嫁いで子まで成していると言うのだから、自分と彼らの間にある時間の溝は、いつになっても埋まることはなかった。
「エルジアと申します。祖父は、よくエンジュさんのお話を聞かせてくれました」
エンジュの知人、ジャンジャックの孫娘、エルジアは三十路を過ぎ成熟した美しさをもつ貴婦人だった。黒いベルベッドのドレスが良く似合っている。重く見える服だが、腕にまとわりつく薄い黄金色のショールが彼女の華やかさを引き立てていた。
名を名乗ったところで、追い返されると思っていたエンジュだったが、エルジアは彼女を一目見るや、まるで旧友に再会したかのような気安さで屋敷に招き入れた。
「どうせ、あること無いこと、話し、てたんじゃないの?」 「そんなことも・・・無いと思いますわ」
会話が途切れがちなのは、エンジュが食事中だからだった。 小規模なパーティでも行われるかのようにテーブルに盛られた食事は、あっという間にエンジュのほっそりとした体の中に吸い込まれていった。 雄牛の丸焼きにかぶりつく、美しい顔をしたエルフを眺めながらエルジアは昔祖父が語った『肉食エルフ』のお話が真実である事を身をもって体験していた。
「ジャン・・・・・・お祖父さまの老後は随分幸せだったみたいね」 「はい、賞金稼ぎから足を洗って始めた商売が軌道に乗って、宝石商として貴族と並ぶほどの富を築くことが出来ました。お陰で私もこのような家に嫁ぐことが出来たのです」 「ジャンジャックは昔っから宝石には目がなかったものねぇ〜」
賞金稼ぎだけでなく盗掘もまた彼の専門分野だった。
「ただ・・・」
幸せそうに話していたエルジアの顔が僅かに曇る。
「ただ・・・?」
食べる手を休めて、彼女の顔を見るとエルジアは何か深く考え込んでいるようだった。一句一句言葉を考えながら口に出す。
「こんなこと、いきなり頼むのも失礼かとは思いますが」 「なぁに?気にしないわよ」
初対面の人間の屋敷でこれだけ暴飲暴食するハーフエルフも常識外には違いない。
「エンジュさんは魔法をお使いになるのですよね?」 「お使いになる、っていってもそんな大層なものじゃないわよ?」 「今はギルドハンターをなさっているんですよね?」 「ん〜、一応Bランクって事になってるわね」
その言葉を聞いてエルジアは心を決めたようだった。 冒険者ギルドに問い合わせてもBランクの、戦闘専門のハンターはこの町には少なく、また居ても他の貴族がパトロンについて既に大会に参加登録済みの人間ばかりだった。 先日面会した青年ルリンは武器を使う戦士だったので、きっと魔法使いとならば相性もいいはずだ。
(この時にエンジュさんが現れたのはおじい様の導きなんだ!)
長い指を祈るように絡め、エルジアは貴婦人らしからぬ勢いでエンジュに詰め寄った。
「では貴女にハンターとして仕事をお頼みしたいのです!!祖父の宝である『偽りの涙』を、どうか取り戻して欲して下さい!!」
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「『偽りの涙』ぁ!?なんだそりゃ、聞いたことないな」
エルジアに与えられた客室のベッドを我が物顔で占領するのは、20代前半の若い男だった。その顔立ちはエンジュと非常に似通っている。 情報屋でエンジュの弟分にあたるユークリッドである。
「正確には『ウンディーネの涙』っていうアクアマリンの宝石なんだけど、偽モノだから『偽りの涙』」 「偽物なのか・・・」 「本物は50年くらい前にジャンジャックが壊しちゃったのよ。彼は本物そっくりのイミテーションを作って、当時の依頼人に渡した」 「そりゃあまた・・・・」 「色々事情があったのよ!で、彼もそれを相当気に病んで、裕福になってから買い戻して、それをエルジアの花嫁道具の一つに贈ったそうよ。偽物と分かっていてもエルジアにとっては大事な宝物だし、首飾りのほかの装飾具だけでもかなりの価値があるのよ」
その『偽りの涙』が、泥棒に盗まれてしまった。 しかも、エルジアが貴族の力を存分に行使してこの宝石を見つけ出したのがいけなかった。 今のところ、誰もこの宝石が偽物だとは気がついていないようだが、今後偽物だと分かれば彼女の名誉は深く傷つけられてしまう。しかも、彼女の生家は宝石商である。そこで扱った全てのものに疑いの目を向けられるようになれば店は大打撃を受ける。
「で、姉さんは大闘技会で優勝する約束をしたってわけか」
ちらりと向けられた鈍色の目は暗に「自信はあるのか?」と尋ねていた。
「もちろん」
無い!とキッパリと答えると、ユークリッドは律儀にベッドから滑り落ちる仕草をしてみせた。
「おぃおぃ」 「そこをどーにかするのがアンタの仕事でしょ!せいぜい使える知恵を総動員して私を勝たせなさい!」 「姉さんは真剣勝負が苦手だもんなぁ・・・でも、これペアで出場するんだろ?俺はヤだぜ?人に注目されて正々堂々日のあたる場所で闘うなんて」
中性的な容姿に、女心をくすぐるオーバーなリアクションは十分に人目を浴びるのだが、ユークリッドは既にそれには慣れっこのようだった。しかし、その甘いマスクの下には元暗殺者という暗い影が潜んでいた。
「既にエルジアが剣士を雇ってるみたいよ」
エンジュは首にかけていた月のペンダントを手に取った。 このペンダントと対になる太陽のペンダントを相手には渡してあるそうだ。 宝石商の娘のエルジアらしい目印である。 「剣士か・・・どんなヤツだろうな?やっぱり、厳ついのかな?蓬髪の大男とか来たら、姉さん、どうする?」

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