| [447] 大闘技会(エンジュ&ルリン) |
- るいるい - 2007年06月08日 (金) 06時20分
大闘技会 エンジュ&ルリン
-------------------------------------------------- 『ルリンの大会参加』 -------------------------------------------------- PC:ルリン エンジュ NPC:エルジア(貴族、依頼人) 場所:エルジア邸 冒険者の店兼宿屋 -------------------------------------------------- 「そういった訳で、あなたをお呼び立てしたのです、ルリンさん」 質素だが、品の良い家具に囲まれた大きな館の書斎で、エルジアは目の前の青年に言った。
「私もほうぼう手を尽くしましたが、冒険者の店から推薦されたのがあなたでした」 熱を込めて言ったが、ルリンという青年は特に反応しなかった。 腰に長剣を吊るしただけの、武具さえ着けない格好。背は高いが力自慢の戦士たちに比べれば小さい方だ。手足は長いが細いし、向き合ったものを押すような、格闘家などがまとっている独特の圧力のようなものもない。 その辺りにいる男に剣だけ持たせたとしか思えない。 冒険者ギルドの推薦で無ければ、会った瞬間、追い返していた。
本来は高名な戦士や剣士を雇いたいのだが、事情があって今回はそれもできない。 この青年に賭けるしかないのだ。
エルジアの問題は、少々複雑だった。 まず、数週間前に賊が倉庫に入り込み、保管していた貴重品を奪って行った。 被害額も大きかったが、これは通報、盗賊ギルドに所属していないものが犯人だった為、すぐに捕まり、物品も回収できた。
だが盗品の内、幾つかはすでに闇市に流され、売買されてしまった。 もう二度と手掛かりが掴めないのかと落胆していた時、隣の都市で開催される大闘技会の優勝賞品のひとつに、盗品を見つけた。
これを知ったエルジアは当局へ連絡し、返品を求めたが、主催者側は盗品と知らずに購入した為これを拒否、エルジアの訴えも却下された。 合法的な手段が断たれたが、かといって盗み返すということもできない。 成功しても失敗しても、エルジア家に嫌疑がかかるのは明らかだ。
残る手段はただひとつ、大会に参加して優勝し、持ち帰るしかない。
最初は持ち前の資金力にものをいわせ、大量に戦士を雇って誰かに優勝してもらおうとしていたが、近年行われる大会では規模も大きいせいか、有名な騎士や剣士も参加を表明し始めたのを知り、数では盗品を取り戻すのが困難になった。
そこで、資金はそのままに、払う人数をごく少数にすることによって精鋭を集めることにした。 エルジア本人も言ったように、冒険者ギルドだけでなく、傭兵団などにも依頼し、参加を募った。 だが彼らも彼らで参加する予定が組まれており、なかなか思うように人員は集まらなかった。
そんな時に、ようやく冒険者ギルドから連絡が入った。 お眼鏡にかなうだけの人材がいます、と。 そして推薦されたのが、ルリンという戦士だった。
「そういった理由から、あなたにお願いするしかないのです」 一通り事情を説明した後、エルジアはそう懇願した。 ルリンは彼女から手渡された参加者リストに目を通し、時々うなずいている。
「どうでしょう、大会まで二日しかありませんが、引き受けてもらえませんか?」
ルリンはだめを押されるように言われ、ようやく顔を上げた。 左右で違う色をした目が、エルジアを見る。 それに射抜かれ、見慣れないオッドアイに違和感を覚えたエルジアは、椅子に改めて座り直した。
「もちろん、引き受けます。私もこれには参加したかったものですから」 少し低い声が返ってきた。
「ですが、どうでしょう? 大会規約では参加はペアになっています。私が行ってもあとのひとりがいなくては、参加資格なしで大会に出ることすらできませんよ?」 「それは、こちらで手配しています。冒険者ギルドを通じて、そうした組織に関係しているひとたちにも参加できる方を探してもらっています。まだ見つかってはいないようですが、大会の会場にあなたが着く頃までには、なんとか」 「それなら大丈夫ですね。ええ、分かりました。この件はお引き受けします」 エルジアは胸の前で手を合わせ、ほっと一息ついた。
「ああ、よかった。これでひとつ問題が済みました。後はルリンさん、あなたが優勝して取り返してくれるのを待つばかりです」
しかし、それが問題であった。
その他、獲得した盗品は専門の運送屋に任せることや、相方になる人物、あるいはその代理人と接触する方法など、細々とした事を教えられた後、ルリンはエルジア邸を後にした。
最後までお願いしますと頼み込んでいたエルジアが印象に残る。 そこまでして欲しい物品に興味が出た。 高価なもので、自分にとっても大切な品なのだと教えはしたが、その理由までは語らなかった。個人的な問題も絡んでいるのだろうか?
硝子や水晶も使った高価な飾り物だということだが、それ以上は聞かなかった。 あまり深く追求すると、失敗する場合が多々あることを、長い冒険者生活でルリンは経験として学んでいた。
とにかく、自分も参加する必要のあった大会に出られるのだ。 もし自分のことを調べるものがいても、盗品の奪還が任務ということになり、本当の目的まではわかるまい。 「うまいこと冒険者ギルドに繋いでくれた、あの情報屋には感謝しないとな」 渡りに船とはこの事だと、笑みを漏らしつつルリンは宿へ急ぎ、既に支度してあったバックパックを背負うと、隣の都市へ向かった。
都市は大会のせいで、賑わいを見せていた。 明日開催ということで、通りには露店が軒を連ね、色とりどりの服を着た人々が押し合いへし合いしながら流れていく。 その流れにやや逆らいながら、ルリンは冒険者ギルドへ入った。
多くのギルドと同じく、そこも宿屋を兼ねており、まず部屋を取って荷物を仕舞った。すぐに出て酒場にいるギルドの店主に声をかけた。
「私宛に、言伝とかありましたか?」 「おお、お帰り、隊長さん。そうだな、手紙が届いてるぞ」 「隊長じゃない、元隊長です」
カウンター席に座り、差し出された手紙を受け取り、水を注文する。 レモンを絞って香り付けした水で口を湿らせると、店内をくるりと見回した。 まだ仲介人やパートナーは来ていないのかもしれない。
「そうだったな、軍は辞めたんだったな」 大口開けて笑う店主をじろりと見ると、彼は悪い悪いと言いながら、 「その目で睨まないでくれよ、おっかないから。まあ、謝礼代わりってわけじゃないが、ちょっと気をつけた方がいいぞ」
「何がですか?」 「どうも盗賊ギルドの一派が裏で画策しているようだ。何をしようとしているのか分からないが……」 「2、3年に1度の大会だから、賭博やら何やらで利潤を稼ごうとしますよ。直接関係はありそうにないですね」 「そりゃ、想定の範囲内ってやつか。ちぇっ、せっかくの注意も無駄かよ」
ルリンは封を切り、短く書かれた文面を読んだ。 (調査内容に間違いなし。エルジア家の盗品から奪還して下さい) そして、封をひっくり返し、中に入っていたペンダントを取り出す。 これが、協力者同士を見分ける小道具というわけだ。 「難しい仕事になったな……」
「おいおい、怖気づいたのか?」 つい漏らした呟きに、店主が聞いてきた。 「……どういう意味ですか?」 「だから睨むなっての! アンタくらいの腕なら、俺なら、今頃遊びまくってるがね。依頼主は心配してたが、どうもこっちの世界の情報に疎いんだよな。もっと期待していいと思うんだが」
どうやら闘技会の依頼の話らしい。ルリンはつい、その方の事を言ってしまった。 「私の腕、ね……必殺技もないし、魔法も使えませんけどね。保険は掛けておきましたし、負けても盗品の奪還くらいしないと……。後は、相方が大怪我しないように気を付けるだけです」 「へぇ、気を回すんだ、アンタでも?」 「だから、どういう意味ですか?」 「あっははは! 相方って、どんなヤツだろうな? やっぱり、厳ついのかな? むくつけき大男とか来たら、アンタ、どうする?」
逆に笑ってごまかす店主に、ルリンは溜息をついた。 剣の腕だけなら、それなりにプライドがある。 だが、もうひとつの依頼については、それを最後まで秘密にしておける自信はなかった。
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ルリンは盗品の奪還の他にも、ひとつ仕事を抱え込んでいます。どちらも大会に参加しなければ解決できない事件です。 彼は秘密にしておきたいと考えているようですが、腹芸は苦手なのですぐに知られてしまうと思います。(おそらく中盤までには) そういう訳で、いよいよ短編をスタート致しました。 つたない文章ですが、よろしくお願い致します。

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