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短編リレー

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[444] 憑き物を落としてください(ティルヴィアンネ&しぐれ)−12 ちいさなちいさな みなみのしまで だいじゅうにわ
周防 松 - 2007年05月27日 (日) 16時33分


何をしに戻って来た!


予想された言葉だが、鋭い牙をむき出して、半分うなるようにして告げられると、恐ろしい。
しぐれは、思わず身を小さくした。

――ティルヴィアンネ、しぐれ、ゴンじいの三人は、無事に黒犬のいる泉までたどり着くことができた。

ひやりとする事はあったが、魔物に襲われるという事態は避けられた。
これはおそらく、フェアリシアの香のおかげだろう。
察するに、この島にいる魔物に、さほどの知能はないということだ。
元々村人だった者達は、かつて人であった時の知能を失ったのかと思うと、哀れで仕方ないが。

「あなたと話がしたいという人を、連れてきたのデス」

小さくなっているしぐれとは違い、ティルヴィアンネは毅然としている。
ゴンじいをちらりと見て、前へ出るよう促す。
一歩を踏み出し、ゴンじいは黒犬の前に現れた。


貴様……っ!


黒犬は、ゴンじいの姿を見ると、途端に敵意をむき出しにした。
ティルヴィアンネとしぐれに対してさえも、友好的な態度など欠片も見せなかった黒犬である。
その感情が、敵意のみに傾くと、一体どうなるか。
空気が、びりびりと震えるようだった。


一体何のつもりだ。
こいつは村の人間だろう。
我が、村人を憎み恨んで呪っていることを知っての行動か?


そう告げながら、黒犬は今にも飛びかからんばかりだ。
その様子を見たゴンじいは、嘆くように小さく息を吐いた。

「君に、説明をしなくてはならない……」


ふん……。
今更になって、許しを乞うとでもいうのか?
甘いわ!
我は主人の亡骸を前に、村人どもを許さぬと誓ったのだ!


頑なな態度に、ゴンじいが言葉をつまらせる。
目深にかぶった帽子の下からのぞく口元が、苦しげにゆがむ。
とてもとても悲しそうだ、としぐれは思った。

「私が、わからないのかい?」
「え?」

思わぬ言葉が出てきたので、しぐれは首をかしげた。
ゴンじいは、以前、この黒犬に会ったことがあるのだろうか?
いや、それよりも。
今、ゴンじいは自分のことを『ワシ』ではなく『私』と言わなかったか?
それにその口調、どこかで……?


何を言っている?
貴様など知らぬ。


ゴンじいと、この黒犬に、面識はないようだが……?

「お前は、私を忘れてしまったのかい? マーク……」

ぴくり、と黒犬が耳を動かす。


……ほう。
我の名を知っているのか。
だが、それがどうしたというのだ?
大方、主が我を呼ぶのを聞いて知っていただけのことだろう。
まったく不愉快だ、村人め、我の名を呼ぶな!!


「マーク、私だよ。お前の飼い主だ」


でたらめを言うなっ!!


黒犬が鋭く吠える。


(ゴンじいが、んだご主人さま? でも、それはちょっとおかしいんじゃ……)

しぐれは、ゴンじいが洞窟の入り口で話していたことと、今語っていることが整合できず、混乱しかかっていた。

「でたらめではないよ。今、証拠を見せてあげるから」

ゴンじいが、口笛を吹く。
一息吹くうちに、高い音から低い音へと音程を変える口笛の吹き方だ。
そして、口笛の後に、手を二度叩く。

黒犬は、身じろぎ一つせず、ゴンじいを見つめていた。


……主人っ!


やがて、飼い主を慕う犬そのものの動きで駆け寄ると、体をすりつけた。
ゴンじいがその体をそっとなでさする。

「覚えていたんだね、私がお前を呼ぶ時にいつもやっていた方法を」


当然だ、忘れたりなどするものか!
ああ、主人……主人っ!


本来なら、ここは感動すべき場面なのだろうが。
しぐれは、完全に混乱していた。

「ど、どういうことですか? ゴンじいが、本当は黒い犬のご主人さまなんですか?」
「少し、違うな。私は私、ゴンサウベス老人はゴンサウベス老人だよ」
「ゴンサウベス?」
「ゴンじいの名前デス。ゴンサウベス、という名前だから、村の人達は彼が老いると、ゴンじい、と呼ぶようになったそうデス」

聞きなれない名前とゴンじいの口調に戸惑っていると、ティルヴィアンネがそっと耳打ちして教えてくれた。

「その通りだ」

ゴンじいがうなづく。

「ティルさん、どうして知ってるんですか?」
「昨日、村人……の幻と話をした時に、教えてもらいマシタ」
「ああ……」

しぐれは、思い出した。
そういえば、昨日、後片付けのために水を汲みに行こうとした時、彼女は村人と話をしていた。
もっとも、内容に関してはたいした話ではないと言っていたが。

「よく知っているね。その通りだ」

それから、彼は、事情を話し始めた。


――ゴンじいは、男にこっそり食料を届けようとして村長にバレてしまい、見せしめに暴行を受けた上監禁された。
その間に、ゴンじいを含めた村人達全員に呪いが原因の獣化が始まり、続けて病気の流行が始まった。
監禁されていたゴンじい以外が全滅し、ついには魔物にまで変わり果てた一連の事件。

飼い主である男がんだのは、獣化が始まるほんの少し前のことだった。
魂の状態でさまよう彼を、ゴンじいは自分の肉体にいわば『同居』させてくれたのだ。

「私はんだ。だが、魂まではにきれなかった」


決まっている。
あんなに惨めなに方をしたのだ。
とても浮かばれはすまい……


「違うよ、私がにきれなかったのは……お前が気がかりでならなかったからだ」

黒犬は、意外だ、と言わんばかりに顔を上げる。

「私にとって、お前はただ一人の身内みたいなものだ。それを置いて逝くなんて、まるで、可愛い幼児を残して遠くへ行かねばならなくなった親の気持ちだった。だから、お前が気がかりで気がかりで、ならなかった。できるなら、平穏に暮らしていて欲しかった」

――しかし、男が実際に見たのは、黒犬が泉の精霊をも食らって力を得て、村人達を呪いによって脅かす光景だった。

男は止めなくてはならないと思った。
自分がんだのは仕方ないことだったのだから、と言い聞かせるつもりだった。
しかし、魂の状態のままでは、いつか不本意なうちにあの世に連れて行かれてしまうかもしれない。
それでは困る、と思い、ゴンじいの肉体に同居させてもらっていたのだ。
それからは、ほぼ毎日のように、泉へと赴いた。
黒犬を説得するために。

「気付かなかったのかい? 私がんだことを村人のせいと思い、恨むお前を諭そうと、私は何度も何度もお前の前に現れていたんだよ? だけど、お前は私に気付かず、言葉も通じなかった」


何故……何故なのです、主人。何故ほめてくださらないのです? 全て、全て、あなたのためにした事だというのに……!


黒犬は悲痛な声を上げる。
犬という生き物は、飼い主にほめられたくて行動する生き物だ。
黒犬も、主人のため自発的にやっているつもりだっただろうが、実は主人が知れば称賛してくれるものと思いこんで一連の行動を起こしたのだろう。


あなたを思い、復讐を誓い、泉の精霊をも食らって力を得たというのに!
全て、あなたのためにしたことだというのに、どうしてそれを否定なさるのです!
我のしたことを否定なさいますな!
あなたに否定されることほど、我にとって酷なことはない!!


人間だったなら、おそらくは号泣しているに違いない、悲痛な言葉。
しぐれは、胸が痛んだ。

「……私が、いけなかったんだね」

そっと、ゴンじい……の肉体を借りて、飼い主が、黒犬を抱きしめる。

「私は、今わの際にお前にかける言葉を間違えたんだ。お前を残していくのは、確かに辛かった。胸が張り裂けそうだった。だから、『お前を一人ぼっちにするのがツライ』と弱音を吐いた……だけど……本当は、こう言ってやるべきだったんだね」


主人……主人に落ち度はない。
だから、嘆かないで……謝らないで……。


黒犬の言葉に、飼い主は頬を寄せる。

「私は、遅かれ早かれぬ運命だった。生きているものがぬのは、仕方のないことなんだ。生まれた以上抗えない、宿命なんだよ。誰のせいでもありはしない。お前には幸せになって欲しい。私のことで、いつまでも心を痛め、嘆かないで欲しい……そう言ってやらなければならなかったんだね」

寄せていた頬を離し、飼い主はゴンじいの肉体を通してそっと黒犬の顔を見つめる。

「今なら、私の声が聞こえるね? 頼むから……呪いを解いてやっておくれ。彼らはしてもなお、呪いのためにこの世に無理矢理留まらされているんだよ」

黒犬は、その言葉に、かすかにうなづいたように見えた。

「あ……」

見ているうちに、変化が起きた。
黒犬の体が薄れて細い細い煙のようになり、同時に、ゴンじいの肉体からも、うっすらと煙のようなものが立ち昇る。
二つの細い細い煙のようなものは、寄りそうようにして空へと消えていった。

ゴンじいが、立ちあがる。
そして、上を向いた。

「ゴンじい……?」

しぐれが声をかけると、ゴンじいは振り向いた。

「ああ、彼はもう、旅立っていったよ。今のワシの体には、ワシ以外誰もいない」

空を仰ぎ見ると、あちこちから、同じようなものが、ふわふわと立ち昇り、空へと吸いこまれるようにして伸びていく。
不気味、とも、美しい、とも言える光景。

「何でしょう……あれ」

なんとなく察しはついていたが、それでもしぐれは呟いた。

「……きっと、解き放たれた魂が、還っているのデス」

しぐれは、おずおずと空に向かって手を合わせてみた。
いつか、たった一度だけ見たことのある、人間の葬儀とやらで行っていた、者への弔いの形を真似て。



「ゴンじい、これからどうするのデスカ?」

あの二人組が言っていた通り、廃墟となっている村を歩きつつ、ティルヴィアンネが尋ねると、ゴンじいは目深にかぶった帽子を押さえた。

「この島で、天寿とやらを全うするつもりだよ。生い先も短いし、どこか別の島に移住してまで人生をやり直すなんて気持ちにもなれないからね」
「たった一人で、生きていくんですね」
「……そうでもないかもしれないな」

ゴンじいは、そっと口元に微笑みを浮かべた。

「ここの島には、君達のように流れついてくる者もいるからね。生きている間は、彼らの面倒を見てやろうと思う」

ふと、気配を感じて視線をやると、そこには半透明な村長ゴンドガルの姿があった。

「ゴンサウベス……」

呪いが解けたにも関わらず、この世に留まっているなどと。
彼にはまだ、心残りがあるのだろうか。
ゴンドガルは、突然、頭を下げた。

「ゴンサウベス、どうか、許して欲しい。ワシは……間違っておった。村長として村の連帯を考えるあまり、人でなしになってしまった。お前さんにも、ひどいことをした。村を守るためと言いながら。それなのに、結局、村を守れなんだ……ワシは、とんだ道化じゃ。人として正しいのは、お前さんだった。ワシは……ワシは……」

ゴンじいは、ゴンドガルにそっと歩み寄る。

「頭を上げてくれ。村長のせいではない。村を守るためには、仕方のないことだったんだから……」

しかし、ゴンドガルは頭を上げようとしない。
その両肩に、申し訳ないという気持ちが重くのしかかっているように見えた。

「しぐれが、言ってまシタ」

唐突に、ティルヴィアンネが声をあげる。

「え?」

自分の名を持ち出され、しぐれは驚く。
誰かに伝えたくなるような、そんなすごいことを言った覚えはない。
何を言っただろうかと頭の中をかき回して記憶を探っていると、ティルヴィアンネはしぐれの頭に手を乗せた。

「誰も悪くない……しぐれはそう言ってまシタ。きっと、簡単に善悪を決められるような話ではない、ということデス」

その言葉に、ゴンドガルとゴンじいはお互いの顔を見合わせた。

「……そうだな。ワシは村長のことを許すよ。随分痛い思いをしたが、あれはもうずっと前のことだ」
「ありがとう、ゴンサウベス……」

その言葉を最後に、ゴンドガルの姿は消えていた。
呪いとは別に、彼にはこの世に留まり続ける理由があったのだ。
自分のしたことを悔いていたのに違いない。


見上げれば、青い空の中に、白い一本の筋が上へ上へと昇って行くところだった。



島を出るにあたり、あの二人組が乗ってきたと思われる小船を使うことになった。

ゴンじいに見送られ、ティルヴィアンネとしぐれは島を後にした。

とは言え、風がないので、しぐれが小船を押して泳ぐことになった。
小船に乗るのは、もちろん、水の苦手なティルヴィアンネだ。

「……ねえ、ティルさん」

しぐれは、小船を進めるためにと必に尾びれを動かしながら、船尾に座るティルヴィアンネに話しかけた。

「僕、ちょっとだけ思うんですけど……。これで、良かったのかな、って」

ぽちゃん、と水音を立てて、尾びれを立てる。

「村の人達は、本当はあんな姿でもいいから、この世にいたかったかもしれない。あの黒い犬だって、ご主人さまが実は喜んでなかったなんて、知らないままの方が幸せだったかもしれない……僕達、本当は、ただ余計なことをしただけだったのかな、って……」

「しぐれ」

ティルヴィアンネは、船尾から身を乗り出し、しぐれを見つめて微笑んだ。
誰もが虜になってしまいそうな、そんな微笑みで。

「私達は、何もしていまセン。良いことも、悪いことも」

日差しが、彼女の髪をきらきらと光らせている。
まぶしくて、しぐれは目を細めた。


「私達は、ただ、一つの事件が解決するその時……そこにいて目撃した、ただそれだけなのデス」




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エンディングじゃーーー!

なんとか、なんとか頑張りました。
あちこちまとめきれてない部分もありますが、頑張りました。

ケンぼん、リレー組んでくれてサンクス!

[445] おつかれさまでした!
ケン - 2007年05月27日 (日) 21時59分

読みました〜!
松さん、おつかれさまでする。
いろいろと勉強になりました。
最後の方とかは押し付けてしまった感じがしたりしなかったりなのですけど(−−;

綺麗にまとめてくれて、本当に感謝です!
松さんとリレーできてよかったです。
いろいろと迷惑かけましたが、本当にありがとうございました!



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