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短編リレー

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[443] 憑き物を落としてください(ティルヴィアンネ&しぐれ)−11 ちいさなちいさな みなみのしまで だいじゅういちわ
ケン - 2007年05月06日 (日) 15時29分

 あの怪物がうようよいる場所にゴンじいを連れて戻る。
 たとえゴンじいを連れていなかろうと戻りたくはないところだが、そうはいかなくなった。
 「フム…。」とティルヴィアンネはあごに手を添えて考える。
 ただ戻るだけでは死ににいくようなものである。
 なにか手はないものか。

 歩きながら考えていると、視界の隅に茶色い袋のようなものが映った。

「アレハ…。」

 近づいて見てみると、それはよくトレジャーハンター等が使う機能性に優れたリュックだということがわかった。
 中を覗いてみると、知っているものから知らないもの、実にたくさんの冒険道具や魔法アイテムが入っていた。
 おそらく先ほどの冒険者らしき男達の持ち物だろう。

「…これは、使えそうデス。」

 ティルヴィアンネは、リュックを逆さまにして上下にゆすり、中の物を全部取り出した。
 そしてその中から、とりあえず使えそうな物をごそごそと空になったリュックに再び詰めなおした。

「ティルさん、何をしているんですか?」

 急に走り出し、今度はなにかごそごそとしだしたティルヴィアンネにそろそろと近寄り声をかけるしぐれ。

「使えそうな道具を物色しているのデス…なんでショウ、これは? 用途不明デス…とりあえず入れておきショウ。」

 ぽいぽいとしぐれにはどれもガラクタにしか見えない物をリュックに詰めていくティルヴィアンネ。

「あ、でもそれ、人のものですよね。いいんですか?」
「…どのみち、死者には不用の物デス。」

 当たり前といえば当たり前な事だが、しぐれはティルヴィアンネのその言葉にすこしショックを受けた。
 それは知っている人の意外な一面を知ってしまったときに感じるある種の喪失感のような物にも似ている。
 まだ幼いしぐれの心は、まるで針でやわらかい所をつつかれたようにぴりっとした。

「これは…なるほど、そういうことでしタカ…。」

 そんなしぐれの様子に気づかず、ティルヴィアンネは何かを発見したのか、いそいそとそっちへ移動する。
 そしてそこに転がっていた、妙な臭いのする煙が出ている豪華な陶器を拾った。

「どうしたんですか? …うわ、何ですそれ、すごい臭い…。」

 ティルヴィアンネが拾ってきた物の臭いを嗅いで、しぐれは思わず鼻を覆った。
 それはとても我慢ができるような物ではない臭いだった。

「これはフェアリシアの香といって、魔物を追い払うことのできるマジックアイテムなのデス。今はほとんど煙が出ていませんケド…。」

 たしかに、こんな臭いがする物の近くにはいたくはない。
 たとえそこに美味しそうな人間がいたとしても、食べたいとは思えないだろう。

「しかしこれは本来は『知力のない魔物』を追い払うための物デス。賢い魔物は、逆にこの臭いを辿れば人間がそこにいると知っていますカラ…。」

 「新米の冒険者や、マジックアイテムに詳しくない行商人が、よく過って犠牲者になりマス。」といいながら、ティルヴィアンネはフェアリシアの香の煙を消した。
 そしてリュックの一番外側のポケットにそれを詰め込んだ。

「へぇ〜、詳しいんですね。」

 しぐれは感心したようにティルヴィアンネを見上げた。

「はい、私もそれでよくご馳走になっていますカラ。」

 「ふふふ。」と笑うティルヴィアンネにしぐれは驚きの声を上げた。

「この臭いの中で食べれるんですか!? すごいですね…。」
「慣れればそこまで辛くはないデス。」
「すごいなぁ、さすがティルさん。」

 などと少しずれているようにも感じる会話をしながら、やがてリュックの詰め込み作業が完了した。
 最初より幾分かは軽くなったリュックを背負い、ティルヴィアンネは最後に一振りの小枝を拾った。

「そんな小枝なんか拾ってどうするんですか?」

 しぐれの疑問を、ティルヴィアンネは笑顔を向けて答えた。

「これがあれば負けまセン。もし、あの怪物たちと戦いになったとき、必ず役に立ちマス。」

 しぐれには理解できなかったが、楽しそうに小枝を振り回すティルヴィアンネを見ていると、まあいいかと思えてきた。
 振られるたびに小枝から火の子のような物が飛び散っているように見えたが、気のせいだと思うことにした。


 一行はとりあえず東の森の泉をめざして出発した。
 水路を通れば早いかと思ったが、流れが逆なのでしぐれでも泳いでいくのが厳しいのと、なによりティルヴィアンネが嫌がったから却下となった。
 最初にしぐれと泉へ向かっていったように、時には伏せたり、時には木の陰に隠れたりしながら、怪物の襲撃を警戒しつつ、徐々に泉へと近づいてきていた。
 不思議なことに、まだ一度も怪物の姿を見ない。
 それが緊張をほぐしたのか、しぐれがぽつりと口を開いた。

「ゴンじいさん、村の人は本当に幻だったんですか?」

 しぐれの言葉に、ゴンじいは帽子を深くかぶり直した。

「本当だよ、君達が見ていたのは夢だ。」
「夢…。」

 しぐれは村の人々の顔を思い出していた。
 あんなに優しくしてくれて、感触もあったはずなのに、ゴンじいはそれをすべて否定した。

「…しぐれ。見えない幻は無い、感じられない幻覚は無いのデス。私達が見ていたのはすべて幻デス。死して尚残る思念が見せた夢なのデス。」
「でも…。」

 なおも何か言いたげなしぐれに、ティルヴィアンネは前を向いたまま、振り返らずに言った。

「エシルの料理、美味しかったデスネ。」

 前を向いているため、ティルヴィアンネの顔は見えなかったが、自分のことを気遣ってくれているのがしぐれには伝わった。

「…うん。」


「ゴンじい、ひとつ聞いてもいいデスカ?」
「かまわんよ。」

 歩きながら、ティルヴィアンネは前を向いたまま問うた。

「ゴンじいは村長に監禁されたと言いましタガ、私達がこの島に来るずっと前から、ゴンじいは思念だけとなったこの島の住人と普通に暮らしているようデシタ。」
「なぜか、かね?」

 ティルヴィアンネの話をゴンじいが続きを次ぐようにさえぎった。

「それは彼らの記憶がこの島に例の男が来る以前まで戻ってしまっているからだよ。だからわしとの関係も以前のままだったということだよ。」

 ゴンじいの答えにティルヴィアンネは「なるホド。」と頷いた。
 それからしばらく無言の時間が過ぎていったが、あと少しで泉に着くというところでティルヴィアンネは歩を止めた。

「最後にひとつ聞きマス。あなたは黒いに会ってどうするつもりデスカ? 何を伝えるのデスカ? 伝わると思っていマスカ?」 

 ひとつどころかみっつになっているティルヴィアンネの問い。
 ゴンじいはそのどれに答える風でもなく言った。

「説得するつもりだ。だめかもしれないがね。」



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 お待たせしました。
 いやぁ、五月になってやっとお暇がもらえたので書いたんですけど。
 あいかわらずブフェーな文ですみませぬ!
 ぜんぜん伝えたいこと伝わってないし、進んでないです!
 松さんに最後を押し付けるようで申し訳ないですけど…
 いよいよ最終話です!
 ファイトー(><)/



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