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短編リレー

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[427] 「螺れた箱」(ギゼー&シン)3
葉月瞬 - 2006年10月20日 (金) 00時51分

「ウサギ?」
 思いの外大きな扉の閉まる音を聞きつけて振り返ると、そこには兎が気絶していた。この兎も招待した者なのかと少年を見遣ると、何だこの兎はと言いたげな面持ちをしていた。俺は何か言おうとしたが、柱時計に邪魔された。文字盤を見れば、三時を指していた。
「……まぁ、いいさ。今更一人増えたところで、何も変わらない」
 少年のその言葉は、ごくごく小さくて微量な音の波だったが、俺の鋭い耳には難なく届いた。俺は訝しんだが取り敢えず、聞こえない振りをしておいた。何かあるといけない。君子危うきに近寄らず、だ。
「ところで、兎はどうするんだ?」
 そのまま応接間に向かおうとしていたので、とりあえず訊いてみた。
「兎? ああ。兎鍋にでもしてしまおうか」
 少年は手を二回叩くと、何処からか使用人が出てきた。少年が「持っていけ」と短く命じ、使用人は何処かへ兎を引き摺っていった。恐らく厨房だろう。嗚呼、哀れなウサギだ。背中に背負っていた懐中時計が気になったが、兎はあくまで兎である。あんな大きな兎は見たこと無いが。

 館の主人らしき少年が、暫く席を外すと断って応接間を出て行ってから、たっぷり一時間は経っただろうか。出された紅茶を啜って、もう底の方が見えて啜るものも無くなって退屈してきた頃、その騒動は起こった。
 何処からか兎が飛び込んで来たのだ。
「ああ! 助けてください!」
 ん? 喋る兎? はて、喋る兎とは何処かで見たことあるような……と、先程入り口で起こった出来事を俺が思い出すのに、きっかり三十秒はかかった。
「あー……んと、俺の記憶が正しければ、さっき厨房の方に連れて行かれた兎さん……? だっけ?」
 こんなにでかい兎など、早々に居て堪るか。
「そうです! その兎です! 助けてください! お願いします!」
 早口で捲くし立てる兎に、俺の頭は尚も冷静になる。
 この兎、どうやって厨房から逃げ出してきたんだ? 果たして、こいつを匿う事が俺にとってどれほどの益になるのだろうか。逆に、この兎を助ける事で、どれだけのリスクを伴うのか。今、俺の頭の中では高速で計算している。
 きっかり三秒後、俺は満面に笑みを湛え兎を見下ろしていた。
「よし、助けてやる。良いか? お前は今から俺の友達だ。……先に情報交換をしておこう。口裏を合わせるためにな。お前からだ」
 俺たちは自分の身上を事細かに情報交換した。
 何と言っても、リスクと利益を天秤にかけて傾かなかったからだ。俺にはそう思えた。だからこそ、彼――兎に協力することにしたのだ。
「そうだ。お前、名前は?」
「ぼく?」
「ああ。お前の名前」
「ぼくの名前は、シン。永遠の六百六十六歳だ!」
「……ふぅん。俺は、ギゼーだ。よろしくな」
 俺は然して感慨も浮かばず軽く流して、にこやかに握手を求めた。ここは突っ込むところだろうが、あえて流す。シンは一瞬の躊躇の後、がっしりと俺の手を掴んできた。かくて俺たちは握手を交わし合った。これでちったぁ、友好を深めたと思う。
 兎の、ふわんふわんの手が心地良かった。

 先程から気付いていたが、この館の中において時計ほど当てにならないものは無いらしい。少し前から時刻を確認していたのだが、時計という時計が全て――どれもこれも異世界からの流出品だ。金銭的にべらぼうな値段が付いていたりするが、そこはそれ、金持ちや貴族の特権と言うやつで買ったのだろう――三時を指して止まっているのだ。否、秒針は動いているのだが、分針や時針はきっかり三時を指したまま動かないのだ。どんなに時が過ぎようとそれは同じようである。この館の中において、時刻を知りたい場合は自分の体内時計のみが頼りのようだ。
「何なんだ? この館……おかしなところが多すぎるぜ」
 館の主といい、時計といい。常識では考えられない事が、ここでは当たり前のようである。
「おかしなところ?」
 俺が思わず呟いた言葉に、先程知り合ったばかりの相方が相槌を打つ。
 因みに、既に俺達は互いの身上の情報交換は済ませていて、後は館の主を待つばかり、という状態である。
「ああ。だっておかしいだろ。この館の、時計という時計が午後三時だか午前三時だかを指してるんだぞ。そしてその三時から一向に動こうともしない。何の因果か」
「気がつかなかった」
 時計はゆっくりと秒針だけを進めていく。まるで、シンの言葉を無視するかのように。或いは、せせら笑っているかのごとく。それでもシンは、そんな事気にしていないかのごとく再び喋りだす。
「ああ、この館、広過ぎるよね。逃げてる時、ずっと思ってた。広すぎるから逃げるのに便利だったけど。ぼく、逃げ足だけは速いんだ」
 そう言って、これ見よがしに足を高く上げて見せる。とはいえ、そこは兎の足。それほど高くは上がらない。しかし、お喋りな兎だな。兎のくせに。だが、待つ事に退屈しきっていた俺には丁度いいのかもしれない。
 ふと気になって、掛け時計を見る。
「それにしても、ここの時計はどうなっているんだ? 時間が止まっているのか、時計が壊れているのか。いや、壊れているって事は無いよな。秒針が動いているからな。じゃあ、時計がおかしいのか? 何か意味があるんだろうか……」
 俺はいつもの如く独り言をぶつぶつ呟く。これじゃまるで、シンを無視しているようだな。ちょっと可哀想か。まぁ、別に相槌を打つ必要性を感じなかったからな。
 俺がそう思って故意に無視していると、シンはその行為にムカついたのか、はたまたこの状況にイラついているのか、毒舌を吐き始める。
「大体なんだよ。この館。人気の無い森の奥にひっそりと佇んじゃってさ。人間嫌いにも程があるよ。おまけに人間嫌いのくせに、兎鍋だぁ? 人間じゃない奴食べてどうするんだよ! 同属は食べないくせに兎は食べるのかよ! お前らが! んでしまえ!」
 興奮冷めやらぬ体で息を切らせているシンを、俺は労った。
「お疲れ様。……ところで、外に出ようとは思わなかったのか?」
 そして続け様に、持って然るべき疑問を投げ掛ける。すると、シンはそんな事考えても見なかった、とでも言うような面持ちで俺の事をじっと見据える。その円らな赤い瞳が可愛らしい。
「外? そんな事思いもしなかった。ただ闇雲に逃げてたからー」
 俺はふと不安になって、応接間の窓という窓を全て開くかどうか点検してみた。案の定、開かない。錠が下りている、と言う訳でも無いのに如何いう訳か外に向けてその口を開く事はなかった。閉じ込められた? と、訝しむ事はしなかった。俺は既に薄々気付いていたからだ。閉じ込められるということに。
「……なるほど、外には出さない、ということか」

 暫く経って、主が戻ってきた。
「退屈させて、ごめんね。少し、問題が起こって。……ん? 一人増えているようだけど?」
「俺の友達です。途中合流するのが遅くなりまして……」
 主はただ黙ってじっとシンを凝視する。まるで注意深く観察しているみたいだ。嘘が無いかどうか見極めているのかもしれない。俺は気付かれないように、さり気無くシンの足を小突き嘘がばれないように配慮した。シンは慌てた様にフォローに入る。
「う、うん。そうだよ。ぼく達あの村で待ち合わせていたんだ」
「…………ふん。まあ、いいだろう」
 主のその言葉は俺達に気付かれないように小さく呟いただけだった。だが、俺の地獄耳は逃さない。主はその言葉を吐いたのが自分ではないかのように、次の瞬間には屈託の無い笑顔に切り替わってのたまった。
「来て。部屋に案内するよ」
「? お礼を言うだけでは?」
 これは俺の言。矛盾を突いてみた。
「お礼がてら、パーティーを開こうと思ってね。……迷惑かなぁ」
 うわっ、来た! 上目遣い。あどけなさの残る顔でそれをされると、大抵の大人は折れるという伝説の技だ。こんなものを使ってくるなんて、反則に等しい。もっとましな言い訳は無いのか。子供としての特性を使う前に、口八丁手八丁で言いくるめて見せろ。反則業を使うなんて。
 当然、俺は折れた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
遅くなりましたーごめんー。
口の悪いウサギさんは好きですか?
イメージ違ってたらごめん。



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