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短編リレー

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[375] 『畜生道をゆく』(フレア・オプナ・ライ)〔9〕
小林悠輝 - 2005年08月31日 (水) 18時07分

「何の本を探してたんだっけ?」

「記憶力が乏しいわね。変身を解く本よ」

「それがそうなの?」

「他の何に見えるっていうのよ」

 ならきっと、毒薬の作り方を書いてある本にしか見えないのは気のせいなのだろう。ライは「何にも」とだけ答えて室内を見渡した。

 なんだか、高等部の理科室に似ている。
 とはいえあそこは“音楽室の怪談”の縄張りではないから、なかなか立ちいることができなくて、どんな場所だったかよく覚えていない。あそこに棲み着いている怪奇現象は被害妄想が強い上に血の気が多くて、近づくだけでも大騒ぎだ。二酸化塩素と硫化水素の二段ポルターガイストはなかなか洒落にならない。

 胡散臭いものが無闇に置いてある、という点では、あの理科室と共通する雰囲気がある。
 他にも、中途半端に閉められた暗幕による微妙な薄暗さだとか、どこか薬品臭いひんやりとした空気だとか。

「あとは、猫を捕まえればいいんだな」

 高等部からかすかに聞こえるチャイムの音。時計がないので何限目だかわからない。とにかく授業が始まるか終わるかした合図だ。

 フレアは少しだけ気にするような表情をしたが、小さく首を横に振った。
 真面目そうな学生だという印象だったのだが……いや、実際に真面目なのだろう。だから、自分よりもオプナの都合を気にしているに違いない。いいひとなんだけど、授業は大丈夫なんだろうか。

(僕には関係ないから、いいか)

 カリキュラムに従わなければいけないなんて学生は大変だ。他人事だし同情する気も起きないが、感心だけはしてしまう。毎日毎日、おなじようなことをしていてよく飽きないものだと――まぁ、それは自分も同じか。

 授業を受ける必要がないというだけで、学校という場所は、毎日毎日、毎年毎年、あまり変わり映えがしない。生徒が入れ替わり、たまに教師も入れ替わるが、そんなことには関係なく、日常は平坦だ。

 だからたまにこうして珍しげな騒ぎが起こると、気乗りしないながらもつい付き合ってしまったりするわけで。後から関わらなければよかったと後悔するのも、決して珍しいことではない。だけどその騒ぎが解決するまでの間、いつもより楽しいことも確かなわけで、結局は毎回のように首を突っ込む。

「じゃあ、フレアちゃん、これ持って」

「え?」

 マタタビの枝を差し出す。手折られてから時間が経っているせいか、若干、葉がしんなりと萎れてきている。触ったら嫌な感じに柔らかそうだ。
 それを受け取ったフレアが不思議そうに見上げてきたので、ライは彼女から目を逸らして両腕でウサギを抱えなおしながら言った。

「とりあえず猫の目の前に出すと、勝手ににおいをかいだり舐めたり甘噛みしたりして酔っ払うらしいよ」

「……へぇ」

「そのときの猫は、目ェ細めて気持ちよさそうにごろごろしてね、もうサービス満点で、撫でるどころか抱っこさせてくれたりもしちゃうんだ。猫好きにはたまらないね!」

「……そ、そうなのか」

 まじまじと枝を見下ろすフレア。
 オプナが本から顔を上げて「あの毛並みを撫でたら手が大変なことになるわよ」と呟いたが、ごくごく小声だったせいで恐らく聞こえなかっただろう。

「フレアちゃんは、猫、好き?」

「あ、ああ……可愛いから」

「じゃあヨロシク」

「え?」

 我ながら見事な誘導だと思ったが、どうやらうまくいかなかったらしい。
 ライが押し付けようとしたのは単純な理由で、動物が苦手だからだ。だって油断したらウサギを噛まれそうだし。どこかに隠せばいいのかも知れないが……所構わず針を飛ばすような生き物から守るためには、やはり自分で抱えているしかない。

「ほら、女のこの方が猫も油断するだろうし」

「教授だしね」

 オプナがまたぼそりと呟くが、ライも、恐らくフレアも、その教授がどんな人物なのか知らなかった。だがその口ぶりから察するに、中年以上の歳の男だろう。
 夢も希望もない。可愛い女の子だったら、もう気合入れて元に戻そうとするのに。

「で、あんたは何するのよ」

「んー……何しようかな。
 じゃあ、マタタビで幸せになった猫に網を被せる役で」

「網なんてどこにあるの?」

「ここならありそう」

 特に理由もなく印象だけで判断。ウサギをいちどテーブルの上に置いて周辺をがさごそ探し回ると、すぐにそれらしいものが見つかった。妙な光沢が疑わしい材質でできていることは、はできるだけ気にしないことにしよう。
 それを片手に引きずって、もう片手にはウサギを抱えなおす。これでは不審人物だ。

「元に戻す方法はわかったわ」

 ぱたん、とオプナが本を閉じた。彼女は「必要なものはー」と言いながら、テーブルの上にある薬品やら鉱石らしいものやらを集めて白衣のポケットに詰め込みはじめる。その小瓶のラベルに、明らかに危険な名称が書かれていたのを、ライは見なかったことにした。

「行くわよ!」

 妙に張り切りながらオプナが言った。



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