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短編リレー

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[311] 『消えていく子供達(ミッシング・チャイルド)』 (マックス&エルガ)−7
夏琉 - 2005年01月12日 (水) 10時01分

金の粉をまぶしたみたいだと、エルガは葉の落ちた樹の元に立つ少年を見て思った。

 眼鏡のレンズを通して見たときに、少年の姿が輝いて見えるというわけではない。エルガが見ている少年は、影がなく一目でエルガや男とは違う位相の存在だとわかるものの、光を放ってもいないし透けてもいない。

 目に映るのではない部分…少し頭の中を傾けて、耳をすませるように感覚を鋭[さと]したとき、まるでこの少年の白い肌や柔らかな産毛一面にこの上なく細やかな上質な金粉がきらきらと塗されているように感じるのだ。

 エルガは、はじめ男の部屋の窓から少年を見かけたとき、年恰好からはじめに消えた3人のうちの一人の少年ではないかと検討をつけた。
 だが、今はそれは誤りだったと思っている。たぶん、この少年は人間----ある一定の質量をもった生きている人間ではないのだ。

「それなら、ちょっとそこで待っていてもらえますか。見てみますので」

 男にそう言うと、返事を聞かずに林のほうへ向かう。

 村長にこのことを報告してもどうにもならないことは、初めからわかっていることだ。
 この霧が続いてる間は大陸の人間がその異常性に気づくまでは船はでないだろうし、この島には大陸まで航海するための大きな船はほとんどない。きっと島の人間はエルガに魔法で連絡をとったり移動したりすることを期待するだろうが、その魔法はエルガには使えない。

 男に村長のもとへ行くことを提案したのは、はじめに協力を頼まれていたことを思い出したから、その程度の理由だ。

 少年の前に立ったエルガは少年の頬に触れようとしたが、すぐに上げかけた手をさげた。
 少年が、男ではなくエルガに視線を注いでいることに気づいたからだ。

「あら」

 エルガは軽い驚きを覚えた。少年が、男以外の存在を認知できるほどこの場に結びついているとは思っていなかった。

「私の声は、聞こえていますか?」

 少年は、その問いには反応しない。ただ、エルガの顔をじっと見つめている。
 そこでエルガはかがんで少年と視線の高さを合わせると、思い切って再び少年の頬に手を伸ばした。触れるのではなく、指一本ほどの隙間をあけて少年の顔の輪郭をなぞっていく。そして目を瞑って、何かを感じ取ろうとする。

 エルガにとってこのような行為は、魔法を使うことよりもずっと自然なことだ。ただ少し物の見方を切り替えるだけで、やっていること自体は赤ん坊が自分の周りの世界を知ろうとして、ひたむきに周囲のものに手を伸ばそうとするようなものだからである。

 ただ、すべての魔法を使う人間がエルガと同じような世界の読み取り方をするわけではない。それどころか魔力を自分の一部というよりも、まるでただの剣や弓矢のように道具として扱っている者も数多くいる。

 最近、試運転が開始されたばかりの空間を切り裂いて移動する汽車。あれの第一回目の試運転の日、エルガの知人の一人は髪の毛の根元を抜けそうなほどきつくつかんで、頭が痛むのを歯を食いしばってこらえていた。

 エルガは彼女とは感覚の鋭さも感じ方も異なるので、彼女ほどの影響は受けてはいない。しかしあの日以来、確かにあの汽車が発車する時間にソフィニアにいると耳の奥でキンっと不快感が突き抜ける。
 彼女のようにソフィニアに住んでいることすら困難なほどではないが、エルガがソフィニアを離れることが多いのは、ここ数年急にあの街の魔法が今までの秩序を無くしてきつつあるからというのも、理由の一つだ。

 エルガは少年の顎の先までなぞると、目を開いた。
 そして少年の顔をまじまじとみつめると、ほんの少し眉根をよせた。
 
「…何かわかりましたか?」

 男のところに戻ると、彼は寒さに足踏みさえしながら待っていた。

「あんまり」

「…ということは、何かわかったんですよね?」

「ええ」

「あの…、説明してもらえるとありがたいのですが…」

 男の言葉をきいて、エルガは俯いて白い息を吐く。その様子には、気の進まないことがありありと表れている。
 が、エルガは2,3回靴先で地面を軽くいじっただけで、顔を上げて話し出した。

「あぁ…あの、私、自分で言うのもなんなんですけど、結構、力が強いほうらしいんですよね」

「はぁ…」

「それで、よく『魔法使いとしての有能さと魔力の強さってたいてい相関するのに』だの『なんで人間としての形態を保ててるんだ』だの言われたりするんですけど」

「はぁ」

「それで、自分もどうしてかわからないんですけれど…」

 エルガはすっと少年を指差した。

「彼と霧、私がやってるみたいなんです」

「え」
 
 男の凡庸な造作の顔が、一瞬固まる。

「自覚はまったくないんですけど、どうもそうみたいなんですよね。
 この分だと、子どもたちを消しているのも私なのかも」

「えーっと…、それなら魔法を使うのをやめてみれば…」

「条件が整ってしまってる以上、一度流れ出した魔力って基本的には止まらないんですよ」

 そしてエルガは、男にまっすぐ目を向けると言った。

「どうしたらいいと思います?」

「さぁ…」

 ぎゃあ、とあの鳥の声が林の方から聞こえた。
 
 

[312]
夏琉 - 2005年01月12日 (水) 10時04分

書きました。

そろそろレポートが切羽詰ってくるので、このペースでは当分返せないと思います。なんかちらっと出てくる汽車は魅流さまの考えたアレです。文化の発展の影には常に苦痛を強いられるマイノリティがいるのさっってことで。



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