高校生という枠から飛び出して、一年なんてあっという間だな、って思う
来年成人を迎えるというのに、俺の中では何一つ成長していない気がする
高校の、あのプールで泳いでいたときと同じ
結局は…皆がいないと前に進めないんだろうか、俺は
そんな事、考えてたら暗くなる一方だろっ
しっかりしろ、勘九郎!!
自分で自分に言い聞かせて、こうなったら心機一転
部屋の模様替えでもやってみるかな……何年ぶりかに
下からの苦情を無視して、机にベッド
本棚を移動させていく
「っ…」
重てぇ…
机を移動させていると、上に乗っていた教科書やらが
ドサドサと床に落ちていく
そんな中移動させるもんだから、物は次々にベッドに放り投げられていって
今日、下で寝る事になりそうだな……
模様替えのつもりが大掃除になりそうな部屋の中で、
そう思いながら机を新しい場所まで移動させ溜め息を吐く
「すげぇ部屋…」
こんなに物多い部屋だったか?
疑いたくなるほど、本や紙が散らばっている部屋の中
ふと、見覚えがない封筒が目に付いた
あんな物……あったっけ?
封筒なんて、手紙のやり取りなんてしない自分にとっては珍しい物で
床に落ちている本を飛び越えて、その封筒を手に取る
封筒の、裏にも表にも何も書かれていなくて
封の閉じられていないその封筒を開けると、中には便箋が折られて入っている
見ても……いいよな?
俺の部屋にあったんだから、例え家族の物でも
見て確かめる権利ぐらいはあるだろう
そう思い、その便箋を取りだし
開き、まず目に入ったのは
『進藤ちゃんへ』
それだけで
送り主も
受け取るはずだった人物も
一気に分かってしまった
俺宛の、手紙
卒業し、もう全然会ってもいない立松からの
いつだ?いつの間に…
考えても、それは高校時代の事でしか無くて
それ以来部屋に遊びに来ていない立松の
最後の訪問の日にあった事を思い出し、便箋を咄嗟に閉じてしまう
これを、今の俺が読んでもいいのだろうか
便箋に、何が書かれているのかは分からないが
それでも、これを
読んでしまってもいいのだろうか
他の誰からの物だったとしても
俺はきっと抵抗も無く、先の文章が読めるはずなのに
立松からは
怖い
この便箋の先の
文章への恐怖が
今、俺の中で渦巻いている
「進藤ちゃん」
そう呼ばれたのは、卒業の日が最後
最後の日、実家に戻るという立松の涙と
そして、俺がこの部屋で立松にした事
何度も後悔して、そして、忘れようとしても無理だった事
「しんど、ちゃ……っっ」
熱く名前を呼ばれたのは、今でも忘れられていない事
好きだった
好きだったんだ、立松の事が
そう言って、返事も何も聞かず
戸惑っている立松を、
無理矢理に
抱いた
その、後だろうか
次の日、目が覚めたら立松の姿は無くて
連絡する勇気も無いまま
気が付けばもう一年
『進藤ちゃんへ』
手紙の
文字を
読む勇気も無い自分に嫌気が差す
立松……
これを俺は、読んでもいいんだろうか
お前からの言葉を、俺はまだ…聞いてもいいんだろうか
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ミニアンケート90票記念。えー……なんとなく、高校時代に付き合わない設定で書いてみました。続いてしまうかも…。