はっきり言って。
この時期に、受験生である自分が、このイベントの事を覚えているわけが無いわけで。
バレンタインなんてすっかり忘れてたんだよ!!
校門に麻子と同じ制服をたくさん見かけた時、ようやく今日がバレンタインだと気付いた俺に、なぜか寄ってくる女生徒達。
次々に渡されるそれらに、断る暇さえも無かった。
学園祭のシンクロのおかげで、あの後から何度か告白なんてものをされた事もあったので、自分が以前よりも女生徒にそういう目で見られているとは分かっていたんだけど、学園祭が終わって数ヶ月が経った今、まだ自分に何かをくれるなんて人がいるとは思っていなかったんだ。
去っていった制服の後ろ姿を見送った後、いつの間にか側に来ていた立松が後ろから肩に顎を乗せてくる。
「もてますねぃ、進藤ちゃん」
拗ねているとも取れる声が聞こえて、反射的に振り返ると驚くほど至近距離に立松の顔があって、それにも驚き咄嗟に身体を離してしまった。
それに一瞬寂しそうな顔をした立松を見て、しまったと思った時にはもう遅く、立松は完全に拗ねたという顔で校門を出ていく。
「立松、待てって」
慌ててそれを追いかけて、横に並び顔を覗き込む。
お互い、受験なんてもののせいで、こうやって一緒にいるという事も最近はあまり無かったせいか、余計に会えて嬉しいというのに。立松の顔は珍しく不機嫌さを隠そうともせずに、尖らせた唇が可愛いなどと思いながらも、必死に謝ると急に立松が立ち止まった。
「チョコ…何個ぐらいもらったの?」
「…えーと…」
1、2、3…と数えていると、目の前に、あまりにも至近距離に箱を差し出される。
バレンタインのチョコ。
包装紙からでもはっきりと分かるそれを出されて、立松の顔を見ると、赤くなった顔で見上げられる。いつの間にか身長を追い越されてと、悔しがっていた立松のその上目遣いを見せられて、思わず胸が痛くなった。
赤く染まった頬。
様子をうかがうように見上げられて。
手の中には包装紙。
「進藤ちゃんがもてるのはいいことだけどさ……食べるのはこれ、一番目にしてよ」
それぐらいは許してよ。
滅多に出さない独占欲を表に出しながら、立松が言ってくる。
「これ…俺に?」
「進藤ちゃん以外に誰にあげるってのよ!」
「ぁ…そうだけど」
「もう、恥ずかしいんだから早く受け取ってよねぃ」
「……サンキュ」
真っ赤になっている立松と、多分きっと同じように顔を赤くしながらそれを受け取った。
まさか立松がこんな可愛い事をしてくれるとは思ってなかったから。
「今日、泊まりに来ないか?」
思わず聞いてしまうと、意味を察したのか、更に顔を赤くして目をぎゅっと閉じた立松が、少し考え込んだ後小さく目を開けてから、こくんと頷いてくれた。
家に戻り。
立松の目の前で、立松以外の人からもらったチョコを母親に渡した。
「俺、一つあれば十分だから」
後ろに立つ立松が、また顔を赤くして、嬉しそうに笑顔を見せる。
バレンタインって日が、こんなに幸せな日だとは思ってなかった。
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ミニアンケート40票記念。バレンタインネタです。立松ならチョコくれそうだなぁ……と思いまして!!進藤ちゃんは立松よりも背が高くなってくれててもいいなぁ…と思って高くしてみました。歩さん、ネタ出し付き合ってくれてありがとうですーー。