「そーいやぁさぁ…」
急に聞こえた声が、まさか自分に対しての物だとは思わなかった。
普通なら気にせず通り過ぎていただろう…。
その声に聞き覚えさえ無かったら。
「彼女いんの?」
声の後に。
いつからそこにいたんだ…と疑ってしまうような階段から尾崎が顔を覗かせる。
下から上に向けて。
まるで、いや立ち上がるように顔を現した尾崎が、
「彼女、いんの?」
もう一度同じ質問を投げかけてくる。
体勢から見ても、尾崎が会談に座り込んでいた事は想像できる。
だが、なぜ下から上がってきた俺の事に気付き急に声を掛けてくるんだろう。
最初から座り込んでいたはずなら、俺が来る事は分からないはずだが…。
「いや、いないが…」
とりあえず、二度もされた質問に返事を返す。
「なんで?もてるじゃん、千葉って」
ぴょん、とスキップするように尾崎が階段を数段飛び降りて、俺の前に全身を現してくる。
「彼女作らないようにしてるとか?」
「そういうわけでもないけどね…一応これでも好きな人っていうのがいて」
「なぁにーーー!?そ、そうなのか!?なんだぁ、誰だよ、水くさいなぁ」
突然早口になる尾崎が面白い…。
やっぱりこういう話、好きなんだねぇ。
「人に話すような事でもないだろ」
「そーだけどさぁ…な?な?教えろって」
「嫌だね。尾崎は口が軽そうだし」
「ひっでぇーーー、傷付くなぁ」
ちぇちぇっ、と口を尖らして尾崎が拗ねた態度を見せる。
そういうのねぇ…。
本人は分かって無くてやってるんだろうけど。
こんな態度を見せられたら、大抵の男はしゃべってしまうと思うよ。
だけど俺は言わない。
「尾崎にだけは言えないんだよ」
告白は。
もっとムードを大事にしないとね。
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だからまだ一話だけなのに……妄想が…止まらない…。