「友達に戻りたいんだ」
腕の中で、泣きやむのを待っていた相手から告げられた言葉は、それだった。
「千葉と……出会った時みたいに、友達に戻りたいんだ」
涙が残る瞳で、見上げてきた尾崎。
その言葉の意味を、一瞬理解できずにいた俺に、同じ言葉をもう一度告げられる。
友達。
だった、はずなんだ俺達は。
『ただのダチ』
そう、尾崎も言っていたはずなのに。
それなのに。
尾崎の言葉を素直に受け止めるとしたら、俺達の関係が友達じゃないという事にな
る。
確かに、肉体関係は結んでいた。
ただの欲求のはけ口が欲しいから、と。
男に馴れていないくせに、そう誘ってきた尾崎。
テニス部の部長になる前から、テニスも上手く外見も注目される尾崎は、簡単には女
の子と付き合うことは出来ないから、と。
だから、誘われた。
それにOKだと出して、肉体関係を結んだのは。
尾崎の事が好きだったからだ。
見た瞬間から。
尾崎に囚われていた。
シャッターを押しても、映っているのは尾崎ばかり。
それに気付いた藤堂が、間に入り友達として紹介してくれた事は、凄く感謝してい
る。
友達。
表面上は。
じゃあ、裏では?
何度も抱いたこの体。
その関係を、尾崎は止めたいと言っているのだろう。
「やっぱ都合…良いよな、そんなの」
黙っている俺に対し、尾崎は目を伏せて言ってくる。
まるで、また今にも泣き出しそうなその顔。
そんな顔を見せられて。
抱きしめることしか出来ない。
強く腕に力を込める。
痛いのか、息を詰めた尾崎に。
「好きなんだ……」
初めて告げた言葉に。
尾崎の目から涙がこぼれ落ちた。
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ミニアンケート80票記念。密かに続いてしまっています…すみませんっっ。