「あー……煙草吸いてぇ」
呟くように言うと、途端頭の上に拳が降りてくる。
「いってぇっ、仕方ねぇだろっ!目の前にあんだから」
「我慢しろ」
「てめぇこそ我慢しろよなっ、煙草止めたんじゃねぇのかよっ」
止めた、と言ってたくせに。
吉森のポケットには常に煙草とライターが入ってて。
教室だろうが職員室だろうが、気がつきゃ手が煙草に伸びている。
そんな状態なのに、吉森が家で煙草を我慢なんてできるわけがなくて。
今だって、俺の前で美味そうに煙草銜えて。
得意げに煙の輪なんて作ってやがる。
煙草。
初めて吸ったのは中学の頃かな。
別に美味いってもんじゃねぇけど。
吸うと落ち着く気持ちはあって。
だから、吸いたい。
特に、何か嫌な事があった時。
まぁ、それで一回停学処分受けてるから、さすがに学校や下宿じゃ吸わねぇけどさ。
いいじゃん?ここなら。
俺と吉森以外、誰もいねぇのに。
それでも吉森は、煙草を吸うなと言ってくる。
「美味いか?」
煙草を吸う吉森を、恨めしそうに見ながら訊くと。
「おう、美味いなぁ…美味い美味い」
腹立つ言い方で、煙草を見せつけるように顔を近付けてくる。
あ、むかつく。
「じゃなさぁ…」
「あ。おい…」
笑いながら吉森の口から煙草を取り上げると。
吸われるのかも、って心配して驚いた顔をされる。
取り返そうとしてきた手が、俺の手から煙草を取り上げる前に。
間近にあった吉森の顔に。
口付けた。
「煙草吸いたくなったら、こうするから」
赤くなってる吉森に、俺はもう一度口付けた。
まぁ、そのせいでもう一回俺の頭に拳が下ろされたんだけどさ。
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ミニアンケート30票記念。煙草ってほら…口寂しい人が吸う、みたいに聞いたもんで(笑)