ピンポーン、と。
こんな時間に誰だろう…と、鳴ったチャイムに玄関へと向かう。
開けた扉の向こうに立っていたのは尾崎で、驚きながらも部屋へと招き入れる。
部屋の扉を閉めた瞬間、コートを脱いだ尾崎が制服に手を掛けて、そのまま音を立ててそれを脱ぎ捨てる。
「千葉…」
シャツになった尾崎が、それのボタンに手を掛けながら俺の名前を呼んでくる。
決して、色気があるわけではなく。
その顔は、すねてさえいるように見えて。
むっと結ばれた口が開き、もう一度「千葉」と名前を呼ばれる。
するためだけにここに来たのか、君は…。
今までにも、何度かあったこの行為に。
仕方ないか…と、諦めにも似た感情を殺しながら、俺は尾崎をベッドへ横たわらせた。
寄せられた眉が解かれて、次第に目が潤いを帯びてくる。
むすっと閉じられた唇がゆっくりと開き、甘い声が聞こえ始めて。
「ぁ…ん、ぁぁっ…ちばぁ…」
甘えているように。
聞こえるその声が好きだった。
呼ばれる名前が好きだった。
尾崎が…好きなのに。
こうやって、何かを埋めるようにしか求められていない関係を、何と言うのだろう。
「お蝶婦人にさ…言われた」
尾崎が、ようやく何があったのかを語り出したのは事後の事で。
むすっとした顔のままベッドの上で黒髪を揺らしている。
ゴロリと横になった尾崎が俺の事を見上げてきて。
「俺の優しさが、時に人を傷付けるんだって」
「そう…」
お蝶婦人もなかなか上手い事を言うな…。
だが、それが本当に尾崎へと向けられた言葉なのかは…疑問だけどな。
「千葉もそうだと思うか?」
「お蝶婦人の言いたいことも分かる、と答えておこうかな」
「ちぇっ…俺はさ、俺は…自分の事は分かんねぇけど…」
珍しく、言葉を途切らせて。尾崎が俺を見上げてくる。
「千葉の優しさは残酷だと思う…」
「…俺が…?」
なぜ?
意味が分からないよ、と尾崎の顔を見ると。
赤くなった尾崎が、がばっと起きあがると急に服を着始める。
止める暇も無く着替え終わった尾崎が、
「じゃあな」と部屋を飛び出していく。
「ちょ…尾崎っ」
「また明日な〜」
追いかけてもすでに後ろ姿は遠くにあって。
それでも、手を振る姿とそんな声が聞こえてきた。
「…なんで…」
俺の優しさが残酷だと。
そんな事、初めて言われた。
俺が尾崎に与えている優しさは、好きだと言う気持ちだけだというのに。
「意味が分からないよ…尾崎」
俺にとっては、君の存在が残酷なのに。
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ミニアンケート30票感謝な感じで…。本編ネタ混ぜてみました。