久しぶりかもしれないな…。
鍵を開けながら、そんな風に思った。この鍵を使って、この家に入る。以前は毎日のようにやっていた行動なのに、最近は忙しくてここにも来れなかったから。
今も暇だとはまったく言えない状態で、それはそれで有り難いな、なんて思ったりするわけだけど。
だけど、ここに来れないのは寂しい。いや、ここに…っていうか。未來に会えないという事に…我慢の限界が来たんだろうな。
「あれ…」
驚いた声が聞こえる。勝手に鍵を開けて入ってくるのなんて、俺ぐらいしかいないはずだから。
「孝之?!」
居間へと続く扉が開くよりも、未來の驚いた声が聞こえてきた。
「え…うわ、おっどろいたぁ…来るなら来るて言うてくれたらよかったのに」
「急に来た方が驚くだろ?浮気チェックってね」
「浮気なんて、んな事せぇへんって。でも嬉しいなぁ…明日オフなん?」
「いや、そーいうわけじゃないんだけどさ…って、何?晩飯中?」
「そ。今食い終わったとこやねんけど…これからテレビタイムやって」
「テレビ?何見るの?」
訊ねると、にししし…と意地悪い笑みを浮かべて俺のジャケットをハンガーに掛けてくれる。何だよ…その意味深な笑みは…?って思った所に、聞き慣れた音が画面から流れ始めた。
「げ…」
「げ、やないやろ〜?自分が出てるドラマやろ。ちゃんと見な」
「出てる…って、俺が出てるドラマじゃん」
「そ。ファイアーボーイズ!毎週見てるんやで〜?」
見てる、だけじゃないらし。
ドラマが始まったと同時に、ビデオが録画を始めている。チャンネルは今画面に映っているのと同じチャンネルで。
「まじ…?」
俺、自分が出て…しかもまだ撮影真っ最中のドラマを今から見なきゃいけないのか!?
「ほらほら。孝之も座って座って」
「え…っと…まじで、見るの?」
「見るの」
「……はぁ…」
見る、見ないって。
言う暇も無く番組は進んでて。うわ…情けない表情してんな、俺…。
有り難い事に主役なんてさせてもらっているドラマだから、休む暇も無く俺の顔が画面に現れてくる。一人で見るならともかく、人と一緒にそれを見るなんて…相当恥ずかしいんだけどなぁ。
隣を見ると、未來は先の展開をワクワクしながら待っている様子で、思いっきりドラマに夢中になってくれてる。……嬉しい事、なんだけどね。
一時間がこんなに長いと感じたのは久しぶりかもしれない…。
ピ、って。音立ててテレビのスイッチ切った未來が、よやく視線を隣の俺へと動かしてきた。
「あ、おんなじ顔や…テレビと」
「当たり前だろ…俺が出てるドラマなんだから」
「なんや不思議な感じやなぁ…」
にししし、って笑われて。照れくさそうに抱きついてこられた。照れてるのは俺の方なんだけどなぁ…。
「なんや凄いドラマやなぁ…撮影大変そーやん」
「ん…火傷したりね」
「ほんま?気をつけな〜」
「うん…って、未來…わざわざビデオ撮って見てくれてたんだ」
「あったりまえっしょー。だぁってなぁ…」
「孝之が出てるドラマやし」
格好良かったで?
って、言いながらキスされて。
ドラマの中ではボロ泣きしてる所や、仕事失敗してる所。情けない所ばかり見せてん
のに、そんな事言われて。
まるで、俺が演ってる大吾に恋でもしてるような目で、俺の事見てくる未來が。
「来週どーなんやろ…楽しみやな〜」
そう言ってくれるから。
やっぱ会いに来て良かったな、って思う。
忙しくても、会いに来るのは大事な事だな…。
ポケットの中の鍵が途端に存在を誇示してきたような気がする。
だから、未來の事抱きしめて。
当分の恋敵は大吾だな…。
そう、自分で思える程に頑張ろうって。
改めて思えた。
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お友達の歩さんと話していたネタを勝手に書いてしまいました。載せるか悩んだけど載せてしまった…。偽物すぎるのはナマだから…仕方ないって事で。歩さん、ありがとですっっ。