|
●月刊「社会主義」2025年8月号 ■ 生活苦への不満が自公政権を過半数割れに 第27回参議院議員選挙結果から考える 足立 康次さんより
今参院選の課題は、自公を参議院でも過半数割れへと追い込み、国民の総意として政権交代に向け解散総選挙を求めることにあった。 (初耳である。) 世界的に物価高が引き起こされていた。 日本ではこれにアベノミクスによる円安、少子高齢化の進展による生産年齢人口の減少による人手不足が重なった。 2024年の物価上昇率(平均・総合)は対前年比2.7%上昇(食料品は4.3%)した。最新6月の物価上昇率は対前年同月比3.3%の上昇(食料品は7.2%)を示している(7月18日公表)。 このように勤労国民が生活に苦しむ一方で、自民党派閥が主導した政治資金パーティを使った裏金作りが明らかとなり、国民の怒りが高まり、昨年10月20日投開票の第50回衆院選では、自公が、過半数割れとなった。
参院選の選挙結果から見る有権者の動き 投票日が3連休の中日に設定され、その低下が懸念された投票率は、前回(2022年・52.05%)を約6.5ポイント上回り、58.51%となった。 期日前投票の増加(前回約1961万人、今回は約2618万人)。152人の女性が立候補し、最多であった2022年の35人を上回る37人が当選した。
今回の参議院議員選挙では、16年・19年には及ばないものの、各方面の努力によって前回22年を上回る16の1人区で野党候補一本化が図られ、結果、18の1人区で野党系候補の当選が勝ち取られた。 (「野党候補一本化が図られ」とは、共産党の候補 取り下げのことか?)
選挙区で票を減らしたのは自民、公明、維新、共産。 立民、国民、社民、れいわ、参政が増やした。 各党の前回との増減の計は約600万票。これは投票率の上昇(概算で約670万票)とほぼ一致する。 推論にすぎないが、前回自民、公明、維新に向かった票と、投票に行かなかった票の多くが参政と国民に向かい、その一部が立民へ、とみることができる(参政党は全選挙区に候補者を擁立し、自民以外の選択肢を提供した)。なお、共産党が失った票とれいわが獲得した票はほぼ一致することから、両党間での票の移動も考えられる。 比例区の得票状況。選挙区とほぼ同様だが、公明と維新は選挙区よりも比例区での減り方が大きい。党への岩盤支持層が減っていることを示している。立民の増加は選挙区得票の増加の半分以下であった。選挙区での増の一部は候補者一本化の成果とみるべきだ。同様のことは国民にも言える。選挙区の方が、増え方が大きい。れいわと社民で比例区の方が得票の増が大きいのは、選挙区での候補者「不足」のせいであろう。なお、参政党は、約160万票比例区での得票増が少ない。選挙区での候補者は参政党が選択肢となっても、比例に入れる(党を選ぶ)ことについてためらいが有権者にあるのかもしれない。 なお、新聞各紙の出口調査を見ると、無党派層の比例への投票先は、立民12%(24年衆院選より13ポイント減)、自民11%(同4ポイント減)、維新8%(同3ポイント減)、国民15%(同2ポイント減)、参政14%(同9ポイント増)となっている(読売)。各政党支持層の動向(比例)を見ると、自民支持層は73%しか自民に投票せず(一部が公明、参政、国民民主党へ4%、立民・維新に3%、日本保守とみらいに1%流れる)、しかも自民に投票したのは高齢層に偏っている。また、共同通信によれば、年代別の投票先は、18・19歳では、国民が25%、参政が23%、自民11%の順になっており、とりわけ参政は、20代・30代22%、40代18%、50代%と若年層から壮年層で支持があつい。 最後に、連合傘下各労組組織内候補の動向を見ておこう。それぞれの産別で組織事情も異なり、一概に比較することはできないが、多くの産別で得票数の対組合員比が低下している。とりわけ中でも10ポイントほど低下している産別が目立つ。日常的な組合員との結びつき、参議院選挙に止まらない選挙闘争への参加など、再強化すべき課題は共通しているのではないか。 参議院選挙の特徴点は何だったのか 出口調査(読売新聞)をみると、今回の投票を行うにあたり、「最も重視した政策」は、物価高対策46%、年金・社会保障政策17%、子ども政策・少子化対策12%となっており、外国人に関する政策は7%で4位であった(外交・安全保障政策は4%)。そして、「消費税をどうするか」については、税率を下げるべき52%、いまの税率を維持27%、廃止18%、であった。 前述したとおり、物価上昇は留まるところを知らず、その対策としての消費税減税は喫緊の課題である。物価上昇と名目賃金の上昇により、税収は累増している。物価上昇が始まる前の2019年度における主要3税(法人・所得・消費)の合計は約48.3兆円。これが2024年度には約62.5兆円(法人税約7.2兆円増、所得税1兆円増、消費税6兆円増)まで膨れ上がった(2024年度税収は概数)。累進課税の緩和(高額所得者への減税)、法人税率の引き下げ(独占資本への減税)をもとに戻せば、それだけで消費税減税の財源は十分に確保できるであろう。選挙戦を通じて、消費税減税(あるいはゼロ%)の主張がどれだけ広がったのか、私たちの総括が必要であろう。 参政が脚光を浴び、新しい争点として浮上したのは、外国人問題であった。1990年代労働法制の改悪と軌を一にして、1993年、「技能などの移転を図り、その国の経済発展を担う人材育成を目的」として技能実習制度がスタートし、1991年に約122万人であった特別永住者を含む中長期の在留者数は、2024年末時点で約377万人となった(うち、技能実習約45.6万人、技術・人文知識・国際業務41.9万人)。 「日本人ファースト」の根拠とされる「外国人は優遇されている」という言説に対する虚実をここでは問うことはしない。私たちが直視すべきは、「日本人ファースト」の主張が、有権者の心をとらえたことの背景に、「自分たちはこんなにもないがしろにされている」という厳しい事実があることではないだろうか。 フランスにおける極右伸長の1つのきっかけは、2015年のシャルリー・エブド襲撃事件に象徴される移民または移民を出自とする自国民によるテロ事件の頻発と、社会不安のまん延であったとされる。治安対策を強化することへの支持が拡大し、極右政党勢力の伸長がはかられた。
マルクスが言うように、「民衆の幻想的な幸福である宗教を揚棄することは、民衆の現実的な幸福を要求することである」。私たちがどのような「現実的な幸福を要求」していくのかが問われる。287支部、地方議員約150人、党員・サポーター約10万人(読売新聞)とされる参政党は、NHK党や石丸新党といった風任せの党とは異なる党だと見なすべきだ。 最後に、この参議院選挙で争点に十分ならなかった争点を列記する。1つは、トランプ関税への対応である。中国のようにレアアースを握り、米国と渡り合える「大国」ではない日本は、多くの国々と連携して米国と対峙すべきだ。これと関連して、米国と約束した5年間で43兆円の大幅軍事費増額の凍結、削減が喫緊の課題である。その履行は軍事公債の発行という「戦前への道」の繰り返しである。3つは前述した財源確保としての独占資本・富裕層への課税強化と、金融所得課税の強化である。 衆院に続き参院でも過半数を失った石破政権の命運は尽きている。だが、立憲野党も、選挙で示された勤労国民の不満、不安、怒りを、この選挙で組織することに成功しなかった。 (勤労国民の不満、不安、怒りを、この選挙で組織すること それは、具体的にどういうことか示してほしいものだ。)
[1087] 2025年08月11日 (月) 22時50分
|