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[372] 瑠璃色の大地―Sequence-01―
音霧 楓 - 2006年07月16日 (日) 04時34分

           瑠璃色の大地
          ―Sequence-01―
             【凍夜】


             T


神≠ニいう存在をご存知だろうか?

もちろん文章を理解できる一般人なら知らないはずがないだろう。

では本題。
神≠ニいう存在を信じているだろうか?

ちなみに俺はもっぱら信じちゃいない。
奇跡? そんなものは弱い人間の心が生み出したまやかしの単語だ。
人間は困った時に神頼みをする、神にすがるという行為に出る。

それで奇跡が起これば人間は神に感謝するが、実際はどうだろう?
漫画やドラマの話ではない、現実面で考えてほしい。

奇跡が起こることを信じ、神に祈る。
だが、奇跡などは起こらない。
それはいたって普通の、当たり前のことである。
何もないところから物が生まれないのと同じこと。
祈った通りに都合よく世界が動くはずがないのだ。

もし祈った程度で世界の法則が変わるのなら今頃どんな風になっているだろうね?
人間は堕落していき、「祈る」ことしかしなくなるんじゃないか?
「祈れば何でも願いが叶う」
ただそこで手を組んでいるだけで何でもできる。
失敗はない、必ず叶う。
お金をください、と祈れば金が降ってくる。
強くなりたい、と祈れば強くなれる。

ましてや「アイツを殺したい」なんて祈ってしまえばそいつを殺すことだって可能だろう。
それも、自分の手を汚すことなく。
仮に警察に追われる身になっても、「逃げたい」と祈れば逃げ切れるし、
「助けてほしい」と祈れば助かってしまうのだろう。
そもそも、そんな祈るだけの世界なら警察すら動かないだろうけどな。
警察自体存在していないかもしれない。
世界全土が無法地帯だ、まいったもんだねこりゃ。

祈るだけの世界は自分が絶対の正義だ。
自分の祈ったこと―もはや考えたことがすべてできる。
他人に咎められようと気にしない、気にする必要がない。
別に他人がどう言おうと自分には関係がないからだ。
自分に都合の悪いものは祈って消してしまえばいい、そして自分の都合のいいものにしてしまえばいい。
全人類がそうなってしまえば自分以外の人間に興味など持たなくなってしまうだろう。
恋人が欲しいなら、探さず祈ればどこかからフラリと現れる。
嫌いな人間がいても、さっき言ったように自分の都合のいいようにしてしまえば関係なくなる。
もはや世界は自分のために動いているようなものになってしまうだろう。

確かに、願いが叶えば嬉しいものだ。
だが、叶いすぎて全てがうまくいくことに面白みなどあるものだろうか?

――俺はまったくないんじゃないかと思うね

ご都合主義の世界なんざ御免だ、滅びちまえ。

何も難しい話じゃない。
ゲームに例えて考えてみるとしよう。

まず主人公がいるな、レベルは自分の好きなように設定できる。
なら一部の物好きを除いた大抵の人間は最大レベルに設定してしまうだろう。
その方が楽に進めるからだ。

敵と戦闘になっても一撃で倒せる、ボスだろうと関係ない。
最強だからな。

むしろ敵との戦闘が面倒ならば出ないように設定すればいい。
そうすればダンジョンをスムーズに歩き回れる。

つまり、自分でRPGゲームを作れるかのような感じだ

面倒なものは省き、好きなものだけ取り込む。
主人公は絶対になない、だからゲームオーバーなんて存在しない。
ゲームオーバーなんてつまらないだろう?
どこまでもめんどくさがりやな奴が作ったものならスタートして30秒でエンディングに到達できるかもな?
移動が面倒な時はワープ 全てワープで移動できる。
イベントなんざありゃしない ワープで最終面へ行ってしまえば終わりだ。
雑魚敵どころかラスボスも存在していないRPG ワープでどこにでもいけるRPG 自分だけが最強のRPG
そこに存在する登場人物は・・・

――自分

だけなんじゃないか?
何の目的もなく、ただポツンと主人公だけがいるゲーム。
それの何処が面白いんだろう?

これは極端な一例だったかもしれないが実際それとほとんど変わりはない。

人間はめんどくさがりやだ。
なんでもできるようになると面倒なものはすべて省いてやりたいことだけやりたくなる。
する必要のない苦労を誰がしたがるだろうか?
俺だって無駄な苦労はしたくないね。

人間は新たな刺激を求める生物だ。
そこらの動物と違ってワンパターンな日常は好まない。
何かしら変化がないと退屈で仕方がないだろう。
どんな願いでも祈れば叶ってしまう世界にいながら新たな刺激を求める。
それはつまりどういうことか?
更なる願いを積もらせるか?
それともあえて祈るのをやめるか――いや、それは無理だ 人間の精神は弱いからそんなことはできないだろう。

――そう、人間は弱いんだ。
祈ることはやめられない、一種の麻薬だ。
むしろ麻薬以上だ、麻薬の方がまだマシだろう。
祈ればなんでも願いが叶う世界で更なる祈りを積もらせようとたいした刺激にはならない。
いずれ飽きがくるのがオチだ。
だからといって麻薬に犯された人間は麻薬の摂取をやめることができない。
つまり、祈らずにはいられない。

そうなると、どこに刺激が落ちている?
どこにもなくなるだろう?
いっそのこと別の世界に飛んでいくなどといったファンタジックな考えに出てしまおうか?

――ふざけるな、どこまで現実から目を逸らせば気が済むんだ。
お前らはこの現実に満足できないのか?
「満足しろ」とは言わない。
満足はしない方がいいんだ、満足してしまえばそこで終わりだからな。
だが、その「満足できない世界」を捨ててしまうのは如何なものか?
俺からしてみれば、むしろ何でも叶う世界の方が「満足できない世界」に見えて仕方ないんだがね。
まず、そんなくだらない世界の奴らに言ってやりたい。
「世界はお前一人のものじゃない」と。

――相当話がずれてしまったようだ。
一旦脱線した話を元に戻すとしよう。

奇跡は起こるはずがない、という話だったな?

何も希望を持っていないからそう言うわけじゃない。
理屈的に考えてありえないからだ。
確かにいくつかの偶然が重なって小さな幸福が生まれることもあるかもしれない。
それは間違いなくその人にとっての小さな「奇跡」だろう。
だがポイントはそれが「偶然」だということだ。
祈ったから叶ったわけじゃない、たまたまなのさ。

とことん奇跡は起こるものだと信じるなら起こしてみろ。
奇跡を辞書でひいてみな 「常識では理解できないような出来事」 みたいなことが載っているはずさ。
そう、ありえないんだ。

どこかの誰かが「これは奇跡だ」と感じたのならそいつにとっての「奇跡」なんだろう。
だが周りからしてみればごく普通の出来事でしかない。
いろいろ検証してみれば世界の法則に乗っ取った出来事でしかないんだ。

「奇跡だ」と感じるのは自由だ。
だが勘違いしないでほしい。
「奇跡」は必ず起こるものじゃない。
祈って起こるものじゃない。

たまたま起こった出来事であり、どこかの人間が「奇跡だ」と思い込んでいるだけだ。
さっき言ったとおり、世界の法則に則った出来事でしかないんだ。
神なんか指の先っぽも出しちゃいないね。

――――――――――それでも、奇跡を起こす神が存在すると信じるか・・・?


             U


『・・・はぁ?』

見た目も頭もその中身も小さいそいつが俺を白い目で見つめている。
そいつは小さく息を吸い込むと。

『バカじゃないの?』

とハッキリキッパリ言い放ちやがった。
高めの、それなりに可愛い声で、トゲを出しながら。

「そうか、お前も希望を持たない派か」

『違うわ、そういうことじゃなくて』


そんな立派な論文考えられるんなら、私なんかにじゃなく弁論大会かなにかで発表すればいいのに。
勿体無いわ、そのレベルなら賞なんて夢じゃないわよ、私が保証する。
なぜならこの私が感動したんだから。
素晴らしい、の一言に尽きるわね。
今後の世界のためになるわ、文句なしで教科書に載せられるわね。
そうして一生立派な歴史とし生き続けるのよ。
さぁ、今からでも遅くないわ、早く原稿用紙に書きなさい。
あ、ちゃんと先生に添削もしてもらってね。
いや、先生なんかじゃ物足りないわ・・・専門家よ、せ・ん・も・ん・か。
凍夜! 一緒に賞を取りにいくわよ!!
なんで「一緒」なのかって?
それは・・・。
・・・・・・だって、私だって・・・できることをしたいの、凍夜の力になりたい。
ね? 凍夜・・・私も・・・・・・手伝わせて?
そうして二人で大きな野望を掲げてぶっ殺すわよ!!!


突然乱入した物騒なセリフで目が覚めた。
えーと、俺は寝ていたのか?
どうやらひどい妄想にふけっていたらしいな、自分で妄想したくせに思い出すと気持ち悪くなる。
えーと、どの辺から夢が始まってどの辺から現実が始まったんだ?

『このバカ凍夜、あんた頭大丈夫?』

この白闇鎖月――しらやみ さつき――とかいう小さな女子高生は哀れみ、そして見下すような目で俺を見つめる。
「大丈夫?」と言いつつ心配している様子は微塵もない。
さきほどの白い目が強化された感じだ。

「・・・・・・俺は寝ていたのか?」

『寝てないわよ、ずっとアホ面してただけ』

寝てた方が数倍マシだったな。
いや、ヨダレたらしてる顔を写真に収められるよかマシか。
待てよ? アホ面撮られてたらどうする?
だとしたらまずいな、現像される前に処理させておくべきだろう。

『あんたの夢話なんてどうでもいいの。
 それより重要な話があるのよ。
 いい? 凍夜、よく聞きなさい』

ちなみに言い忘れていたが先ほどから出てくる「凍夜」という名は俺の名前だ。
氷鏡凍夜――みかがみ とうや
それが俺の名前、クラスメイトからよく「カッコいい」などと言われたりするが・・・。
実際自分の名前がそれになるとそうは思わないものだ。
むしろダサい、そう思ってしまう。
小説や漫画の主人公にありがちなカッコよさを狙った名前だからな。
名前なんか普通でいいんだ、変わった名前ほど恥ずかしいものはない。
生まれたその時に不本意にも背負ってしまうもの、それが「名前」である。
本人の意思に関係なくつけられてしまう。
だからある程度物事を考えられるようになった頃に苦労した奴もいただろう。
「なんてダサい名前なんだ」「恥ずかしい名前なんだ」と。
・・・まぁ、そこまで言う必要はないか。
親がくれた人生で最初のプレゼントだ。

前から思ってたのだが、俺の両親は俺のことをよほど凍らせたかったのだろうと見受けられる。
名字が「氷――こおり」なのに対して名前まで「凍――こおり」ときたもんだ。
「氷が凍る」とはなんのこっちゃ。
一度親を問いただしておく必要があるだろう。
だが親なんていないからそれは叶わぬことなのだろう。
子を一人おいてどこ行きやがったんだろうね、マイファザーとマイマザーは。
俺が赤ん坊の頃から既にいなかったという話は聞いているが、さて、なんて無責任な親なのだろうと顔を想像してみる。

無理だな。

別に想像なんざしたくねぇ。
親が美男美女だとしても子としては複雑なもんだ。
むしろ普通でいい、不細工なのはさすがに悩むが。

・・・親の容姿については今度伊織姉に聞いておくとしよう。

『ちょっと! 聞いてんの!?』

む? 聞くにはまだ早すぎないか?
今思いついたことなんだぞ。

『は? 何言ってんの、ちゃんと聞いてなさいよね!』

前フリをまるで知らないこいつには通じないボケだったか。
仕方ない、考えてばかりで話を聞いてやらなかったからな。
たまにはおとなしく聞いてやるとしよう。

・・・・・・そうしてロクな目に遭ったことがないが。

『いい? これは私個人のお願い・・・いや要請だから』

お願いの方が可愛げがあってよかったと思うぞ。
訂正するなよな、だからお前は。

『うーるーさーい! とにかく聞け!
 白闇鎖月のお願いなのよ、わかってるでしょうね?』

なんて偉そうな女なんだ、と思った人もいるだろう。
そりゃそうだ、偉そうだからな。
何故こいつは「私は教頭先生だぞ」みたいな態度をとっているのかいうと・・・

まあ、偉いからだ。

どういう意味なのかは語らずともいずれわかる日が来るだろう。
だから今は語らないでおく。
どうでもいいが例えが「教頭」になっているのは深く考えない方が利口だぞ。

何気に「要請」が「お願い」に戻っていたな。
これがこいつの素である――と思う。
実際、そんなに生意気な女じゃない――と思う。
でなけりゃ俺もこんな奴と会話なんかしたくもないね――ここは間違いない。

そういえばこの白闇鎖月という名前・・・。
初めて聞いた時から思ってたが・・・。
・・・・・・変わった名前だよなホント。
実を言うと名前の「さつき」は「鎖月」ではなく本来別の漢字なのだそうだ。
「なのだそうだ」と言ってはいるが一応俺は知っている。
おそらくこのことを知っているのはクラスで俺だけだろうな。
この名前のせいでコイツはいろいろ大変な目にあったらしいのだが・・・・・・
その話はまた今度にしよう。
・・・で、何だって?

『今から付き合ってって言ってんの』

パンパカパーン☆
これでめでたく鎖月エンド一直線だ、やったねパフパフ♪

・・・じゃねえ、こいつ今何つった?

「付き合って」っつったか?
つまりどういうことだ? アレか? アレなのか?
にしてはなんて態度だ、こういうのはそういう態度で臨むものじゃないだろう。

・・・だが、これはあいつなりの告白なのかもしれないな。
普段の態度があれだから・・・下手に出れないっていうか。
そう考えると随分可愛いところもあるじゃないか、ツンデレってやつか?
確かにこいつはツンデレっぽいところがあるかもしれないな・・・。
さて、これにどう答えようか。

『何鼻の下伸ばしてんのよ・・・気持ち悪いわね。
 どうでもいいけど早く支度済ませなさいよね、電車は待っててくれないんだから』

何? もうデート場所まで決まっているのか?
やたら準備がいいな、さすが鎖月といったところか。

『デート? 何の話よ、誰があんたなんかの彼女になるかっつーの。
 何勘違いしてるか知らないけどね? あんたなんかに興味はないのよ』

じゃあさっきの告白はなんだったんだ。
俺が聞き間違えたとでもいうのか?
残念ながら俺の聴力に異常はなかったぞ、最近健康診断があったしな。

『告白ぅ?
 いつ? 誰が? どこで? 誰に?』

今、お前が、ここで、俺に。

『Once more, please.』

今――大体12時45分頃、白闇鎖月が、この教室で、氷鏡凍夜に。

その直後、顔からものすごくいい音が出た気がする。


             V


いつも通りのアナウンスが流れて電車が発車する。
外には見慣れた風景・・・・・・と言いたいところだがまだ高校に入学してまもないため、まだ新鮮に見える。
そんな真昼間の景色、日はまだ高く、夕日のゆの字の気配すらない。
この景色は小学生時代の第一、第三土曜日を思い出させる。
あの頃は週休二日制がまだ適用されていない時期で、第一、第三土曜日は午前授業の登校日だったことを覚えている。
さすがにそのことを忘れるほどボケちゃいない、俺はまだ15歳だ。

15歳の高校生がこんな早くに下校していいものか?
その疑問を解決する答えはいたってシンプルだ。

定時制≠ニいうものをご存知だろうか?
簡単に説明すると、朝、昼(夕方)、夜の三部で編成され、それぞれの部でそれぞれの授業を行うというもの。
最低一つの部に所属していれば、学校に所属しているということになるから好きな時間帯を選べばいい。
まぁ、選ぶのは受験前の話だがな?
俺はその中の朝の部に所属している。
つまり朝――午前中に開講される授業を受けているということだ。
基本的には一つの部の授業を受け続けていれば卒業できるようになっている。
だから俺は午前中の授業さえ受ければ、それで終わりなのだ。

そんなわけで、現在ジャスト1時。
授業は既に終わっているから後は自由時間なのだ。

定時制≠ノついてもっと詳しく知りたければ、お父さんかお母さんに聞いてみるといい。
いや、先生の方が詳しいかもしれないな。


――ところで・・・・・・未だに顔面が痛むのは10分前にどっかの女に殴られたからだろうか?

どうでもいいことを考えていたら痛みもひくかと思ったのだが・・・残念ながら違ったようだ。
痛い。 マヂで。

『いつまで顔伏せてんのよ・・・みっともないわね、まるで私が泣かせたみたいじゃない』

まるでも何もない、お前が泣かせたんだ――さすがに涙は出ていないが。
そう、俺の隣で脚組んで座ってやがるのは俺の顔を殴った張本人――白闇鎖月である。

一定のリズムを刻みながら振動する電車。
この不規則なようで実は規則性のある揺れは、不思議と人間の眠気を誘う。
科学的だか専門的だかにも解明されているらしく、どうやら電車の中は心地よい眠りを誘うようになっているらしい。
このことから立ちながら眠るのも珍しくないようだ――俺はやらないけどな。

そんなわけで睡魔の魔手が俺に襲い掛かってくる。
俺はそんな睡魔の攻撃から身を護ろうとはしない。
どうせ終点まで乗るんだ、乗り過ごす心配がないから安心して眠れるというものだ。
電車の中で目を開けていても暇なだけだ、無駄な時間を過ごすくらいなら寝てるほうがよっぽど利口さ。

さぁ、俺を夢の世界に連れて行ってくれ――

「んごふっ!?」

一瞬何が起こったのかわからずに吐き出しそうになった。
そう・・・吐き出しそうに――って何かが口に詰め込まれている。
これは・・・・・・菓子パン?――よく見るとメロンパンだ。

『お昼、持ってきてないんでしょ?』

いふぁ、ふぁえっふぇふぁらふうふふぉりふぁっふぁふぁ。

『きったないわね! 口に入れたまま喋るな!!』

「・・・・・・、いや、帰ってから食うつもりだったが」

『ダメ、今日はまだ帰さない。
 付き合って、って言ったでしょ』

「別に今日じゃなくてもいいだろ?
 いや・・・・・・別に暇だからいいけどさ、飯食う時間も惜しいのか?
 家はすぐ近くなんだから別に帰って食ったって大差ないじゃないか」

『すぐに来てほしいの、待たせてるんだから!』

「待たせてる・・・って誰を?」

『会えばわかるわ、早く食べなさいよね』

ま、誰でもいいけどな・・・・・・。
昼食代が浮いただけでもよしとしようか。
・・・・・・帰ったらカップ麺食うつもりだったんだけどな。

ところでこのパン・・・・・・。

『あるわよ』

何が?

『ちゃんと自分の分も用意してるわよ。
 だから細かいこと気にしなくていいから』

そう言うと、鎖月はバッグをガサガサとあさくりまわして二つ目のメロンパンを取り出した。
別に俺にとってはどうでもいいことなのだが、女ならもう少し静かに取り出すものだと思うぞ。
・・・・・・いや、そんなこと言ったら俺も男なら――と言われかねないか。
男らしくない奴に「女らしくしろ」なんて言われたくはないだろう。
俺だってそうだ、だからこれは心の中に留めておこう。
もっとも、女らしい鎖月は想像し難いものがあるが。

しかしこいつ・・・最初から俺の分も用意していたのか? 朝から?
学校ではいつも一緒だ――というより付きまとわれているからわかることなのだが、
今日は学校に来てから鎖月がパンを扱うような店に行った様子はない。
うちの学校に購買はないから、何か買うならとりあえずどこかの店に行かなくてはならない。
学校のすぐ近くにコンビニはあるが・・・・・・。

だとすると、やっぱり朝から用意していたのか。
ということはつまり、最初から俺を用事に付き合わせるつもりだったんだな。
俺が断ることを想定しなかったのだろうか?
いや・・・そんな短い付き合いでもないからわかってしまうのだろうな。
・・・・・・どの道俺に拒否権はなかっただろうが。
強引だからな、鎖月は。

まぁ、わざわざ俺のために昼食を用意してくれていたのは嬉しいことだ。
でもシチュエーション的には
――私が無理矢理付き合わせちゃったんだから・・・・・・
とかなんとか言って自分の分を俺に分けてくれたりすると、なんかこう・・・ときめいちゃったりしたかもしれないのに。

いやいや、せっかくの好意に文句をつけるもんじゃない。
ここは素直に感謝しておくとしよう。

『・・・・・・ん』

俺の視力が確かであれば、目の前に小さな手のひらが差し出されている。
何を言いたいのか大体わかるが聞いておいてやろう。

その手は何だ?

『105円』

そんなこったろーと思ったよ。
前言撤回、やっぱこいつはそーゆー女だ。
「細かいこと気するな」って言ったの誰だよ、おい。
きちんと消費税まで取り立てようとしやがって、かなり細かい話じゃないか。

だが・・・・・・残念だったな、食っちまえばこっちのもんだ。
払う気なんかさらさらないね。
親切にも用事に付き合ってやってるんだからパンくらい奢れよな。

『・・・冗談よ、何しかめっ面してるの』

名残惜しそうに手を引っ込める鎖月。
半分本気だったように思えるのだが、どうだろう?
考えても仕方ないだろうけどな、聞き出そうとしたら支払わされるに違いない。

さて、それからしばらくスカスカの電車内で無言状態が続いたわけだがー・・・、
さっきから隣の女がギターを弾く真似をしているように見えるのは気のせいだろうか?

これはエアギターってやつか?
言っちゃ悪い気もするが・・・・・・エアギターって、なんか寂しくないか?
本人はそれで盛り上がっているんだろうが・・・・・・見ててなんだか悲しくなる。
いや、エアギターにはエアギターなりのよさがあるのだろう。
俺には到底理解できそうにないな・・・・・・。

『あんたギターって弾ける?』

タイミングを見計らったかのようにエアギター女が話しかけてきた。
楽器なんてリコーダーと鍵盤ハーモニカくらいしかできないぞ、俺は。

『そう・・・』

それきり黙ってしまった。
なんとも気まずい数分間――いや実際一分も経ってないかもしれないがそう感じる。
このなんとも気まずい空気を打破しようと、俺はどうでもいいようなことを質問した。

「ギター弾くのか? お前」

『・・・・・・弾いちゃ悪い?』

「何でお前はすぐそう言うかな」

『一応・・・弾けることは弾けるわよ。
 でもまだまだダメね・・・、いい音が出ないの』

「いい音?」

『「これだ!」って音が出てこないのよ。
 甘く見てたわ・・・ただカッコいい、ってだけじゃないのね』

そりゃそうだろう。
でもそういうのに手を出すきっかけ、っていうのはそんなものなのかもしれないな。
しかしギターを弾く鎖月か・・・・・・。
なるほど、確かに少しカッコいいかもしれない。
だが・・・・・・。

『・・・・・・あによ?』

その身長がなぁ・・・・・・。

『何? 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!』

140ちょいだっけ?
「中学生です」どころか「小学生です」って言ってもすんなり信じてもらえそうな身長だよな・・・。
いやいや、成長は人それぞれ、身長についてあれこれ言うのは失礼だろう。
まぁ、俺個人としては上から見下げられるより、下から見上げてもらった方が気分がいいがな。
だから身長が低いのも許せる。
というか、むしろ俺よりでかいやつとは付き合いたくないな・・・・・・。
そんな俺も170cmより少し小さい。
これよりでかい女がいても珍しくはないんだろうな・・・・・・。
言うまでもなく、男子は大抵170cmを越えてるから俺はわりと小さい方になるのかもしれない――ってほど小さくもないが。

『・・・・・・あっ』

次に到着する駅名のアナウンスが流れる。
目的地の終点まではあと二駅くらいあるかな?
時間にすると約10分といったところか。

『次、降りるわよ』

あ? まだ早いだろ?

『この駅からが一番近いの!』

待て待て、もっとわかりやすく説明してもらいたい。

『人を待たせてる、って言ったでしょ!
 あっちの都合に合わせてあるから、場所もあっちが指定してきた場所なのよ。
 その場所がこの駅の近辺なの。
 わかったら早く降りなさい!!』

まだ電車も止まっていなかったのに、そそくさとバッグを持ち上げると早足でドアの前に向かった。
実際そんなに急ぐ必要はなかったのだが、鎖月に蛇睨みをかまされそうになったので仕方なく早足モードだ。
別に鎖月なんか恐くないが・・・・・・口を開くとうるさいからなこいつは。

電車が徐々に速度を落とし、さてそろそろ止まるかな?――と思われたその時だ。

普通なら「キキィー」とでも音を立てながら止まるはずなのだが、
今回に至っては「キキィー」の途中に「ガッ」というなんか嫌な音が乱入していた。
その直後、一瞬だけ電車が激しく揺れた。
これが俗に言う「脱線」というものの前兆というやつなのだろうか?
でもそれにしては速度が遅すぎる。
この速度では脱線したくてもできないだろう。

・・・などと考えているうちに揺れは収まり、同時に電車も止まった。
だが停車するにはあまりにも早く、駅の何十メートルも手前で止まってしまっている。

「さて何が起こったのだろう」と思考をめぐらせていると、
ふと『こんな時に・・・』と鎖月が呟いているのが耳に入った。

こんな時に・・・なんだ?
まさかアレか?
よく少年漫画にあるような敵の出現、とか。 それも雑魚が。

ばかばかしい・・・・・・。
残念だがこの世界はそんなファンタジーな展開に適してはいないぞ。

電車に乗っていたのは俺達と運転手のたった三人だ。
この時間は利用者が少ないうえ、終点まで行く乗客も滅多にいない。
だからこの時間の電車に乗ると大抵いつもこうなる。
ゆえに動揺の声が上がったりはしない、運転手はかなり動揺しているかもしれないが・・・・・・。

「なあ鎖月・・・」

と言いかけたところで突然後方から爆音のような巨大な音――いや、爆音だな――が轟いた。
当然俺は振り返る。
爆音が轟いたのだからある程度予想はしていたのだが、やはりその光景を目の当たりにすると驚いてしまうものだ。
それ以前に俺はこんな状況に直面したことがない、となるとなおさら驚きは大きいものだ。
・・・・・・なんて冷静に語れるほど俺は落ち着いちゃいない。

―― 一体何が起こったんだ・・・・・・?


                                                  To be continued.....

[373] あとがき的な〜
音霧 楓 - 2006年07月16日 (日) 05時00分

掲示板設置したくせに作品を投稿するのは初めてだったりする管理人・・・。
多分ネットで小説を公開するのは久々であります。
自分もあの頃と違っていろいろ小説も読むようになり・・・少しは上手く書けるようになったんじゃないかなー、なんて思ってます。まだまだ未熟ですけれどね(笑)

はい、そんなわけで今作瑠璃色の大地。
何気にMAINページの隅っこにリンク貼りつけてたんですけれど、正直あれだけでは「なんじゃこりゃ」なものでした。それの続き・・・っていうか1話ですけれど、ようやく書きあがりました。
とりあえず見てもらいたかったのでこっちの掲示板に投稿します。後ほどHPの方にもUPしたいと考えておりますので。
言うまでもないと思いますけれど、続きます、もちろん。
ただ、進行スピードは遅いので公開も遅くなるかもしれませんが・・・ご了承くださいませ、一応頑張って書いてます(笑)

さて、あとがきといえば裏話の一つでも出した方がいいのでしょうけれど(?)、今の段階では特にありません(何)
強いて挙げるならば、舞台となっている町(?)の設定が自分の住んでる場所に合わせてあるんですよね。
とりあえず学校のこと、自分定時制の学校に通っているゆえに普通の高校のことはそーんなに知らないんですよね、だから自分の学校のシステムをもとに書きました。
ほら、学校は早い時間に終わっていた方がキャラ達が行動できる時間も増えるでしょ?(笑)
あと電車も近所の電車のシステムで書いてたり、これは2話で書かれる内容なんですけれどね。

そんなこんなで本編もあとがきも「長ぇよ!」な瑠璃色の大地、Lyric読んでた人はタイトルからすぐに予想できたかもしれませんが、瑠璃垣咲華が大きく関わってくる物語であります。
今後の展開は大まかにしか考えていませんけれど、前編後編の二部構成になる予定です。
そこまで長く持つかはわかりませんが、前編が瑠璃色の大地、後編が咲華色の空。つまるところ後編がLyricの内容になります、多分。
結構設定は変わっているかもしれませんけれど、投げ出さずに最後まで書いていきたいな、と考えておりますのでどうか応援よろしくお願いしますーm(_ _)m(何様)

はい、長文になるのは毎度のことでどうしようもないので長くなりましたがこの辺で。それでは2話に続きます。


Special Thanks:日向さん
校正ありがとう御座いました^^(掲示板の書き込みなのにメッチャ長い・・・(苦笑)

[374] 待ってましたよ、これw
フォル - 2006年07月16日 (日) 21時09分

キョン&ハルヒキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!(ha?
ついにできましたかこの小説w
んー、でも朝方の4時までやってたとは思ってもいませんでしたよ。
ああ、こんな時起きてればなぁ・・・(何
ま、ともかく相変わらず素晴らしい内容になってますねw
やっぱり期待して良かった(?
いや、期待できないってことは絶対にないんですがねー

ははぁ、まさか続きがあんな風になってましたとはねぇ・・・(?
まさか脱線がアレだったとは・・・(??
まぁともかく第2話を期待&応援していますよw

そして最後に一言、リリックに繋がる話キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! (??



でわでわー♪



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