| [147] ポケットモンスター アークジェネレーション!! 第25話「6匹フルバトル! ラーヴァフィールドの決戦」 |
- @ - 2004年05月09日 (日) 19時15分
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25th「6匹フルバトル! ラーヴァフィールドの決戦」
前回までのあらすじ: 悪の集団『煉(れん)』の隠れ家となっているグレンジムに、シクーとソウトは突入。最深部で遂にケイコに追いつき、捕らわれていたソウトの父親ソウジを発見。そして『煉』のリーダー、カラシとも遂に対峙する事に……!!
カントー地方グレンタウンのジム。
「ハァハァ……。あ、あいつが『煉(れん)』のリーダー!?」
黒髪黒髪、フード付きの黒い洋服をインラインスケートを装備した少年……詩空(シクー)。 彼と共に父親を助けにココまでやって来た、スポーツ刈りをした少年……想人(ソウト)。
2人は、とうとうジムの最深部にやってきた。いたのは女の子と、縛られたソウトの父親……シクー達の知る顔2人。それともう1人の男が、そこから離れたところに立っていた。その者の名は唐士(カラシ)。彼こそ、悪の集団『煉』のリーダーでありながらグレンジムリーダーを務める男である。
「遅かったわね、2人共。アタシは裏口から侵入したから、敵にも見つからずにココまで来れたけど」
シクーとソウトの2人に、すかさず話しかけてきたのは女の子。キュロットスカートをはいて、リボンで髪を結ってポニーテールにしている少女……景子(ケイコ)である。 話を聞いて内心「あ゛、そうすればよかった!」と少々後悔(?)しながらも……シクーとソウトは、カラシへの警戒を緩める事なくゆっくりケイコの元へと近寄って行った。
「ふぅ。ったく親父、大丈夫かよ?」
ソウトは、サンドをボールから繰り出しながら語りかけた。そして縛られている自分の父親……想路(ソウジ)の縄を、サンドにツメで切らせる。
「何とか平気だ、ソウト。しかし、まさか息子に助けられるとはな。シクーも、よく来てくれた。2人とも、俺の自慢の息子だ!」
「偉そうに言ってる場合か! どうせ親父、ポケモンも全部アイツに奪われちまってるんだろ?」
「ぐっ……。ソウトも、鋭くなったな」
痛いところを突かれて、ソウジは少々うなる。
「くはははっ! まぁ、ソウジのポケモン達も帰してやってもいいぜ……俺に勝てたらなぁ!」
笑いながら言ったのはカラシ。シクーとソウト、そしてケイコの3人は、声を聞いてカラシの方へと向き直った。そして、今度はケイコが発言をする。
「随分と余裕でいるわね、カラシ。アタシもあんたと同じ、ジムリーダーなのよ? 人数もこっちが上だし、追いつめられてるって立場が分かってるの?」
「はっ、この俺が追いつめられてるだと? 同じジムリーダーだからって、実力まで同じとは限らんだろう」
2人の会話を聞いて、シクーとソウトは初めてケイコがジムリーダーだと知る。もちろん驚きはしたが、ケイコのポケモン達はみな強力だった為、どこか納得もしてしまうのだった……。しかし、シクーがケイコに詳しい事を尋ねようとする寸前で、事態は急変する。
「! ……何だ?」
ゴゴゴゴゴ……。そんな音がしたかと思うと、急に部屋が揺れ動く。そして床が切り取られたようになり、陥没を始めた。ソウジだけはその場に残る形となったが、シクー、ソウト、ケイコの3人とカラシが立っていた床が、どんどん地下へと沈み始めたのだ。
「!! お、おい……お前等!?」
あまりにあっという間で、かつ突然の出来事。ソウジが後を追う為に陥没する床へ飛び降りようと考える前に、素早くフタが下から盛り上がって閉まってしまう。ソウジだけ、その場に取り残されてしまったのである。
「ココは一体……?」
シクー、ソウト、ケイコの3人は、呆然とそこに立っていた。 そこは薄暗い地下室。縦横40mぐらいの正方形の足場があり、その外側は断崖絶壁。その更に少し外側にある部屋の壁には、下の方からほのかに紅蓮の色が照らし出されていた。
「溶岩闘技場(ラーヴァフィールド)。グレンジムで密かに作り出した、とっておきのバトルフィールドだ」
一緒にここに降りてきたカラシが、3人に対し述べる。
「外に足を踏み外せば、ドロドロに溶けた岩の灼熱地獄が待っている。落ちたら、骨1本も残らねぇ。今の内に降参し、大人しく捕縛されるのなら許してやろう。だが、逆らうならば相手がガキとて容赦はしねぇ!」
「……6匹、ね」
「ぁあ?」
ケイコが不意に呟いた言葉に、カラシは眉を細める。
「あんたの手持ちポケモンよ。腰についてるボールは6つ。つまり手持ちポケモンは、6匹フルに持ってるって事でしょ? 対するアタシは、ラプりゅうを入院させて来ちゃったから残り4匹。シクー、ソウト、あなた達は?」
「僕はケムッソやられちゃったから、メノクラゲだけだよ。ソウトも、サンドだけ」
「つまり、合計こっちも6匹。……くしくもポケモンの数は同数、6匹vs6匹ね」
それを聞いて、再びカラシは笑い声をあげる。
「くはははっ! これはこれは、なかなか勇気あるお子様達じゃねぇか。いいだろう、勝負してやる。……だが、ちまちま戦うのは面倒だ。3人同時に、かかってこい。そちらが3人で来なくとも、俺は3人同時に攻撃するからなぁッ!!」
……かくして、戦闘開始となった!!
「コータス♂(Lv:40)、行け。熱風!」
すかさずカラシが繰り出したのは、体中が吹き出す白い煙で包まれた、岩のような甲羅を持つオレンジ色のカメの姿をした、炎タイプのポケモン。そして突如、強烈な熱風をシクー達に吹き付けた。
「うわぁッ!!?」
3人は身構えるが、皮膚がジリジリと痛み出す。このまま火傷を負うのはゴメンと判断したケイコは、すぐさま対抗すべきポケモンを繰り出した。そしてやはり、即座に技を指示する。
「フライゴン(Lv:34)、嫌な音!」
ケイコが放たせた技は、嫌な音で相手の防御力を下げる技である。相手は甲羅を持つポケモン。装甲も堅いだろうと判断した故の技だったが……。
「……ハッ! そんな技、効かねぇよ。噴火ッ!」
「!?」
コータスは甲羅から、激しい炎を吹き上げ雨として周囲に降らせた。シクー達は必死にかわすが、戦線に出していたフライゴンには直撃してダウン。
「クッ……さすがに、やるわね。『猛る炎と堅き岩のエキスパート』という異名を持つだけの事はあるわ」
「このコータスには、『白い煙』という特性が身に付いている。これは白い霧っていう技と、ほぼ同じ性質でな。相手をパワーダウンさせるたぐいの技は通用しねぇのさ! おらぁ、次行くぜ!」
続いてカラシは、ソルロック(Lv:43)を繰り出してきた。
「コイツは、俺との付き合いが最も古いポケモンだ。本番はここからだという事を、見せてやろう。やれ、日本晴れ!」
ソルロックは、オレンジ色で太陽を象った姿をした岩のポケモンである。それが宙に浮かんで天井付近にまで上がると、日本晴れを発動。薄暗かった周囲が、一気に真昼の外のように明るくなった。同時に、気温も上がったようである。
「準備完了だ。さぁ、マグカルゴ♂(Lv:38)。今度はテメェを暴れさせてやろう。存分に、火を噴け! 炎を放て!」
「マズイわ、2人とも。日本晴れは、炎タイプの威力を強化する技よ! こんな状態で、マグカルゴに攻められたら……キャッ!?」
ゴオォォォォッ!! ケイコの忠告途中で、炎の攻撃は次々と撃ち出される。3人は必死に直撃を避け続けるしかない。
「チッ。ちょこまかと動くガキ共だぜ。ならばここで1つ、ヨクアタールでも使うか」
「!! マジかよ」
ソウトが驚くのも無理はない。カラシが懐から取り出し、今まさにマグカルゴに与えるアイテム……ヨクアタール。これはポケモンの攻撃を当てやすくする物。これを使われては、さすがにこちらとしては攻撃を避け続けられなくなる。いずれにせよ、相手は攻め一点張り。このまま押されては、確実に負ける。
「僕等も攻めないと……ソウト!」
「分かってる、シクー。サンド♂(Lv:8)、行け!」
「メノクラゲ♀(Lv:7)、頼む!」
すかさずシクーとソウトが、マグカルゴに標的を定めて攻めにかかる。しかしカラシは、更にもう1匹のポケモンを繰り出した。それが即座にマグカルゴの眼前に現れ、サンドのツメとメノクラゲの触手……それらによる攻撃を液状の体で防いだ。
「……え゛」
「コイツは、マグマッグ♂(Lv:36)。マグカルゴの進化前だが、溶けるを使って防御力を高めれば盾としての役割を果たす。液状になったコイツの体に、物理攻撃は通用しねぇよ。そして……防御する事が、攻撃にもつながる!」
「!? マズイ……ソウト、離れろ!」
「何?」
シクーの発言に疑問を持ちながらも、ソウトはサンドと共にマグマッグから離れる。だが、反応が若干遅れてしまっていた。気づいた時には、すでにサンドのツメは火傷を負ってしまっていたのだ。
「な゛ッ!」
「このマグマッグには、『炎の体』の特性が備わっているんでな。こんな溶岩のような体に直接手を突っ込めば、火傷ぐらい負うだろ。メノクラゲの方は早めに離れたようだが、サンドはすでに手遅れだったらしいな」
「コイツ……さすがにジムリーダーだけあるぜ。強い!」
ソウトの言葉に、思わずシクーとケイコも頷いた。
「どうした? 3人がかりで、もう終わりか。せっかく久々にいい運動になると期待してたんだぜ? もっと来いよ!」
「て、徹底的に攻めるだけ攻めまくったクセに!」
と、シクーがカラシに反論。
「俺に勝負を挑んだのは、テメェ等じゃねぇか。俺達『煉』はな、ポケモンの力を駆使して非合法で金を稼ぐ事を目的とした集団なんだぜ? 盗みを中心に……金になる事なら、どんな事でもやってやる。邪魔者もぶっ潰す。ポケモンの力を使えば、それが可能となるのだ!」
「ポケモンは……ポケモンは、道具じゃない! お前はポケモンを、道具としか扱ってないのか!?」
「くはははっ! よく言うな、ガキが。ポケモントレーナーはみんな同じじゃねぇか?」
「何!?」
「ポケモントレーナーは皆……自分が強くなる為に、バトルや勝負事の為に、ポケモンリーグという人の勝手に決めた大会を目指す為に、ポケモンを『武器』として扱っている。それは、道具と扱ってるとは言わないというのか?」
「違うさ。皆は、お前みたいにポケモンを悪用したりなんか……」
「論点はそこじゃねぇよ。ポケモンを良い事に使おうが悪い事に使おうが、それが道具として使っているか否かには関係ねぇだろ? ……結局ポケモントレーナーっつーのは皆、ポケモンを戦わせる人間の事だ。ポケモンが戦う事を望んでいるという保証もあるまいし、人がポケモンを戦わせる事は道具として使っているのではないと、テメェはそう断言できるのか?」
「……できるさ!」
「何故だ?」
「……そ、それは……」
「理由もねぇで、軽々しく『できる』なんて言うんじゃねぇよ。それだからテメェは、ガキだっつーんだよッ!」
カラシはそう言い切ると、アーマルド♂(Lv:41)を繰り出す。堅い岩の体と虫の姿を併せ持つ、そのまま岩・虫タイプのポケモンだ。
「ロックブラスト!」
そう叫ぶカラシの声に反応し、アーマルドは岩石を放ち攻撃。シクーの体を、強く痛めつけた。ズガガガガッ!!
「ぐわああああああああああああッ!!」
まともに直撃をくらったシクー。全身に強烈な衝撃を受けると、そのまま気を失って倒れてしまう。
「シクーっっ!!」
同時に、ケイコとソウトの声が室内に響いた。だがカラシは容赦無く、2人にも攻撃をしかける。
「行け、マグマラシ♂(Lv:35)。電光石火!」
「!?」
ビシビシッ! それは高速で動き、ケイコとソウトに当て身をかまして吹っ飛ばした。部屋の端まで飛ばされ、このままでは下の熔岩に落とされかねない。
「うぐ……」
「さぁ、そろそろカタをつけるか。ソルロック、日本晴れを放ち続けろよ。マグマラシ、お前にスペシャルアップを与えてやろう。それによって威力を増した状態で、オーバーヒートを放て!」
炎の威力を高める日本晴れ。それの影響下で、カラシはマグマラシもスペシャルアップまで与える。これは、一時的に特攻・特防を上昇させるアイテムなのだ。そのまま強力な炎タイプ技のオーバーヒートを放たれたら、ハッキリ言って絶体絶命である。
「こ、このまま……終わらないわよ!」
先程、電光石火を受けたケイコだが、どうにか立ち上がってボールからラプラス♀(Lv:32)を繰り出す。
「! ……ほぅ」
「ラスりゅう……な、波乗りッッ!!」
その瞬間、ラプラスの周囲に大量の水が噴き出す。しぶきを上げながら水は、一気にカラシとそのポケモン達に向けて叩きつける。バシャアアァッ!!
「……決まった!?」
「オイオイ、これで俺が負けるとでも思ったか?」
平然とするカラシの言葉に、ケイコはゾッとする。水しぶきが次第に消えていくと、いつの間にか天井から降下していたソルロックの背後にカラシが立っている。他のポケモン達も、さほど苦のある様子は見られなかった。
「そんな……どうして!? 岩も炎も、水が弱点じゃないのよ!!」
「確かにダメージは受けたが、それ程でもねぇ。その理由は、3つある。1つはソルロックが常に放ち続けていた、『日本晴れ』。これは炎の威力を高めると同時に、水の威力を下げるからな。2つ目に、このラーヴァフィールドの特徴だ。この中は、下の溶岩からの熱気で常に高温。日本晴れ同様に、炎を強め水を弱める性質が備わっているのだ……このバトル場自体にな」
「!!」
「そして、もう1つ……。テメェの波乗りを防ぐのに、大きく貢献した物がある。それが、コレだ」
カラシは、自分の懐から何かを取り出した。それは、指でつまめる程度の小さな小さな物体。ソウトはそれが何だか分からなかったが、ケイコは見せられてすぐに小さな物体の正体を理解する。
「それはポケモンリーグ公認、トレーナージムバッジね?」
「バッジって、ケイコ……。8つ集めると、ポケモンリーグに出場できるっていうアレか?」
ソウトの問いにケイコが頷き、カラシが再度口を開く。
「そう、ジムバッジだ。バッジは単に、ポケモンリーグに出場する為に必要なだけの存在じゃねぇ。バッジにはそれぞれ、特殊な効果があってな。俺の持つ『クリムゾンバッジ』には、ポケモンの特攻・特防を強化する性能が備わっている。つまり俺が放つ特殊攻撃は強力になり、テメェ等からの特殊攻撃はダメージを抑えられる代物だ」
「……そして、物理攻撃はマグマッグが防ぐ。攻撃と防御、共にここまで強力とはね。アタシにとっても、予想外だったわ」
「なら、どうする? いさぎよく、降参するか」
「……いいえ。まだ1つ、手があるのよ。ソウト、サンドをボールに戻して」
思わずソウトは「は?」と尋ねるが、ケイコはそれっきり何も言わない。ソウトは仕方無く、言われた通りにサンドをボールに戻した。元々、火傷を負ってる関係上ムリはさせられないというのもあったので。
「ケッ! 何を始める気だ、小娘め。味方をわざと減らして、どうなると……」
「……滅びの歌」
「!! 何だと!?」
ケイコがぽつりと呟いた、その言葉。そして直後、ラプラスは不思議な音色の歌声を響き渡らせる。 滅びの歌……それは聞いたポケモン全てが、一定時間内に強制戦闘不能になる技。今、カラシは6匹全てのポケモンをボールの外に出している。つまり歌声は、カラシの全てのポケモンの耳に入っていったのである。
「き、貴様……!」
「調子に乗って、ぜ〜んぶポケモンをさらけ出しちゃうのが根本的なミスよ。これであなたのポケモンは、もうすぐ全滅する!」
「調子に乗ってるのは、そっちだろうがッ! 滅びの歌なんざ、一度モンスターボールに戻してしまえば効果は無くなるんだぜ」
そう、それもカラシの言う通りだ。だがカラシは、気づいていなかった。いつの間にか自分の背後に、ケイコのポケモンが迫っていた事に。
「……デンりゅう、電磁波!」
「!?」
それは、ケイコのデンリュウ♀(Lv:31)である。
「チッ、いつの間に繰り出し手やがった!? ……ぐっ、手が……!!」
「デンりゅう、カラシの両腕に電磁波をかけ続けて。そうすれば、カラシはボールを持つ事が出来ない。ポケモンをボールに戻させなければ、アタシ達の勝ちよ!」
モンスターボールは構造上、ロック(鍵)がかけられるようになっている。ロックがかけられるとポケモンは、勝手にボールに出入りする事が出来ず、トレーナーの手によってでなければ出入り不能なのだ。今、カラシのボールには全てロックがかけられている。つまりカラシの両手を封じれば、ポケモンをボールに戻す事が出来ないのである。
「ポケモンと深く信頼し合ってるトレーナーは、ボールのロックを外してるっていうわ。ポケモンが自由に、ボールから出たり戻ったりが出来るようにね。だけどあんたは、ポケモンを金稼ぎの道具としか見ていない。勝手にポケモンがボールから出入りできないよう、ロックはキッチリかけてるものだと踏んでたわよ」
「ぐぐぐ……くそっ、これが狙いか……! おい、お前等!」
と、カラシが自分の周囲で少々焦り始めているポケモン達を呼ぶ。
「何ボサっとしてやがる。このデンリュウ、ぶっ潰しちまえ! 電磁波が途切れりゃ、お前等をボールに戻せるからな!」
「……っっ!!」
一応、これもケイコが予期した事。恐らくデンリュウは、敵から総攻撃を受けるであろう事……。だが他に手が無いのは、ケイコ自身が1番分かっていた。だからこそ、最後の最後になってようやく『滅びの歌』という選択肢を彼女は選んだのだ。
「……けど、いくらなんでも1匹で6匹相手は辛すぎる! バクりゅう、ラスりゅう……デンりゅうを助けて!」
ラプラスに、更にバクフーン♀(Lv:36)を繰り出して、2匹にデンリュウの援護へ向かわせる。デンリュウは電磁波に集中する為、事実上ケイコのポケモンはラプラスとバクフーンのみが戦える。対する敵は、6匹もいるのだ。どう見ても、多勢に無勢。
「おらおらッ! とっとと、邪魔なそいつ等をぶっ潰せ!」
ガスッ!! ベキッ!! ゴオォォッ!! ズガガガッ!! 敵のコータスが、マグマッグが、マグカルゴが、アーマルドが、マグマラシが……ソルロックの日本晴れを受けながら、次々とデンリュウに攻め入る。そこへバクフーンとラプラスが割り込み、ほとんど盾同然となってデンリュウを守った。
……ゴズッ!! ドシュッ!! グシャアッ!! みるみる内に凄惨な音へと変わっていく、バクフーンとラプラスへの攻撃音。2匹は全身に重いケガや火傷を次々と負うが、それでも必死に耐え凌いだ。むしろ見ているケイコの方が耐えきれず、目をつぶって両手の平を組み、祈るような形で2匹の安否を祈る。
「(バクりゅう、ラスりゅう……ごめん! 本当にごめん! でも……ここで負けられないの! お願い、耐えて……お願いッ!)」
「ちくしょう! これ以上やらせるか。サンド、加勢しろ!」
見ていられなくなったソウトも、すかさずサンドを援護に向かわせる。だが、サンド1匹加わった程度では事態は変わらない。酷く痛めつけられるポケモンが、1匹増えただけだった……。
「急げ、お前等! 早い所、デンリュウをぶっ潰すんだ!」
カラシも必死だった。滅びの歌の効力が作動するまでの時間は、残りわずかなハズ。それまでにデンリュウの電磁波を止め、ポケモンを戻さなければカラシの負けなのである。 ……だが、とうとうカラシのマグカルゴが一歩抜きんでた。日本晴れ影響下の火炎放射が、それまで必死に耐えてきたラプラスに重度の火傷を負わる。そして遂に力尽きてしまった。その隙に、他のポケモン達がデンリュウに総攻撃。
「なッ!?」
「ギュウッ!!」
うめき声をあげたデンリュウ……もはや電磁波どころではない。と同時に、カラシの両腕の痺れも無くなってしまった。
「……クッ、ギリギリだったか。ソルロックの日本晴れで炎の力を強化してたのが、やはり効いたようだな。だが、間に合った事に変わりはねぇ。お前等、全員ボールへ戻……」
ところが、カラシがボールを手にしようとした瞬間! シュルルルと伸びてきた2本の触手が、カラシの両手を縛り上げた。再びカラシの動きが止まる。
「!? ぐっ……テメェ……気絶してたハズじゃ……」
カラシが睨みつけた視線の先にいたのは、先程ロックブラストの直撃を受けて倒れたシクー。そして彼の横で、触手を伸ばしてカラシの腕を縛るメノクラゲだった。
「ケイコのポケモンが、必死になってお前を倒す作戦の為に頑張ったんだ……。それを今更、無駄にはさせない!」
「くそっ……くそおぉっ!!」
強引に縛られた腕を振り、最後の抵抗を見せるカラシ。だがその直後、周囲にいたポケモン達の顔がまとめて一気に蒼白になる。滅びの歌のタイムリミットで、全員が気を失ってしまったのだ。
「な゛ッ!!?」
「……勝った!」
これにて、ようやく決着はついた。メノクラゲもほっとして、触手をしゅるしゅると戻していく。シクーは全身傷だらけで、立つのもやっとだったらしく……勝負がつくと、すぐにその場にヘタリと座り込んでしまうのだった。
「ハァ……ハァ……。ケ、ケイコ……やったね……!」
きつそうに息切れしながら、シクーはケイコの方へと見て言う。ケイコはというと、重傷を負った自分のポケモン達をすかさずボールに戻していたようだ。それが済むと、今度はシクーの方へと駆け寄って来る。
「シクー……。大丈夫なの? そんな怪我で、ホントに無理するんだから」
「へ……へへ……。なんとか平気……だけど、さすがにもう動けないや。あの攻撃、やたらキツかったもんだから……」
そのままシクーは、バッタリと横になって苦笑い。
……その一方で、ソウトはカラシの方へと歩み寄っていた。カラシもさすがにポケモンが全滅しては、その場に腰をついたまま動こうとはしない様子。そんなカラシに向かい、ソウトは話しかける。
「……結局、俺ってほとんど活躍できなかったからな。最後に、これだけは言わせろよ」
するとカラシは、おもむろに顔を上げてソウトを見る。
「ソウジの息子……何だ?」
「さっき、言ったよな? ポケモントレーナーは皆、ポケモンを道具として扱ってると。俺……頭わりぃから上手く言い表せないけどよ。やっぱ、それは間違ってると思うぜ」
「何?」
「ポケモントレーナーがポケモンリーグを目標としてるなら、そのトレーナーのポケモン達もポケモンリーグを目指す。強くなる事を目標とする場合も、勝負に勝つ事を目標とする場合も……やっぱ同じだ。トレーナーとポケモンは、同意し合ってるからこそ共に戦ってる。決して武器や道具じゃなく、ポケモンはトレーナーにとって『仲間』だ」
「……ふんっ、ガキめ。そう断言できる理由を、テメェは持ってるのか?」
「実際、この世の中の多くのトレーナーがポケモンと仲良くやっている。理由なんて、それだけで十分だ。だってポケモンには、心も知能もあるんだぜ? 道具扱いされて、喜ぶ奴がいるかよ。道具扱いするトレーナーと、仲良くやって行けるかよ。……なぁ、シクー?」
不意にソウトはシクーが横になっている方へ向き、そう問うた。もちろんシクーも、それに頷いて答える。
「…………」
「カラシ、テメェの負けだ。完全にな」
「チッ。……ならとっとと、コイツを持っていけ!」
「……は?」
おもむろにカラシが懐から取り出したのは、クリムゾンバッジと技マシン(11):日本晴れ。 もちろんソウトは、唐突にそんな物を出されて慌てる。
「な、何!?」
「一応、まがりなりにも俺はジムリーダーだ。負けたら、そいつを渡す事になっている。クリムゾンバッジはポケモンの特攻・特防を強化させる働きの他に、滝登りっていう秘伝マシン技を攻撃以外に使えるようになる性能を持つ。技マシンに入ってる日本晴れは、俺の得意技。炎の威力を強め、水の威力を弱める効果を得られる物だ」
するとカラシは、シクーとケイコの方にも向いてこう言った。
「さっきソウジを縛ってた部屋の棚に、同じ物が入ってる。そっちでイチャついてる2人のガキも、適当に持ってっていいぞ!」
「だっ……誰がイチャついたッ!!?」
シクーとケイコが、見事に声をハモらせて反論(?)。
「ケッ……もう、どうでもいい。リーダーの俺がやられちゃ、話にもならねぇからな。戦いは俺の負け……『煉』は、解散してやる」
同じ頃、何処かの草原にて。
『戦いは俺の負け……『煉』は、解散してやる』
それは、盗聴器からの音を受信する小さな機械からだった。1人の少年が機械を耳に当てて、その音声を聞いていたようである。
「……ふんっ。やはり、こうなったか」
少年はグシャッと機械を握りつぶすと、そのまま歩き出す。
「悪の一団『煉』……。我々『無音』にとって邪魔になる可能性があるからと、姉貴に潰すよう言われていたがな。最初の俺の読み通り、放っておいても勝手に潰れたか。やはり俺自らが、わざわざ手を下すまでも無かったようだ。ならばもう、そんな脆弱な者になど用は無い」
かつてグレン火山噴火の際、シクー達の前に現れ『無音』の首領と名乗った謎の少年……施音(セオン)。 かすかな夜風が吹き付ける中、彼は独り言を呟いた後にその場から姿を消していった。それこそ、音も気配も無い様で……!
続く
ぐはっ、長い!! どうにか1話で戦闘を終わらせようとした結果、2話分ぐらいの長さに。次回からは、もっとのんびり書きたいです。ホント(泣)。 ……少なくとも、次からもっと短くします。
最後の方とか、書き方雑かも知れませんね。ごめんなさいです。それよか『フィールド』って言葉、『野外競技場』というような意味合いらしいですが、全然野外じゃない(汗)。まぁ、あまり気にしないで(オイ)。 ……それともう1つ、ソウト君の最後の言葉。こうして見ると主人公シクーより、最後決まってない!? でも本当にバトル中の見せ場が無かったので、せめて最後は華持たせました。一応、準主役だし。
次回からは余裕をもって書きます。 第26話「旅立ちの誓い」、お楽しみに!
<現段階ポケモン図鑑データ>
【NAME:シクー】
見つけた数:43匹 捕まえた数:2匹
バッジ数:1個
手持ちポケモン ・メノクラゲ/メノクラゲ♀ Lv:9 HP:28 タイプ:みず・どく おや:シクー ・ケッちゃん/ケムッソ♀ Lv:6 HP:22 タイプ:むし おや:シクー ・ムッソ /ケムッソ♂ Lv:5 HP:21 タイプ:むし おや:シクー ・タマゴ
【NAME:ソウト】
見つけた数:29匹 捕まえた数:1匹
バッジ数:1個
手持ちポケモン ・サンド♂ Lv:10 HP:32 タイプ:じめん おや:ソウト
【NAME:ケイコ】
バッジ数:3個
手持ちポケモン ・バクりゅう/バクフーン♀ Lv:36 HP:119 タイプ:ほのお おや:ケイコ ・デンりゅう/デンリュウ♀ Lv:31 HP:110 タイプ:でんき おや:ケイコ ・ラプりゅう/ラプラス♀ Lv:32 HP:139 タイプ:みず・こおり おや:ケイコ ・ラスりゅう/ラプラス♀ Lv:32 HP:142 タイプ:みず・こおり おや:ケイコ ・ゴンりゅう/フライゴン♀ Lv:34 HP:113 タイプ:ドラゴン・じめん おや:ケイコ
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