| [143] ポケットモンスター アークジェネレーション!! 第22話「邂逅」 |
- @ - 2004年05月03日 (月) 13時23分
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サラサラな美しいストレートの髪を風でかすかになびかせながら、1人の美少女……那月(ナツキ)が、そこに立っていた。
「……」
子供でありながらその体つきは、スレンダーなのに、すごくグラマーなスタイル。 色白な素肌で、若干幼さはあるが可愛らしい顔立ちを合わせ持つ、文字どおりの美少女。
同年齢の男の子なら……下手するともっと年上の男だとしても、大抵はその美しい外見に魅了されてしまうだろう。
「おーい、ナツキ! んなトコで、何やってるんだよ?」
そんな美少女ナツキに、かなり慣れ親しんでる様子の声で、1人の少年が呼びかけた。ナツキも声に気づいて、振り向く。 やってきた少年は、少しだけ怪訝そうにナツキに尋ねていた。尋ねられたナツキはというと、ニッコリ微笑みながら、いつも通りのお嬢様口調で少年の質問に答える。
「ちょっと、景色を眺めていただけですわ♪」
「そういう、ぼーっとした感じは相変わらずだな。いつまで、そうやってる気だ?」
「そうですわね。そろそろ帰りましょうか、和馬(カズマ)君」
この少年……カズマは、実はナツキの幼なじみなのだった。
「そう言えば、カズマ君。今日は、ある男の子と道端でぶつかってしまいましたの。私がよそ見していたせいで、悪い事をしてしまいましたわ」
「何ッ! ナツキ、怪我は無かったのか!?」
「えぇ。その男の子は、大丈夫だったと思いますけれど」
「いや、そうじゃなくってお前がだっつーのに……。まぁ、見たところ大した傷は無さそうだからいいけどよ。そのぶつかってきた野郎ってのは、一体どこのどいつだ?」
少々イライラしながら、カズマは聞く。
「ええと……それが、名前を聞きそびれてしまったのです。一瞬の事だったので、顔もよく覚えて無くて……」
確かに、あの時……シクーとナツキがぶつかってしまった後、シクーはすぐにその場から去ってしまっていた。 ナツキがシクーの事をハッキリ覚えていなくても、無理は無かったかも知れない。
22nd「邂逅」
前回までのあらすじ: ルウ達との戦闘の最中、突然シクーは謎の男女2人に連れ去られてしまう。果たして彼等は、シクーの敵なのか味方なのか……?
黒眼黒髪、フードの付いた黒い洋服を身につけた少年……詩空(シクー)は、思いっきり困惑していた。
「あなた達が、僕の敵なのか味方なのかは、僕の話次第……ですか?」
このシクーの言葉は、たった今話し聞かされた内容と同じ意味の事を、そのまま返したものである。 シクーの目の前に立っていたのは、シクーをルウ達との戦闘の場から連れ去った、2人の男女。どちらも年齢は、姉と同じ……十代後半辺りだろうか。だが、敵か味方かハッキリ分からない以上、シクーは再び緊迫の面持ちをするしか無かった。
「そんなに、身構えなくても大丈夫よ。元ジョウトの支配人、『捜索』のシクー君?」
相手の、女の人が次に発した言葉がそれだった。「身構えるな」とは言われても、シクーはこれを聞いて驚き、ますます身構える体勢を崩さない訳にはいかなくなる。何故なら相手は、シクーが以前に『ジョウトの支配人』という組織に所属していた事を、知っている人物だから。それだけでも、シクーにとっては警戒に値する。
「7年前……ワカバタウン出身の少女クリスが、わずか11歳でポケモンリーグを制覇したという伝説が生まれた年だな」
今度は、男の人の方が口を開いた。
「その年、ジョウト全域がのみこまれる程の、超巨大規模の噴火が発生した。原因不明のそれは、ジョウト地方のほぼ全土を、たちまち壊滅させる。そうして危険地帯となったジョウト地方を、支配しようとする組織が現れた。それが『ジョウトの支配人』と呼ばれる組織。元・組織の一員であるお前にとっては、今更説明するまでもない昔話だろうがな」
そう、シクーも多大な恐怖と絶望を味わった、7年前の大事件。もっとも今この場に居合わせていないソウトは、先日その話を父親に聞かされたばかりだったようだが(第6話より)。
「シクー。お前は組織の一員だった姉、『鏡壁』のミカンを助けたいと思い、子供ながらに組織に入る事を決意したんだったな? そして先日、姉と共に組織を抜け出し、このカントー地方グレンタウンで、新たな生活を始めた」
「……僕達の事を、調べたのか!?」
それまで話をずっと続けた男に対し、シクーはようやく口を開いた。
「ミカン姉ちゃんは、危険地帯で僕や他の弟妹達を世話して生活する為に……僕達を守る為に、あえて組織に入った。僕は弟妹達の中で一番年上だったから、僕だけでもミカン姉ちゃんの負担を軽くしようと思った。だから、組織に入ったんだ!」
「だが、シクー。その組織は、どう取り繕うが悪であった事には変わりない。お前も姉も、それに加担していたという事だ」
「……分かってるよ。だから、僕も姉ちゃんも組織を抜けたんだ。そのせいで、弟妹達とは離れ離れに暮らさなきゃならなくはなったけど。姉ちゃんだって、本当は辛かったんだ。そんな組織に入っていた事が。だから、抜けたんだよ」
「なるほどな……。まぁ、昔悪事を働いていたという点なら、俺も人の事は言えん。やり直そうと気づけたなら、それで十分だろう」
男の最後の言葉に、シクーはちょっと意外そうな表情を見せる。そして、思わず警戒を解いてしまった。疑問が残るシクーは、警戒を解いたせいか再び口調を年上に対する敬語に戻し、再度同じ事を尋ねる。
「あの……結局、あなた方は何者なんですか? 僕の味方なのか、敵なのか……」
「シクー君。私達は、あなたとあなたのお姉さんが何故組織を抜けたのか、理由が知りたかったの。何か裏があっての事だったのか、それとも善意があって組織を抜けたという事だったのか、それを明確に知りたかっただけなのよ」
「は、はぁ?」
「あなた達姉弟がもう、本当に組織を完全に抜けて、悪の道に身を置かないというのなら……」
「……!」
「私達は、あなたの敵じゃないわ」
次の瞬間、それを言い終えた女の人は、懐からモンスターボールを取り出し投げた。その方向は、近くにあった大岩。ボールが割れて中からポケモンが出現すると、即座に女の人が次の声を発する。
「ハイドロカノン!」
ズガアァッ!! 物凄い水圧が大岩に叩きつけられ、それは粉々に粉砕された。シクーも目を見張って、その様子に驚く。
「……っっ!! す、凄い威力……」
「さぁ、そこに隠れてる誰かさん。いさぎよく、私達の前に出てきなさい!」
女の人は、さも大岩の後ろに誰かが隠れて話を聞いていた、と言わんばかりの内容を述べた。というか、実際そこには何者かの姿があったのだ。砕かれた岩の向こうから人影が見え、シクーはようやく攻撃の意味をなんとなく理解した。
「お〜、恐い恐い。やっぱり、油断できる相手じゃないわねぇ」
岩が砕かれた事によって、舞い上がった砂ぼこり。その向こうに見える人影が、徐々にこちらに歩み寄りながら声を発する。
「(この声……!?)」
シクーは、声に聞き覚えがあった。それはシクーが、ジョウトの支配人という組織に入っていた頃に、聞いた事がある声。その正体を、一緒にいた女の人が先に口にした。
「ジョウトの支配人、『魔剣』のビズね」
女の人が言った名前に、シクーは少し体を震わせる。岩の向こうから現れた人影も、次第に姿をハッキリとさせて、シクーにそれである事を再確認させた。全身に漆黒の衣をまとい、左手に日本刀が収まった鞘を握るその出で立ち、確かにジョウトの支配人のメンバーの1人……『魔剣』のビズだ。
「久しぶりね、『捜索』のシクー。あなたが組織を抜けて以来だから、当たり前だけど」
「『魔剣』のビリジアン……通称、ビズ! ジョウトの支配人が、何でこのカントー地方に来てるんだよ?」
ビズは、シクーよりもやや年上の女の子。だが、その様子はかなりの闘気に満ち、油断できる相手でない雰囲気を衣と共に身にまとっているようだった。 すると……シクーと一緒にいた女の人が、自分のポケモンと共に前に出た。まるで、シクーを守るように。その動きを見たビズが、シクーと共にいる女の人より先に話しかける。
「そのポケモン、オーダイルよね?」
ビズが見たのは、大きなアゴと鋭い爪を持った、ワニの姿をしたポケモンだ。確かにこれは、オーダイルと呼ばれる種類のポケモンである。
「オーダイルって、ハイドロカノンなんて技使えたっけ?」
「覚えさせたのよ。訓練と気合いとノリで」
「……また、随分とムチャしたものね……」
ビズは、ちょっぴり呆れが混じったような口調を用いて言う。しかしすぐ真面目そうな表情に顔を戻して、ビズは話を続けた。
「けどまぁ、この『魔剣』のビズ様と言えど、さすがにあなたは気を抜ける相手じゃないわね。『フィフスブレード』の1人……現ポケモンリーグ四天王の1人、クリスタル!」
『クリスタル』……それは7年前、わずか11歳でポケモンリーグ制覇を成し遂げた少女『クリス』の本名。
「え!? じゃあ、まさか……」
シクーは自分をここに運び連れてきた2人の内の1人、女の人の正体をようやく知って驚いた。
「そう。あいつが、そのクリスだったという訳だ」
と、先程から何も言わずにいた、2人の内のもう1人、男の人の方がシクーに言った。
「じゃあ、あなたは……」
「俺はシルバー。シクー、お前とは1回だけ会った事がある。もっとも、かなり昔の話だからな。覚えてなくても、仕方無いかもしれないが」
「え……あッ!?」
(シクーとシルバーが昔会ったという話は第3話と第4話の間に書いた『番外編』に載ってます)
とにかくシクーをここまで連れ去った(?)2人というのは、なんとクリスとシルバーなのだった。何しろ有名人だったので、シクーはビックリせずにはいられない。しかし悠長にそんな事をゆっくり話してる暇も当然無く、クリスもシルバーも現れた敵……ビズへの警戒を緩めずにいた。
「で……何? 『フィフスブレード』って?」
クリスは初めて聞いた単語のようで、ビズに尋ねた。
「クリス、シルバー、ムキル、ユウ、そしてナツキ……あなた達5人につけた標的名。かつて私達、ジョウトの支配人を壊滅寸前まで追い込んだ存在『5つの刃(フィフスブレード)』ってね。 何しろあなた達のせいで、『鏡壁』のミカンをはじめとする幹部連も首領も全員いなくなっちゃったんだもの。ダウジングでの捜索能力を高くかっていたシクーまで抜けちゃうし、事後処理が大変で大変で」
「それは、お気の毒様ねぇ。それでもジョウトの支配人は、活動を止めるつもりは無い訳?」
「愚問ね、クリス。ジョウトの支配人の大きな特徴の1つ、忘れた訳じゃないでしょ?」
左手に持つ日本刀の収まった鞘を左肩の上に置き、ビズは少々やる気の無さそうな口調で話し続ける。すると……
「適材適所……」
ふと、その言葉を口にしたのはシクーだった。
「ジョウトの支配人の、主義の1つだったよね。メンバー1人1人に、最も見合った役職をつけさせる事で、組織全体の効率化を図る方針でもあった。だから例えば、僕なんかは当時はポケモントレーナーじゃなかったし、当然戦闘能力は皆無。だけどダウジングの能力に長けてたから、その能力を生かした仕事をさせられた」
「……ふふっ♪」
ビズの口元から、笑みがこぼれる。
「そういう事よ、シクー。だから幹部ってのは実力ももちろんだけど、それ以上に他のメンバーを率いる為の指揮能力が重要視された。裏を返せば指揮能力は無いけど、単純に戦闘能力の極めて高い……それこそ、幹部や首領さえも上回る力を持ったメンバーが、まだ残ってるのよ。幹部や首領が全滅した、現在でもね」
「……っっ!!」
「もちろん指揮系統がほぼ崩壊している今のジョウトの支配人は、確かに大きな痛手を負ってると言えるわ。クリスやナツキ達『フィフスブレード』が、随分と私達を追いつめてくれたものだからね。けど、力そのものはまだ十分に残ってる。じきに立て直すわよ。こっちには、強力な1つのつながりもある事だしね」
「何? それは、どういう……」
「とにかく! 私が来た目的はシクー、あなたには是非とも組織に戻ってきてほしくて、その勧誘に来たって事なのよ。クリスやシルバーがいたのは、計算外だったけどね」
怪訝そうな表情で、シクーはそんなビズに一言だけ返す。
「……却下」
「強情なガキねぇ……! その強気、アヤカを目の前にしても保てるかしら?」
「な゛ッ!?」
途端にシクーは、表情をこわばらせた。
「まっ、今は余計なクリスやシルバーがいる事だし、長居は無用ね。いくら私でも、この2人を同時に相手にするのは自殺行為だし。ここは退かせてもらうわ」
ビズはモンスターボールを手に取り、その中からヤミカラスを繰り出した。そして日本刀を携えてない方の右手でヤミカラスの足につかまると、そのままヤミカラスの空を飛ぶで飛び去ってしまうのだった。
「シルバー、逃がしちゃっていいの?」
「深追いはするな、クリス」
「……」
シクーは無言で、飛び去るビズを見つめていた。胸の中に、どこか引っかかる物を感じながら……
「(そーいえば、何かを忘れているような……!? あ゛ッッ!!)」
肝心な事を思い出し、シクーは声を荒げて叫ぶ。クリスとシルバーは、目をパチクリさせながらシクーを見る。
「そうだ、ソウト!! すっかり忘れてた!!」
「え? 何? シクー君、どうかした?」
「クリスさん、シルバーさん! さっき僕を連れ去った時、何でソウトも一緒に助けてくれなかったの?」
「……は?」
言ってる意味が分からないようで、クリスはシクーに一言で尋ね返した。
「『は?』じゃなくって〜! 僕とソウトが敵と戦ってた時、僕だけ助けてソウトは置き去りにしちゃってたじゃないですか!」
それを聞いて、クリスとシルバーは顔を見合わせる。そして再びシクーの方へと向き直り、以下の事を述べた。
「いや、助けるというか……」
「シクー君、近所のお友達とポケモンバトルで遊んでたんじゃないの?」
「ちっが〜うッッ!!」
どうやらクリスとシルバーは、シクーを発見してすぐ連れ去ったらしい。その為、バトル中の酷い状況や海辺でラプラスが重傷を負っていた事などは、よく見ていなかったようだ。とにかく、シクーを一旦連れ去って話をする事だけ考えてたようで。 従って必然的に、ルウ、テンガ、キズナとの戦いの場に置いてきてしまった、ソウトとラプラスのその後の運命が心配される事となった……。
続く
突然ですが本日、僕の家で取ってる読売新聞で驚愕の事実を知りました。
これは僕も知ってたのですが、まず自分の子供に名前をつける場合というのは、法律で定められている使用不能な漢字が存在するのです(名前で使用可能な字として『人名漢字』というのが定められているんですよ)。 ……ところが最近、親達から「もっと人名漢字を増やして欲しい」という要望が出ているんだとか。使えない字の存在のせいで、せっかく考えた名前がつけられなかったりするらしく。この法律は戦後に出来たので、戦前生まれた祖父・祖母の名前の漢字が使えないという現象も増えてるそうです。
でもって、ここからが本題。 今日の新聞には、親達から人名用に増やして欲しいという要望が出ている主な漢字が載ってました。ごく一部ですが。その中に、『絆』や『牙』という漢字が書かれていたのです。……ん? という事は、今現在ではこの漢字は、人名には認められていない。じゃあ、『絆(キズナ)』や『天牙(テンガ)』は存在できなくなるじゃん!!(爆)
まぁ……将来的に人名漢字として認められる事を信じ、特に設定は変えずに今後も小説は書いていきます(苦笑)。 しかし人名漢字と認められていない漢字には、他にも凛(りん)、湘、芯、狼、云、駈などがあるそうです。案外、よく見かけそうな漢字が人名には認められてないらしく、さすがに少々ビックリさせられました。
次回は、第23話「猛る炎と堅き岩」。ぜひお楽しみに!
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