| [140] ポケットモンスター アークジェネレーション!! 第20話「狂イ蠢ク獣タチ」 |
- @ - 2004年04月30日 (金) 23時27分
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20th「狂イ蠢ク獣タチ」
前回までのあらすじ:
トキワシティで出会った美少女ナツキに、シクーはメロメロになる。マサラに戻ると、そんなシクーの心を見透かしたように、ケイコが耳をつねってくるのだった!
……はてさて、今度はマジメ(?)に。 とにかくグレン島からマサラに逃げていたシクーとソウトだったが、今一度グレンへ戻る事になる。グレンでは、ソウトの父親ソウジが、悪の一団『煉(れん)』のリーダーに捕縛されていた。そしてそこには、昨日シクーとソウトに襲いかかった3人組の姿も。その3人組は、再び動き始める。
マサラタウンを駆ける2つの少年の影が、その地面を滑るように移動していく。
「なぁ、シクー。あのさ……」
スポーツ刈りの少年が、隣りで走るインラインスケートを装備した少年……詩空(シクー)へ声をかける。
「あのさ、親父は結局どうしただろうな?」
「うん……。あれから警察も捜してるらしいけど、見つかってないらしいんだよ、ソウト。ひょっとしたら、『煉(れん)』の連中に捕まっちゃってるのかも。だとしたら、早く行かなきゃだけど……でも、僕達だけで助け出せるかなぁ? きっと『煉』の奴等って、すっごく強いんだと思うよ」
やや不安げな口調と表情を用い、インラインスケートを使って滑走しながらシクーは言った。彼が声を返した相手は、スポーツ刈りをした少年……想人(ソウト)。 時刻は今、昼過ぎと言った所だ。白く激しい輝きを帯びた太陽が、天頂からわずかに西へ傾き始めた所に位置している。季節はもう夏に入っており、シクーもソウトも頭部や背中に汗をかきつつ走っていた。ただしその汗は、単に暑いからというだけで吹き出ているのではない。やはり2人の焦りという感情も、それには含まれているのだろう。
「シクーの言う事も分かるぜ。あの親父が捕まったとなれば、相手はハンパな実力じゃねぇ。けど……それでも、俺は行くぜ。でないと、いつまで経っても親父を超えられねぇ!」
「ソウト……」
「俺は、親父を超えたい。そしてきっと、親父もそれを願ってる。だから俺は、親父を助ける為というのはもちろん、自分の為にも行くんだ」
「そうだね。もちろん、僕だって行くよ!」
かくしてシクーとソウトは、マサラタウンの南を目指す。その海辺にあるラプラスは一時ケイコから借りる事となったポケモンだが、そのラプラスに乗ってグレン島へ渡ろうという事になっていた。
……2人は全く気づかなかったが、その様子を木陰から見る少年の姿があった。歳は、シクーやソウトより若干年上。側には、リザードという名のポケモンがたたずんでいた。そして何より、シクーとソウトを見つめる少年の眼差しは、子供とは思えない程鋭かった。
「……セオン様」
不意に少年とリザードの背後に、大人の男が現れ声をかける。
「いかがなさいますか、セオン様。我々も今一度、グレン島へ?」
「……。」
しばし、無言のままのセオン。そして、やがてきびすを返すと、次の一言。
「いや、いい。」
それだけ言って、リザードと共にグレンとは反対の方角へ向けて歩き出した。 少し意外そうな表情をしたのは、セオンの背後から声をかけた男。しかし、ぼーっとしている訳にもいかないので、男は先に歩き出したセオンの後へと続いた。そして前を歩くセオンが再度口を開き、男はその言葉を自然と聞く事となる。
「『煉』とか言う一団。我々『無音』にとっての邪魔になる可能性もあるからと来てみたが、どうやら俺自らが手を下す程の連中でも無さそうだ。放っておけば、その内勝手に滅んでくれるだろう。わざわざ無音の首領たる俺が出向くのは、あまりに時間の無駄だ」
男は、セオンよりも明らかに年上の大人。それでも彼は、「セオン様がそう言うならそうなのだろう」とでも言わんばかりに、セオンの後ろでそっと頷いていた。
「……お告げによれば、まもなく第一の関門……」
その少女は、薄暗い森の中で1人で立っていた。緑の瞳と茶に近いオレンジの髪、そしてその手には水晶玉があった。 ポゥ……と、ほのかに輝く水晶玉は幻想的なイメージをかもしだす。ただ、その水晶玉に大きくハッキリ『ティシア』と名前が書かれている事が、ちょっぴりマヌケさもかもしだす。何って言うか、普通水晶玉に名前は書かないような?
ティシアは以前に1度だけ、シクーやソウトの前に現れた少女である。もっとも、2人とも彼女の事をもう忘れているかも知れないが。実はティシア、あれからずっとソウトの様子を追っていたのである。いや、ストーカーではなく……!
「光の少年、ソウト。彼は本当に、お告げ通りに試練を越えられるのかしら? でも、越えない限り成長は望めない。この先に待ち受ける未来を救う為には、何としても越えて貰わないと。……そして……」
彼女の手にある水晶玉の中に、一点だけ黒っぽい何かが現れる。
「この、闇……シクーとは、一体? お告げにも表れなかった、不確定要素……?」
1匹のラプラスが、マサラとグレンをつなぐ21番水道を航行中。その背にはシクーとソウト、そしてメノクラゲ♀とサンド♂の姿も。シクーとソウトは、ラプラスの背の上で練習バトルをしているのだった。もちろんラプラスの背はそこまで広くないので、狭い中でどうにか頑張ってやってる訳だが。
「メノクラゲ、毒針!」
シクーが叫ぶ。そして、ソウトも。
「させるか! サンド、砂嵐!」
両者一歩も譲らぬ戦いだが、やがてどちらも体力が尽きて戦闘不能。するとシクーとソウトも、その場にヘタリと座り込んで息切れをする。
「ふぅ……今度は引き分けかぁ。ソウトは強いな」
「シクーも、そこそこ様になってきたみたいだぜ。まっ、これから戦う敵がつえぇ事は間違いねぇし、移動中の時間も無駄にしないで特訓しとかないとな。」
2人を乗せるラプラスにとっては、いい迷惑かも知れないが、2人の気持ちを分かってなのか嫌そうに鳴く事はしなかった。でもラプラスの顔には、若干「やれやれ」と言いたげな表情が浮かんではいるのだが。
「んじゃ、トキワで買ってきた元気の塊またくれよ。もう一試合いくか?」
「……あ、でもソウト。もう見えてきたよ。グレン島が」
シクーの言う通り、もうそろそろグレン島へと着きそうだ。
「シクー。この前戦った3人……ルウにテンガ、それにキズナとか言ってたっけか? あの3人、やっぱりまた出てくんのかな?」
「う〜ん。でも、アイツ等やっぱり『煉』のメンバーなんじゃないかな? だとしたら、やっぱり……」
「けど、正直あれはヤベェぜ」
「……ソウト?」
「あれは、ただの人の目じゃねぇ。獣(けもの)の目だった。正気な奴の目とは、考えられなかったぜ」
「そっか。……やっぱり、そうだよね」
ちょっと曖昧な言葉を発するシクーに、ソウトがやや不思議そうな顔をして尋ねる。
「シクー、どうかしたか?」
「いや。ただ……僕って、ずっと『ジョウトの支配人』の組織内にいたから、どういうのが普通なのかっていう感覚がよく分からなくってね。ルウ達が普通じゃないとは僕も感じたけど、自信もてなくって。でも、やっぱそうだよね? こう言うのも何だけど、ちょっぴり安心かも」
苦笑いしながら、シクーは後頭部を左手でかくようにしつつ話した。
「そう言えばシクーは、7年前に崩壊して危険地帯になったとか言う『ジョウト地方』で、ずっと暮らしてたって言ってたもんな。その組織を抜けて、グレンに来たんだっけ?」
そうこうしている内に、2人を乗せたラプラスはグレン島の海岸へと近づいていく。ようやく上陸か……と、2人が思った、次の瞬間だった。突然、真上から黒く長い影が、うねるようにラプラスへ向かってきたのは!
「!!?」
「クォ゛……ォッ……」
シクーとソウトが気づいた瞬間には、それはラプラスの体に直撃していた。そしてラプラスも、苦しくうめくような鳴き声を発する。
「な、コイツっっ!!」
すぐさまソウトのサンドが、ラプラスを襲った黒い影へ攻撃。しかし黒い影は、すかさず後ろに跳び上がって回避。浜辺の上に着地し姿をじっくり見て、シクーとソウトは初めてそれがハブネークという種類のポケモンだと知る。それも、異常なまでにキバが巨大化しているハブネークだった。
「今の技は……確か、『毒砕のキバ』とかいうテンガのオリジナル技!?」
シクーの言葉のすぐ後、前方に3人の少年少女の姿が現れる。シクーとソウトにとって、忘れようとしても忘れられる事の出来ない、昨日狂ったような迫力で2人に襲いかかってきた3人だ。
「天牙(テンガ)、見事だったねぇ。けど後は俺が、今度こそぶっ潰す」
「ふん。留宇(ルウ)だけに、美味しい所は渡さないわよ」
「その絆(キズナ)の言葉通りだが、でも要は早い物勝ちってな」
現れた3人は、順番にそう言い合う。 一方シクーはラプラスの様子を見ていたが、ハブネークのキバで体を大きく切り裂かれてしまっている。相当苦しそうで、戦える状況ではなさそうだ。それどころか、このラプラス1匹でマサラへ帰してやる事も出来なさそうである。
「クッ、どうするシクー? ケイコから、このラプラスを入れるボールは預かってねぇんだろ?」
「うん。かといって、ここにラプラスを置いてはいけないよ。ルウ達に、何をされるか……」
「だよな。やっぱココは、俺達だけで戦い勝つしかねぇ!」
シクーはメノクラゲ、ソウトはサンドを連れ、ルウ達3人組と対峙する。ここに来るまでに行った、付け焼き刃な特訓では、どこまで通用するかたかが知れている。そこまで一気にレベルアップする訳はないのだ。しかし、それでも戦うより他に手はない。
「さぁ、とにかくお楽しみタイムの始まりだ!」
この言葉を皮切りに、3人は同時にシクーとソウトへ向かって来た。中でもルウが特に勢いよく襲いかかり、右手に巨大な鎌を備えたストライクを繰り出しながら吠える。
「うらああああああッッ!!」
……そこから少し離れた所に、1本の木が立っている。太くたくましい木で、幹から伸びる枝もまた太い。人が数人、枝の上に座ってもビクともしない程だ。 現に今、枝の上には少女の座る姿がある。それも、2人。片方はシクーやソウトと、年齢は同じ位か。特に何をする訳でもなく、ぼーっと座ってままでいる。もう片方の少女は、それよりも少し年上の様子。右手に持った双眼鏡で、遠くを眺めていた。彼女の左手には、鞘(さや)に収まった日本刀が握られ、ひっそりと存在する。
「獣ね。どいつもこいつも」
「は?」
不意に声を出したのは、双眼鏡と日本刀を持つ少女だった。隣りから「は?」という気の抜けた声を聞くと、日本刀を膝の上に乗せながら少女はこう話を続けた。
「人間なんて、所詮は地球上に存在する獣の一種よ。ただし、もっとも思慮深く動く獣……良い意味でも、悪い意味でもね。 ましてや今日見てきた奴等は、どいつもコイツも何を考えて、もぞもぞ虫みたいに動いてるんだか。ヘンな水晶玉見てブツブツ呟いてる奴もいれば、あそこで狂ったようにシクーを襲う奴も。み〜んな何の考えの下で、虫みたいに蠢いて(うごめいて)るんだか分からない、獣たち」
「……ビズさん。シクー、放っておいていいんですか?」
隣りに座る少女は『ビズ』と、その日本刀を携える者を呼ぶ。
「リク。この私が、何で介入しなくっちゃならない訳?」
今度は日本刀を携えるビズが、隣りにいる年下の少女を『リク』と呼んだ。
「シクーがここでやられちゃったら、きっとアヤカさん怒りますよ? 私達の目的は、『元ジョウトの支配人:捜索のシクー』の様子を見に来る事。でも、ただ高みの見物を決め込んでていいなんて事は……」
「自分の事は自分で何とかする。助力が欲しけりゃハッキリ口で言って、そうでないなら誰も助力する必要無し」
「……え? ビズさん???」
ビズの意味不明な言葉に、リクは目を丸くする。
「私は少なくとも、これが『ジョウトの支配人』の暗黙の了解だと解釈してるわ、リク。私はアヤカから、シクーをどうこうしろなんて指示は受けてないもの」
「は、はぁ」
「それにアヤカ程の子だったら、自分で何とかするわよ。勢い余って、本来の目的であるシクーをどうにかしないかって心配だけはあるけどね。……あの子もまた、そういう獣なのかも」
しばらく間をおき、リクは再度口を開く。
「でも、ビズさん。それを言うなら、私達『ジョウトの支配人』はみんなそうなんじゃないですか? みんな、狂った獣みたいなものだと思いますよ」
「そうかもね、リク。そもそも人間全体が、そんなモンよ。誰しも、『狂』という心を必ず持ち合わせてるもの。あのシクーだって、例外じゃない」
「シクーって……『ジョウトの支配人』の中では、そこまでの奴じゃなかったと思いますけど。もっとヤバイの、沢山いますよ?」
「だってリク、あのアヤカをほっぽっといて組織抜けたのよ? つまり実質、アヤカを敵にまわしたって事。アヤカのお気に入りの存在だったシクーが、よ? アヤカがどういう行動をしてきそうか、考えるまでも無いでしょ。シクーならなおさら、それが分かってるハズなのに……。どう考えたって、正気の沙汰とは思えないわ。シクーがまさか、アヤカの恐ろしさ知らない訳でもないでしょうに」
「それはそうかもですけどね、ビズさん」
そのリクの言葉が終わった途端、ビズは枝の上に立ち上がった。すぐ隣りにいるリクに、ポイっと持ってた双眼鏡を投げ渡すと、リクはちょっとだけ慌てるようにしながらキャッチ。そしてビズは、左手に日本刀を握りしめながら枝を飛び降りる……。
「さぁ、そろそろ出撃時ね!」
続く
今回ホント訳分かりません……。第20話では、色々とご無沙汰なキャラを出し、伏線重視の話にしました。その為こうなったのかも知れませんが、こういう形式にしたのはわざとだったですからねぇ。それなりに書くべき事は書けましたけど。 あんまり深くはこだわらず、読み流して次へと進んじゃっても平気です。もちろん、質問は受け付けてますので気楽に言ってきてくださいな♪ 次回はシクー&ソウトが、3人組との再戦開始!
ちなみに今回のサブタイトル「狂イ蠢ク獣タチ」は、「くるいうごめくけものたち」と読みます。ぶっちゃけた話、書いてる間にサブタイトルの主旨が変わってきた(え゛)。
それでは次回、第21話「無慈悲なる感情」も御期待ください♪
<現段階ポケモン図鑑データ>
【NAME:シクー】
見つけた数:20匹 捕まえた数:1匹
バッジ数:0個
手持ちポケモン ・メノクラゲ♀ Lv:6 HP:22 タイプ:みず・どく おや:シクー ・タマゴ ・タマゴ
【NAME:ソウト】
見つけた数:8匹 捕まえた数:1匹
バッジ数:0個
手持ちポケモン ・サンド♂ Lv:7 HP:25 タイプ:じめん おや:ソウト
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