| [186] 原石の色。第二話 -side Green- |
- ミズキ - 2006年02月05日 (日) 21時38分
原石の色 第二話 緑色視点。
「うわぁぁ!」
!? タウンを出た瞬間に、誰かの叫び声が聞こえた。 え、えーと……状況整理してみませう。 ……男の人がポチエナに追いかけられてて。それで、逃れるために木の枝にしがみ付いている。 なんだあれ。…ハタから見ると凄く笑える光景だ。否、恐らく本人は凄く必死なんだと思う、けど。 なんてボンヤリ眺めているとポチエナがついに木に体当たりを始めた。
「っちょ――どうしたんですか!?;」
流石にまずいかと思い、私は慌ててその人に向かって叫んだ。 オジサンは私を見てホッとしたような表情を浮かべ、私に向けて叫んできた。 ん、このオジサン。……何処かで見たことあるようなないような……。
「た、助かったァ!!君、そこのポチエナを追っ払ってくれないか!?」 「は、はいィ!?;」 「バッグの中にポケモンが入っているはずだ!頼むッッ!」
え、この程度のポケモンだったら、素手で簡単に倒せちゃいそうな…。 とりあえず、私はバッグからボールを取り出した。
「えーと…この中のポケモンは?」 「確かそれはミズゴロウだ!技は…………」
私はポケモンの名前を聞けば……充分だと思った。
脈拍が自然に上がるのを感じる。
手が少しだけ震える。
ドクリ、と。
自分の鼓動が何時もより大きく耳に響いて。
ソレらを全て落ち着かせるために一度深呼吸して、ぐっとモンスターボールを握り締める。
「…出ておいで、ミズゴロウ!」
機械音と共にミズゴロウが飛び出してくる。 ミズゴロウは楽しそうにくるっと私の周りを一周すると、私の命令を待った。
「良い、ミズゴロウ?」 「ゴロッ!」
いつでも準備はOKですよ、と言う様にミズゴロウは一鳴きした。私は頷き、鋭く命令を出した。
「よし……行くよ。体当たり!」
ミズゴロウが私の命令どおりにポチエナに一撃を食らわす。 不意打ちを喰らって驚いたポチエナは、男性から私たちに向かって標的を変えた。 そしていきなり私に噛み付こうとしてきた。
「ミズゴロウ!鳴き声で注意を逸らして!」
嗚呼――不思議な感じ。 上手に言えない、けど。私とミズゴロウが一つになったような…そんな錯覚を起こした。
「その調子よ!よし、もう一度、体当たり!」
何分、経っただろうか。 数回目の体当たりを食らわせたとき。 ポチエナがグルル、と弱弱しく鳴き、タタッと走り去った。 ――勝った……の? 私はいつの間にか、汗を掻いていた。顔が火照った感じがする。 傍らではミズゴロウが嬉しそうに鳴き声をあげて、勝利を喜んでいた。 私がまだ呆然と立っていると、先ほどのオジサンがするすると木から下りて来た。
「…ふー、助かったよ、本当にありがとう。つい油断してしまって…ところで君の名前は?」 「あ、私、翡翠です」 「嗚呼、翡翠ちゃんだったのか。大きくなったね。全然分からなかったよ。 初めて会ったときは、まだこのくらいだったっけ?」
オジサンは、手で自分の腰の辺りを指し示した。 うーん…誰だっけ………?
「あの、すみません…私、彼方が何方か分からないんですけど」 「嗚呼、ゴメンゴメン。僕は苧環だよ。覚えているかな」
私は記憶を辿ってみる。 えーと……嗚呼。そういえば、4歳くらいの時に苧環博士に会ったことがあるような… 少しずつ、その時の事を辿ってみる。 玄関から入ってきた博士を、クマみたいクマみたいって、泣いて逃げた記憶がある。 で、皆でご飯食べたりして―― ……?
…何だか。
今、ふと何かを思い出したような気がしたけど。
でも、また直ぐに忘れてしまって。
…なんだろう?
この胸騒ぎ。
「あの、もしかして、一度私の家にいらっしゃいましたか?」 「10年前くらい、かな。一度お邪魔した事があるよ」 「少しだけなら覚えてるんですけど。あの…ホント、すみませんでした」 「クマだクマだ、ってね。ワハハ。気にしなくて良いよ。 そういえば翡翠ちゃん、まだポケモンは持っていないんだっけ?」
琥珀にも聞かれた気がするんだけど。やっぱり変…なのかな; 私が頷くと、ふむ、と博士は顎を指で摩りながら、ブツブツと呟いた。
「なるほど…これも遺伝…なのかな。それにしても… ふむ……そうだな、お礼にさっきのポケモンはあげるよ」 「え、良いんですか?有難う御座います」 「いやいや。どの道仙里からポケモンを渡してくれと頼まれていたんでね。 そうそう、息子の琥珀にはもう会ったかい?」 「あ、ハイ。もう何処かに行っちゃいましたけど」 「そうか…嗚呼、だったら。 もし良ければ、琥珀とバトルしてきたらどうかな? 一応アイツも経験はあるからね、簡単な質問には答えてくれるハズだよ。 翡翠ちゃんには必要ないかもしれないけどな、その様子だと」 「んー…一回会って来たいと思います。色々と有難う御座います」 「此方こそ、だよ。僕は研究所に戻るから、何かあったら戻っておいで」
琥珀はコトキタウンの上の道路に良く居るらしい。 コトキタウンは歩いて20分くらいと、割と近いところにある町なんだって。 私は博士を見送ったあと、思いっきり深呼吸をした。
引越し初日とは思えないくらい、色んな事があって。
でも、何か楽しいコトが始まりそうで。
自然に、頬が弛むのを感じながら。
私はコトキタウンを目指し、走り出した。

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