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[166] ワープロード 第4章「ワープを知る者」
@ - 2004年06月25日 (金) 01時25分

第4章「ワープを知る者」

 

前回までのあらすじ:<
 突如として、ポケモンの世界に来てしまったトモカズ。かつてワープロードを通った経験のあるトモカズには、ゲームの世界へ入り込んでしまった事がすぐに自覚できた。しかしポケモンに関しての知識不足のため、セキチクシティで貰ったアドバイスをもとに、シオンタウンのフジ老人を訪ねる事に。

 

 涼しい潮風が漂う、海沿いの道。セキチクシティから東に伸びる、15〜12番道路。コンクリートで続くこの道は局所的にしか草むらは存在せず、野生ポケモンが出現する場所は限られる。故に、トレーナーでない人でも自由に行き来が可能な道なのだ。

「……お、見えてきた。あそこが、シオンタウンか」

 1人、舗装された道を行く智一(トモカズ)。
 彼は道を歩いてゆく内に、目的地となる町を目の先に発見。いかんせんセキチクシティからは長い道のりだったので、ようやくトモカズに安堵の息が漏れる。

「ハァ〜……。しっかし、こんなに距離があるとは思わなかったな。丸1日かかっちまったぜ。まぁ、いいや。とにかく、町に入るか」

 

 

 

 シオンタウンは、とにかく静けさの漂う町だった。実際にポケモンをやった事のある人なら、それを当然と思えるかも知れない。しかしトモカズはポケモンのゲームさえ未プレイな関係上、いきなり静かすぎる町に来た事に、わずかばかり驚いている様子だ。

「……ホッホッホッ。そこの君」

「うわっ!?」

 急に背後から、気配も無く何物かが声をかけた。トモカズは飛び上がってから、後ろを向く。

「元気のよさそうな少年じゃな。わしの名はフジ。あそこに、塔が見えるじゃろ? わしは、あれの管理人をしておる者じゃよ」

 フジ老人が杖で指し示した先には、確かに割と大きめの塔が建てられていた。

「あ、あなたが……フジ老人? 俺、トモカズって言います」

「ふむ。この町では見かけた事の無い子じゃから、どうやら旅の者のようじゃのう。どれ、こっちに来てみなさい」

 フジ老人はゆっくりと歩き、自宅へとトモカズを案内した。

「ほれ、ココじゃ。お茶ぐらいは出せるからのぅ」

「は、はぁ……。ところで、フジ老人が管理をしてるって言うあそこの塔は、一体何なんスか?」

「あぁ、あれはポケモンタワー。ポケモンの魂の成仏を願う場所。……まぁ、ポケモン専用の墓地と言った所かのぅ」

 フジ老人は玄関から中へ入りながら、トモカズに話を続ける。

「ポケモンとて人と同じ、生き物なんじゃ。その命は、いつか朽ちる。じゃからこそトレーナーは、ポケモンの命の重さを知った上で、連れ歩かなくてはならん」

「はぁ……。俺、実はポケモントレーナーになりたいんですけれど。でも、どうすればいいのかよく分からなくて」

「ホッホッホッ。ならば、ホレ。ポケモンを見せてあげようではないか」

 ガラっと、フジ老人はふすまを開く。そこには、何匹もの様々なポケモンがじゃれ合って遊んでいる姿があった。

「!?」

「多くのトレーナーは、ポケモンの事をいたわり、大事に育ててくれておる。じゃが、世の中そんな人ばかりでないのが現実じゃ。わしは、心ないトレーナーによって心の傷を負ったポケモン達を、自宅で世話しておるのじゃよ」

 すると、フジ老人の足下に1匹のポケモンが駆け寄ってきた。2本の前歯が目立つ、小さなネズミのような生き物だ。

「おぉ、ラタごろうや。ただいま」

 フジ老人が、『ラタごろう』と名付けたポケモンの頭を撫でる。

「この子は、コラッタという種類のポケモンじゃ。まぁ、どこにでもおるようなポケモンじゃからな。さすがに、知っておるか?」

「い、いえ……」

「ホッホッホッ。ならば、これから知ればよい事じゃ。……で、どうじゃろうのう? 君、このラタごろうを育ててみる気はないかね?」

「え゛。そ、そんな唐突に?」

 いきなりポケモンをくれるという、フジ老人。さすがにトモカズも、ちょっぴり焦った。

「わしの仕事は、心の傷を負ったポケモン達を癒してやる事。そして人への信用を取り戻してきたポケモンを、今度はしかるべきトレーナーへ任せる事なのじゃ。そのラタごろうは、1年前からわしが面倒を見ておる。当初はわしにも前歯を向けてきたが、今は人なつっこいもんじゃろう?」

「た、確かに」

 初めて見るトモカズという人間に対しても、コラッタは警戒を見せない。それどころか、尻尾を振って懐いてきているではないか。

「……生き物の負った心の傷を癒すなんて、そんな並大抵の努力じゃできない。それをここまで癒してあげたって事は、フジ老人は凄い人なんですね」

「なぁに、その子は根が明るい性格じゃったからのぅ。それに、君自身のおかげでもある」

「へ?」

 トモカズは、フジ老人の言ってる意味が分からなかった。当然、トモカズがこの家に来たのは初めて。その自分のおかげで、このコラッタが人懐っこくなったとは、どういう事なのか? トモカズは、それが分からない様子である。

「ポケモンは、人より本能的な感覚に優れておる。そのコラッタとて、どんな人間にも尾を振る訳ではないぞ。君を見て、君が安全な人間だと分かったから……君が自分の心に傷を負わせた人間とは違うと分かったから、ラタごろうは心を許しておるのじゃよ」

「!」

「どうじゃ? ポケモンというのは、凄い生き物じゃろう。……ともあれ、この子がここまで懐いている君ならば、ラタごろうを任せてあげてもよいじゃろう」

「は、はぁ……ありがとうございます……」

 呆然としながらも、トモカズはいつの間にかポケモンを貰った事になった。

「じゃがな、トモカズ君。ポケモンは、人と同じ生き物じゃ。君と同じように生き、同じように楽しみ、同じように笑い、同じように傷つき、そして同じように悲しむ。それが、どういう事かは分かるな?」

「はい……。ポケモンは、道具なんかじゃない。仲間として、友達として接するべきだ。そういう事ですね?」

「それが分かれば合格じゃ。その気持ち、決して忘れないでおくれ」

 するとフジ老人は、ゆっくり今度は台所へと向かう。

「さて……そろそろ夕食時じゃな。君は今日、どこかへ泊まるアテはあるのかね? 無いなら、うちに泊まっていってはどうじゃろうか。わしもラタごろうと過ごす、最後の夜として夕食を共にしたいからのぅ。君はこれから、旅に出るのじゃろう?」

「あ、はい。じゃあ、お言葉に甘えます」

 旅に出る。
 その言葉を聞き、トモカズはこれからの事を少し、考えてみる事にした。

 

 

 

 思えば、突然にワープロードでポケモン世界に来てしまったトモカズ。当然の事ながら、準備も何もしてきてはいない。トモカズはラタごろうの頭を撫でながら、明日から何をすべきか考えた。

「あれは、4年前だったな」

 ふと、トモカズに過去の記憶が蘇る。

「当時ハマっていた、とあるRPGのゲーム。友達と2人で遊ぼうとした時、突然一緒にワープロードに巻き込まれた。そして出口を探す旅を強いられた訳だ」

 喋りながら、トモカズはラタごろうの方を向いた。

「お前は、信じてくれるか? 俺はな、別世界から来た人間なんだ」

 ラタごろうは、不思議そうに首を傾げる。

「ははっ、よく分からないよな。そんな事言ったって。……だが、俺は出口を探さなきゃならない。しかも4年前とは、状況が違う。あの時は友達と2人だったし、何よりかなりやり込んだゲームの世界だった。だから何とかなったし、偶然にも出口を発見できた。だから、現実世界に戻って来れたんだ」

 理屈は分からない。だがトモカズは4年前の時、ゲームの世界を冒険していて、宙に浮かぶ光体を発見した。ゲームでは見た事の無いそれに近づいた時、彼は友達と共にそれに吸い込まれ、そして2人同時に現実世界に戻された。今思えば、あれを発見できたのは運がよかったからかも知れないが。

 ……だが同時にトモカズは、1つの確信を得ていた。
 それは、必ずこの世界のどこかに出口であるワープロードは存在するという事。それは出口の存在の有無すら知らずに、ワープロードを知らずに……ただ闇雲に、無いかも知れない出口を探すのよりも、よっぽど希望が持てるというもの。ワープを経験し、知っているトモカズにとって、それが今持っている一番の武器だった。

「あの時は正直、友達と一緒だったって不安な気持ちでいっぱいだった。だが、今回は違う。俺は不安なんかじゃねぇ。必ず……出口のワープロードを発見する! 実在するなら、見つけ出す事が出来るからな!」

 ふと、そこでトモカズはラタごろうの方を見た。いつの間にか、寝息をたてて夢の中にいるらしい。

「それに……お前もいるしな。これからしばらく、一緒に頼むぜ。ラタごろう」

 

 

 

 明朝。

「父さん、ただいま!」

 トモカズが眠っていると、不意にそんな声が耳に入って目を覚ます。彼は立ち上がり、まぶたをこすりながら隣の部屋へと行ってみた。

「おぉ、アサヒ。おかえり」

 部屋にはフジ老人の他に、1人の青年の姿があった。

「お、起きたようじゃな。紹介しよう、トモカズ君。こいつはわしの息子の、アサヒじゃ」

「あ。どうも……」

 とりあえずトモカズは、頭を下げて挨拶をする。

「へぇ、ポケモンの新しいもらい手が見つかったんだね?」

「うむ。ところでアサヒ、ホウエン旅行はどうじゃった?」

「あぁ、見た事のない様々なポケモンと出会えて、楽しかったよ。……っと、そうだ。父さん、コレを!」

 アサヒは何かを思いついた様子でポケットから、細かい鎖のついた小さな金属品を取り出す。

「(あれ? ……どっかで見た事ある物だな……)」

 トモカズはそう思いつつも、黙ってフジ老人親子の会話を聞いていた。

「なんじゃ、これは」

「ペンダントだよ。ほら、細かい鎖で首から下げられるようになってるだろ?」

「ふむ。で、これを一体どうしたのじゃ?」

「拾ったんだよ、ホウエン地方で。いや、最初は僕もホウエンの警察に落とし物として届けようと思ったさ。でもそのペンダントは開けるようになってて、中に写真が入っていたんだよ。その写真を見て、父さんの元へ持ち帰った方がいいかなと思ってさ」

「ほぅ……」

 フジ老人も試しに、ペンダントを開いてみる。トモカズも、思わず一緒になって中身を覗き込んだ。
 ……そこに入っていたのは、1人の少年の顔写真。それを見た途端、フジ老人は口を開く。

「むっ! この子は……今よりも幼い頃のように見える写真じゃが、間違いなく『瑛(テル)』君ではないか?」

「だろう? だとしたら、直接テル君に渡してあげた方が確実かと思ったんだよ。もしもシオンタウンにまだいるなら、すぐまた会えるし」

「ううむ……そういう事じゃったか。しかしテル君は一昨日、シオンタウンを去ってしまったのじゃ。今はどこにおるのか……」

「そうか。失敗したかなぁ」

 ところがそこで、それまで黙っていたトモカズが声をあげる。

「あーッッ!!」

「!!?」

「思い出した。そのペンダントの形、間違いなく汲枝(クミエ)の物だ!!」

 自分の幼なじみと、彼女が首から常にさげていたペンダント。元より珍しい形の物で、今までに同じ物を見た事は無い。トモカズは今この時点で、ようやくそれを思い起こせた。

「何? トモカズ君、このペンダントの持ち主を知っておるのか?」

 トモカズは、フジ老人からペンダントを受け取り、周りをよく見てみる。するとペンダントの裏側に、『K.S.』とイニシャルが掘られているのを発見した。

「『K.S.』……関原 汲枝! 間違いない、クミエの物だ!」

「なんと、トモカズ君の知り合いじゃったか。それなら、話が早い」

 しかしトモカズは、当然の疑問にぶつかる。

「(……けどなぁ。なんでクミエの物が、こっちの世界にあるんだ。もしかすると、クミエもこの世界に来てるのか? 4年前ワープロードに巻き込まれた時も、俺は1人じゃなかった。俺以外にクミエもワープロードに巻き込まれたとしても、不思議じゃないか)」

 だが、今はいくら考えても始まらない。トモカズは、そう結論づけた。

「(よし……クミエを探してみよう。あいつはポケモンにハマってたから、何か情報を得られるかも知れない。逆に俺は、多少ながらワープロードの事を知っているんだ。クミエがワープロードに巻き込まれたのが今回初だったとしたら、俺からもクミエに教えられる事があるかも知れねぇ!)」

「……トモカズ君?」

「フジ老人、それとアサヒさん。俺、このペンダントの持ち主であるクミエって子を探しに行きます。どうせ他に、行くアテも無いし。それで、このペンダントを拾った場所は?」

 それについては、実際に旅行に行ったアサヒが答える。

「拾ったのは、ホウエン地方キンセツシティの外れだよ。ホウエン地方って言うのは、このカントー地方からかなり遠くにある土地でね。クチバシティからミナモ行きの船が出てるから、そこから行くといいだろう。クチバシティまでは、僕が案内してあげるよ」

「じゃあお願いします。行こう、ラタごろう!」

 まだ寝床にいた、コラッタにトモカズが声をかける。それを聞いてラタごろうも、すぐに駆けてきてトモカズの肩へと乗った。

「そうそう、トモカズ君。君のモンスターボールを渡してなかったのぅ」

 そう言ってフジ老人はトモカズに1つ、手の平サイズのボールを渡す。

「? 何スか、コレ?」

「野生ポケモンを捕獲する為のアイテムじゃ。今回の場合は、ラタごろうの仮住まいに使う用として、君にあげよう。使い方は……まぁ、行きながらアサヒに聞いておきなさい」

「あ、ありがとうございます。それじゃ、また!」

 かくして、トモカズはクチバ港からホウエンを目指す。
 ……物語の舞台は一時、ホウエン地方にまとめられようとしていた。

 

 続く

 

 こうして、トモカズもホウエン地方へ。その後ミナモにいる事を、後でクミエが知るという構成になってます。つまり今回の話の段階ではまだ、第3章に書いたクミエがミナモシティへ向かう前という事になりますね。

 次回、クミエが向かったミナモで待ち受ける事とは!? 第5章「崩壊都市」を、お楽しみに。

 

<手持ちポケモンデータ>

【NAME:トモカズ】

バッジ数:0個

手持ちポケモン
・ラタごろう/コラッタ Lv:7 HP:22 タイプ:ノーマル おや:フジ



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