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[164] ワープロード 第3章「ポケモンを知る者」
@ - 2004年06月22日 (火) 00時51分

第3章「ポケモンを知る者」

 

前回までのあらすじ:
 ポケットモンスターのゲームを好む女子高生クミエと、その幼なじみで、ゲームは好きだがポケモン未体験者のトモカズ。
 ……まだ事情は定かではないものの、2人は『ワープロード』なるものを通り、ゲームであるポケモンの世界へと入り込んでしまった。トモカズは過去にもワープロードを通った経験があり、現実世界への帰り道を探す事に。一方クミエは、野生のジグザグマに襲われペンダントを失い、気絶してしまった。

 

「うぅ……」

 ほんのかすかに匂う、天然の木の香り。
 ゆっくり目を開くと、そこは木で作られた部屋の中。
 自分は、この室内にあるベットで横になっている。

「…………。え、ここは……」

 次第に、汲枝(クミエ)は意識をハッキリとさせてきた。
 彼女は自宅でゲームボーイアドバンスのスイッチを入れ、気づけばポケモンの世界に来てしまっていたのだ。野生のジグザグマに襲われ、大切なペンダントも失ってしまった。どうやら、そのまま気絶した自分はココへと連れてこられたらしい。

「あ! 気がついた?」

「!」

 不意にクミエの耳に、少年の声が聞こえてきた。声の方を見ると、そこにはクミエと同年齢程度と思われる少年の姿が。彼の足下には黄色のねずみポケモン:ピカチュウの可愛らしい姿もあり、ベットで横になっているクミエの元へと一緒になって駆け寄った。

「あなたが……私を助けてくれたの?」

「あぁ。つーか君、あんな所で何やってたんだよ」

「え。いや……何と言われても……」

「ポケモンを連れたトレーナーじゃないと、町の外の草むらは野生ポケモンが生息していて危険なんだ。いくら何でも、それ位分かるだろ」

 クミエに説教をするような口調で、少年は話した。

「まぁ、過ぎた事をいつまでも言ってても仕方無いけどさ。今回は大したケガも無くて済んだみたいだから、よかったよ。とにかく、これからは気を付けるんだぞ。……っと、そういえば自己紹介がまだだっけな。僕の名前は、ネツ。君は?」

「私は、クミエよ。助けてくれて、ありがとう。……ねぇ、そういえば私のペンダントは知らない?」

「ペンダント? さぁ、君がいた付近では見かけなかったけどな」

「(そっか……。やっぱり川に流されて、そのままどこかへ行っちゃったのね)」

 大切な物を失ったクミエは、悲しい表情になる。それを悟ってか、ネツも少し焦り出すが、どう声をかけたらいいか分からない様子だ。
 ……そんな状況の中へ更にもう1人、誰かが部屋の中へと入ってくる。

「あら、どうやら目を覚ましたみたいね。ネツ君、その子の具合は大丈夫そう?」

「あ、ナギさん。今、ちょうど目を覚ました様子みたいなんだよ。クミエさんって言うんだって」

 部屋に入ってきたのは、水色の服と帽子をした女の子だった。その外見と名前、クミエはどこかで見聞きした覚えがあるような気になる。それが何なのか、クミエはすぐに思い立った。

「!! ナギって、ヒワマキシティのジムリーダーの? じゃあココって、ヒワマキシティなのね!」

「私の事を、知ってるようね? そう、ココはホウエン地方北端の町ヒワマキシティ。あなたは西の119番道路から、ネツが担いでココまで連れてこられたのよ」

「(119番道路……ヒンバスが釣れる川がある、あの道路かぁ)」

 クミエは、ゲームをプレイした時の知識から、自分の現在位置を知る事が出来た。
 しばし呆然とするクミエに、ナギはそっと質問を投げかける。

「ところで、クミエさん……だったかしら? あなたはどうして、ポケモンも持たずにあんな所にいたの?」

「えっと……。それが私も、よく分からないんだけど……。どうも私、ゲームのポケモン世界に入ってきたみたいで……」

「……え??? ゲーム? ポケモン世界?」

 ナギは首を傾げ、怪訝そうな顔を見せた。

「(そ、そっか。この世界の人にとっては、そんな事言ったって信じてもらえる訳無いわよね。私自身も、まだ信じられないし)」

 試しにクミエは、自分の頬をつねってみた。案の定、痛みが走る。

「(……やっぱり、夢なんかじゃないみたいだわ。一体何が、どうしてこんな事になったのかしら。でも、1つだけ分かる。私は、ポケモンの世界に入り込んでしまった。そう、本来ゲームの世界であるハズの、ポケモンの世界に!)」

 するとクミエは、改めてナギの方に向き直ってから話をする。

「あの、ナギさん。私、自分の家に帰りたいんだけど……でも、どうすれば帰れるのかが分からないの。その……本当に、どうしたらいいのか……」

「…………。よく分からないけど、お困りのようね。何だったら、しばらくヒワマキシティで休んでいきなさいな。私も、できるだけの協力はしてあげるから」

「ありがとう……」

 

 

 

 ヒワマキシティは、とても緑溢れる町だった。民家の多くが大木を利用して作られており、まわりには自然がいっぱいである。
 クミエはこの、現実世界では滅多に見られないであろう風景を味わいながら、少し町中を歩いてみる事にした。

「クミエさんは、ナギさんの事を知ってたみたいだけどさ。ヒワマキシティに来たのは、初めてなの?」

 一緒に歩くネツが、クミエに話しかける。

「う、うーん……初めてと言えば、初めてかな(ゲームじゃ何度も来てたりするけど)」

「そうだんだ。それで、来てみた感想はどう? 緑が沢山あるでしょ」

「そうね。空気も美味しいし、とっても綺麗な町だと思うわ。これで、家に帰る方法が分かれば言う事無いんだけれど……。あ、そうだ」

 そこでクミエは、ふとある事を思いつく。

「ネツ君。悪いんだけど、モンスターボール1個くれない? 私、ポケモンを捕まえてみたいの」

「え!? い、いいけど……随分と唐突だね」

「だって、今後もしかしたら1人で旅をしなきゃならなくなるかも知れないし。一応、自分で戦えるようにトレーナーになっておいた方がいいと思うの」

「うーん……そりゃ、そうだろうけどね。でも、いきなりで大丈夫? ポケモンバトルってのは、とても奥が深くてだねぇ。ポケモン1匹捕まえるにも……」

 なんかネツが、くどくどと長話を始めそうになる。どうも彼には、説教癖があるような気がしてきた。

「大丈夫、大丈夫。私は単にポケモンを持ってないだけで、知識は自慢できる位なのよ!」

「……へ?」

「さぁ、早く町の外へ出発〜♪」

 そう言うとクミエは意気揚々と、町の出入り口へと向かって足を進めていった。何だかんだ言っても、生のポケモンと接する事ができるのだ。滅多に無いチャンスに、クミエは自然とワクワク感を募らせていったようである。

 

 

 

 それから、数日後。

「ラフ! ネツ君のピカチュウに、痺れ粉よ!」

「何!?」

 そこには、クミエとネツがバトルを楽しむ姿があった。クミエのポケモンは、ナゾノクサ。それが相手のピカチュウを麻痺させる事で、動きを大幅に制限した。これではピカチュウも、動きが鈍って戦いづらくなる。

「クッ……ピカチュウ、10まんボルトだ!」

 それでもネツは、果敢に攻める。だが、電撃が直撃してもナゾノクサは平気そうだ。

「ふふっ、草に電気は効きづらいわ。こんなの、ポケモンバトルの常識よ、常識! 加えてナゾノクサは、痺れ粉や眠り粉などの状態異常を引き起こす技を多く覚える。これはバトルでも便利だし、ポケモン捕獲時にも大きな助けとなる。私が最初にナゾノクサを選んだ理由は、それよ」

 そしてクミエは、ナゾノクサを一旦ボールに戻す。そして今度は、別のポケモンを繰り出した。

「さぁ、出番よライボ! 遠吠えで力を蓄えてから、電光石火!」

 次に現れたのはラクライ。クミエの的確な指示に従い、そのラクライは的確にピカチュウを攻撃した。バキッ!!

「ピヂュ!?」

 そして今の一撃で、ネツのピカチュウはダウン。クミエの勝利である。

「つ、強……ッッ!! 何だよクミエさん、本当に今までポケモンバトルをした事無いの? と言っても、現にポケモンを今まで持ってなかったみたいだけれど。それでもやっぱりバトルの基礎知識も戦略も、とても素人とは思えないよ」

「ふっふっふっ。もうネツ君に、助けて貰う必要は無さそうね」

「……ちぇっ」

 さすがにゲームのポケモンをやりこんでただけあり、クミエの予備知識は十分だった。もちろん実際に本物のポケモンを扱うとなると、やはりゲームでプレイするのとは勝手が違うのは確か。しかし今となっては、それもほとんど慣れ尽くした様子だ。

「はぁ〜、いい汗かいた♪」

 ネツとのバトルを終えたクミエは、ネツ宅に戻って椅子に座る。あれから数日間、ここで寝泊まりさせてもらっているのだ。

「ネツ君、テレビつけてもいいかしら?」

「あぁ、いいよ」

 ポケモン世界にも、ちゃんと現実世界同様なテレビ番組はある。クミエはリモコンを手に取ると、テレビのスイッチを入れた。もはやクミエも、ポケモン世界のテレビには見慣れてきている。……ところが、その日その瞬間、クミエはテレビ画面を見て固まる。

「な゛ぁッッ!!?」

「え゛」

 突然に声を荒げたクミエに、ネツは驚く。
 だが……クミエが驚くのも、無理の無い話だった。そのテレビに映っていたのは、クミエがよく知る物と人物なのである。

「ト、トモカズ!? 何でテレビに出てるのよ。しかも、その首から下げてるのは私のペンダント!!」

 そう、現実世界の幼なじみトモカズが、今まさにテレビに映っていたのだ。それだけでも驚愕ものだというのに、加えてクミエが無くしたハズの写真入りペンダントを、何故かテレビに映るトモカズが首に下げている。あの形は、絶対にクミエの物だ。

『それでは以上、旅するポケモントレーナーへの突撃インタビュー。ミナモシティからお届けしました!』

 クミエがテレビをつけた時には、すでに番組の終わり寸前だったらしい。番組からの最後の言葉が終わった後、そのまますぐに画面は変わってしまい、トモカズの姿も消えて無くなる。だがクミエは、決して見間違えではない事を確信していた。

「(何で、トモカズが……。まさか、トモカズもポケモン世界へ入り込んだっていうの!? だとしたら、トモカズに会えば帰る手がかりがつかめるかも知れない。ましてやあのペンダントをトモカズが拾ったというのなら、会って返してもらわなくっちゃ)」

「ク、クミエさん? どうかしたの?」

「……ネツ君。私、今からミナモシティに行ってくる!」

「はいッ!?」

「私の知り合いが、テレビに出てたのよ。あいつに会えば、帰る手段が分かるかも知れない」

 迷ってる暇はなく、クミエはすぐさま町を出ようと決意。ネツの家を出ようとした。……すると。

「……あら、クミエさん」

 そこには、たまたまナギが立っていた。どうやら、ネツの家に寄るつもりで来てたらしい。

「あ、ナギさん。今、テレビに私の知り合いが映ってたの。場所はミナモシティ。そこへ今から、行こうと思って」

「!! 本当に? クミエさんの知ってる人が見つかったのね。だったら……」

 ナギは1つのモンスターボールを手に取り、放った。中からは、オオスバメが姿を現す。

「さぁ、クミエさん。この子に乗って! 私がミナモシティまで、送っていくわよ」

「え、いいの? ありがとう。それじゃ、お願い!」

 ナギに言われた通り、クミエはオオスバメの背に乗った。
 ……2人の少女を乗せたオオスバメは、羽を広げて大きく飛び上がる。目的地、ミナモシティを目指して……!

 

 続く

 

 突然、クミエはトモカズの存在を確認。
 ミナモシティにいるというトモカズは、果たして……?

 次回、第4章「ワープを知る者」。お楽しみに!

 

<手持ちポケモンデータ>

【NAME:クミエ】

バッジ数:0個

手持ちポケモン
・ラフ/ナゾノクサ Lv:16 HP:45 タイプ:どく・くさ おや:クミエ
・ライボ/ラクライ Lv:17 HP:46 タイプ:でんき おや:クミエ



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