| [159] ポケットモンスター アークジェネレーション!! 第28話「オバケよりも恐いかも」 |
- @ - 2004年06月05日 (土) 01時13分
今までの話はこちらで
ここは、グレン島から出航した船内。 雲1つ無い青空の下、涼しいそよ風を浴びながら、シクーは甲板に立っている。 潮風独特の香りを、彼は自然と感じているようだった。
「カントー地方にあるジムは、現在12。内、8つのジムを制覇してバッジを集めれば、ポケモンリーグ進出権が与えられる……か」
シクーは紙に書かれた説明を見ながら、独り言を呟く。 なお、カントージムバッジについては[こちら]を参照。
「ポケモンリーグなんて、夢のまた夢だなぁ。四天王にはクリスさん程のトレーナーが、ゴロゴロ落ちてるんだろうし」
落ちてはいない……。
「だけど、特攻・特防を強化させられるクリムゾンバッジのように、ジムバッジにはそれぞれ能力が付けられている。これを集める事は、力を手に入れる事にもつながるんだ。ソウトと再会する時までに強くならなきゃいけないし、それにアヤカにだって……負けられない!」
28th「オバケよりも恐いかも」
前回までのあらすじ: シクーとソウトは、遂に旅立ちの時を迎えた。だがその前に、2人は『無音』についての話をソウジとミカンから聞く事となる。圧倒的な炎の力を持つセオンが率いる組織、『無音』。その不気味な存在を懸念しつつも、2人は出発したのだった。
「シクー、ここで一旦お別れだな。俺は、あっちの船に乗る」
「僕の乗る船は、あっちだ」
黒眼黒髪、フードのついた黒の洋服とインラインスケートを装備した少年……詩空(シクー)。 その横に立つ、スポーツ刈りの少年……想人(ソウト) 2人はそれぞれ、自分が乗る予定である船を指さした。あれに乗れば、当分このグレンタウンに戻ってくる事はない。
「じゃあ、ソウト。また今度!」
「おう。シッカリやれよ、シクー!」
彼等は、別々の船に乗り込む。それから程なくして……船はゆっくり動きだし、出航の時を告げた。少しずつ離れていくグレンタウンを見ながら、船の窓辺でソウトは無言でたたずむ。わずかな哀愁を漂わせつつも、期待とワクワク感を心に秘めながら。
「ふふっ、作戦成功!」
「……ん?」
ふと、ソウトの後ろから女の子の声が耳に入った。そしてその直後、もごもごと明らかに戸惑いを隠そうとしている仕草が聞こえる。
「だぁ、静かにしろって!」
「そ、そうだったわね!」
こそこそ何かをささやき合う声が2種類。ソウトの直感が働く。
「い、嫌な予感……」
恐る恐るソウトが、そこにあった1本の大きな柱に歩み寄る。そしていぶかしげな表情のまま、柱の向こうを覗き込むと……そこには恐れていた現実が待っていた(!?)。あたふたしながら立っていたのは、ソウトのいとこである久志(ヒサシ)。そして、同じくいとこであるマドカ。
「なっ、何やってんだ!? ヒサシもマドカもッ!」
「や、やぁ……」
「『やぁ』じゃねぇだろッッ!!」
知ってる少年少女が2人、それも自分のいとこである彼等が船に乗っていたのだから、さすがにソウトもビビった。
「いや、ソウト。断っておくが、俺は相変わらずマドカの巻き添えだからな……」
すかさず、少し太り気味の少年ヒサシが言った。 マドカはというと、その直後に相変わらずの元気のよさで発言する。というか、半分開き直ったらしい。
「ソウト! 黙って旅立つなんて、この私が許さないわよ。何しろ私は、ソウトに勝たなくっちゃいけないという重要な機密任務があるんだからね」
「何が機密任務なんだよ、マドカ……?」
「そういう訳だから、私達もソウトについて行く事にするわ。これならいつでも、ソウトと対戦が出来るからね。あ、言うまでもなく拒否は受け付けないわよ。てゆーか、何を言われても後をつけていくつもりでいるから♪ と言う訳で、私達も旅立った訳だから、これから宜しく!」
要するにソウトは、嫌でもマドカとヒサシをお供に連れない訳にはいかなくなったようだ。
「……なんで俺はこんな目に……?」
一方、その頃。
「ケッちゃん! ムッソ!」
こちらは、船内に設置されたポケモンバトル場で対戦中のシクー。この船は航行中もポケモンバトルが楽しめるように、バトル場が用意されているらしい。2匹のケムッソ(Lv:6)を繰り出すシクーに対し、ここでの対戦相手はオタチ(Lv:3)とビードル(Lv:5)を繰り出してきている。
「ケッちゃんが糸を吐いて動きを止めて、ムッソが体当たりだ。行け!」
「しゅるる〜!」
「きゅうーッッ!」
2匹のケムッソが連係プレイで相手を翻弄。体当たりの一撃を決めて、まずはビードルを撃破。
「クッ! オタチ、ひっかけ!」
続いて敵のひっかく攻撃。動きの鈍いケムッソ2匹は連続で敵の攻撃に捉えられるが、こちらとしても負けてばかりではない。攻撃を受けつつも、毒針による反撃を放っていた。これがオタチの急所にヒットしたようで、思わずうめき声をあげる。
「ヂュッ!?」
かくしてオタチもダウン。シクーは戦闘に勝利した! しかも今戦った2匹のケムッソが震え始め、何かの変化が始まる。
「ん!? これってまさか、進化じゃ……!」
その通りだった。2匹のケムッソはみるみる姿を変え、やがてさなぎポケモンへと変身。ケッちゃんと名付けられていたケムッソ♀がマユルド♀に、ムッソと名付けられていたケムッソ♂がカラサリス♂に、それぞれ進化を成し得たのである!
「やった! 自分のポケモンが進化するって、初めてだ♪」
「はぁ〜、負けたよ。シクー君って言ったっけ? 対戦、どうもありがとう」
「いやいや、こっちこそ。何しろ……初勝利だしぃ〜……」
……実はシクー、すでに船内のバトルでは10連敗を喫していた。従って所持金が全然たまらない。てゆーか、むしろ旅立ち早々に所持金が底をついている。結構、哀れな出だしだったりする。
「はぁぁ〜……」
ポケモン進化でいい気分に一瞬浸ったシクーは、途端に落ち込みモードになってしまう。しょうがなくシクーは、ため息混じりにバトル場を後にした。
やがて船はマサラタウンの南に到着。シクーは船を降りると、再び訪れた緑あふれる町の空気を、気持ちよさそうに深呼吸する。もっとも今立っているこの位置では潮の匂いもしているし、本格的にマサラタウンで緑が多いのは北部なのであるが。
「ふぅ。何にしても、とりあえずマサラには到着っと。さて、これから……」
……ツンツン。 後ろから、何者かがシクーの肩をつついた。
「?」
不思議に思いながらもシクーは、つついてきた者の方へと振り返る。するとそこには、真っ黒なボロボロの人形が一体落ちていた。
「ん、何だこれ?」
「…………。ケケケケケッ!!」
と、いきなり人形が笑い出す。
「ぎゃーッッ!!?」
当然シクーは、笑う黒い人形を見て絶叫。 それを聞いた人形はフワフワ浮き上がると、満足げにシクーの目の前から飛び去る。シクーは、人形が去りゆくのを唖然としながら見続けた。
「……何……アレ……?」
「シクー?」
「わ゛ーっっ!!?」
後ろから名前を呼ばれたシクーは、再度絶叫。
「いきなり叫ぶなんて失礼ね。挨拶しようと思っただけなのに」
「……あ、ケイコ?」
何度も聞いた事のある声で、シクーは自分の名を呼んだ者の正体を悟る。振り向くとそこには、確かにここ、マサラタウンのジムリーダーを務める少女……景子(ケイコ)が立っていた。
「もー、ビックリしたよ、ケイコ。オバケかと思った」
「ハァ? 何よそれ」
「(……いや、待て。考えようによっては、オバケよりも恐いか? ケイコって)」
度重なるケイコとの苦難(?)の同行により、シクーはケイコの性格をほぼ熟知していた。彼女を怒らせれば、オバケなどより遥かに現実的かつ情け容赦の無い制裁が、我が身にふりかかるであろう事は理解しているつもりだ。
「それで、シクー? あなた、旅に出たからマサラに来たんでしょ?」
「う、うん。バッジを集める事にしたんだよ。って、そうだ!」
シクーはポンっと、左手拳で右手の平を叩いた。
「ケイコもジムリーダーなんだったら、僕の挑戦受けてよ」
「う〜ん。アタシのジムは、週に一回開放していて、その時だけジムリーダーであるアタシに挑戦できるって事にしてるんだけど。……でもねぇ?」
「何かあるの?」
「何かある無い以前に、今のシクーじゃ勝ち目無いでしょ」
「え゛」
相変わらず物事をハッキリ言うケイコだが、戦う前からそう決めつけられていては、シクーとしてもいい気分はしない。
「そんなー! そりゃケイコのが強いかも知れないけど、実際のバトルではどうなるか分からないじゃないか!」
「いや、思いっきり目に見えてるわよ」
縦に伸ばした右手を、顔の前で左右に振る仕草をとるケイコ。
「何だったら試しに、今ここでちょっとバトルしてみる? ゴンりゅう!」
ケイコは、フライゴン♀(Lv:34)を繰り出した。
「よし! みんな、出てこい!」
続いてシクーも、現在の手持ちを全て繰り出す。しかしケイコは、冷ややかな目でそれを見つめる。
「……アンタ、本当にそれで勝てる気? 『クラゲ1匹とその他イモムシ』で」
「ぐっ……」
確かにシクーが繰り出したのは、メノクラゲ♀(Lv:12)と、3匹のケムッソ(レベルは1ケタ代)。どう考えても、ケイコの繰り出した屈強そうなドラゴンに勝てるイメージは無い。
「しかもイモムシ、また増えたわね。前は2匹じゃなかった?」
「あぁ、船内でタマゴが孵ったんだよ。ケムッソ♀(Lv:5)の『ケム』。アゲハント♀とバタフリー♂の間から生まれたタマゴだったから、どうしてもケムッソしか生まれなくて」
「でもイモムシ1匹増えただけで戦力になるのかどうか、かなり怪しいわね」
それにはシクーも、ちょっと反論できず。
「まっ、いいわ。とりあえずバトルね。はいゴンりゅう、ドラゴンクロー」
「ゴ〜!」
ケイコはフライゴンに、実に軽〜くドラゴンクローを指示。フライゴンはシクーのポケモン達に、実に軽〜くドラゴンクローを発動。 結果……シクーのポケモン達は瞬時に吹っ飛ばされた。
「……げ」
「とりあえず、これで終わりにさせてあげるわ。わざわざ戦闘不能にさせなくても、これだけで思いっきり分かったでしょ? 勝ち目無しって事」
「……すみませんでした、ケイコ様……」
涙目でシクーは言った。
「参考までに、1つアドバイスね。仮にシクーが4匹とも戦力になりそうなポケモンを持ってたとしても、アタシに勝つのは難しいわよ。アタシの手持ちには、じっくり育て上げたポケモンが5匹いるんだからね。シクーも5匹か、できれば6匹揃えてきた方がいいわ。ハンデになるし」
「う゛」
「と言う訳で、出直してらっしゃい。分かった?」
「…………」
「? シクー、どうしたのよ固まって?」
ケイコはシクーが、いつの間にか硬直していた事に疑問を感じる。
「ケイコ、後ろ……」
「へ?」
シクーに言われるまま、ケイコは後ろを振り向いた。そこには、なんと……!
「ケケケケケケーっっ!!」
「……っっ!?」
高らかに、そして不気味に笑う、真っ黒なボロボロの人形がいた。そう、先程シクーを驚かして去っていったハズの、あの人形である。しかも、それだけではなかった。いつの間にか人形の手には、誰かのサイフが存在している。
「ってそれ、アタシのサイフじゃないのッ!」
「ケケケ〜♪」
「ま、待て! ケッちゃん、行け!」
そのまま去ろうとする人形に、シクーがすかさず反応してマユルドを向かわせる。毒針の連発で攻撃するものの、宙に漂う人形には全然当たらない。続いて糸を吐いて動きを拘束しようと試みるが……放った糸を、人形はすり抜けてしまった。
「え゛!?」
そして人形は、そのままフワフワ浮きながら逃げて行ってしまう。無論、サイフを持ったままで。
「い、行っちゃった」
「冗談じゃないわよッ!! あれ、ジュペッタっていうゴーストポケモンだわ。たかがオバケの分際で、アタシのサイフをパクるだなんて、いい度胸してるじゃないの!! ズダズダにして、その行動の無謀さを身に染み込ませてやるわッ!!」
「(やっぱり〜……オバケよりも恐いよ〜……ケイコ)」
やっぱりシクーは、涙目になって思った。今日、これ多い……。
丁度その頃。 シクー達のいる場所とはまた別の所に、そいつは立っていた。
「セオン様!」
無音首領の少年……施音(セオン)。彼に、背後から部下らしき男が声をかけてくる。
「やはり情報は本物のようです、セオン様。『あの石』は、ナナシマ域に存在するとの事」
「……そうか」
フッと笑みを浮かべるセオン。彼は腰につけていたモンスターボールを手に取ると、伝説の鳥ポケモン:ファイヤーを繰り出した。以前、グレン島でシクー達がセオンと遭遇した時に、セオンが捕獲したあのファイヤーである。
「ならば早速、この俺自らが出向いてみる事にしよう」
「!! セオン様、自らが?」
「あぁ。首領だからといって、じっとし続けているのも退屈でな。たまには、軽く運動でもしてくるさ……!」
続く
ただ今、アクジェネの番外編的ストーリーである[ポケットモンスター・ジェネレーション]を連載中。 こっちでもシクーやソウトの、ちょっとした(?)冒険が見られます。全7話で完結予定。本編と併せて宜しくお願いします。
本編の方も、次回の第29話「1の島・むすびじま」。ぜひお楽しみに!
<現段階ポケモン図鑑データ>
【NAME:シクー】
見つけた数:50匹 捕まえた数:4匹
バッジ数:1個
手持ちポケモン ・メノクラゲ/メノクラゲ♀ Lv:12 HP:35 タイプ:みず・どく おや:シクー ・ケム /ケムッソ♀ Lv:5 HP:20 タイプ:むし おや:シクー ・ケッちゃん/マユルド♀ Lv:8 HP:28 タイプ:むし おや:シクー ・ムッソ /カラサリス♂ Lv:7 HP:26 タイプ:むし おや:シクー
【NAME:ソウト】
見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹
バッジ数:1個
手持ちポケモン ・サンド♂ Lv:15 HP:44 タイプ:じめん おや:ソウト ・マタドガス♂ Lv:14 HP:46 タイプ:どく おや:ソウト
【NAME:ケイコ】
バッジ数:3個
手持ちポケモン ・バクりゅう/バクフーン♀ Lv:36 HP:119 タイプ:ほのお おや:ケイコ ・デンりゅう/デンリュウ♀ Lv:31 HP:110 タイプ:でんき おや:ケイコ ・ラプりゅう/ラプラス♀ Lv:32 HP:139 タイプ:みず・こおり おや:ケイコ ・ラスりゅう/ラプラス♀ Lv:32 HP:142 タイプ:みず・こおり おや:ケイコ ・ゴンりゅう/フライゴン♀ Lv:34 HP:113 タイプ:ドラゴン・じめん おや:ケイコ
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