その後数日、陸遜は尚香と顔を合わすことはなかった。 お互い意識的に避けていたのかもしれない。そして、周囲の人物達も何となく二人の不和な雰囲気を嗅ぎ取ったのか、敢えて話題に載せようとするおせっかいはいなかった。少なくとも陸遜の周辺には、だが。
逢いたい。・・・でも、何を話したらいいのか解らない。 何を言えばいい。何を謝ればいい。 ―――どうしたら、貴女は許してくれますか。
毎夜流す涙は涸れ果て、もはや一滴も流れない。でも本当に乾ききっているのは、心の方。
・・・許して貰おうといった考え自体が、甘すぎるのだろう。 自分本位な考えで、彼女を傷つけたのは私ではないか。
終わらない自問自答を繰り返し、自分を責める彼の姿は、日に日に痩せ衰えていっている。食事がろくに喉を通らない。むしろ、何も欲しくない。 しかし、律儀な性格からか宮城での執務は休むことが無い。
「あんなんじゃ、いつか倒れちまうって」 凌統は軍議の席で、陸遜の姿を横目で見ながらそっと呟いた。 彼のことだ・・・誰かが手を貸そうとしても、絶対断るだろう。そして余計に無理が嵩んでいくのだ。
―――そして、最後は崩壊してしまうかもしれない。
思わず凌統は、自分の想像した言葉に戦慄した。 彼を助けられるのは、そう、彼女しかいないのだ・・・
その瞬間、部屋の戸がぱっと開いた。その場にいた全員がその方向を見る。 そして外の眩い光を背に受けて立っている人影は、鈴を振ったような美しい声でいきなりこう切り出した。 「兄様。今度の戦、私も出してちょうだい!」
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