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「手の先にはあなた」

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No.9  投稿者:循   投稿日:2006年01月14日 (土) 16時00分 [返信]

 眩んだのは本当に陽の煌きにだったのか…
 息の詰まる感覚に仰いだのは何を思い出したくて…?
「寂しいのは…何?」
 瞬間、均衡が崩れたと反応した時には、身体は落ちていた。視界には世界がいつもと違う風景で映り込み、「打つ…」と構えた瞬間、衝撃は違う形で表れた。
「怪我をして、貴女はまだ…私に深憂をさせたいのですか?」
 途端の恐怖に…抱かれた腕に救われ、声の憶測に尚香は瞳を開いた。
「どうして…」
 その微笑の意味はなんだろうか…? 哀しげだといっては駄目な、清廉な瞳。
 映える針葉の現実的な色と薫りに、仰いだ陸遜の顔が印象的で…尚香は胸が痛くなった。
「…ありがとう。もう大丈夫よ、離して…」
 拗ねていた自分が陸遜の優しい言葉で恥ずかしくなる。こうして想われているのを判っていて、試している様な我儘で陸遜を困らせて…誠実で、忠誠に真っ直ぐな陸遜だから…
 その想いが怖いと感じると言ったら笑われるだろうか。と唇をかむ。
「っ、何…?」
 救われた身体を離して貰えたと動揺を隠したのに、陸遜は尚香の手を掴んで離さなかった。
「貴女は…私がどんな想いで縁談を見届けていると思っているのですか?」
 繋がった指先をどうしたらいいのか判らなくて、突然言われた陸遜の想いが伝う。
「…判らないなんて、言いませんよね?」
 優しくその手を引かれて近付く。
 記憶に繋がる指先の感覚。あどけない気持ちは今…どう変わってしまったのだろうか。
「俯かないで…」
 瞼を伏せた陸遜の顔が綺麗だった。盗む様に見つめて、尚香は指先に陸遜の唇が触れたのに気付いた。
「ぁ…」
 声も出ない程に尚香は切なかった。
 体温の違う陸遜との接触は、尚香にとって特別なものになる。




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